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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
イベントクエスト-spring-
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お花見編1:四月に降る雪


 異世界から地球へと戻り、しばらく経つ。データ化された魔獣が冒険者達の手により討伐され、ミチアの手術も成功し無事に退院。いつの間にか、新年度を迎え四月になった。


 現在の結崎家は、オレ、妹のアイラ、異世界から下宿中の神官エリス、黒猫のミーコのメンバーで暮らしている。ラノベのお約束展開が発動のか、両親はオレが異世界から戻ったのと同時期に海外へ転勤してしまった。


 双子の姉である萌子は、地球と異世界の交流者代表という役割で短期間の異世界留学中だ。なぜ、家族の中で萌子だけ……と思ったが、萌子の通う学校の経営者が異世界と親交の深い人物らしい。


 血の繋がらない遠縁で許嫁の下宿人エリスが家事を引き受けてくれるお陰で、生活はしやすい。だが、異世界での神官業と兼業しているため、エリスには負担がかかっているだろう。


「エリス、なんだか悪いな。ご飯の支度から洗濯から……全部やってもらって。夜は異世界で神官業だろう? 大変じゃないのか」

「うふふ、大丈夫ですわ。なんせ、イクト様に嫁ぐためにここで暮らしているわけですし。私との婚約……忘れた訳ではございませんよね?」


 銀髪ロングヘアをサイドで結び、水色のエプロンを着こなすエリスは、まるで新婚さんのようだ。大きな瞳と華奢な身体付きは、もちろんオレの好みでこんな可愛い子が嫁に来てくれれば嬉しいはずなのだが。


「うっ……いや、その。ほら、異世界だと一夫多妻制だけど地球じゃ1人としか結婚できないじゃん? たくさんのギルドメンバーと婚約した手前、その話がまだ生き残っていたとは……」


 そう……異世界では、ハーレム勇者という設定だったため、オレには複数人の婚約者がいた。だが、正妻候補だった聖女ミンティアこと行柄ミチアは病気療養中の身。

 ミチアが大きな手術を終えた後で、婚約だ結婚だと浮かれる雰囲気でもなかった。そのため、いつしか婚約者であったはずが普通の友人としてしか接しなくなっていた。

 もともと、ミチアとは入院中に友人として接していたのだから、元通りの関係に戻ったと言えるだろう。


 あくまでもオレとミチアは【ゲーム異世界上での婚約者】だったのだから。


 だが、異世界人と地球人の両方の血を引くエリスは事情が違っていた。両方の世界で戸籍を持つエリスは、地球でもオレと【親同士が決めた許嫁】という設定だった。

 つまり、オレが異世界にアバター体で転生しなくてもいずれは地球でエリスと出会い、婚約していたわけで……。


「ちょっと、意地悪を言ってみただけですわ。ミチアさんの身体の調子も安定したばかりですし、誰か1人を選べるような状況ではありませんもの」

「うん、なんだかごめんエリス。オレが優柔不断だから……」

「いえ、きっとみんなイクト様のそういう博愛主義なところが好きなんですわ。次の休みには、ミチアさんも一緒にみんなでお花見しましょうね」


 なんだかんだ言って優しいエリスに甘えっぱなしで、申し訳ない気持ち。オレが異世界でミチアとかなり親しかったことも含めて、気持ちを察してくれているのだ。


 異世界では同じ魔法学校に通っていたミチアこと聖女ミンティア。だが、地球では病気が原因でミチアは高校に通っていない。なんとか退院出来たものの、療養期間は自宅と病院を行き来するだけだという。

 さぞ寂しかろうと、リハビリ中であるが外出が出来るようになったミチアも一緒に休みの日にお花見しよう! という予定だったのだが。



 * * *



『東京都では、珍しい四月の雪景色となりましたぁ! 見てください、立川市周辺では、辺り一面雪です』

『いやぁ綺麗ですねぇ。しかし、桜は無事なんでしょうか?』


 テレビからは驚くような状況が伝えられている。四月にも関わらず、雪が猛烈に降り続いていた。


「せっかく、みんなで一緒にお花見しようと思っていたのに。今週は無理かしら……残念ですわね」

「まぁこればっかりは、天気の都合もあるしなぁ。次の休みは晴れてくれるといいんだけど」


 黒猫ミーコもとにかく寒いようで、暖かい場所をキープして「みょーん、にゃああ」と鳴きながら丸くなっている。


 気候のせいでお花見の計画は今のところ中断され、次の休みに桜が見れるかどうか……といった感じだ。

 なんせ自宅にいても感じられる真冬並みの体感温度に、思わずオイルヒーターをつけてしまったくらいなのだから。


 不思議な雪の気候は連日続く、ついに春休みが終了し、学校が始まる。なのに、未だに雪は止まない。


 エリスが用意してくれた和朝食を食べ終え、今日の服装について登校前のアイラが呟く。


「どうしよう? 四月なのにコート着て学校に行ったらおかしいかな。でも、超寒いよね。外では雪が降ってるし」


 アイラの通う中学校は、徒歩と電車で数十分の場所にある。そのため、近隣の学校に通うオレよりも先に自宅から出なくてはならない。


「いいんじゃないか、コートくらい。オレは高校が徒歩圏だからいいけど、アイラは電車通学だし。防寒対策はした方がいいだろう」

「うん、そうだよね……分かった。お兄ちゃんも学校に遅れないようにね。エリスさん、ミーコ、行って来ます!」


「行ってらっしゃい」

「気をつけて!」

「みゃあーん」


 一足先に家を出るアイラの後ろ姿を見送りつつ、こんこんと降り続ける雪を見上げる。


「たまに春に雪が降ることがあるらしいけど。随分と長いようなぁ……はぁ息が白いや」

「数日間なら、分かるんですけどね。まさか……冗談抜きでお花見を妨害するためにとか。雪の原因となる雲が、不思議とイクト様とミチアさんを中心に渦巻いている気がしてならないんですの」


 一緒に玄関でアイラを見送ったエリスが、ふと何かに気づいた様子。


「えっ……何か思い当たることがあるのか? オレとミチアが今回、お花見すると都合が悪い人がいるってこと?」

「ええ、この1年間の間に異世界とのゲートが開いたり閉じたり繰り返していたでしょう? あれはゲーム機能とリンクしたせいでもあるんですって。あとで、ハロー神殿にも報告書を出しておきますわ」


 確かに、この1年と数ヶ月の間は異世界と地球の間にあるゲートが不安定だった。時間軸だって、今ではどちらの世界も似たような時間の流れだが。異世界での1年間が地球での1時間に該当していたことすらある。


(まぁ時間軸のズレがあったお陰で、浦島太郎状態にならずに地球へと帰還出来たんだけど)


「けど、そんなにこのお花見計画を阻みたいか? オレとミチアが仲良くなると、不都合な人なんていたっけ」

「分かりませんわよ、中間テストの勉強をしていないだけで学校の休校を祈願する人もいるくらいですし。もしかすると、イクト様のお花見会を無くしたい秘密の理由があるのかも」

「あははっ。まさかぁ……」


 だが、さすがは神官にて売れっ子占星術師のエリス。実はこの見解は、恐ろしいほど当たっていた。


 この時までオレは、超個人的な都合でゲーム異世界をハッキングする人物がいるなんて……。そして、秘められた深い理由が大雪の原因になるとは……思いもしなかったのである。


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