臨海デート・女勇者編1:ボーイッシュなあの子のプロフィール
攻略ルートの1人目の相手である聖女ミンティアとのデートも無事に終わり、一息ついた頃。
「イクトさーん。こちらハーレム勇者認定協会のククリです! お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「おぉククリか、久しぶり。遠慮せずに入ってこいよ」
「ではでは。お言葉に甘えまして、お邪魔しまーす」
ふわん! と、光の粒とともに、愛くるしい小さなリスがデスクの前に降り立つ。
臨海学校の寄宿舎自室で夏の夜をまったりと休んでいると、ハーレム勇者認定協会のお目付役であるリス型精霊ククリが現れたのだ。
「ところで、珍しいな。賃貸住宅ではほとんど一緒に暮らしているのに、わざわざ許可を得てから登場するなんて。やっぱり、ここが臨海学校用の特別寄宿舎だからか?」
「ええ、そうですね。いつもの賃貸住宅の方は、既に私が入室しても大丈夫なように魔法陣などの手配が済んでいますけど。臨海学校で借りているお部屋では、このククリはゲスト扱いですので。イクトさんの許可がないと、精霊規約で入室は出来ないのです」
一見、普通のシマリスに見えるククリの正体は縁結びの女神の末裔にしてリス型精霊である。人間モードとして女子高生くらいの美少女に変身することも可能だが、ほとんどのお仕事の時はリス状態で活動している。
そんなククリがハーレム勇者の卵であるオレのお目付け役になってしばらく経つが、詳しい裏事情は意外と知らない。
「そっか、オレが知らないだけで、いろいろな精霊規約が結ばれていたんだ。まぁゆっくり休んで行けよ。そうだ、ちょうど売店でむき甘栗を買っておいたんだ。食べるか?」
「いいんですかっ。是非、是非お願いします。うーん、この艶やかな甘栗……いいですねぇ。いただきまーす」
デスクの上にむき甘栗の袋を広げてククリに1つ差し出すと、尻尾をふんわり揺らして、嬉々として栗を食べ始めた。こんなに喜んでもらえると、むき甘栗を常備している甲斐もあるというものだ。
「ゆっくり食べていいんだぞ。甘栗はまだいっぱいあるからさ。適度にお水も飲むんだぞ」
「ふぃー。お心遣いありがたいですぅ。あっでも和んでばかりはいられないんです。今日は、次のデートプランに関する大切なお話が……まずはデータを送信しますね」
次のデートの相手である女勇者レインとのデートプランと、必要なデータを渡される。正確には、ククリの魔法でオレのスマホの必要な情報が送信されていく。こういうシステムを目の当たりにすると、この異世界がスマホRPGと連動したものであると実感させられる。
「おっ……レインのプロフィールが送られてきたな。どれどれ……」
【女勇者レイン】
本名:高凪レイラ
年齢:17歳
誕生日:11月11日
身長:165センチ
体重:49キロ
バスト:Cカップ
血液型:A型
趣味:身体を動かすこと、ショッピング
好きな食べ物:ミートドリア、ベーグル、チョコレートパフェ
苦手な食べ物:レバニラ
特技:剣道
得意料理:パスタ料理
(備考)
ボーイッシュな美少女である女勇者レインは、異世界での活躍はもちろん地球での私生活もアクティブ。小さい頃から剣道に励み、勉強も得意とオールマイティな文武両道の優等生だ。
普通の女の子らしい趣味もあり、オシャレや買い物にも興味津々。その一方で、恋愛に関しては奥手でやや遠慮がち。好きな異性に対しても友達というポジションでおさまってしまい、恋愛対象として意識してもらいにくいのでは……というジレンマと戦う日々。
(アドバイス)
異性の友人、もしくは頼れる仲間という立場を強いられやすい典型的なバトルヒロインのレイン。だが、今回の攻略ルートでは、そんな彼女にアタックすることが可能となった。
保護者役として陰ながらレインをサポートする従兄妹のケインの存在も大きく、【家族ぐるみの付き合いが出来るか否か】も、レインとの今後を左右するだろう。
活発でボーイッシュなレインを【か弱い女の子】としてエスコートするように心掛けると、急接近出来るかも。
* * *
「レインさんを攻略する鍵は、ズバリ家族ぐるみのお付き合いが出来るかにかかっています。なんせ、従兄妹のケインさんと一緒に異世界へ遊びに来ていますからねぇ。ケインさんにも気に入られないと、将来が見えない感じです」
「普段はあまり身内の話題を控えめにしているレインだけど、保護者がすぐそばにいるってことだよな。もっと親しくなるには、ケイン先輩も含めて攻略するってことか」
ケイン先輩といえば、勇者コース出身で学園ギルドでもお世話になっていて、うちのギルドのエースだ。レインとは従兄妹という話だが、意外と2人が一緒に行動するところに遭遇しない。
だが、地球ではかなり身近な付き合いで、レインのお兄さんのようなものだという。
「ですね! ちなみに、レインさんとのデートは臨海学校の課外授業予定の魔法水族館をメインに行います。しかも、ケインさんも一緒にダブルデート形式です」
「えっダブルデート? ってことは、パートナー聖女のヤヨイさんも一緒かぁ……。あれっ……ヤヨイさんって、レインの次にデートする予定の名村ほのかちゃんの実のお姉さんだっけ。大丈夫だろうか?」
今回のレイン攻略ルートをクリアすると、次は魔法少女アイドルのなむらちゃんがデートの相手である。オレにとってなむらちゃんは、妹アイラの相棒といった存在だ。
そういう気軽な人間関係のつもりだったが、オレ自身はなむらちゃんの姉であるヤヨイさんとはそれほど親しくない。先輩の彼女さんという存在だと思っていたが、よく考えてみればオレとは妹同士がユニットを組んでいるという人間関係でもある。
いずれは、何らかの形でヤヨイさんといろいろ話す機会が来るのは当然か。
「これだけ、攻略対象の女の子がいると、兄弟姉妹や親戚などの関係者がログインしているでしょう。イクトさんにとっては、妹さんがコンビを組んでいる女の子のお姉さんでもあります。なるべく抉れないように、言動に気をつけてデートする……ハーレム勇者の腕の見せ所ですよっ」
レインとの関係を良好にしつつ、次のデートの相手であるなむらちゃんにも配慮して行動する。なかなか複雑になってきたが、これもハーレム勇者の定めか……。っていうか、いつの間にかオレってハーレム勇者を目指すはめになっているだろう?
「わ、分かったよ。じゃあ、そろそろ消灯時間だから眠らないと……おやすみククリ」
「うふふ。取り敢えず眠らないと、美容に悪いですからね。ではイクトさん、良い夢を……」
状況に流されている自分に驚きつつも、可愛いレインとのデートに胸を躍らせながら、眠りにつくのであった。