臨海デート・聖女編2:気になる彼女のプロフィール
水着ガチャの会場で挨拶を終えたミンティアに連れられて、召喚士協会支部のミーティングスペースでお茶をすることになった。
以前訪問したことのある召喚士研究所とは違い、支部は本来なら召喚士ではないオレは立ち入り出来ない場所だが、今回は特別に入室。
夏に合うアイスクリーム付きのメロンソーダを用意してくれて、気を使われているのが伝わってくる。
「ゴメンね、突然呼び出して。実は、次のデートクエストなんだけど、新社長に就任した関係でボディガード付きで行うことになったの。ボディガードといっても、ルーマニアの親戚が送ってくれた召喚精霊なんだけどね」
先程からずっとミンティアの隣で浮遊しているぬいぐるみ。抱きしめると柔らかそうなモコモコの可愛らしいクマのぬいぐるみと思いきや、召喚精霊だという。
しかも、色合いはミンティアとお揃いのミントカラーである。どう見ても、可愛いだけでボディガードなんか出来なさそうだが。
「えっボディガード? このちっちゃいのが。愛玩動物とかゆるキャラじゃなくて?」
「ぷぅ! ちっちゃいとは失礼ですクマー。私は、行柄一族のご先祖様がまだルーマニアで貴族をしていた頃から、一族のお嬢様をお守りするクマのぬいぐるみ一族ですクマー!」
サイズは猫くらいで、パタパタと手足を動かしたところで攻撃力すらなさそうだ。まぁ細かい性格のようなので、秘書代わりには良さそうだけど。
「ああ悪い悪い。癒し系の外見だから、つい本音が……」
「ぷぅ! ミンティア様は、このような男の一体何が良いのでしょう? 良いところなんて顔面偏差値くらいではないですか? イケメン至上主義なのはご先祖様にそっくりですね。はぁ先が思いやられます」
ディスられているのか、褒められているのかよく分からない状況。だが、クマの美的感覚では、一応オレはイケメンの部類に入るようだ。
「ところで、ルーマニアのご先祖様って? マルスもそんなようなことを言っていたけど、行柄一族って海外の血を引いてるんだ」
マルスも行柄社長のこと、ルーマニアに帰ればいいのにと呟いていたし。行柄一族がルーマニアの血を引いていることは、割合有名な話なのだろう。
「うん。お兄ちゃんと私はいわゆる腹違いだけど、両方ともルーマニア育ちのご先祖様を持つ行柄一族の末裔なんだよ。ご先祖様は、異世界から召喚魔法で転移してきて、ごく普通にルーマニア生活を送っていたらしいんだけど、ある日吸血鬼疑惑をかけられて海外に逃げたの。それが、日本」
「ふぅん……異世界からルーマニア、そして日本。ルーマニアって吸血鬼伝説とかあるもんな。けどそういう事情で、日本に住むことになった人もいるのか」
つまり、行柄一族は、異世界、ルーマニア、日本、と流れて現在の行柄兄妹に辿り着くのか。もし、本当に今回のデートクエストをキッカケにミンティアと地球でも交際するなら、オレもその系譜の仲間入りを果たすことになるだろう。
「これまでミンティア様は、それほど表舞台に立つことなく静かに生活しておりました。ですが、新社長に就任されたことにより、目立つ立場となってしまった。先祖にかけられた吸血鬼疑惑の一件もありますし、ボディガードが必要なのでございますクマー。あなたには、ミンティア様に疑惑が出ないように気をつけていただきたい」
見かけによらず、しっかりとした口調で仕切り始めたクマ執事の話を取り敢えずは聞くことに。
「お、おうっ。いろいろ大変そうなんだな。具体的には、どんなことに気をつけたらいいんだ?」
「臨海学校の海岸地域には、吸血鬼の花嫁が眠る教会があるのですクマ。本来はデートスポットですが今回は避けるように。ニンニクや十字架などのそれっぽいものもすべてNGクマよ。プレゼントも手鏡はNG、デートタイムも出来れば早朝は避けて夕刻以降にして欲しいクマ」
