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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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臨海デート・女勇者編6:観覧車から見える未来


 医務室で休んでいるはずのケイン先輩とヤヨイさんと合流するために、ゾーンを移動し水族館内の特別医務室に入室。学校の保健室くらいの大きさである医務室、熱中症で倒れた人などが休んでおり助手テキパキと書類を作っていた。


 レインの方から身内が医務室にいることを伝えると、カーテンの向こうに案内され、やや心配顔で婚約者を見守るケイン先輩と再会。ヤヨイさんは、お医者様の診察を受けて、白いベッドで横になっているようだ。


「イクト君、レイン。水龍退治、お疲れ様! 今回は、あまり役に立ってあげられなくて済まなかった。おかげで、ヤヨイの身体は母子共々、無事だったよ」

「良かったぁ。けど、異世界にはアバター体で転移しているのに、やっぱりお腹の赤ちゃんも一緒に移動しているのね」

「そういえば、その辺は謎が多かったけど母子で同時に転移するってことが判明したな。アバター体が無事ってことは、地球の肉体も無事なんだろうし」


 すると、オレたちの会話を黙って聞いていたお医者様が優しく注意するように、静かに語り始めた。


「それが、完全に無事とは言い切れないんですよ。お腹にいるうちからしょっちゅう異世界に遊びに来ていては、将来的に魂の居場所が不安定になる恐れがあります。今日限りでヤヨイさんは、しばらく異世界へのアバター転移は控えた方が良いでしょう」


 突然のアバター転移禁止にちょっぴり驚くが、これから赤ちゃんを産むことを考えたら休んだ方が無難だろう。そもそも、バトルそのものが出来ないのに、クエスト参加も厳しいだろうし。


「えっ? やっぱり負担だったんですか。ヤヨイ、ごめんな。もう少しオレが気がつく性格だったら……」

 本来なら安全な水族館デートになる予定だったところが、緊急で逃げ出した【水龍・レベル130】とバトルになったのだ。別に、今回の展開はケイン先輩のせいではないのだが、プロポーズを引き延ばしてしまったことにも責任を感じているのだろう。


「いいのよ、ケイン。妊娠のことを言い出せなかった私にも、責任があるんだわ。けど、これからは無理しないで健康な赤ちゃんを産むことだけ考えないと。イクト君もレインちゃんも、助けてくれてありがとう」


「いえ、ヤヨイさんとお腹の赤ちゃんが無事で本当に安心しました」


「そうだ! 私……今日限りで、しばらく異世界でのクエストはお休みになっちゃうから、このチケット2人にあげる」

「これは……臨海地域遊園地アフターパスポート? いいんですか、貰って」

「ええ、助けて貰ったお礼よ。しばらくしたら、ログアウトしなきゃいけないから。2人でゆっくりデートを楽しんで」



 * * *



 ログアウトするケイン先輩とヤヨイさんを見送った後、オレとレインは貰ったアフターパスポートを使い、臨海地域遊園地に遊びに来ていた。アフターパスポートとは、その名の通り午後以降に割引で入園出来るパスポートだ。


 この遊園地は水辺にマッチした数々の乗り物や、臨海地域を一望できる展望台が有名らしい。船で周辺を一周したり、プールで泳いだりと幅広い遊びが可能だ。


「すいません、このアフターパスポートで2人……」

「はい、2名さまですね。アトラクションは乗り放題、プールや遊覧船は別料金となります。ごゆっくりどうぞ!」


 夏は陽が落ちるのが遅いため、夕方でもまだ明るさが残っている。定番の家族連れやカップル、学生のグループ、最近流行のおひとりさま派など、それぞれ楽しんでいる様子。


「暑い時期は涼しくなる夕方から遊園地で遊ぶ人も多いんだって! 社会人なんかは、遊園地のビアガーデンで食事をするために来園する人もいるみたいよ」

「へぇ! 遊園地って、ジェットコースターとかアトラクションのイメージの方が強かったけど。そういう利用の仕方もあるんだなぁ。おっミニサーカスもやってる!」


 入り口のゲートを抜けるとお土産屋さんや飲食店の集まるアーケードで、ミニサーカスの催し物が。


『ミニサーカス【未来形召喚団】のイベントが始まりまーす! 召喚魔法を駆使したサーカスをお楽しみ下さい』


 ピエロの少年と踊り子風衣装の美少女数名が、玉乗りしながらシャボンマジックをしたり水タイプの精霊を召喚しながらカードマジックを披露。ジャグリングの腕も素晴らしく、あっという間に人だかりが出来た。


(凄いなぁ……あのピエロの男の子、あんなに手際よくどんどん召喚魔法を使って。まるで、リゲルさんやミンティアみたいだ。それとも同じ召喚士一族の末裔かな)


 じっと見すぎたのか……ふと、ピエロの少年と目があってしまう。白塗りのメイクで素顔は分かりにくいが、くっきり二重の美しい瞳と整った輪郭は、彼がかなりの美少年であることが窺われた。

 召喚士一族といえば、オレのパートナー聖女ミンティアとその兄のリゲルさんだが。彼らからは近親者の話を聞いた事はないため、このサーカス団との繋がりは分からない。


(なんだろう、あのピエロの少年。どこかで会ったことがあるっけ。リゲルさんを少年にしたような雰囲気だけど……。いや、オレが彼のことを気にしすぎたのか?)


