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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
322/355

臨海デート・聖女編1:明かされる秘密


 攻略ルート最初のデートの相手である聖女ミンティアは、異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】のプロデューサー兼社長の行柄リゲル氏の妹だ。

 これはオレの先入観かも知れないが、ストーリーの舞台となっているゲームの開発に携わっている一族の女の子が、正ヒロインっぽい立ち位置というのは納得がいくポジションである。


 いや正確には、リゲル氏のことは前社長と言うべきか。詳しいことは知らないが、リゲル氏は退任に追い込まれたらしい。


 この流れだと、普通は正ヒロインの行柄ミチアこと聖女ミンティアは生活がピンチになるとか、兄を支えるとか、そういう流れを連想してしまう。


 だが、ミンティアは清楚でおとなしく見える割には案外肝が座った人物なだけあって、自らが兄に代わり社長のポジションに就任してしまったようだ。


『そういうわけで、新しい体制になっても蒼穹のエターナルブレイクはサ終しないよ! でも、ユーザーのみんなに迷惑をかけたお詫びに、無料ガチャチケット三十連分とガチャやアイテム交換に活用できる【聖石】を三万個プレゼントするね!』


 水着ガチャ実装特設ステージで、マイク片手にニコニコと詫び石やチケット配布について説明するミンティアは、想像以上に堂々としていた。むしろ、10代にして女性社長というポジションこそが、聖女ミンティアの真の姿であるかのような錯覚までしてしまいそうだ。


『詫び石、そんなに! これで、欲しかったレア装備やジョブの権利が手に入るぞ』

『ミチアちゃん、すごいな。いきなり詫び石三万と無料チケット三十連分だって』

『やーん。お兄さんがいなくなったのはショックだけど、詫び石が凄すぎてミンティア社長についていきたくなっちゃう!』


 会場に集まったユーザーたちは、サプライズの無料ガチャチケットと詫び石に大喜び。

 無料ガチャチケット三十連分と本来課金をして購入する聖石を三万個も配るというのは、かなり思い切った方向性と言える。


 すると、これまでの会場の様子をスタッフとして見守っていた前社長のリゲル氏が独り言のように呟き始めた。


「あくまでも、ミチアはお飾り社長だと思っている。だけど、今回の無料ガチャチケット三十連分と詫び石三万個はミチアのアイデアだ。僕が社長の時は、そこまで大胆に詫び石を配らなかったし【ミンティア社長】に靡いていくユーザーもいるだろうね。果たして、追放されたアラサーのおっさんである僕にどれくらいのユーザーが残ってくれるか」


「えっとリゲルさんはまだ二十代だし、とてもじゃないけどおっさんには見えませんよ……。それに。これからもう一度起業するんでしょう?」

「ははは……ありがとう。さて、落ち込んでもいられないな……ミチアが頑張ってくれている間に僕も立て直さないと! それじゃあ、また……」


 他のユーザーに声をかけられるよりも早く、前社長の行柄リゲル氏は会場から立ち去ってしまう。

 その背中には哀愁が漂い、ここ数年になって突然見かけるようになった【SSランクのおっさんが追放の憂き目にあったけど、セカンドライフで成功しています】みたいなラノベ主人公に近しい状態だ。

 まぁリゲルさんは、まだギリギリ二十代だからおっさんではないと思うが。なぜか、ラノベの世界では比較的若いイケメンでも、大人はおっさんを名乗り始めるため油断出来ない。


 むしろ、自らおっさんを名乗りながら『でも、オレってこんなに若くてカッコいいだろう?』みたいな、チラ見がうざい雰囲気すらある。先ほどのリゲル氏も【超イケメンのオレが自らおっさんを名乗っちゃうよ的なチラ見感】がたっぷりあったし、まだ余裕があるだろう。


「それにしても、驚いたよ。行柄社長が突然退任するなんて。マルスは知っていたんだな」

「ん〜。一応オレってあの会社で最近までバイトしていたじゃん? いろいろ早く情報が入ってきたというか。行柄元社長も大人しく、ルーマニア辺りに帰って、静かに過ごしていれば良いものを。それよりさ、ガチャチケットと詫び石で早速水着ガチャ回そうぜ!」

「ルーマニア? そういえば行柄一族って、ルーマニアの血をちょっとだけ引いているんだっけ」


 寂しげな様子でこの場を立ち去った行柄リゲル氏とは対照的に、イキイキとした様子のマルス。もはや、退任した行柄社長よりも、無料ガチャでサービス精神旺盛なミンティア社長の方を支持するつもりなのか。

