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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
イベントクエスト-spring-
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お花見編3:未来からの来訪者


 久し振りに異世界へと転移してきたものの、行く先は限られていた。まずは状況把握のためにゲートの利用者に聞き込みしたい。だが、他のプレイヤーの大半は地球へと還ってしまいこの異世界に入り浸りではない。


 合理的に物事を運ぶには、この異世界に長期滞在をしている限られた地球人に会いに行くのが妥当なのだ。


(いろいろ、言い訳がましく理由を考えたけど。素直に萌子さんに会いに行くか……顔見知りの地球人で異世界に留学しているのなんて彼女くらいのものだし)


 前世の妻モエリーの生まれ変わりである萌子に会いたいのは聞き込みのためと自分に言い聞かせて、召喚研究所の自室を出る。するとロビーでタイミングよく、ゲート関連施設で働く老黒魔法使いの男性マーリンさんにばったりと会う。


「おぉっ! リゲルさんじゃないかっ。久し振りだねぇ。召喚実験が上手くいって良かった。地球との往復は大変だろうけど……これからも召喚研究期待してるよ」


 マーリンさんは、黒魔法使いの研究施設からの移籍組で、定年後にゲートの仕組みを研究するために呼ばれた人だ。白く長い髭に、典型的な黒ローブ姿でおとぎ話から飛び出して来た魔法使いのよう。

 かなりハイレベルな魔法使いだし、今回の異変の原因になりそうな情報も、知っているかも知れない。


「ははっマーリンさん、ありがとうございます。ところで、僕が留守している間に、地球経由のゲートで異変とかありましたか? 不自然な魔力がゲートから地球へと流れてきてるみたいなんですが。今はまだ雪が降り続けるレベルですが、これ以上進むと……」

「雪かぁ……春なのになぁ。うーん。異変っていうか、交換留学生達のためにゲートの突貫工事をしてるって話だなぁ。新しい駅を作って、誰でも地球に通いやすくするんだとか。けど、トンネル付近には雪山もあるし、まだ完成までに時間がかかるとかで……今は穴だけがぽっかりみたいだ」


「雪山があって穴がぽっかりか……しばらくは、放置されているのかも知れないな」


(しかし、地球の交換留学生といえば萌子さん。本当に彼女に会いに行く口実が出来てしまうとは。これも、前世で僕と萌子さんが夫婦だった因縁だろうか。向こうには前世の記憶はないようだけど)


 ゲートのトンネル工事を行っている現場の所在地を入手して、立ち入り調査の許可証をもらう。もちろん、交換留学生のいる学園への調査許可書も同時に取得出来た。



 * * *



 ワープの扉を使い、まずは萌子さんが通う大規模魔法アカデミーへ。学校の事務室で調査許可書を渡して、地球人の生徒から事情を聞こうとすると……見覚えのある後ろ姿。


「! 萌子さんっ」


 萌子さんのグレーのブレザーとチェックのミニスカート姿は、地球の女子高生と言っても通用しそうな雰囲気だ。それとなくミニスカから覗く白い太ももに目をやると、腰には短剣。

 ここが、冒険者を育成する学園であることを実感させられる。


「あれっ? リゲルさんどうしてここに……いや、どうしても何もないか。多分、ゲートを調べに来たんですよね」


 よほどゲートの件は有名なのか、珍しく落ち着かない様子の萌子さん。


「んっ? もしかして、ゲートの異変ってすごく有名なんだ。地球ではゲートを通じて大雪が降ってるんだけど」

「……有名っていうか、雪山の方の工事が難航しているっていうか。とにかく、ここじゃなんですから、落ち着いて話せる場所に行きましょう」


 焦っているのかグイグイと萌子さんに腕を引っ張られる状態で、アカデミー内を移動。はたから見ると、カップルが仲良く腕を組んで歩いているように見えるかも知れない。

 不可抗力で、萌子さんの胸の感触をムニュムニュと腕で感じ取る羽目になり、なるべく平常を心がける。


 果たして萌子さんは、僕のことを異性としてあまり意識していないのか、それとも好意的なのか。


(昔の僕だったら、こんな風に女の子に胸を押し付けられる形で腕を組んだ日には、女アレルギー発症で死にかけていたけど。呪いから解放された僕は違うっ。ここは年上の成人男性らしく、澄ました様子を貫かなくては!)


