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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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臨海デート・聖女編8:いつか叶う彼女の願い


 あれから数日……新社長就任後、毎日忙しいミンティア。わずかに空いた時間を利用しての夕刻デートが数日続いたが、ようやく土曜、日曜の2日連続の休みが出来た。

 幸い、臨海学校も土曜、日曜は授業がなく休みなので、お互いの時間を長く共有出来る。


 仕事疲れのミンティアは、静かな場所でのんびりと夏を満喫したいとのこと。臨海学校のあるエリアから船で1時間ほどの場所にある離れ小島エリアで、一泊二日の日帰りデートをすることに。

 ギルドクエストで一緒に泊まるのとは異なり、デートでの泊まりは初めてのため緊張する。といっても、お互い未成年のため、眠る部屋は別々……いわゆる健全なお泊まりだ。


 離れ小島エリアは、それなりに観光地として人気があるため、他の観光客の姿もあるが。それでも、少人数でまったりと自然の環境を味わえるだろう。


「イクト君、こっち、こっち! 私たちが泊まる宿泊施設から迎えが来てるよ」

「あははっ大はしゃぎだな。慌てなくても、大丈夫だよ」

「だって、イクト君とお泊まりデートなんて初めてだし、嬉しいんだもの。冒険のギルドクエストとは違うんだから」


 ヒラヒラと水色の花柄ワンピースの裾を揺らしながら船を降りて、旅行カバン片手に手を振るミンティアは、元気いっぱいだ。ご先祖様に憑依された時は心配だったが、随分とアバターの調子が良くみえる。


 桟橋から陸地へと移動して、宿泊施設が用意した送迎バスに乗り込む。オレたち以外にも数名の利用者の姿があるが、知り合いはいない。


「けど……これまでの旅行ってみんな冒険のクエスト絡みだったから。純粋にデートだけって、なんだか新鮮だよなぁ。周りに知っている顔がいないのも、不思議な感じ」

「そうだね。いつも学校やギルドの誰かしらが周りにいた気がするし、そういう意味でも知らない場所へ旅行って感じがするね」


 揺れるバスからは、キラキラと輝く海の景色や砂浜が見える。宿泊施設は少し高台の方にあり、夜になると庭から美しい星空が鑑賞出来るという。


「今日のスケジュールは、取り敢えず荷物を宿泊施設に預けて。どうする、せっかくだし宿泊施設にプライベートビーチで泳ぐか?」


 お互い水着ガチャで当てたレア度4の水着を持参して来たため、海水浴は余裕だろう。


「うん。私ね、海の定番デートをしてみたいの! 一緒に泳ぐだけじゃなくて、ビーチボールで遊んだり」

「そういえば、ガチャで星4レアのビーチボールが付いて来たよな? ただ、オレ女アレルギーだから、あまり密には接触するのNGだけど」

「うふふっイクト君の女アレルギー耐性を上げる意味でも、いろいろな遊びをしようっと」


 無邪気な笑顔でクスクスと笑うミンティアは、いつもよりも随分とイタズラな雰囲気だ。緊張がほぐれている時の彼女は、意外とこういうお茶目な子なのかも知れない。


 バスを降りて大きな荷物を預けて、宿泊施設の敷地から海辺に向かう。なんと言っても宿泊施設が所有するプライベートビーチ、ゆったりとした気分で泳いだり遊んだり出来るだろう。


「お待たせ、イクト君! じゃあ一旦パラソルスペースで水分補給しようか?」


 更衣室で着替えてパラソルスペースを確保して、ついでにドリンクも注文。しばし待つと、少し遅れて颯爽とビキニ姿のミンティアが現れた。

 ガチャで当たったというビキニは白地にグリーンのリボンのアクセントが効いたもの。色合いだけなら清楚系だが、なんというか随分と腰回りとかハイカットで、胸元はざっくりと谷間が見えて布の面積が少なく……大人仕様だ。


