お花見編4:初めてのパートナークエスト
「未来からの預言者の正体はマルス君か。やはりというか、何というか。取り敢えずは、顔見知りの僕が説得できる様に動いてみよう」
「リゲルさん私も連れてって下さいっ協力します! マルスさん、何か事情があるのかも知れないけど。一応、元婚約者としては気になるし……」
「ありがとう、萌子さんが一緒なんて心強いよ」
未来からやって来た預言者2人組のうちの1人は、歳を重ねたマルス君の模様。雪山のゲートを開いてしまうと、将来地球に悪影響があるとのことだ。
真偽はともかくとして、このままの状態が続くと現代の地球は、お花見中止どころか寒波になってしまう。工事を中断して雪山のゲートを封鎖するか、預言者達に納得してもらって工事を続行するかの二者択一なのだろうが。
「普通に考えて、雪山のトンネル工事を中止にして別のゲートを作るのが妥当か? 未来の地球にモンスターが現れても困るからね。マルス君を落ち着かせたら、召喚研究所から工事中止の申請をしてみよう」
「そうですね……まずはマルスさんを止めないと」
アカデミーギルドの受付に行きリゲル・萌子の2人でパートナーとして組めるように申請。萌子さんは学生服から、冒険者衣装にチェンジ。本格的なクエストモードだ。
「召喚士リゲルさんと女勇者萌子さん、初めての組み合わせですね。緊急クエスト、受理しました。今のところ、預言者達は説得には応じない姿勢を貫いていますが……。いざとなったら、バトルになるかもしれませんよ」
受付嬢の話によると、結構な人数の冒険者がすでに預言者達と交戦したようだ。
「一応、話し合いという形で解決出来るように交渉してみます。延々と雪を降らせるなんておそらく預言者の女性の方は召喚精霊の類でしょうし」
「えっ……この人、精霊なんだ。じゃあ、マルスは精霊と結婚したってこと?」
どうやら萌子さんは女性の正体が、精霊であることに気がつかなかったようだ。
「通常は、寿命が激しく違う人間と精霊は結婚しないよ。多分、夫婦設定はタイムワープを円滑に行うためのフェイクだろうね」
「そうだったんだ……未来のピンチみたいだし、向こうも大変なのかも」
地球にも被害が及んでそうだし、拠点となる雪山がなくなっては生活しづらいであろう精霊の事情も、分かる気もする。けれど、現代に寒波が来ても困るわけで。
「何とかして、話し合いで終わらせたいけど。クエスト資料だと、バトル展開は避けられそうも無いね。これまでも、何組かの冒険者が説得に行って返り討ちにあってる。僕達のステータスを確認して、作戦を練ろう」
「はいっ。リゲルさんとクエストって初めて……どんなバランスになるんだろう?」
「よし、まずは僕のステータスからだっ。オープン!」
* * *
【メンバー1】
高等召喚士リゲル(星:ランク上限) サブ職業:格闘系魔法使い
レベル:70
HP:9999
MP:3333
攻撃武器種:銃・格闘武器・杖・飛び道具
装備武器:召喚拳銃(粛正リミット)
サブ装備:ギミックナックル(格闘)
その他:隠し飛び道具多数
装備防具:高等召喚士の正装上下・精霊守護のマント・魔法のマルチブーツ
装飾品:満月のピアス(MP倍増効果)・生命のペンダント(HP倍増効果)・復活のバングル(戦闘不能を一度だけ復活)
特殊スキル:粛正モード・銃装備時にステータス値上昇
呪文:召喚魔法各種・回復魔法・攻撃魔法
(備考)
ステータス上昇装備と特殊スキルの合わせ技で、HPとMPを盛りに盛っている。不正者を強制ログアウトさせるという命懸けの任務をこなすための秘策と言えるだろう。
一見すると最強に見えるが、リーチの長い武器相手だと不利なので要注意。特に大剣使いとは相性が悪いので、短いターンでバトル勝利を狙おう!