 30分ほどで催し物が終わり、沢山の拍手とともにおひねりが盛大に飛び交って、一旦終了。すると、頭の中に直接響くように少年の声が語りかけてきた。



【いつか、必ず……あなたにもう一度会いに……】



「えっ……誰かが話しかけてきたような……気のせいか。それにしても、異世界では魔法が当たり前だけど、プロのピエロは手際が良くて一味違ってたな」

「本当! 凄かったね。せっかくだし、何か乗り物に乗ろうよ。ねぇイクト君、あれは? ウォータージェットコースターだって。水の中をコースターで走ります……いかにも涼しそう」


 ちょっとした刺激と水しぶきによるリフレッシュ感を求めて、ウォータージェットコースターへ。2人ずつ並んで座る形式のコースターは、デート中のカップルにぴったりと言えるだろう。

 しかも、運が良いのか先頭の座席になってしまった。


「オレたちが1番前か……なんだか緊張して来たな」

「うふふ……私もこういうの乗るの久しぶりだから、声をあげたらゴメンね……きゃっ。始まった!」


 カタカタカタカタ……ゴトンッ! 初めはゆっくりと、次第にスピーディーに動くコースターにドキドキ感が高まる。


 ゴォオオオオッ! ズシャァアアアア!


 上下左右に動き回りながら、滝状になっている斜面を下り水しぶきをめいいっぱい浴びてしまう。売店でタオルを購入して、ベンチで水しぶきを拭き取る。計算されているかのごとく、ウォータージェットコースターの周囲にはタオルなどの販売コーナーを設置しているあたり、なかなか商売上手だ。


「はぁ〜凄かったね。けど、風があるし暑いから水しぶきで濡れた服も自然と乾いちゃいそう」


 水しぶきで濡れたレインのマスタードイエローの魔法使い服は、部分的に透けてしまいブラジャーの線がくっきりしてしまう。俗に言う【透けブラ】という現象だろう。

 水族館でバトルした際に服を着替えたから良かったものの、初めに着ていた白いノースリーブで透けブラなんかした日には、女アレルギー発症でぶっ倒れてしまうところだった。


 服が乾ききるまでは直視できずに、なるべく遊園地内の様子を探る雰囲気で話を逸らす。


「レインは、こういうアトラクション得意なんだな。オレなんか、慣れてないからビックリしちゃったよ。もう陽が降りてきたし、次に乗るアトラクションは暗がりでも大丈夫そうな奴がいいかな」

「うふふ! じゃあ次は、落ち着いて話せる観覧車にしようか? もうちょっと待てば、綺麗な夜景が観れるかもよ」


 この遊園地の名物でもある観覧車は、臨海地域一帯を見渡せる人気アトラクションだ。服が乾き夜の色に空が染まり始めた頃、観覧車に乗り込む。


 海岸や港、船、無数のビルに輝く光……。思わず言葉を一瞬忘れて、景色に見惚れる。


「綺麗……ねぇイクト君。この異世界って、ほとんどの部分は地球の映し鏡なんだよね。もしかしたら、この遊園地に似たスポットも何処かに存在するのかな? もし、存在するなら今度は地球でも2人で……。ううん、これ以上は駄目だよね。イクト君はまだこれからいろんな女の子とデートしなきゃいけないんだもの」

「レイン……! いや、そのデートって言ってもあくまでも異世界の中だけで、地球に交際相手がいるわけじゃないから。それこそ、ケイン先輩とヤヨイさんみたいなお付き合いをしている相手がいるなら別だけど……」


 しどろもどろで恋人がいないことをアピールするが、レインはもともと承知なのかニコッと笑ってオレを宥めた。


「ふふっゴメンね。分かっているよ、イクト君って女アレルギーだもの。ほら、従兄妹のケインとパートナーのヤヨイさんが結婚することになったでしょう? しかも、来年の春にはお父さんとお母さんになっちゃう。嬉しいしおめでたいことなんだけど、ヤヨイさんもログイン出来なくなるし。だんだん周りの人がこの異世界から離れていくようで寂しいなって」

「そっか、そういえば……ヤヨイさんは出産に向けて、しばらくログイン出来なくなるんだっけ。来年の春にはオレたちも高校卒業するし、環境とかいろいろ変わるよなぁ」


 朝から始まったオレたちのデートが、気がつけば夕方を過ぎて夜になったように……。時間の経過とともに、周囲の環境も次第に移り行くのだろうか?


「もし、何年も経って。このスマホゲーム異世界に、みんながログインする機会が減っても。私はイクト君と、ずっと一緒にいられたらって……そう思ったんだ。こうやって2人で……」

「えっ……レイン? それって……」


 お互い密室の観覧車という空間に飲まれているのか、切ないムードになり……。


(どうしよう、もしかしてこのままレインとキスしちゃう?)


 レインの顔がオレの方に近づいてきて……キスするのかと思うところで『ガタンッ』と音を立てて観覧車が地上に到着した。


「わっ! 観覧車終わっちゃったね、名残惜しいけど早く降りないと……さあ行こう」

「お、おうっ」


 結局、レインの言葉の真意は聞けずじまい……だけど、このデートをキッカケにオレが地球でもレインを意識するようになったのは言うまでもない。


 照れ隠しの中にある恋心は、いつか芽を出す日が来るのだろうか?


 その答えは、遠い未来までお預けだ。


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