「お、おう! なんていうか、予想より大人っぽいビキニだな……いや似合っているけど」

「ふふっガチャで当たったものだから、自分の趣味とは少し違うのが来る時があるけど。自分じゃ選ばないものに挑戦出来るし、たまにはいいよね」

「えっと……じゃあ、あっちのパラソルスペースを予約しておいたから……行こう!」


 しどろもどろになりながら、大人ビキニ姿のミンティアにドギマギしていることをひた隠しにしつつパラソルの下へ。先ほど注文しておいたメロンソーダが運ばれて、パラソルの下はすっかり2人っきりの空間に。


「宿泊客しかいないビーチだから、かなり人は少なそうだね。あれっこのメロンソーダ……カップル仕様だ。2人で1つのメロンソーダを飲むように出来てる!」

「えっ……マジで? 2人分で頼んだら、カップル仕様が出てきた?」


 カップル仕様のメロンソーダとは……ストローの下の部分が1つに合体しているラブラブカップル向けのドリンクだ。いきなり女アレルギーが発症しそうなアイテムが出てきて、びびってしまう。


「もし、女アレルギーが出たら私が聖女スキルで回復してあげるから、挑戦してみよう! ねっ」

「う、うん……じゃあ、いただきます」


 ちゅるちゅるちゅるん……と少しずつ飲んでいくメロンソーダは甘くて爽やかで、ミンティアにピッタリだ。お互いの顔を正面からかなり近づけないと飲めないため、激しく緊張が走る。


(うぅ……間近で見ると、ミンティアってまつ毛長いなぁ。肌も色白で綺麗だし……さすがは、異世界、ルーマニア、上海、日本といろんな血を引いているだけはある。いいとこ取りってやつなのだろう)


「んー美味しかった。次は、ビーチボールで遊びながら……水かけっこもしよう。暑いから早く海に入りたいなぁ」

「ああ、いいけど足とかつらないように軽く準備体操しないと……」

「えっ? 準備体操……そっか。ゴメンね浮かれててつい。じゃあ、一緒に足とか背中とか伸ばそう。いちにっいちにっ」


 途中、背中を伸ばすためにDカップの胸がペッタリとオレの背に押し当てられてしまい、危うく女アレルギーで倒れそうになる。


「うっ……このポーズ、ちょっとキツイ。ミンティア、少しだけ離れて……」

「えっう、うん。強く押しすぎたかな? けど、もう筋肉の必要な部分は伸びたよね」


 だが、ミンティアはストレッチが効きすぎたとしか思っていない様子。もういいや……取り敢えずは海へ入ろう。ビーチボールとついでにガチャで星5レアだったクラゲさん浮輪を両方浮かばせて、冷たい海水でチャプチャプと戯れる。