「凄い、このスマホゲームってHPもMPもこんなに上げることが出来たんですね。あれっでも大剣使いとは相性が悪いって……大剣使いと言えば、マルスさん……。大丈夫かな」
多少は腕に自信のあった萌子だが、リゲルの盛りまくり上昇ステータスには驚くしかない。装飾品やスキルにステータス増加効果のあるものを取り付けることで、ここまで変わるとは。
「一応、トレジャーハンター経由でしか手に入らない激レア装備を使って、盛れるだけステータスを盛ってるんだけど。今回は最も相性の悪いマルス君が相手だからね。しかも、未来からやって来てるそうだし。僕以上のステータスの可能性も……」
今回の任務、楽勝に感じていた萌子だが、未来人であるマルスに現代の盛りステータスが通じるかは不明だ。
まるで、スマホゲームのガチャで最強キャラをゲットしたつもりが、時間経過で他のキャラに抜かされてしまった時の絶望感を覚える萌子。
「えっ……じゃあ、どうしたら? せっかく、高ステータスのリゲルさんが今回の任務を引き受けてくれたのに。それにマルスさんの妹、アカリさんってトレジャーハンターなんです。現代ではまだ初心者でレベル1だったけど、もしかすると未来の世界ではかなりの上級トレジャーハンターになっているかも」
「そうか、トレジャーハンター経由で装備品でも未来人マルス君の方が上かも知れない。まぁ相性的に見ても長期バトルでは向こうが有利だから、なるべく短いターンでケリをつけるように頑張ろう」
味方の時は頼り甲斐のある勇者だったマルスも敵に回ると、一気に脅威の存在と化す。しかも、現代のマルスより格段に強い可能性が高い。
「気を取り直して、次は萌子さんのステータスを確認してみようか。僕とお揃いになっちゃうけど、ステータス上昇装備をひとつあげるよ。未来人マルス君とのバトルの可能性がある限りは、萌子さんもステータス盛っておかないとね」
「えっ? いいんですか、貴重な装備品を……嬉しいっ。じゃあ、早速」
ステータス爆盛り装備のひとつである【生命のペンダント】を萌子にプレゼント。何気にペアアクセサリーだが、ただの装備品としか捉えていない萌子は抵抗なく装備してくれた。
(自然の流れで、ペアアクセサリーを身につけることになろうとは。やっぱり、前世で夫婦だった因縁は凄いな。こうやってだんだんカップルっぽくなっていくのか)
装備品の中では比較的目立つ部類であろうペンダントを身につけて、ご満悦の萌子。
いきなり、リゲルと萌子がペアアクセサリーでマルスの前に現れたら交際を宣言しに来たように勘違いするかも知れない。
だが、萌子とのフラグをリゲルに与えてしまったのは他ならぬ未来のマルスである。
「じゃあ、HP上昇装備で生まれ変わった萌子さんのステータスを確認してみよう。ステータスオープン!」
【メンバー2】
女勇者萌子(異世界アカデミーモード) サブ職業:?
レベル:57
HP:5600
MP:330
攻撃武器種:剣各種・飛び道具
装備武器:アカデミーソード
サブ装備:護身用乙女の短剣
装備防具:女勇者のチュニック・乙女の胸当て・剣士のスカート・魔法の編み上げブーツ
装飾品:生命のペンダント(HP倍増効果)・ラブリーチャーム
呪文:全体回復魔法(中)・補助呪文
特殊スキル:二回連続行動可能
【備考】
身軽さを活かした二回連続行動が可能となったアカデミーモードの萌子。今回の任務では、サポート役に徹して回復やアイテム係として活躍するのがオススメ。
ステータス上昇装備のおかげで、HPも高くなり頼れる存在に。リーチのある剣にも強く、大剣使いとも対等に交戦出来るぞ。
「あれっ? 萌子さんは大剣使いとは対等に戦えるんだ。なんだか意外だけど、流石は女勇者と言ったところだね。しかも二回連続行動が出来るのか……アカデミーでの勉強の成果がもう出てるみたいだ」
「えへへ……昔はイクトと似たスキル構成だったけど、棲み分けるために工夫してたらこうなったんです。アカデミーでの授業は、まだ覚えることだらけだけど。双子とは言え、攻撃力ではイクトには敵わないから」
双子の勇者イクトとの差を、別の形で埋めるために努力しているようだ。こういうところが健気で可愛らしいんだと、リゲルは感心する。
「そっか……男女の体力差が出て来た代わりに、別のスキルを磨いたのか。あれっ? サブ職業が不明になってる……てっきり聖女として登録されているんだと思ってたけど」
ついうっかり、前世の記憶を頼りに萌子は聖女という設定を知っているかのような発言をしてしまう。失言だっただろうか。
「ああ、聖女と女勇者を兼任するのは難しいらしくて。サブ職業としては、今のところ登録出来ないみたい。もう少し女勇者のランクが上がったら、聖女に転職するかも。でも、私のもう1つの職業が聖女だなんてよく分かりましたね! やっぱりリゲルさんってスゴイ」
「えっ? いやぁ何ていうか、妹のミンティアも聖女だからね。オーラで萌子さんも聖女っぽいなぁなんて……ははは」
まさか、前世の彼女を知っているから聖女としての適性を知っていたとも言えず妹ミンティアの話題でうまく誤魔化す。
今日初めて知ったが特別職業のダブル使いは難しいらしく、女勇者と聖女のレベルをそれぞれ上げなくてはいけないようだ。この異世界の仕組みを理解しているつもりでいたが、まだまだ覚えることがありそうだ。
「じゃあ、行こうか。マルス君を説得しに、雪山のゲートへ」