 そして、会場内の人たちも無料ガチャチケットや詫び石に気を取られて、リゲル氏が退任したことをすっかり忘れてしまったようだ。


『おめでとうございます! 星5レア装備、蒼天の水着上下セットが当たりました!』

『おぉー!』


 回り始めたガチャ台では、すでに星5レア装備を引き当てた者が現れ始めた様子。ワクワクしながら、自分のガチャの番を待つユーザーたちは幸せそうだ。


「ところで、今回のガチャでウリになっている装備品ってどんなものなんだろう?」

「おっそうだな。アプリ内でレア度の高い限定品リストがあるはずだから、見てみようぜ」


 ガチャが趣味のマルスが、慣れた手つきで今回の限定品リストを検索する。

 おそらく、水着ガチャと銘打っている限りは、水着装備が一番のハイスペックアイテムなんだろうけど。


【水着ガチャ・限定レア装備一覧】


 星5レア:星空のフリル水着上下(水着)

 星5レア:蒼天の水着上下(水着)

 星5レア:煌めきのビキニとパーカーセット(メンズ)

 星5レア:爽やか海パンとパーカーセット(メンズ)

 星5レア:クラゲさん浮き輪(防具)

 星5レア:人魚のペンダント(アクセサリー)

 星5レア:虹色ビーチボール(投げ道具)


 特別星5レア:ポセイドンの槍(武器)

 

 おススメポイント:各星5レア装備には、水属性のモンスターや魔法に対して耐久スキルが付属しており、海岸でのクエストにぴったりです。



「ふぅん。限定装備の中で当たりっぽいのは特別扱いの【ポセイドンの槍】がトップレベルで、あとは人魚のペンダントかなぁ。ペンダントは、デートクエストの女の子へのプレゼントにも最適だって」

「この夏は他にも神話のポセイドンにあやかって槍装備が増えるらしいぜ。イクトは普段は棍を使っているけど、似た形状の槍装備で星5レア武器を手に入れとくといいかも知れない」

「槍、か……。じゃあ今回狙うのは、人魚のペンダントと槍装備で決まりだな!」


 棍とサブの剣装備だけでは攻撃のパターンもマンネリ化してきているし、そろそろ槍を検討しても良い頃合いだろう。


 確定で星5レアが1つだけ手に入るらしいし、期待で胸が膨らむ。ガラガラと廻るガチャ台の前に立ち、ぐるりとハンドルをまわすと……。


『おめでとうございます! 無料三十連確定星5レア装備、【クラゲさん浮き輪】が大当たりです!』

「……っ! まさかの無料三十連確定が、もっともネタっぽいクラゲさん装備だと……!」


 愛嬌のあるクラゲさんは、可愛らしい装備ではあるものの、これでバトルが捗るようには思えなかった。

 地味にショックを受けつつも、クラゲさん浮き輪がどれくらいの防御力なのかチェックしてしまう。スペックは優秀のようだが、目立つ装備品のためデートクエストにはあまり向いていない。


「あ、諦めちゃダメだイクト! ミンティア社長の配布した侘び石三万個をフルで使えば、カッコいいポセイドンの槍だって出るだろう? なんたって三万個で百連出来る計算だからな」

「えっ……ああ、うん。じゃあ、この配布の石を全部使ってガチャお願いします」


 詫び石三万個をすべて使い、怒涛の百連に挑戦する。星5レア装備もほどほどに揃ったが、お目当ての槍は星4レア武器【クリティカルの槍】のみ。攻撃力は中くらいだが、会心攻撃がでやすく水属性に強い武器であるので使い道はありそうだ。


「今回の海岸地域は、水属性モンスターが多いらしいから星4レアとはいえ、大切にした方が良いと思うぞ。狼男のオレがアドバイスしても、説得力ないけどさ。じゃあ……」

「うん、アドバイスありがとう。それじゃあ臨海学校で」


 マルスと別れて自宅への帰路を目指すと、ふと誰かに声を掛けられた。


「イクト君、さっきの挨拶……どうだったかな? お話ししたいことがあるんだけど。ちょっとだけ、時間をもらっても良い?」

「ミ、ミンティア!」


 サマードレスから私服に着替えたミンティアは、また普段通りの年相応の少女に戻っていた。だが、彼女の隣に見慣れない浮遊するクマのぬいぐるみが。


「お嬢様、この男がお嬢様のフィアンセですかクマー。このルーマニアからやってきた執事【クマぽん】が行柄一族にふさわしい男が見極めなくてはっ」


 ルーマニアからやってきた行柄一族の執事?

 実は、まだまだオレの知らない秘密があるようで。今年の夏、ミンティアの素顔を見ることになる。


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