第1章 7:彼女に似合うぬいぐるみ
【無料11連ガチャのお知らせ】
異世界スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』を遊んでいただき誠にありがとうございます。
新コンテンツ『異世界学園恋愛奇譚』の実装を記念して、無料11連ガチャを開催することになりました。全ユーザー参加可能となっておりますので、是非この機会に新しい装備をお試しください。
また、デートファッション系新装備の通常ガチャも同時開催致します。
【ピックアップ装備】
星5アルティメットペンダント
性能:HP30パーセント上昇、MP20パーセント上昇、水属性防御力アップ。
男女兼用のステータス上昇装備。お洒落な見た目で、どのファッションにも合わせやすい。水属性に強く、夏シーズン限定モンスターとのバトルに最適。
星5精霊の浴衣・各色(女性用)
星5時雨の浴衣・各色(男性用)
性能:魔力50パーセント上昇、各種呪い緩和効果有り。
お祭りクエストに馴染みやすい浴衣装備も、これからのシーズンにオススメ。男女ペアで浴衣を装備すれば、クエスト成功率も上がるかも?
(排出率一覧)
星5レア装備:11連中ひとつ確定。
星4装備:11連中ふたつ確定。
星3装備:30パーセント以上の割合で提供。
星5レア装備(全装備新作)
プレミアムジャケット(男性用)
夢のリリカルスカート(女性用)
博学の眼鏡 (アクセサリー)
エーテルヘアバンド(頭装備)
漢気のハチガネ・お祭り(頭装備)
精霊の浴衣・各色(女性用)
時雨の浴衣・各色(男性用)
アルティメットペンダント(アクセサリー)
綺羅星のワンピース(女性用)
シティバトルジャケット(男性用)
星屑のふんわりストール(アクセサリー)
微睡みのバングル(アクセサリー)
黎明のピアス(アクセサリー)
夜明けの星ペンダント(アクセサリー)
藤の花ブローチ(アクセサリー)
星4装備
通常ファッション系装備各種
星3装備
通常ファッション系装備各種
今後とも『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』をよろしくお願いします。
* * *
異世界アカデミーの本格開放記念として、無料11連ガチャが行われることになった。今回の無料11連ガチャの内容は、恋愛シミュレーションゲームのモニタークエストに必要となるデート服系装備だ。
一見すると、ごく普通のデート服に見えるオシャレファッションだが、守備力に優れておりバトル向き。
夏のお祭りを意識した浴衣装備も実装されて、これからの時期のデートプラン向けである。
「この藤の花ブローチって、和風テイストで珍しいね。小物に付けられるんだ、欲しいかなぁ。浴衣は夏祭りに向けた新装備だって」
「相変わらず、女性向けの装備が多いけど。まぁ通常ガチャも新しく実装されるみたいだし、そこで調達してもいいかっ」
この手のガチャは、何故か女性の装備品が多いため、男性プレイヤーはレア装備の調達場所が限られる傾向にある。
それに、女性用装備が男性プレイヤーに当たってしまうことも。その辺りは、うまくギルドメンバー内でシェアするということだろうか。
「必ずひとつは星5レア装備が貰えるなんて、景気が良いですね。もし男性向け装備が当たったらイクトさんにあげますよ」
「本当か? サンキュー、マリア」
「みゃあ、今回はメイド服の追加がないですにゃ。もしかすると、私も普通の服を装備しなきゃ行けないですかにゃ」
「ふふっ。ミーコちゃんもたまにはメイドの仕事を忘れる良い機会なんじゃない?」
ガチャ会場は、ダーツ魔法学園の裏山にある洞窟だ。さっそく、会場に向かいながら、ガチャについて語るオレ達ギルドメンバー。
正直言って、通常時はそれほど当たり率が良くないことで知られる渋めのガチャだ。今回の星5確定装備に、これからのクエストクリア率がかかっていると言っていいだろう。
「いくつかの洞窟に分かれてますね。私は向こうの白魔法系の列に並ばないと……」
「みゃあ。私もケモ耳系の列に行って来ますにゃ」
