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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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箱庭の聖女編2:鏡の向こうの誰か


「ふぁあ……今日は、久しぶりの休みだし寝坊しちゃった。もう10時か……早く起きないとお昼になっちゃう」


 眠い目を擦りながら、自室のベッドの中から腕を伸ばし、サイドテーブルの目覚まし時計を確認。四角いデジタルタイプの目覚ましは、10時過ぎを表示していた。疲れが溜まっているのだろうか……。

 白いベッドやサイドテーブルなどの家具、ラベンダーカラーの布団やカーテン、ある程度の甘さを感じる女の子らしい部屋。ここが、現在の私の部屋……聖女館での自室である。


 お手洗いを済ませてきちんと手を洗い、洗面で朝の身支度を一通り行う。ミント味の歯磨き粉でスッキリと歯を磨いたら、泡だてた洗顔料で顔を優しく洗い……タオルで水気を拭き取る。


 冷蔵庫の中から、小さなペットボトルの水を取り出して、水分を体内にチャージしつつ、ドレッサーの前に座る。すると、いつもの見慣れたミントカラーの少女が鏡に映った。


「おはよう、ミンティア。今日もイクト君のパートナーとして、相応しくなるように自分磨きしようね。あなたは聖女なんだから」


 自分で自分に話しかけるというのも不思議な感覚だが、これは聖女コースで教えられている自己啓発のひとつだ。

 他にも、鏡を見ながら『自分はすごく綺麗』だとか、自信を持てるようになるセリフを与える方法もあるらしい。

 だけど、いまいち自分には合わなかったので、このやり方に落ち着いた。


 つまり、私はイクト君に合う聖女になりたいわけで、絶世の美女や最高級の才能を目指しているわけではないのだ。

 大切なのは、あくまでも勇者イクトに気に入られること。


 薔薇の香りの化粧水シリーズで、保湿をしっかりと。パシャパシャと顔全体に染み込む化粧水、ほんのりと香る大人びた香りは、自分へのご褒美だ。


「髪の毛、だいぶ伸びたなぁ。そろそろ切らないと。次もショートボブになるようにカットしてもらって……イクト君が一番好きな髪型に」


 サラサラのミントカラーの髪を櫛で丁寧に梳かしていく。イクト君のアドバイスで長い髪を切ってからは、ずっとこの長さを維持している。

 たとえ、この髪型が彼の初恋の人であるアオイさんの髪型に、似たものであっても……。


(私ってやっぱりアオイさんの代わりなのかな……。昨日、他の聖女が話していたようにこの関係は、どこか腑に落ちないものなのだろうか。けど、イクト君はいつも優しいし……信じていいんだよね)


 ふと、暗い気持ちが心の中でふつふつと芽生える。これではいけない、聖女はギルドメンバーの希望にならなくてはいけないのだ。落ち込んでしまっては、役割を果たせなくなる。


「ミンティア、あなたは聖女でしょう! いつも、心正しく、優しくいなきゃ」


 再び、鏡に向かって自分自身に話しかける。身だしなみ程度のナチュラルに見えるメイクを施していく。


 花柄の化粧ポーチから、道具を取り出して、まずは日焼け止め入りの下地を塗る。


 うっすらと、肌にベールをかけるようにリキッドファンデーションを伸ばす。プレストパウダーは、きめ細かく見せるために大きな筆で取り、ケバくならないように……極めてナチュラルを目指す。


 少しだけ鼻筋を立てるようにシェーディングとハイライトを入れて、眉毛は馴染みやすい色で書き足して。


 二重幅を柔らかくアピールするモーブピンクのアイシャドウと、馴染みやすいアイライン。

 流行の涙袋メイクは、わざとらしくならないように、淡いカラーでほんの少しだけ取り入れる。ビューラーでパッチリとまつげをカールさせたら、マスカラをサッとひと塗り。

 チークは、透明感のあるラベンダーピンクをほんのりと……骨格も美しく。

 保湿リップでケアしたら、紅筆で唇の輪郭を取ってピンクベージュの口紅を薄く塗る。透明のうるツヤグロスを、少しだけ伸ばしてみずみずしい口もとに。


「ふぅ……メイクはこんな感じかな? あとは、聖女館の制服に着替えて……」


 白いタンスから、淡い水色のDカップブラジャーを取り出してバストを整える。乙女としての身だしなみのために、ショーツとセットのものだ。

 白いシャツに水色のリボンを結び、紺色スカート、黒いニーハイを履いて、清楚感溢れる白いジャケットを羽織る。


 最後の仕上げに、バラの香りのライトコロンをシュッとボディにかけて……。


「よしっ聖女ミンティア完成! 今日は、オフだけど……午後から魔法のスキル訓練に行こう!」



 * * *



 チケット制の魔法スキル講座は、好きな時に授業を受けられるので気に入っている。忙しい聖女でも習い事が出来るため、好評だ。スキル講座が始まるまでの間に、食事を済ませることに。少しヒールが高めの黒い靴を鳴らして、港町を颯爽と歩く。


「見て、あの子聖女館の制服着てる……。新しい聖女さんかなぁ……可愛い!」

「やっぱり聖女はレベル高いね……私もダイエットしようかな」


 通りすがりの人たちの目線や、噂話にもだいぶ慣れた。冒険者職の中でもひときわ目立つ聖女であることをアピールするこの制服……多少注目されるのは避けられない。


 聖女という職業は、正確には冒険者とは異なるカテゴリーだという。神殿などに仕える巫女のような役割を果たすのが本来の姿だ。


 だが、初代勇者イクトスが聖女と呼ばれる女性をパートナーとして迎えて、世界を平和に導いたことから、いつしか聖女も冒険者職のひとつとして考えられるようになった。


 全国からプロ聖女が集められている聖女館は、パートナー持ちとフリーの聖女の2種類が所属している。私には、パートナーとなるイクト君がいるけれどフリーの人は常に気苦労が絶えないらしい。


(私はイクト君とパートナー契約を結んでいるからいいけど、毎回相手が変わる人は大変だろうな。気分を変えて何か美味しいものを食べよう)



 選んだお店は魔法教室が行われているビルの一階、オシャレなカフェだ。蜂蜜たっぷりのミルクコーヒーが絶品で、すごく美味しいと評判となっている。


「いらっしゃいませ! 今の時間帯はお得なランチを実施しております」


 カウンターの前でメニューを確認すると、お得なランチセットAは海老とトマトクリームパスタのサラダセット。ドリンクとケーキも付いていて、値段も1,000円と手頃。


(美味しそう……これにしよう。あっ……でも今の私、白い制服を着てるんだった。赤いソースが飛び跳ねたら、着替える時間もないし、ダメか……)


 思わず、お得なランチセットAを注文しそうになったが、聖女館の白い制服をパスタの赤いソースで汚してしまうおそれがあるため、仕方なく諦める。

 幸いランチセットBは、ソースが飛ぶ心配のないBLTサンドのセットだ。こちらも美味しそうだし、今回はこれでいいだろう。


「すみません、BLTサンドのセットでドリンクはハニーミルク味のアイスコーヒー、ケーキは桃のミニケーキで……」

「奥のほうの席が空いております! ごゆっくりどうぞ」


 店内はすでに人で賑わっていて、冒険者らしき装備のグループもチラホラ。何となく、視線が気になるもののいつものことだと無視して、席に着く。


「あっあの……聖女館の方ですよね。お話しがあるんですが……」


 声をかけてきたのは、私よりも年下に見える魔法使いファッションの……気弱そうな可愛らしい少女だった。


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