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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
338/355

イベントクエスト-summer-編:JK最後の夏の思い出


 異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク】の夏の大型イベント臨海学校編が無事に終了し、数日が経った。みんな臨海地域でデートなり、バトルなりを楽しんだようだが【魔法剣士シフォンこと氷山絹絵】は、あいにく欠席したため思い出を作れていない。

 それどころか、大学受験のために連日塾通いでストレスゲージは最高潮まで上がりきっていた。


 朝から夕方まで塾で長ーい講義を受けて、夜は自宅で予習復習。その繰り返しを、夏休み期間中はずっと行っている。


 ふと、魔が差して自室のテレビのリモコンを取ると、夏のバケーションのCMが楽しそうに流れている。


「みんなぁ! 夏休みは沖縄で、楽しんじゃおうっ。お得な旅行パック、まだまだ間に合うっ」


 プツッ!

 あまりにも、CMの雰囲気がエンジョイしていて哀しくなり、テレビを消してしまった。


(はぁ、うちの学校進学校だし、受験シーズンにクラスの子を誘って遊びに行くと、空気読めない扱いされるし。受験しない人を誘って、どこかに遊びに行きたいなぁ)


 せめて長い夏休みの1日くらいは何処かへ出かけてもいいじゃないか、と思うけれど。貴重なお盆休みは、親の実家への帰省で使う人が多く、なかなか誘える相手が見つからなかった。


(受験の予定がない人、知り合いでだれか、スマホゲーム仲間だと……。あっそういえば!)


『オレ、高校と提携している大学をそのまま推薦で受ける予定だから。そんなに、受験対策してないんだよ。面接と論文対策くらいかなぁ』


 そんな羨ましいセリフを言っていた知り合いが1人、イケメンであるにも関わらず女アレルギーという噂の結崎イクト君である。けれど、イクト君はモテモテの男の子だし、突然なんの脈絡もなく絹絵から遊びに行こうなんて誘われたら、デートのお誘いだと思われるだろう。


(やっぱりダメか。イクト君には双子のお姉さんがいるけど、学校の長期合宿にいってるらしいし……誘えないよね。それに、恋人とのデートの予定もあるかもだし)


 イクトの姉といえばスマホ異世界の中では、大剣使いのマルスさんと婚約破棄したそうだが、現実では2人はどうなっているのだろう? それとも、噂通り最近退任した行柄ゆきえリゲル元社長と恋人なのだろうか。


(なんか、私と同い年なのに大人の男性と付き合っちゃって凄いなぁ。お姉さんキャラって、精神面も大人びているのかなぁ)


 みんなそれぞれ、素敵な夏休みを過ごしているのにどうして自分は受験を頑張らなくてはいけないのだろう? 正直言って、大した将来の夢もないし、それほど行きたい大学があるわけでもない。学生生活の殆どを部活にかけて疲れてしまったのか、無難にやっていければいいや……という心境だ。


「あ〜もうっ! つまんない、暑い! 勉強したくないっ。1日だけでもいいから、何かの思い出を作りたいッ」


 疲労でストレス最高潮に達したせいか、思わず天井に向かって叫んでいた絹絵。もう、毎日勉強し続けるのは限界なんだと、察するしかなかった。

 だが、まだまだ課題は終わらず、絹絵が解放されるには、これらを片付けるしかない。


「もうっ。こうなったら、今から全力で勉強して、8月最後の日曜日くらいは遊んでやるっ」



 * * *



 何とか全ての課題を終えて、8月最後の日曜日を空けることが出来た。都合の良さそうなゲーム仲間を見つければ、夏の思い出作りにギリギリ間に合う。


「というわけで、急遽ゲーム仲間で夏祭りに参加となったんだけど。みんな、予定は大丈夫?」

「うん! 私もそろそろ受験の息抜きがしたかったし、誘ってくれてありがとう」

 そう言ってニコッと微笑むのは、一番親しい女勇者レインこと高凪レイラだ。


 勢い余って、手当たり次第スマホゲーム仲間を誘った夏祭り。アルバイトや塾で来れない人以外で、遊ぶことになった。

 メンバーは、レイン、イクト君、ミチア、アイラ、なむら、エリスのメンバーだ。正確には、結崎兄妹となむらちゃんで夏祭りに行く予定が元々あったので、賑やかになってちょうど良かったのだとか。


「そういえば、ミチアちゃんは今日は車椅子無しなんだね。体調は平気?」

「うん、おかげさまですごく回復してるよ。まだ、浴衣とか下駄みたいなファッションで歩くのは難しいけど。平の靴とチュニックに七分丈のズボンとかなら、普通に歩けるし」


 たしかに、ミチアのファッションは、無理なく歩きやすいそうなフラットタイプの靴と動きやすいズボンだ。彼女のアバターである聖女ミンティアはスカートが多く、ズボンは新鮮である。だが、ヒラヒラのチュニックはワンピースのようで可愛らしく、聖女の魂を宿しているだけはある。


