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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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雨雫の女勇者編7:旅立つ彼女の心模様


 女勇者レインが、ギルドデビューしてはや2年が過ぎようとしていた。ダーツ魔法学園を無事の卒業し、もうすぐアバター年齢は16歳だ。

 この異世界では、慣習として勇者は16歳の誕生日に旅に出ることになっている。旅立ちについての詳しい予定を星のギルドのマスタールームで話を聞くことに。


「レインさん、もうすぐあなたの16歳の誕生日ね。早いものだわ……覚えてる? あなたの初めてのギルドクエスト、メイドさんの格好して潜入調査に行ったの。なかなか似合っていたわよね?」


 ギルドマスターのラナ先生が、懐かしむように当時の報告書を読みながら例のメイド調査について語る。調査といっても、潜入されている方のメイド喫茶側もこちらが調査員であることを承知の上で雇用していただけだった。

 快くレインをメイドとして受け入れることで、自分たちのメイド喫茶が健全店であることをアピールしたかったようだ。その証拠に、レインはたびたびメイド喫茶にヘルプとして駆り出されている。

 おかげで、メイドジョブステータスを確認するとレインのメイドスキルはすでにマックス状態だ。もはや、プロのメイドに転職することすら可能だろう。


「うっ……今思い出しても恥ずかしいし、その話題はちょっと。まぁあの後も、何度かメイドとしてヘルプに行っていますけど。あくまでも副業ですから!」

「そう? あのメイド喫茶のマネージャーさん、ずいぶんとあなたのことを気に入ってくれていたわよ。レイちゃんが女勇者にならないで、メイドさんになってくれたら良いのにって……」


 そう……メイド喫茶のマネージャーさんをはじめ、従業員も常連客もレインがプロの女勇者として旅立つことにあまり賛成していなかった。理由は簡単だ……【命の保証がない】からだろう。


 確かに、あのメイド喫茶でメイド職に従事していれば命の危険は少ないと言える。魔族系企業が運営しているから、いざという時に魔獣軍団が攻めて来ても強力な魔力結界が守ってくれる。


 けれど、レインの憧れはかつてプレイしたRPG【蒼穹のエターナルブレイク初代ストーリー】に登場する麗しい女勇者レイネラだった。あの気高い女勇者は、自らの運命を自分の剣で切り開いていった。

 自分がレイネラの生まれ変わりだなんて、大それたことは思わないが。地球の少女レイラとアバターのレインが一心同体になることで、女勇者レイネラの魂に近づけるような気がしていた。


「……みなさんが、心配してくれていることは私も十分に分かっています。でも、私の夢はレイネラ様のような女勇者になることなんです!」

「伝説の女勇者レイネラか……私もあの異界の伝承は、何度も読み返したわ。あなたは、そんな風になりたいのね……うん。女勇者が活躍した記録はきちんと残っているわ。私からも大丈夫だと議会へと報告しておきましょう! 我が星のギルドが誇る女勇者レインは、レイネラの精神を受け継ぐ女勇者ですって」

「ギルドマスターラナ、ありがとうございます」


 自分でも、無謀なことをしようとしているのは理解しているつもりだ。男勇者でさえ、聖女や他のギルドメンバーとパーティーを組んで旅立っている。女勇者レインの場合は、俗に言うソロ勇者……簡単な調査ならともかく、バトルの連続に耐えられるかどうか。

 時折、勇者イクトのメンバーのサポートメンバーとして協力することも多く、レイン個人で冒険に出立するとは思わない人もいるだろう。

 それでもレインの気持ちを尊重して、女勇者デビューを応援してくれるマスターラナ。師匠への感謝の気持ち、期待とそれ以上の不安で、思わず涙がこぼれそうになる。


「もう! 泣いちゃダメよ。これから大変になるだろうから、しばらくの間はゆっくり休んで頂戴。そうそう、あなたがよく派遣されているメイド喫茶から温泉の優待チケットが届いているわ。魔力と体力の回復効果が高くて、魔法剣士の知り合いがいたら誘ってモニターしてくれって」

「わぁ嬉しい。魔法剣士の知り合いなら、アロー魔法剣士学校の友達がいます。2人でモニターして来ますね」


 秋生まれレインは、少し肌寒くなってきた頃がプロ勇者デビューの日。それまでの間、しばらく休養をとるようにとの指示。大丈夫、きっと上手くいく……そんな風に自分に言い聞かせる、



