箱庭の聖女編3:突然の依頼者
「取り敢えず、座って。私と同じテーブルでいいなら、食事しながらお話しましょう」
「あっはい。聖女様と一緒に食事が出来るなんて、光栄です。うぅ……すみません緊張しちゃって」
突然話しかけてきた少女は、どうやら恥ずかしがり屋のようだ。頬を赤らめながら自身の食事をよそのテーブルから運び、私と向き合うように席に着く。
ストローでアイスティーを僅かに呑んで、一呼吸置いてからようやく話し始めた。
「私の名はミルル、聖女様にどうしても依頼したいことがあって秘境にある山間の村からやって来ました。村の代表として……」
何故、村の代表がこのような若い少女? と疑問に感じたが、何やら事情がありそうだ。
「そっか、遠路はるばる大変だったね。私の名前はミンティア、聖女兼召喚士よ。もしかして最初は聖女館を探していたとか?」
「はい、さまざまなスキルを持つ聖女様達が集まる聖女館に行けば、我が村の危機を救えると長老から聞いていたので。まさか、レア職業の召喚士様だったとは。ますます運が良いですっ。回復スキルだけでなく、バトルスキルも問われるクエストなので」
この少女は、道中で偶然聖女館の制服を着ている私を見かけたということらしい。
この白い制服が、それなりに知名度のある職業装備として役立っていることが分かる。ひと目見て、聖女という使命を背負った冒険者だと判断できれば、依頼者としては頼みやすいだろう。
「そっか、じゃあ私のスキルでこなせる依頼みたいだね。仕事を引き受ける際には、所属ギルドに連絡してからクエスト開始になるから安心して。早速、どんな依頼内容なのか話してくれる?」
「実は、村の食料庫が異界のゲートと繋がってしまって。しかも、運悪く繋がった先は巨大ネズミモンスター達の拠点だったんです。それだけに留まらず、未知の病魔の呪いの印まで……」
ミルルの依頼内容は、魔物の討伐と回復スキルを用いた呪い解きの2つだった。
山間の村の大事な食料庫が、運悪く魔物達の巣窟とゲートを介して繋がってしまったという。そればかりか、ネズミ型のモンスター達によって荒らされた食料庫には、病気の呪いまでかかってしまったという。
「村の被害状況は具体的にどんな感じなの。近隣の村に応援とか頼んだ?」
「ええ、地元のレスキュー隊が魔物と戦ってくれていたらしいのですが、次第に呪いが効いてきて……。今は長老が作った結界のおかげで、モンスターは侵入してきませんが時間の問題かと。無事だったのは、黒魔法の勉強で数日間外に出ていた私だけなんです」
偶然、村の外に出ていたミルルだけが病気の呪いから逃れたそうだ。結界はあと数日間は持つそうだが、それまでに呪い解きやゲートの切断を行わないと村の存続自体難しくなってしまうだろう。
「呪いから回避できたのはミルルさんだけか……。それでまだ若いミルルさんが、村の代表として街までやって来たんだね」
「病気の呪いを解けるのは、高い回復スキルを持つ聖女様だけだと聞いております。ミンティアさん……どうか、我が村をお助けください! このままじゃ、病気とモンスターの両方にやられて村は……」
祈るような瞳で、すがられては断る事なんかできない。もちろん、もともと断る気は無いけれど。おそらく、私1人では敵を討伐しきれないだろうし、ギルドメンバーの協力が必要になる。
「大丈夫、私に……ううん、私達のギルドに任せて。大量のモンスター相手だとしても、私の所属するギルドのバトルメンバーを呼べば討伐できるわ。もちろん、特殊な呪いも聖女の回復スキルで解除出来るよ」
「本当ですかっ? それにギルドからバトルのプロまで呼んでいただけるなんて、あぁこれで村は救われます。私、黒魔法そのものは使えてもバトル経験に乏しいから」
ホッとした表情のミルルを不安がらせないために、余裕を見せるように心がける。
あいにくパートナー勇者イクトはプロ勇者研修期間で、外部のクエストを受けることは出来ない。ギルドチームの主戦力であるイクト抜きの任務は厳しいかもしれないが、それでもやるしかないのだ。
それに、未知の病魔の呪いや作為的なゲートの接続は、ネズミ型モンスター達だけではなし得ない技。おそらく、背後にはもっと魔力の高い魔族かモンスターがいるはず。
「じゃあ、すぐにスマホでギルドに連絡してバトルの依頼可能なメンバーを集めるね。腹ごしらえをしたら、出発だよ」
「はいっ!」
* * *
スマホでギルドの会員ページにアクセスして、クエスト待機中のメンバーを確認。
【チームイクト・クエスト状況】
勇者イクト……研修中。
聖女ミンティア……クエスト可。
賢者マリア……クエスト可。
格闘家アイラ……学園クエスト中。
エルフ剣士アズサ……クエスト可。
神官エリス……占星術の任務中。
猫耳メイドミーコ……喫茶店で就業中。
(チームイクトのメインメンバーでクエスト可能なのは、私とマリアさん、アズサさんの3人か。あと1人メンバーを揃えないと、バトルに不安があるな……。いつも手伝ってもらってるレインちゃんも研修中だし。勇者コースのメンバーに頼れないだけで、こんなに大変だなんて)
クエスト可とされているマリアとアズサのスケジュールを抑えて、他のチームのギルドページへと移動。誰か適任は……とリストを調べていると、生徒会ギルドで共に戦った魔法剣士のキオがクエスト可とのこと。
(良かった……キオちゃんにクエスト参加をお願いして、と)
「ミルルさん、メンバー揃えられたよ。私以外に、賢者、エルフ剣士、魔法剣士のメンバーになるけど」
「微力ながら、私もサポートメンバーとして参加します! 村の黒魔法使いとして」
「村に詳しい人が参加してくれるなら、心強いよ。ミルルさんも含めると5人体制だね。うん、じゃあこのメンバーで正式に申請するよ」
ミルルから依頼データを受け取り、正式にクエスト受理。
【緊急クエスト・呪いの解除とモンスターの討伐】
クエスト概要:異界とのゲートを管理する魔法石が保管されている山間の村に呪いがかけられた。さらに、ゲートからは絶え間なく魔物が襲来してくるという。長老が作った結界の効果が切れる前に、モンスターを討伐しながら呪い解きの儀式を遂行せよ。
出没モンスター:ネズミ型モンスター、ゴブリン、ダークプルプル、レッドコウモリなど。
ギルドからのアドバイス:バトルと呪い解除の同時進行という難解クエスト。上手くチームメンバーのチカラを分散して、MP切れに注意しながら戦おう。制限なく襲いかかる魔物の群れは、全体魔法攻撃などで一掃したいものだ。万が一のために、回復アイテムも忘れずに!
(メンバー構成)
メンバー1:聖女ミンティア
メンバー2:賢者マリア
メンバー3:エルフ剣士アズサ
メンバー4:魔法剣士キオ
依頼者兼サポートメンバー:黒魔法使いミルル
初めての参加者がいるため、ステータスデータは計測中です。1時間後にはデータが公開されます。しばらくお待ちください。
* * *
「どうでしたか? クエスト受理は……」
「大丈夫、ちゃんと受理されたよ。食事が終わったら、聖女館のゲートから村近隣のゲートに転移。現地で他のメンバーと落ち合ってクエスト開始しよう」
私はBLTサンドを、ミルルはチーズオムライスを、味わいながらバトルへの英気を養う。
このクエスト、絶対に成功させてみせる……聖女として、そしてイクト君のパートナーとして!