「そっか、順調に回復しているみたいで良かった。ゆっくり歩くから、大変だったら言ってね。じゃあ、神社の境内を目指して行こう!」


 夕刻の参道は、多くの屋台が並び夏祭り特有の雰囲気がバッチリだ。実はイクトやアイラたちは、異世界でも動画撮影のために夏祭りに行ったそうだが、最後はモンスターとバトルになってしまいお祭りを満喫しきれなかったと言う。


「ねぇお兄ちゃん、みんな! アイラあのおみくじ引きたいんだけど、良い?」

「へぇ……お守り付きおみくじか! 最近のおみくじは、随分とサービス精神旺盛だな。引いてみよう」


 お守り付きおみくじコーナーは、この神社の人気スポットのようで、ちょっぴり列が出来ていた。


「お花の根付お守り付き、天然石お守り付き、しおり付きお守り、可愛いお守り付きが多すぎて、どのおみくじがいいのか迷っちゃう!」


 絹絵が迷いに迷っていると、実家が神社というなむらちゃんが、一番乗りでおみくじを引き始めた。


「ふふっ。じゃあ私は、しおり付きおみくじにします。どれどれ……女性らしさを磨いて吉! お料理のレパートリーを増やせば、運気がアップ。なるほど、女性向けに特化したおみくじですね……しおりも可愛いし。うちの神社にも導入出来るように、お父さんたちに提案しようかしら?」


 さすがは神社の跡取り候補、なむらがおみくじの結果内容から、どこの層に向けたおみくじなのかを分析し始めた。


「オレは、家で保管しやすい天然石入りのおみくじにしよう! ええと、あなたに必要な天然石はシトリンです。運気は中吉、無計画な出費は控えて貯金しましょう。つまり、このシトリンって天然石が金運に良いってことか」

「占いの方法を、多角的に展開していて、なかなか商売上手な神社ですわね。占い師たるもの、私も見習わないと……」


 どうやら、占い師として活躍するエリスさんも、ここのおみくじは気になる様子。次々とメンバーがおみくじを引く中、残るは絹絵だけとなった。


「うーん。悩んでもしょうがないか、ちょうどスマホカバーのストラップが欲しかったし、お花の根付おみくじにしよう。えいっ……なになに、えっと」

「……んっどうしたの、絹絵ちゃん。あんまり良くなかったとか?」


 ミチアに問われて、慌てて思わずおみくじをキュッと握りしめる。


「えっううん。なんでもないよ、ちょっと難しい事が書いてあったけど、小吉だから可もなく不可もなくってところかな? お花の根付もピンク色で、普段の私じゃ買わないような可愛いものだし。引いてよかった!」

「そう、なら良いんだけど。お腹すいてきたし、屋台で買って何か食べようか?」


 心配かけないようになるべく笑顔で答えると、ミチアもホッとした様子で次の提案をし始めた。


「オレ、焼きそば食べたいかな? ほら、すぐ側に屋台があるからさ」

「うふふっ私は、隣のお好み焼きにしますわ!」

「アイラは大判焼きのチーズ入りにしようっと」


 みんなが目当ての屋台に向けて歩き出すのを絹絵は、後ろからそっと見守る。そして、もう一度おみくじの中身をそっと見直した。


『気になる異性に想いを伝えるなら、今がチャンス。まだ、彼がフリーのうちにアタックして! 恋の花を咲かせよう』


 おみくじの内容は、絹絵に告白を促すものだったが、現実的に今考えて絹絵が動けるはずがなかった。


(こういう占い的なものは、当たるも八卦当たらぬも八卦、だよね。さて、せっかく受験の合間に作ったお出かけだもの。夏祭りを楽しまないと……!)


 絹絵にとって気になる異性であるイクトへの気持ちは、当の絹絵にも恋心なのか親近感なのか分からない。

 けれど、おみくじの内容を読んで、真っ先に浮かんできた異性の顔はイクトだった。


(他の女の子と、同じ異性を好きになるなんて良くないよ、多分)


 楽しい夏休みが終わった後も、お祭りで手に入れた【恋の花】は、絹絵のスマホカバーでゆらゆらと揺れている。


 不安定に定まらない恋愛未満の気持ちはきっと、絹絵にとってちょっぴり切ない――JK最後の夏の思い出。


次の更新は、令和元年9月22日(日曜日)『閑話:下弦の月の見える夜に』を予定しております。

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