20分ほど歩き、ガチャ会場のある洞窟前に到着。通常時は鬱蒼としたムード漂うバトル用洞窟だが、ガチャ待ちの学生達でごった返しているせいか、賑やかな雰囲気だ。
「皆さーん、各ガチャ台の前に一列で並んでくださーい」
「プルー、押さないでくださいプルー」
運営のアルバイトらしきモンスターのふわふわタヌキや雑魚モンスタープルプルの姿が数匹。空を飛びながら、もしくは飛び跳ねながら、あちこちに気を配り列の整理で忙しそうだ。
「おっ。もう、人だかりが出来てるっ。オレ達も並ぼう……一旦、番号ずつに分かれて……オレとミンティアは結構近い列だな。あれっマリア達は、隣の洞窟になっちゃったか……」
「そうみたいだね。あっレインちゃんだっ。久しぶりっ」
ふと、行列の中で顔見知りと再会するミンティア。オレとミンティア……つまり行柄ミチアの家は隣町だし、萌子が寄宿舎から帰宅するとしょっちゅう行柄家に通い詰めているから、あまり距離感を感じないが。
退院して2ヶ月未満のミチアは外出がほとんど出来ないため、スマホ異世界が他人との繋がりとなる場所だ。
そういう事情で、今回のイベントから本格復帰のミンティアは、レインと会うのも久しぶりだろう。
「あっイクト君ミーティング終わったんだ。ミンティアちゃんも、良かった! スマホ異世界に復帰出来たんだね。身体の具合は大丈夫なの?」
「すごく、順調に回復してるよ。まだ、外出はそんなに出来ないけど……高卒認定試験を受けて、来年には絵やデザインの勉強のために大学生になりたいなぁって」
「大学に行くためにも、スマホ異世界はリハビリに丁度いいね。やっぱり、美大を受けるの?」
今後の展望を明るく語るミンティアは、希望に満ち溢れていて以前の気弱な行柄ミチアではなかった。高卒認定を受けたいという話も、美大に行きたいという話も本人から聞いてはいたものの、もう少し遠い将来的な話だと思っていた。
「うん。出来れば、美大に通いながら一人で暮らして……。少しずつでも、お兄ちゃんから独立していきたいなぁって。本当は、もっと早く出て行った方がいいんだろうけど」
「そっかぁ。うまくいけば来年から一人暮らしだねっ。じゃあ私のガチャの列向こうだから、またね」
(ミチア、お兄さんとの同居を解消して一人暮らしをする気だったのか。きっと、ミチアはオレが想像している以上に強くなっているんだ)
だが、ミチアがなぜ優しいはずの兄の元を、一刻も早く離れて独立を目指しているのか……。その事情の裏に、まさか萌子と行柄社長の交際疑惑が関係しているとは、鈍いオレはそこまで気が回らなかった。
ガチャの行列から……ユーザー間の噂話が聞こえてくる。
『ねえ、今回のガチャのアクセサリーってさぁ。行柄社長のカノジョの趣味に合わせたらしいよ~』
『へぇ……あの例の噂のカノジョさんかぁ。地下アイドルのお姉さんで、弟はハーレム勇者のぉ……。萌子たんだっけぇ。やっぱぁ、一回りも年下と付き合ってると、カノジョの趣味に合わせちゃうって感じ?』
『あははっ。まぁ、可愛い装備が増える分には良いけどねぇ』
(本格的に行柄社長と萌子は噂になってるな。まさか、ガチャ装備の趣味まで萌子に合わせているとは……行柄社長は、そんなんで大丈夫だろうか)
『今回の10連休も、行柄社長って萌子たんと自宅でべったりしてたらしいよ。うち、行柄社長んちの近所なんだけど、目撃情報が凄く多くて……高級スーパー【此の国屋】で2人が手を繋ぎながら夕飯の買い物してたとかぁ。うわべは病弱な妹の看病のために、萌子たんが泊りがけで来てるって設定らしいけどぉ』
『え~それって、すでに半同棲じゃん? しかも、憧れの高級スーパー【此の国屋】で夕食の買い物って……。行柄社長も、カノジョさん相手に頑張ってるよねぇ。それとも、もう婚約してるのかなぁ?』
(確かに今年の10連休、萌子はミチアの看病という建前で行柄家に泊まっていた。だけど、それはあくまでもミチアのためであって、別に行柄社長とイチャつくためではない……ハズ。しかも超有名高級スーパー此の国屋に通ってたとは……萌子のやつ、ちょっと行柄社長に甘えすぎてるんじゃないか?)
