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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
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第1章 5:初めてのフラグ構築


「萌子ちゃん! オレ、これから起業して行柄社長の会社に負けないくらい頑張るから、そしたらオレと付き合っ……」


 萌子が教室に入ってきた途端、やや興奮気味に萌子の手をガシッと握りしめて思いを語るマルス。このまま勢いに任せて、2人は再びスマホ異世界内で復縁するのだろうか。


 ピコピコピーン! ピコピコピーン!


「んっなんだこの音は? 警告っぽいサウンドだな」

「本当、みんなのスマホから鳴り響いているから結構大きな音に聞こえるね」


 思いつめたマルスが、決死の覚悟で萌子に告白しようとしたその瞬間……アプリから通知音が鳴り響き始めた。

 驚いてそれぞれスマホを確認するが、特にこれと言った異変はない。


『この恋愛シミュレーションゲームは、フラグを立てずに女の子たちに告白することは出来ません。ペナルティです! ご注意下さい』


「わっっびっくりした。また、BANされるのかと思ったよ。えっ……何だよこの注意メッセージ、告白するのに条件がいるのか」


 過去にアカウントBANされたのが、よっぽどショックなのか身体をびくんと震わせて告白を止めるマルス。自然と萌子の手も話す結果になり、解放された萌子をレインがやんわりと保護する。


「あはは……マルスったら、いくら恋愛シミュレーションモードだからって、いきなり告白なんか出来ないよ。焦りすぎ……萌子ちゃん男アレルギーは大丈夫だった?」

「う、うん。少し驚いたけれど……平気。そっか、マルスさんはこのゲームの攻略を早く進めようと頑張っているんだね。けど、突然の告白はNGみたい」


 レインと萌子は、マルスが恋愛シミュレーションモードの攻略に夢中になっているだけだと解釈したらしい。萌子への告白も本気の告白ではなく、あくまでもゲーム上のポイント集めか何かだと勘違いしているようだ。


「まぁ……そういうわけだから、取り敢えず落ち着こうマルス。なっ!」

「おっおう! あっ続々と人が来始めた……一応、静かにしているか」


 勇者コース出身者はそれほど数が多くないが、今回のアカデミーには多くの人が入学した様子。


「みなさん、お久しぶりね。またお会いできて嬉しいわ! ダーツ魔法学園講師の賢者ラナよ。当アカデミーでは、様々な地域に住む冒険者たちのスキル育成を行なって行く予定です。では、入学案内の5ページ目を開いてください……」


 真面目な賢者ラナ先生の高貴なオーラのおかげで、その後はフワついた雰囲気を回避できた。気がつけば、午前中の説明会は終了し……お昼の時間だ。


「うーん……久しぶりの異世界のホームルーム……なんだか緊張しちゃった! あぁでも、しばらくダーツ魔法学園の食堂使っていないから楽しみだなぁ」

「そうだねレインちゃん、どこで食べようか。イクトたちは、どうするの?」


 自然の流れで、みんなでランチをするムードになっているが……。


「マルス〜! 説明会終わった? 最前線ギルドの食事会があるから、早く来て〜。ごめんね、うちのマルスが迷惑かけちゃったかなぁ……早く回収しないとネッ」

「ツカサ! 引っ張るなよ! あぁイクトたちっまた明日なっ。いてて……」


 結局、マルスは最前線ギルドの仲間である高等白魔法使いのツカサさんに引っ張られて、教室から退室していった。

 ショートパンツからスラリと覗く美脚はアバター体とはいえ、とても男の人のものとは思えないほど美しい。相変わらず、ツカサさんは性別不詳である。


「じゃあ、私たちもランチにしようか? 行こう!」


 あまり、ツカサさんとマルスの関係を追求するつもりもないようで、レインが爽やかに食堂へとオレたちを双子の姉弟を連れ出す。萌子とマルスの修羅場を回避できたし、今回はこれでいいのだろう。



 * * *



 天気も良いし、勇者コース時代のようにテラス席で食事を摂ることに。

 ランチセットはトマトとモッツァレラチーズのパスタ、オニオンスープ、サラダ、もちもち食感のパンである。3人ともランチセットを注文し、のんびりと食事を開始。


「不思議だよなぁ。アバター体で食べているのに、きちんと味わえるんだから。このアバターの身体もきちんと生きているんだって再確認出来るよ」

「うん、それに自分が普段できないファッションにも挑戦しやすいしね。コスプレ感覚っていうのかな」

「ふふっ。ファンタジーの世界の服装を現実で出来るのなんてコスプレ会場くらいだものね」


 初めはたわいもない会話がメインだったが、やがて話題は恋バナへと移行する。


「このパスタ、オリーブオイルかけるとさらに美味しいね。今度自分でも作ってみようっと!」

「萌子ちゃん、以前にも増して女性らしくなったよね。やっぱり彼氏が出来ると、デートするしホルモンのバランスが良くなるのかなぁ?」


 何気なく、だが鋭い質問をそれとなく始めるレイン。


「えっ……? 彼氏って、私の通う寄宿舎って女子校だから男性と会う場所なんて……」

「もうっ! 隠さなくてもいいんだよ。行柄社長とお付き合いしてるんでしょう? 噂凄いよ……萌子ちゃん!」


(何ィ? 噂が凄いだって? そういえば、マルスも行柄社長と萌子の交際疑惑を話していたし、なんだかオレら家族の知らないところで萌子は有名になっている?)


