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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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臨海デート・女勇者編2:ダブルデートは水族館で


 今回の臨海学校は、公式の授業というより塾に近いものであるため、履修するか否かは生徒の意思に任されている。そのため1週間ごとの自由参加形式であり、最初の第1週目のみ参加する者や第2週目から参加する者など人それぞれだ。

 ちょうど週の切り替わりとなる朝……寄宿舎側のバスターミナルは、1週目のみで帰宅する者の見送りや2週目参加者の出迎えのため人で賑わっていた。


 オレも仲間の見送りと出迎えのため、バスターミナルに用事のある生徒の1人。ギルドメンバーのマリアとアズサが、それぞれ用事のため1週目で帰宅するためその見送り。そして、2週目から参加する女勇者レインの出迎えだ。


 気温は35度を越える猛暑日が続いているが、ターミナルの大きな屋根が日差しから旅人を守っていた。オレもそれなりに温度調整を意識して、夏仕様の風通しの良い紺色のシャツを黒いズボンに合わせてきたが……やはり暑い。


「では、名残惜しいですが私とアズサは1週目のみの参加ですので、これで失礼しますね。私は修道院の夏のお手伝い、アズサはエルフの里でお盆の儀式と忙しくて……。必要とされている分、頑張ってきます」

「それだけ、マリアたちがそれぞれの地元で認められているってことだよ。山奥の修道院もエルフの里も人手不足の地域だし。大型のイベント時には、地元出身者のチカラが必要になるだろう?」


 白魔法使いから賢者に転職したものの、正式な所属場所が【山奥の修道院】に固定されているマリア。ワープゲートが開通しているため、以前よりは移動しやすいはずだが、長期の行事の時は向こうに行きっぱなしである。

 そのまま修道院の方に向かうためか、シンプルなグレーのワンピースは清楚だが本物のシスターのよう。


「賢者に転向してからも、白魔法使い時代のようにシスター的な役割を求められる機会も多いですし。頼ってくれる人がいるのは嬉しいことですものね。ではまた、秋に……」

「ああ、気をつけて……」


 優しく微笑む姿は、相変わらず本物のシスターのようで、マリアのチカラが必要となるのも分かる気がした。そっと白い手を差し出されて、静かに握手を交わす。

 黒髪のポニーテールを揺らしてバスに乗り込むマリアの後ろ姿を、胸が締め付けられるような切ない気持ちで見守る。すると、アズサがおどけてオレの髪の毛をワサワサといじり始めた。


「1週間とはいえ、思い出作り出来て楽しかったぜっ。イクトもデートクエストで男磨いて、アタシとデートする頃にはぶっちぎりのイケメンになれよ!」


 低めの位置で結んだ金髪ツインテールがいつもより幼い雰囲気に見えるアズサだが、姉御肌なのかオレのことは子供扱いだ。

 しかもアズサはオレと身長が変わらず、女性にしては172センチの長身。同じくらいの身長を活かして、オレの髪の毛をいじられては対処に困る。


「うわっ。分かったから、子供扱いするなって! オレだって、もう17なんだから。は、恥ずかしいよ。ほらふざけていると、バスに乗り遅れちゃうぞ」

「悪い、悪い! つい弟みたいで、可愛くってさ。エルフの里って、女の子の方が多くて弟分が持てなかったから。けど、イクトが18になるまでには大人の男としてみなせるように頑張るよ。またなっ!」


 ふざけているのか本気なのか、本音が分からない部分がエルフ特有のイタズラ気質というものなのだろう。

 マリアに続き、バスの階段をショートパンツから美脚を覗かせつつリズミカルに登る。その軽快な姿は、そよ風のように気まぐれに見えた。

 だが、去り際の一瞬だけ……表情が真顔になった気がしてドキッとする。アズサのおかげでセンチメンタルな気分から脱却出来たし、気を遣ってくれたのかも知れない。


 2人とも地元での行事を手伝わなくてはいけないため、全ての授業の参加は出来なかった。だが、たった1週間とはいえ海岸特有の屋外講義を楽しめてそれなりに満足した様子。

 マリアたちを乗せた大型バスは次第に遠ざかり、見送りの生徒たちも何割かは講義の場所へと散り散りになっていった。


 ピコピコピーン! ピコピコピーン!

 スマホから通知音が鳴り響いてきて、思わず画面を確認する。


『おめでとうございます! マリアさん、アズサさんの絆ポイントがワンランクアップしました。秋以降のデートクエストで行動できるクエスト範囲が変化します』


 攻略ルートは、その時期対象のヒロインと交流を深める他にも、別の女の子たちのポイントを上げることが可能だ。

 第1週目のメイン攻略対象は聖女ミンティアだったが、兄のリゲルさんから仕事を引き継ぎ新社長に就任した関係でミンティアは忙しく授業にはほとんど参加できなかった。そのため、夕刻以降のデートクエストと休みの日の離れ小島観光でどうにかして絆を深めたのだ。


 一方、マリアたちとは臨海学校の授業中も交流を深めたし、その流れでも絆ポイントが上がりやすかったのだろう。


(さっきの見送りでマリアたちの友好度が上がったのか。秋以降の行動範囲拡大……詳細は、後日発表……か。けど、今は夏のクエストを無事に終わらせることが大切だよな)


 しばらくすると、入れ替わるように新たなバスがターミナルに到着する。こちらは、第2週目から臨海学校に参加する生徒を乗せたバスだ。

 次々と降車する生徒の中に、見知った顔のボーイッシュな美少女の姿……女勇者のレインである。


「イクト君、迎えにきてくれたの? ありがとうっ」


 向日葵のような明るい笑顔でニコッと笑うレインは相変わらず可愛らしい。しばらく見ない間に、短めショートの黒髪はちょっぴり伸びて、肩につくかつかないかのボブスタイルになっていた。

 以前から髪がボブ程度に伸びることはあったが、比較的すぐに切ってしまうので何だか新鮮だ。耳元には、揺れるアクアマリンの小さなピアスがキラリと光る。

 ノースリーブの白いシャツに青いロングスカート、ヒール高めの黒いサンダルというファッションも、いつもより大人びている気がした。


「レイン! なんだか、ますます女性らしくなったなぁ。以前も少し髪を伸ばしていたことがあったけど、見違えちゃったよ」

「えへへ……まだボーイッシュって言われるけど、デートクエストに向けて女の子っぽくしてきたんだ。今週は私とデートクエストだけど……慣れないことばかりだから、エスコートしてくれると嬉しいな」


 照れるようにエスコートを依頼する姿は、女勇者というよりごく普通の女子高生だ。


「オレもデートに慣れているわけじゃないけど、頑張るよ。今日は臨海学校の課外授業も兼ねて、水族館でダブルデートだけど。ケイン先輩たちとは現地集合なんだっけ」

「うん。このまま水族館に向かうんだよねっ。行こう!」


 バスターミナルから一歩出ると、夏特有の日差しが直接降り注ぐ。

 猛暑のことなんか気にならないほどの清涼感あふれるレインの手を取り、第2週目のデートクエストが幕を開けるのであった。


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