 結構小悪魔的な面のある少女だ……さすがはハーレム勇者の双子の姉と言ったところ。

 すると、やはりカップル的なイチャイチャ状態に見えたのか、萌子さんの顔見知りらしき女子生徒から声を掛けられる。


「うわっ萌子ちゃん、カレシいたんダァ! しかも、超かっこいいっ。すごいね、年上の恋人?」

「……! え、えっと……リゲルさんは友達のお兄さんで、お仕事でこの学校に来たから案内してて……」

「ふぅん……その割には妙に積極的だけど、あははっ。まぁ頑張ってねー」


 どうやら世間から見ると、僕じゃなくて萌子さんの方が僕に気がある設定の模様。

 まぁいいや……萌子さんの方が積極的な分には、法律的には問題になりにくい。僕はあくまでも受け身の状態を貫いていこう、それが無難だ。


 その後も、何となく他の生徒さんにチラチラと見られながら、アカデミーギルドの会議室へと辿り着いた。


「ふぅ……ここなら、ゆっくり話せます。はぁ……やっぱりリゲルさんってイケメンだから、注目されちゃいますね」

「いや、学生ばかりのところにいきなり大人がやってきたんじゃ、多少目立つんじゃないかな。それより、恋人同士に間違われちゃったけど、大丈夫? 本物の彼氏さんとか、いるんじゃないの?」


 前世では召喚士リゲルと聖女モエリーとして夫婦だったとはいえ、現世での僕の立ち位置は恋人ではなくただの友達のお兄さんというポジションだ。それとなく、現在の萌子さんの交際状況をリサーチしてみる。


「いえ、恋人なんてとても。以前も婚約破棄になっちゃったし。今回も……私って、騙されやすいのかも……。私としては、スマホゲーム中の出来事だし現実とは別設定で割り切ろうと思ったんですけど。ホワイトデーの日に、もう一度その男性に交際を申し込まれて……」


 話を続けるのも辛いのか、ポロポロと涙をこぼし始めてしまう。だが、ここで同情して話を中断するわけにもいかず、続きを探る。


「そしたら再び、騙されたということ?」

「騙されたっていうか、その男性は私とは将来結婚しないことが確定したっていうか。返事をどうするか、真剣に考えていた自分が馬鹿みたい……。本当に、いつも優しいリゲルさんが私の恋人だったら良かったのに」

「確定していた……未来が?」


 不思議な違和感、もしかしてこれが今回の騒動の肝の部分か。


「はい、えっと……証拠の新聞があるんで持って来ます。今回の事件とも関わりがありそうなんで。それから、お茶も用意しますね」


 パタパタと駆け足で、お茶の用意に一旦部屋を出る萌子さん。僕の情報が正しければ、萌子さんの婚約破棄の相手はうちの会社でバイトする大学生の丸須まるす君のはず。不正チートの達人マルス君とはアカウントBAN騒動で婚約破棄になった。

 まぁBANしたのは僕なんだけど、違反行為を繰り返してレッドカード状態になったのはマルス君の自己責任だし、仕方がないだろう。


 だが、マルス君とは結婚しない未来が確定していたとは?

 顎に手を当てて、考えるポーズを取っているところで、萌子さんがお茶をトレーに乗せて戻ってきた。


「ほうじ茶ラテでいいですか? あっもうお仕事のことで考え中だったんだ。私のくだらない恋愛の悩みなんか話している場合じゃないのに……。ごめんなさい」

「いやいや、世間って狭いし今回の事件も恋愛がらみとか、そういう情報が重要かも知れないよ。何故か、ゲートから降る雪がイクト君とミチアに取り憑いているみたいな降り方でね。犯人は、個人的な都合でゲートを悪用しているかも知れないでしょ! 例えば、萌子さんと婚約破棄した相手が犯人とかっ」


 普通に考えて、このスマホ異世界の運営に携わっていてデータ管理出来る人物は限られてくるし。なおかつ、イクト君に何らかの執着を抱く可能性のある人物は限られている。

 というか、異世界に滞在していたメンバーの中では運営者の僕以外だとバイトのマルス君しかいないだろう。


「……! やっぱり、リゲルさんって凄い。何でもお見通しなんですね。この新聞見てください。未来からの預言者夫婦が、このゲート開通工事を中止するようにって言って来てるんですけど」

「未来からの預言者……ゲートを開通すると、地球に魔物が現れる可能性。代わりに雪を降らせてゲートを封鎖……悲劇の回避に現れた未来人……。んっこの見覚えのある顔は、まさかっ」


 異世界アカデミーの学園新聞には、この学園前に開設予定の駅の工事を一刻も早く辞めるようにと訴える預言者夫婦の姿。しかも自称、未来人だ。


 預言者の妻の方は、白色の髪に碧眼の美女。肌の色まで真っ白で、まるで精霊のように美しく本当に人間かどうか疑問である。僕の召喚士としての目利きが確かなら、高確率で彼女はヒトではないだろう。


 だが、夫の方は十数年齢を重ねたであろうマルス君にしか見えない。人間と精霊が夫婦というのはこの異世界の常識ではありえない。つまり、彼らはニセの夫婦……過去を変える何らかの目的で現れたエージェント……かも知れない。


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