「えっと、レイン噂って具体的にはどの辺りで?」

「ああ、この攻略掲示板とか。【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ・総合攻略スレ290】にも書いてあるし、『【運営を許すな!】行柄リゲルアンチ』あっこれは行柄社長のアンチスレだったわ」


 なんとなく不吉なタイトルのアンチスレも気になりつつ、攻略サイトの掲示板をスマホで覗く。いくつかある話題の中から、雑談系を見てみると……。



【スマホRPG蒼穹のエターナルブレイクシリーズ雑談170】


 0029 ゲーオタ@スマホ異世界

 行柄社長って、地下アイドル【アイラなむら】のアイラ姉こと女勇者の萌子たんと交際中なんでしょ?

 何かのはずみで問題になったら、このゲームってサ終すんじゃね。


 0032 ゲーオタ@スマホ異世界

 >0029

 マジかー。アイラたそが無事なら別にいいけど、Yukie社長の熱愛やら私生活でサ終はちょっとなー。

 アイラ姉の萌子って可愛い? アイラたそに似てるとか。


 0046 会長職は永遠です

 >0032

 萌子さんは【魔王イケメンコンテスト最終候補者イクトきゅん】の双子の姉でもあるからな。

 普通に見てイクトきゅんは女体化しても可愛いし、萌子さんの可愛さで証明されたと言っていいだろう。

 あと行柄社長の好みのタイプなんだろうね。


 0167 ゲーオタ@スマホ異世界

 >0032

 ライブ会場で本物見たことあるけど、イクトきゅんがセミロングのウィッグ装備して女装したら萌子の容姿だよ。

 可愛いけどアイラたそには、そんなに似てない。


 0345 ゲーオタ@スマホ異世界

 >0029

 仕事かなんかの関係だろうし、休日の昼間にJKとその辺一緒にいるだけなら、普通は問題扱いされないだろ。

 法に触れるようなことをやらなきゃ大丈夫なんじゃね。


 0466 ゲーオタ@スマホ異世界

 案外、萌子たんはこのゲームの宣伝係としてドル売りする準備のために行柄とつるんでるとか?


 0522 キノコの着ぐるみ中の人

 イクトきゅん似の萌子たんがミニスカコスプレ姿で宣伝係に就任したら、記念にガチャ天井まで回すわ。


 0533 SSR先輩勇者さん

 真面目な話、萌子さんはスマホ異世界内で婚約破棄してるし、しばらくフリーの方がいいと思う。

 あと、元カレさんが可哀想。


 0613 火星の国の大剣使い

 行柄社長を許すなッッ。

 イケメンバイト君と両思いになりかけていた萌子たんをたぶらかした行柄を許すなッッ。

 大事な課金プレイヤーをアカウントBAN後、しれっと萌子たんにちょっかい出している行柄を許すなッ!


 0689 ハイパー聖女のお兄様

 >0613

 垢バン野郎乙。

 マジレスすると、行柄社長には病弱な超美少女の妹がいて萌子さんはその友人。ただの家族ぐるみの付き合いだよ。

 まぁ行柄社長はイケメンだし、将来的に2人が結婚しても不思議ではないけどね。


 0744 通りすがりの白キツネさん

 でも、萌子の生放送デビューはあるんじゃない? むしろその方が、行柄社長との変な噂も無くなるだろうから。アイラなむらの敏腕マネの戦略勝ち。


 0753 ゲーオタ@スマホ異世界

 アイラたそは、なむらちゃんとはこのままコンビ解消しちゃうのかなぁ〜。


 0809 ゲーオタ@スマホ異世界

 なむらたんはゴスロリドールのイメージガールもやってるし。そっちがだいぶ忙しいんだよ。アイラたそは保身のためにも姉の萌子と組まないと、今後の芸能生命が危ういんでしょ。


 0810 猫耳メイド見回り中

 いつの間にか、アイラなむらの掲示板になってきてるにゃ。信者は移動してにゃん!



