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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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第1章 9:キャラクタークエスト実装へ


 地球人もアバター体として異世界の魔法が学べるアカデミーが正式開校して、1週間が経った。一度は他の魔法学校を卒業した生徒も多いはずだが、さらにワンランク上の冒険に必要なスキルや魔法などを学ぶことが出来る。


 さらに、ギルドクエストのサポート体制も強化され、【異世界学園恋愛奇譚】という新たな恋愛シミュレーションクエストも実装。


 恋愛シミュレーションモード制作のため、デートデータを提供しつつ学園生活を楽しむ……というのがコンセプトだ。


 そんなこんなで、オレの初級デートクエストの相手は、聖女ミンティア、女勇者レイン、魔法少女なむらwithアイラに決まったのだが。


「ところでさ、エステル。そろそろ、ログアウトして一旦地球に戻らなきゃいけないんだけど。結局、まだ攻略ルートって始まらないのか?」


 地球に帰らなくてはいけないある日の夕方、賃貸住宅で一緒に暮らす担当守護天使エステルに肝心の攻略ルートについて訊ねてみる。


「ううん、スケジュール調整して準備は出来ているよ。ただ、攻略対象のキャラクタークエストをクリアしてからの方が絆が深まりやすいから……。あっ。ちょうどデータのダウンロード準備が出来たみたいだね」


 エステルが守護天使用のタブレットパソコンを片手に、オレの攻略対象のデータを整理し始める。


「最初のキャラクタークエストは、聖女ミンティアちゃん。異世界に記録されたヒロインそれぞれの記憶の断片を、データ化したものがキャラクタークエストになるよ! スマホからゲームモードで閲覧出来るから、地球でプレイしてクリアしたら異世界でデートしてね」


 まるで、学校の宿題か何かのようなノリで、キャラクタークエストクリアを言い渡される。


「えっと、つまりミンティアが主人公の物語をスマホゲームのクエストとしてプレイして……。クリアしたら、ミンティアとデート出来るってことかな?」

「うん。分かりやすく言えば、そういうことになるね。やっぱり、恋愛対象についていろいろ知っておいた方が、デートもしやすいだろうし。ちゃんとミンティアちゃん本人の許可も取っているから、プライバシーに触れるような内容は無いはずだよ」


 ピピピッとスマホからの通知音が鳴ると、新しいデータがありますの文字。だが、オレ自身のアバターの活動限界が近いため、このデータは地球で読み込むことになるだろう。


 聖女ミンティアは、この異世界におけるオレの正式なパートナーだ。状態異常回復スキルと召喚能力を持ち、冒険に欠かせない仲間。

 それと同時に、将来はもしかすると結婚の可能性も……と、婚約式まで交わした相手。


 結局、地球からの転生者は皆地球へと帰還できることになったため、異世界での婚約話は有耶無耶になってしまったが。


「初めてのキャラクタークエストは聖女ミンティアか。この異世界では健康で完璧な聖女って感じだったけど、地球では、ツライ闘病生活を送る少女だ。幸い、手術に成功して回復に向かっているけど……そのミンティアの私生活を見ちゃうなんて、なんだか気が引けるな。きっと、オレの知らないところで苦悩とかしただろうし」


 聖女ミンティアの地球での生活は、かなりツライものだったはず。行柄ミチアという病弱な少女の理想のアバターが、聖女ミンティア。

 アバター体のミンティアと地球人ミチアが異世界でも地球でも変わらないところは、あの儚げな優しい笑顔だろうか?


 ようやく回復してきて、再びスマホ異世界へと遊びに来られるようになったばかり。

 最近ではミチアの方から将来の計画を楽しそうに語っていたし、どんどん良い方に向かっているのは理解しているつもりだけど。彼女の知られざる物語を見てしまっても良いのか……悩むところだ。


「……そうだね。でも、キャラクタークエストは物語形式で、公開しても大丈夫な内容に纏められているから。イクト君が罪悪感を持たなくても大丈夫だよ。案外ミチアちゃんは、悩みとか言わないタイプの子だし。ミチアちゃんのことを理解する良い機会なんじゃないかな?」

「……うん。オレ自身がミチアを理解することから逃げちゃいけないよな。この間の10連休も萌子がずっと行柄家に泊まりっぱなしで、オレはミチアと1度しか会わなかったし」


 正確には、ミチアの体調が万全で尚且つオレが会える日が1日しかなかっただけだ。萌子いわく、『女の子は好きな相手とはキレイな姿で会いたいから、空気を読んで』と言われたっけ。

 もっと深く考えれば、体調不良の姿をオレに見せないように必死なのか。


 まぁ萌子本人は、ミチアの兄でありこのスマホRPGの制作者にして社長の行柄リゲル氏にかなり夢中に見える。いつもキレイな姿で……という考えは、萌子の持論が入っているのかも知れない。


「分かったよ。ミチア本人の許可が出ているなら、きっとオレに知って欲しい内容なんだと思う。じゃあ、ログアウトして地球へと戻るけど……あれ? ククリは? リスモードでお昼寝中かな?」


 もう1人の同居人である縁結びの女神ククリは、平常時はリス型精霊というキュートな姿だ。

 最近は学校に入学した関係でリス形態ではなく、人間型の美少女モードで活動していたけど。やはり活動限界があるらしく。リス状態でスヤスヤ眠らないとパワーが全快しないらしい。


 ククリに挨拶をするか否かで迷っていると、ガサゴソとロフト部分から物音がしてリスモードのククリがぴょっこり姿を現した。ふわふわの尻尾をくるりと回す姿は、無邪気な小動物そのもので相変わらず愛くるしい。


「ややっ! イクトさん、そろそろお帰りですか? このククリ、エステルさんと共にイクトさんの留守を一心不乱に守り抜きますのでご安心を。ハーレム勇者認定協会と縁結びの女神ククリ姫の名にかけてッ!」


 気のせいかもしれないが、ククリはリス型状態の時の方が妙な気合いが入っている気がする。身体が小さくなっている分、気合いで物事を乗り切っているのだろう。


「お、おう。一心不乱に留守を守るって、どんなシチュエーションなんだか想像つかないけど。せっかくだし、お願いするよ。エステルもよろしくな」

「あはは。ククリちゃんと一緒だし、心配しないでね。何かあったら、スマホアプリ内から大まかな報告が通達されるからっ」


 スマホのログアウトボタンをクリックすると、次第にエステルとククリの姿がぼやけてきて……気がつくと東京都立川市にある自宅の居間で目を覚ました。

 見慣れたテーブルセット、よく体に馴染むソファ、ほんのり香るシトラス系のアロマ。


「帰ってきたのか……。不思議だよな。たった1時間ゲームにログインしていただけなのに、異世界では1週間過ごせるんだから」


 久しぶりの本格的な異世界生活だったため、まだ夢と現実の区別がつかないような不思議な感覚だ。


 ふとスマホ画面を確認すると、お知らせ欄に【キャラクタークエスト実装の案内】が。


 迷わずスマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』を立ち上げて、Wi-Fiを使いダウンロードを開始。


 そして間もなく映し出されたのは、ミントカラーの髪色を持つ美しい聖女ミンティアの姿。


 続けて表示される『キャラクタークエスト聖女ミンティア編【箱庭の聖女】をスタートしますか?』の問いに迷わずイエスボタンをクリックする。


 知られざる聖女の物語が……幕を開けようとしていた。


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