 * * *



 久しぶりに、個人的な自由時間を過ごすことに。そんなわけで今日は友人の魔法剣士シフォンと、旅立ち前の温泉女子会。流行のスパで、身体のコリをほぐすことにした。巨大な日本家屋の周囲に、いくつもの露天風呂を設置した大型施設である。

 雨女のレインとしては、万が一雨が降ってしまってはせっかくの露天風呂が……危惧したが、なんとか曇り空でとどまっている。


「お気楽スパ魔法温泉湯けむり天国かぁ。ここって結構高いところだよね……いいの? 私まで無料の招待チケットもらっちゃって」

「うん! 副業でよくヘルプに行くメイド喫茶の運営が経営する系列店なんだ。魔法剣士の人にモニターしてほしいって話だし、一緒に楽しもう」


 さっそく、2人で温かな大浴場の源泉に浸かる。ぬるっとした温泉には体力回復魔法がかかっているそうで、旅立ちの日までコンディションを整えるのにもってこいだ。


「ついに私も、プロ勇者として正式な旅立ちをするのか。いろいろあったなぁ」

「そういえば、なかなか議会の許可が降りないんだっけ。冒険の旅に出れそう?」

「うーん。ギルドマスターのラナ先生は頑張って交渉してくれているんだけどね」


 転生者専用ギルド【クオリア】とダーツ魔法学園管轄【星のギルド】にダブル所属しているレインだが、基本的には1人で活動するソロ勇者。


 ずっとソロ勇者として活動していたレインだったが、『女の子1人で危険な旅に出させるのは危険なのではないか?』という声が挙がるようになっていた。


 やはり、男女関係なく1人冒険の旅に出るのは無謀なのだろうか。


「実はね、レイン。私……いや、今はいいや。大事な話は落ち着いた場所で話すべきだし、食事の時に話すね。悩んでも仕方ないし、どんどん温泉で体調を整えよう。ほら、あの魔法高濃度炭酸泉……結構も魔力も促進されるらしいよ」


 シフォンがなにかを言い淀んでいたが、大事な話だそうで食事の時に伝えたいようだ。今は体力回復が優先なのだろう……今後の旅立ちに備えて、ここのメインである魔法高濃度炭酸泉へ。


「う、うん。じゃあさっそく入ってみよう。あれっ? 身体中に泡の粒がいっぱい……これが炭酸泉なんだ」

「炭酸泉って、他の温泉よりも血の巡りが良くなるんだって。毎日通って持病を治す人もいるらしいよ」


 ひと通り温泉を堪能して、日本庭園を眺めながら食事が出来る窓際の席でランチを頂くことに。メニューは、エビと舞茸天丼とキツネうどんのセット、ソフトクリームあんみつ付きだ。


「ん〜! ぷりぷりのエビが甘いタレとよく合うね。舞茸ってあんまり食べないけど結構イケる!」

「ふふっ。魔法高濃度炭酸泉も凄いし、来てよかったぁ。そういえばシフォン、話したいことって何?」


 ピピピピッ! ピピピピッ!

 ちょうどレインがシフォンに大事な話の内容を聞こうとした瞬間、スマホから着信が。


「はい、レインです。ギルドマスター……いつもお世話になっています。えっ会議の結果が出た? 条件付きで旅立ち可能、魔法剣士シフォンと2人組でなら……はいっ。ありがとうございます」


 ギルドマスターラナから、レインの旅立ちに関する会議の結果報告が届く。女1人旅は流石に許可がおりなかったが、代わりに嬉しい条件で許可となった。


「……ごめんね、レイン。黙ってレインの旅立ちにくっついていく試験を受けて。けど、他校生の私じゃ審査落ちする可能性もあったし、言い出せなかったんだ」

「ううん! まさか、一緒に旅に出られるなんて。私、調査クエストばっかりでイクト君の応援に行く以外は、ずっと1人任務だったから。ありがとうシフォン。これから、よろしくねっ」

「ふふっ。なんか照れ臭いな……レイン、よろしく。私の剣でサポート出来るように頑張るよ」


 友人同士の2人が正式な冒険のパートナーとして、改めて握手を交わす。いつの間にか、降り出しそうな曇り空から晴れ間に変わっていた。まるで、旅立ちを決意したレインの気持ちとリンクするかのように。


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