吸血鬼疑惑を晴らしたいなら、十字架のアクセサリーを身につけたり、ニンニク料理を食べたりして、ノーマルな体質であることをアピールした方が良いのでは? むしろ、吸血鬼疑惑が高まりそうなデートプランになりそうだが。
それとも、吸血鬼と関連する物事をすべて避けるのがベストな選択なのだろうか。
「分かったよ。臨海学校は明日からだけど、ミンティアは社長業であまり授業には出られなくなっちゃったし。どっちにしろ、デートは夕刻になるだろう。海岸沿いを歩いて貝殻を集めたり、それっぽいデートは出来ると思うよ」
「うふふ! 夕刻の海岸を2人で歩くなんて素敵だね。イクト君、明日からデートの相手よろしくね」
「ああ、こちらこそ!」
スッと差し出されたミンティアの白魚のような手をキュッと握ると、スマホからピコピコピーンと通知音が。
『おめでとうございます! 聖女ミンティアさんとのフラグポイントがワンランク上がりました。ミンティアさんのパーソナルデータが登録されますので、デートクエストの参考にしてください』
「パーソナルデータ? そうか、今回はバトルステータス以外に個人データが実装されるんだっけ」
「えっ? そうなんだ。けど、他の人にも私のデータが見られちゃうと恥ずかしいから、なるべく自分のお部屋で見てね。それじゃ今日はこれで解散にしよう」
「ああ。気をつけて……!」
* * *
ミンティア曰く、恥ずかしいからパーソナルデータは自室でチェックして欲しいとのことなので、素直に賃貸住宅に戻ってからスマホを確認。
今回登録された聖女ミンティアのパーソナルデータは以下の通りである。
【聖女ミンティア】
本名:行柄ミチア
年齢17歳
誕生日:9月13日
身長:160センチ
体重:47キロ
バスト:Dカップ
血液型:O型
趣味:手芸、スマホRPG、クマのぬいぐるみ収集
好きな食べ物:バナナクレープ、ピーマンの肉詰め
苦手な食べ物:納豆、ニンニク
特技:刺繍
得意料理:カレーライス
(備考)
異世界人、ルーマニア人、日本人、上海人とさまざまな人種の流れを引き継いでいる聖女ミンティア。12歳年上の兄のリゲルとは腹違いだが、両親がおらず助け合って暮らしている。
兄に代わり、スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】を運営する会社の社長に就任した。
(アドバイス)
いつも優しい聖女ミンティアだが、今回は新社長に就任して、普段より緊張している様子。デートの際には普通の女の子としての時間を楽しませてあげよう。最近は、ニンニク料理が苦手になっているため、食事の内容には要注意だ。
ロマンティックな景色を見せたり、心のこもったアクセサリーをプレゼントすると好感度が上がるかも?
「あれっ? ミンティアって以前は、ニンニク入りの料理でも喜んで食べていた気がするけど。苦手になっちゃったのか……なんでだろう」
ひと通り内容を確認していると、ハーレム勇者認定協会からお目付役としてオレを見守るリス型精霊のククリが一言。
「もしかすると、新社長という大勢の人に会う立場から、においの強い食事は避けているのかも知れませんね」
「そっか……そういうことなのかな?」
先ほどのクマ執事が、異様にニンニクや十字架を避けるように促してきたのがどうしても気がかりだ。オレの知らないところで、ミンティアの身に変化が訪れているのだろうか?
「さあ、明日は早いですよ! 臨海学校行きもバスに遅れないように、今日中に荷物を全部準備しちゃいましょう」
「あっああ。そうだな。あれっ……外に何かが」
気がつけば、レースのカーテン越しに見える窓からは綺麗な月明かり。そして、珍しくコウモリたちが夜空にパタパタと飛び回っている。オレはコウモリたちのことは見て見ないふりをして、遮光カーテンをシャッと閉めた。
キィキィとした小さな鳴き声が、夜空から聞こえてくる。
吸血鬼の花嫁が眠るという海岸の教会が、オレを呼んでいる気がした。