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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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雨雫の女勇者編5:勇者2人と初代ラスボス


「お帰りなさいませ、ご主人様! 魔族ラブニャンメイド天国では、ただいま人間族のメイドによる萌えニャンソングを提供中ですっ」


「おおっ! 今回のイベントは、人間族のメイドさんを雇っているのかっ? ずいぶんと気合が入っていますなぁ」

「はいっ! ぴちぴちの新鮮なメイドさんと呪いの空間で思い出作りが出来ますよぉ〜」


 甲高い魔族メイドのアナウンスが、洋館の中に響き渡る。高等魔族が運営する【魔族ラブニャンメイド天国】は、開店してまだ半年であるにも関わらず業界トップレベルの売り上げを更新中だ。

 これまでは萌え文化に関心はあるものの【種族が魔族】というだけで、メイド喫茶に通えない者も大勢いた。


 そんなメイド日照りに現れたメイド喫茶が【魔族ラブニャンメイド天国】である。運営が魔族企業ということもあり、どんなイカツイ魔族でも気にせずメイドさんと遊ぶことが可能だ。


 しかも、本物の魔族伯爵が使用していた伝統的な洋館で、ティータイムを過ごすことが出来る。さらに、メイドさんの衣装は露出度高めの激ミニガーターニーハイが基本装備。

 魔族にとっての【萌えの集大成】のようなメイド喫茶が高い集客率を誇るのは当然の展開と言えるだろう。


 だが、突如現れた魔族系企業メイド喫茶の大躍進に疑問の声もチラホラ。


『あのメイド喫茶は飲食店の体裁を保っているだけで、本来の姿は魔族たちの闇儀式の拠点らしい』

『滅んだはずの伯爵一族の魂が、復活のために夜な夜な若い娘を生け贄に捧げている』


 ダークな噂の絶えないメイド喫茶へと、潜入調査することになった若い乙女……その名も女勇者レイン。


 人間のギルドから派遣された【新人メイドのレイちゃん】として、彼女のクエストが開始される!



 * * *



 ギィイイイイ……と軋む音をたてて、年季の入った重厚なドアが開く。最近オタクデビューしたばかりの初々しい魔族の若者が来店した。


 白髪のロングヘアを後ろで三つ編みに結い上げ、黒いマントに銀色の甲冑。肌の色は青白く、耳は純血魔族特有の尖った形状だ。魔力増幅効果の強い高級な紅い石をピアスにして装備しており、彼がちょっとしたお金持ちであることが伺われる。

 一見すると、ファンタジーゲームの美形ラスボスのような風貌だ。


 しかし、すでに萌え文化に染まり切った彼は伝統のラスボス装備に加えて、切れ長の赤い瞳を隠すようにグリーンのフレームメガネを装着し、所持品は懐かしの紙袋に収納している。さらに、背中にはリュック背負い剣の代わりに某パソコンショップで貰った萌えポスターを二本装備。

 一言で言うと、萌えオタにジョブチェンジしたラスボス様……と言ったところだろう。


「あっあのっ! オイラ、こういうお店に来るの初めてなんですっ。そ、そのっ。よろしくです」

「お帰りなさいませ、ご主人様! ただいま、人間のメイドさんによる萌え萌えなサービスを提供中です! メイドさんのご指名も出来ますが……どうなされますか?」


 案内役のメイドさんに女の子のリストを手渡されて、戸惑う若者。だが、キリッと魔王っぽい仕草をしつつ、気にいる女の子がいるか調べ始める。


「ふぇっ? ご、ご指名って……好みの子を選べるんですかぁ。ひぃいっ美少女ばかりで緊張しますデスゥ。あっ……この子は? ラスボスをやってたオイラのご先祖様を成敗したとされる伝説の女勇者レイネラにそっくり。ボーイッシュなショートでオイラ好みの激マブ! こっこの女の子で! 【新人メイドのレイちゃん】でッ。ヨロです」


 ラスボスをご先祖様に持つ若者が気に入った女の子は、よりによって女勇者レイン扮するレイちゃんだった。しかも、ご指名の理由は【自分のご先祖様を倒した伝説の女勇者レイネラにそっくりだから】という因縁深そうなものである。


「レイちゃんですねっ。今お呼びしますので……レイちゃーんっ! ご主人様がご指名ですよぉ」


 新人メイドのレイちゃんが、ギルドから潜入調査に向かわされている本物の女勇者だと知らない案内役は、笑顔でレイちゃんを呼び出した。


「はーいっ。おっお帰りなさいませっ。ご主人様! ってえっ……あなた人気RPG【蒼穹のエターナルブレイク】の初代版に出てくるラスボスさん?」


 自分が影響を受けた女勇者が登場するゲームのラスボスが目の前に現れて、思わず驚きの声を挙げる女勇者レインことレイ。


「ひゅうっ! 嫌だなぁ【蒼穹のエターナルブレイク】初代版のラスボスはオイラのご先祖様で、オイラはしがない一般魔族ですよぉ〜。でも、オイラってやっぱりラスボスに見えるんですね。今日はレイちゃんと【女勇者ごっこ】して遊びたいんですがイイですか?」


(女勇者ごっこ……! この人、どっからどう見てもラスボスだし、まさか私が潜入調査していることに感づいて他所の異界から? いや、ここはクールに決めないと!)