ガチャの行列に並んでいる間も、次々と他のユーザーから自然と流れてくる姉萌子と行柄社長のイチャラブ情報。
そして、顔を赤くして俯き加減に他のユーザーから顔を背けるミンティア。他のユーザーは、聖女ミンティアが行柄社長の妹ミチアだって知らないハズだから、そんなに気にしなくてもいいのに。
「一刻も早く、頑張ってあの家から独立しないと……。お兄ちゃんのようやく来た恋の予感を、成就させてあげないと」
「あの、ミンティア。大丈夫? 萌子が何か迷惑をかけてるとか?」
「えっ……ううん。萌子ちゃんは、家事とか買い物とかよくやってくれてるよ。萌子ちゃんが来てるから奮発してお兄ちゃんが買ってくれたうなぎも、美味しかったし。お兄ちゃんって、私の看病の影響でずっと恋人いなかったから、幸せになって欲しくて。私、頑張ってあのマンションを出て行くから……」
「えっ? まさか、あの2人が結婚する前に自立しようと……」
図星なのか、ミンティアは決意を表明するかのごとく、オレの目を真っ直ぐ見つめて将来の目標を語り始める。
しかも聖女ミンティアとしてではなく、アバター体の中に宿る行柄ミチアとして将来を見据えた計画だった。
「萌子ちゃんさえ良ければ、このままお兄ちゃんとお付き合いして結婚して欲しいなって。私、うなぎを食べてからは不思議と自立心が湧いてきて、車椅子無しでも歩けるようになったの。だから、大学に入る頃には、家を出て行こうと思って」
「そうか。萌子は、ミチアが一緒にいても気にせず結婚生活出来るタイプだから、そんなに焦らなくても……って思っちゃうけど。まぁうなぎがきっかけで、体調が良くなったならいいじゃないか。体力が無いだけで、もともと歩けるわけだから」
まさか、退院したばかりなのに、兄の幸せを願って家を出て行くことを考えているとは思いもしなかった。
お兄さんの方は、ずっとミチアに一緒にいて欲しいかも知れないけれど。萌子だって、ミチアがいることが当たり前のように感じているようだし。
だが、ミチアが一人暮らしを目標にすることで健康になっていくなら、それもいいのだろう。
「うん。私、頑張って絵の世界を学んで。美大に通いながら運転免許取って、女子力の高そうなボックス型の軽自動車をローンで購入して。広告とかデザインのお仕事を目指すことにしたんだ!」
「そっか。好きなことを仕事にするのって、素敵なことだと思うよ。なんだかミチアが遠い世界の人になって行くみたいだな」
そうこうしているうちに、ようやく回ってきた次のガチャ……ついにオレ達が無料11連ガチャを引く番だ。カラコロと、透明なガチャボックスの中で装備を魔法で閉じ込めた小さなキューブが揺れている。
「取り敢えず1つは星5が確定しているわけだけど、一応祈るか。レア来い、レア来いっ。とりゃっ」
ガラガラガラガラ……カシャーン! と、煌びやかな演出。虹色に輝くキューブと他にもコロコロアイテムキューブが飛び出してきて……ついに無料11連ガチャの中身が判明!
星5確定:漢気のハチガネ・お祭り
星4確定:クール系ミサンガ
星4確定:勝負のフンドシ・粋
星4:江戸っ子浴衣・男性用
星3:町人の下駄
星4:ミニマリストの上着
星3:ふわふわクマさんチャーム(小)
星3:ふわふわ猫さんチャーム(小)
星3:ふわふわ子犬さんチャーム(小)
星3:ふわふわリスさんチャーム(小)
星5:ふわふわ猫さんチャーム(大)
『ありがとうございました! 同時開催の通常ガチャも是非ご利用下さい』
「……! こ、これはっ。ほとんどふわふわチャーム各種じゃないか? 無茶苦茶可愛いけど、ラブリー過ぎてどう見てもオレが身につけるアイテムじゃないぞ。しかも、星5レアがハチガネって……他も和風だし、お祭り強制参加ってこと?」
「ふふっ。ガチャって結構そういうところあるよね。私はそのふわふわチャームシリーズ欲しかったけど、1つも当たらなかったの。小さなクマさんのチャームが欲しかったんだけどね」
オレにとっては可愛い過ぎて使いこなせないアイテムだが、ミンティアはふわふわクマさんチャーム(小)が欲しかったみたいだ。
「えっ……? じゃあせっかくだし、このふわふわチャームのクマさん。ミンティアにあげるよ。オレが持つより、似合うだろうし」
「……! 本当にいいの? ありがとうイクト君。うわぁ……可愛いっ。さっそくカバンにつけるね」
ぬいぐるみ系チャームのプレゼントに、無邪気に喜ぶミンティア。すると、スマホからピコピコピーンっと明るい通知音が流れ始め……。
『おめでとうございます! 聖女ミンティアとデートフラグが立ちました。あと1人フラグが立つと、デートクエストに移行出来ます』
「えっ? 今のでフラグが……? えっと……ミンティア、なんか意外なところでデートが決まったけど。いいか?」
「うん、もちろん! 思ったよりフラグが立つのが早かったね。イクト君、私……まだ未熟な駆け出し者の聖女だけど。デートの相手として、よろしくっ」
差し出されたミンティアの白く細い手をキュッと握り返す。いつの間にか、最初のデートクエスト候補者が2人になった。規定では、3人デート候補者が確定するとクエストモードに移行だ。
デートクエストノーマルモード第一弾……候補者のあと1人は、一体誰になるのだろう?