「うふふっ。イクト君、隙あり!」

「ぬおっ! ちょ、ちょっと。ズルいぞミンティア」


 バシャン、チャプん……と浅めの場所で、ビーチボールを取りっこしたり、水を掛けたり。そうこうしているうちに、気がつくとお昼タイム。

 陸に上がり、宿泊施設のシーサイドレストランのオープンテラス席で【エビのシーフードパスタ】を頂くことに……オレもミンティアも同じメニューを注文。


「ツルツルモチモチのパスタに、エビがピッタリだね。味付けは、海の食材で作った特製ソースのシーサイド風だって」

「ああ、ちょっぴりしょっぱい感じがして、海に来たって雰囲気が高まるな」


 食後は流行のタピオカティーでプルプル食感を楽しみ、まったりとパラソルスペースでリラックス。海を満喫した後は、いよいよ宿泊施設にチェックインだ。


「じゃあ、それぞれの部屋を確認してちょっと休んだら、ロビーで待ち合わせな」

「うん。夕飯のビュッフェは17時から入れるらしいよ。早めに食べちゃおう。それから、星座鑑賞だね」


 宿泊する部屋を確認して、小休憩をはさみ、いよいよ夕飯。離れ小島自慢の和洋折衷、中華にイタリアンと幅広く、さすがはビュッフェスタイルを採用しているだけはある。


「ねぇイクト君、いろんなお刺身を自分で盛り合わせてオリジナルの海鮮丼が作れるんだって! やってみようよ」

「おっ? じゃあオレは、マグロ三種とボタン海老、いくらの豪華丼を作ろう」


 ノリノリでオリジナルの海鮮丼を作ったり、イタリアンピッツァを頬張ったり、ディナービュッフェのメインであるローストビーフでオリジナルサンドを作ったり。自分たちなりのスタイルで、食材を盛り合わせてビュッフェを楽しむ。

 甘いものは別腹なのか、ミンティアがマンゴーケーキやフルーツタルトをペロリと完食する姿に、驚きつつ夕飯が終了。


 まるで普通のカップルのようなデート……つい数日前まで吸血鬼だの寿命の差だの言っていたのが嘘みたいなくらい。

 いや、今のオレたちは同い年の健全な普通のカップルだ。夜は庭から、満天の星空を鑑賞する。


「そういえば、以前もミンティアと2人で星を見にいったよな。あの頃はまだ異世界でずっと暮らしていくつもりだったけど……今は、地球からたまに遊びに来る程度になっちゃったな」


 あまりにもリアルな生活ができるため忘れがちだが、この肉体はアバター体……仮初めの肉体だ。スマホRPGを介してログインしないと、この異世界でこうやって過ごすのは不可能である。


「そうだね、もしかするとそうやってだんだんログインしなくなって、次第にこの異世界のことも忘れちゃうのかもしれない」

「……! ミンティア、ゴメン。そういう話をするつもりじゃ……」

 明るく振舞っていたのは、切ない気持ちを隠すためだったのか。気がつけば、ミンティアの声が涙声になっている。


「ううん。いいの……例えば、イクト君が将来的に、この異世界にログインしなくなって。一緒に冒険することもなくなったとしても……今のこの気持ちは、本物だと思う」

「ゲームのサービスが続く限りはログインするつもりだし、ミンティアとの冒険だってずっと覚えているよ」


 夜空では、流れ星がキラリと落ちては消えてゆく。願い事を唱えるなら今がチャンスかもしれないが、あいにくそういう雰囲気ですらない。


「あの頃の私は……イクト君が【一生】この異世界の勇者でいてくれると信じていたんだ。でも、それってイクト君の人生を縛り付けることなんだよね。だから、貴重な異世界での時間をずっと忘れない思い出にするには、どうしたらいいんだろうって考えてたんだ。多分、答えは……」


 ミンティアがオレの肩をクイっと引き寄せて、次第に顔が近づいてくる。


(もしかして、このままキスされちゃう? それとも、吸血鬼の血に目覚めたミンティアから血を吸われちゃうのかっ)


 だが、密かにオレとミンティアを見守っていたクマのぬいぐるみ【クマぽん】がそれを許すはずもなく……。


「ストップ、クマー! ミンティアお嬢様、女性の方からそういうことをするのはダメですクマー。まったく、近頃の若い子は……」

「だって、イクト君とどうしても忘れられない思い出が欲しかったから……」


 結局、もふもふぬいぐるみ執事のクマぽんがミンティアお嬢様の大胆な行動をストップしたため、その日は普通に星を鑑賞してお開きとなった。


 ミンティアがオレにしようとしていた【大胆なこと】の正体が、キスだったのかそれとも首筋の血を吸うことだったのかは分からずじまい。


 けれど、流れ星が舞い落ちる夜空は、ミンティアの願いを聞き届けたことだけは確かである。


 何故なら、オレはミンティアの願い通り【ずっと、この異世界の勇者でいなくてはいけない状況】に否応なしに追い込まれるのだから。


 けれど、それはオレの双子の姉が【あの人】と結婚して、2人の間に子供が生まれ……。いつしか、知り合いのほとんどが【異世界にアバター体としてログイン出来なくなる遠い未来】のことだ。


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