「ほどほど荒れてるな。このゲームの掲示板。でもまぁ課金ゲームの書き込みなんてこんなもんだろう。アイラなむらの信者も、姉が交際する分には気にしていないみたいだし。オレにそっくりって噂は、まぁ否定出来ないし……」

「そ、そんな……こんな風にリゲルさんが叩かれるなんて。あのね……リゲルさんは確かに、カッコいいけど大人の男性だし。たまに会うのはミチアちゃんの関係で、同じ年頃の女の子の協力が必要だからであって……。それにリゲルさんは関西と東京の二つのオフィスを行ったり来たりしてるから、時間に余裕はないわけで……」


 顔を真っ赤にしながら、言い訳する萌子……。だが、知り合いの人たちのほとんどが行柄社長と苗字で呼ぶ中、萌子だけリゲルさん呼び。恋人だと勘違いされても、仕方がないだろう。


「えっ……本当にお付き合いしていないの? てっきりもう婚約しているのかと……」


 レインの中では2人の交際は、かなり本格的なものだと認識されていたようだ。


「そうだよ、オレも一度はきちんと聞いておこうと思っていたんだ。本当は、どんな感じの付き合いなんだ? 実はもうキスのひとつやふたつ……」


 この流れに便乗して、オレもこれまで聞きたかった萌子の謎を言及することに。すると、今まで見たことがないくらい顔を真っ赤にして、動揺し始める。


「ば、馬鹿なこと言わないでよ! リゲルさんは見た目がイケメンだから勘違いされやすいけど、すごく真面目な人なのよ! 君が高校を卒業するまで傷ひとつつけないよって、言ってくれたし。10連休のお泊まりの時も、みんなでザクロのサラダやうなぎを食べてみたいって言ったら、すぐに用意してくれたし」


「おいおい、向こうは無茶苦茶その気じゃないか? しかも、ザクロのサラダなんて季節的に珍しいもの……うなぎだって高いし。萌子は、かぐや姫かよ。まぁあの辺りは高級スーパーがあるから、冷凍か何かで用意できたのかも知れないけど」

「ミチアちゃんの看病を手伝っているから、お礼ですって。それに、ミチアちゃんはまだ体調的に外出が出来ないし……おうちでうなぎが食べられて嬉しいって。ゴールデンウィークの10連休はずっと帰省してたから、手伝いやすかったし」


 今は萌子が女子高生だから、プラトニックにデートしているだけなのかもしれないが。

 立川市のオレの実家とリゲルさんたちの住む隣町のマンションは、それなりに近く手伝いをするのにはちょうど良い距離感だ。


「一応忠告するけど、相手がミチアのお兄さんだからこういう感じで済んでいるわけで。相手が悪い大人の男性だったら、こうはいかないんだぞっ」

「萌子、リゲルさん以外の大人の男の人と会うつもりないもんっ。10連休のお泊まり中も、ちゃんと私用のお部屋を用意してくれて……すっっごく大切にしてくれたのよ。もうっイクトッたら、思い込みが激しいんだから……」


 いつもだったら『萌子、もう帰るっ』とプチヒステリーが続くところだが、ちょっと大人になりつつあるらしい。それにレインの手前、これ以上恥ずかしい姿を晒したくないのだろう。


「ご、ごめんね……なんか変な噂を本気にしちゃって。そうだよね、行柄社長もミチアちゃんが退院したばかりで大変だろうし……。体裁上、萌子ちゃんにお金を渡すわけにいかないから、そういうお礼の形なのかも。うなぎは体力がつくから、ミチアちゃんの回復にも良かったと思うよ。あはは……この話題はよそう……ねっ」


 話題を振ったことに責任を感じ始めたのか、レインの方から話題を打ち切る提案をし始めた。


「う、うん。レイン、気を遣わせちゃって悪いな……まぁこの雰囲気じゃ、萌子は今回の恋愛シミュレーションモードの攻略はパスするのかな?」

「男アレルギーだし、今はそういうの考えられない……。イクトやレインちゃんはどうするの?」


 行柄社長以外の男性と2人っきりになる気がないなら、萌子は恋愛シミュレーションモードなんか体験することないだろう。一応留学生という立場だし、普通に異世界で学園生活をエンジョイしてくれればいい。


 問題は、レインであるが……。


「……イクト君が参加するなら、私もしてみようかな……」


 ピコピコピーン!

 すると、先ほどのマルスの時とは少しトーンが高めの通知音が。


『おめでとうございます! 勇者イクト、攻略対象の女性とのフラグを1人確立しました! あと2人とフラグを立てることで、デートモードに移行できます』


「えっ……? フラグってこんな何気ないセリフで成立するのか? あと2人も……ギルドメンバーに頼むとか?」

「そ、そうだね。イクト君……えっと……私でよかったら、デートの相手よろしくね」


 照れながら手を差し出すレインは無茶苦茶可愛くって……オレはもちろんレインの手を握り返し、デートを承諾するのであった。


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