「か、かしこまりました。では、基本コースは【女勇者ごっこ】をご選択……っと。他にもオプションを付けられますが、いかがですか?」


 なるべく動揺を顔に出さないように、にこやかに接客するレイ。


 女の子との触れ合いを重視するお客様なら、写真撮影などの無難なプランを選びそうだが、このお客様はひと味違っていた。


「えっとぉ〜。女勇者を彷彿とさせるレイちゃんに合いそうなオプションは、やっぱり【壁ドンからの〜くっ殺せッ……ごっこ】かなぁ。まぁ女勇者というより女剣士って感じですけどね! あと、特別料金プランの個室設定でお部屋の種類は【魔王の玉座前、決戦の時】がイイです!」


 何でそんな魔王めいたプランばかり組み合わせるんだろう? やはり潜入調査がバレて? と思ったが、魔王の子孫だという話だしそういうものへの憧れが強いのだと解釈することに。


「では、お部屋までご案内致しますね! あのマネージャーさん、この【魔王の玉座前、決戦の時】ってお部屋の鍵を借りたいんですけど」

「まぁ! このプラン高いし、家具もそれっぽく演出するために全部呪われているからあまり選択する人いないのよ。でも、ラスボスの子孫の方ならきっと大丈夫ね。すぐに用意するわ」


 どうやら特別ルームの鍵は、奥の部屋にしまいこんでいるようで、案内係は一旦鍵を取りに事務室まで戻ってしまった。その間、レイ1人でラスボス子孫さんの接客をすることに。


(どうしよう? まだメイド喫茶で働くのに慣れていないし、何を話せば良いのやら。今まで1人で接客することなんてなかったのに)


 ギィイイイ! バタン! 扉が開く音に、受付役の従業員が慌ただしく動く。

「あら、もう1人お客様だわ。はぁーいただいま」


 それは、レインをよく知る人物が客として来店した合図だった。焦げ茶色の斜め前が特徴的なサラサラヘア、大きい目は吸い込まれそうなほど清らかで、シュッとした輪郭はどの角度から見てもイケメン、程よい身長でスタイル抜群の若者。

 そう、レインの片想いの相手である勇者イクトがギルドからの依頼で調査を手伝いに来たのだ。


「こんにちは! ここのメイドさんのレイちゃんって子に接客をお願いしたいんですけど」


(イ、イクト君! そうか、今日がイクト君の応援調査の日だったのね。やだっ。ますます、緊張してきちゃった!)


「あら、いらっしゃい。レイちゃんは今から特別ルーム【魔王の玉座前、決戦の時】で接客だけど。せっかくだし、もう1人のお客様と相席にしましょうか。ラスボス子孫さん、それでいいですか?」

「いいですよ。なんだかお客さん勇者っぽいし、ますますラスボスvs勇者の雰囲気で盛り上がりそうですっ」


 何故そんな盛り上がりを求めているかは不明だが、なんとかレインの接客現場を応援できることになったイクト。

 初対面同士で世間話をしていると、案内係がアンティークな鍵を片手に戻ってきた。気のせいかも知れないが、先程までは身につけていなかった手袋を装備して、直に鍵を触らないようにしている感じだ。


「レイちゃん、お待たせ! あっ一応、呪われないように手袋を装備して鍵を扱ってね。まぁレイちゃんってギルド推薦のSランクメイドさんだし、女勇者っぽいから大丈夫よね。あら、お客様が増えたの? 2人同時に接客するのは大変でしょうけど頑張って」

「は、はぁ。頑張ります……」


 またもや、女勇者っぽいと言われてしまう。むしろ、店舗側からすると、女勇者の卵をメイドとして雇いたかったかのような雰囲気だ。もしかすると、潜入調査というのもギルド側の体裁で、本当はただ単にメイド不足が原因なんじゃ……と勘ぐってしまう。


「大変そうだなレイン。いざとなったら、オレが守ってやるからな」


 こっそりレインの耳元でイクトが囁いてきて、ドギマギする。


(やっぱりイクト君は優しいし、カッコいい。いつも私が困っている時に助けてくれる)


 ラスボス子孫さんという強い魔力を持っていそうな魔族の接客に内心ヒヤヒヤしていたレインだが、思わぬイクトの応援にホッとしたのも事実。


「では、封印されし地下の【魔王の玉座前、決戦の時】まで2名様ご案内しまーす!」

「ご先祖様の玉座をモチーフにした部屋、楽しみですっ」

「本格的な部屋みたいだな。行こう!」


 なるべく明るく、封印されし地下室へと向かうレインご一行。


 まだこの時までは、レインもラスボス子孫さんも……そして勇者イクトも自分たちが行おうとしていることの恐ろしさに気が付かなかった……。因縁深いメンバーが、封印されし部屋へと足を踏み入れるその意味を。


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