ホワイトデー編2:妹の応援
「ねぇバカ兄貴、そこどいてくれない? 無茶苦茶邪魔なんだけど?」
「うぅん……あれっオレっていつの間にか眠っちゃてたんだ。今何時?」
「夜の9時半よ……まったく、久し振りに日本に帰ってきたのに、兄貴の馬鹿面を拝むなんて。とんだ罰ゲームだわ」
ソファで爆睡するオレを、家族の誰かが足蹴りする。黒髪サラサラストレートロング、大きなつり目がちの瞳、そして勝気な性格。オレの実の妹である女子高生の丸須灯吏だ。
ミニスカートから覗く美脚で足蹴にされる描写は、ラブコメ系ラノベの一幕と言った雰囲気。だが、あいにくオレと妹は血の繋がりのある健全な兄妹である。
ツカサとの昼食が終わり、モヤモヤした気分で帰宅したオレ。どうやら、ソファでウトウトと眠っていたらしい。ミニスカ足蹴で目覚めて、ふと我に帰る。
「はぁ……お前、実家に帰って来たばかりなのに本当に感じ悪いな。一体、何様?」
「ふんっ! 兄貴が悪いのよ、男にばっかモテモテで彼女の1人も作れなくて……。私が、居づらくなって海外留学したのだって兄貴のBL説が激しくなったからで……」
痛いところをツツいてきやがる。そうだ、この小生意気な妹がわざわざ海外に留学するようになった理由はオレにある。正確には、オレが友人の男の娘ツカサと交際説が出たせいで妹がからかいの対象になってしまい、止むを得ず海外に行くことになってしまったのだ。
現在ではだいぶほとぼりが冷めてきたため、日本に帰国したが。貴重な青春時代を台無しにしてしまったのは分かっている。
「あー! 悪かったなっ。男にばっかモテモテでよっ。オレだって、人並みに好きな女の子くらい、いるっつーのっ。ただ、あんまり上手くいってないだけで……」
「えっ……好きな女がいる? 兄貴が、マジで?」
心底意外そうな、灯吏の表情……見開いた大きな瞳がさらにデカくなる。まさか、本気でオレとツカサの仲を疑っていたのだろうか。
もし万が一、オレとツカサがそういう関係だったら、BLと噂されてもコソコソ友達のフリなんかしないで堂々と交際宣言しているはずだ。オレもツカサも、そういうハッキリとした性格なのだから。
「あぁマジだよ、大マジだ! 異世界スマホRPGで一緒になった可愛い子で、ゲームの中じゃ婚約まで行ったんだぞ。やり直したいけどキッカケが掴めなくて」
「二次元の架空の存在とかじゃなくて。リアルな女の子なの? 兄貴騙されているんじゃない。実在してる? その人……」
よっぽど疑っているのか、相手の女の子に対して架空の存在説まで持ち出し始めた。仕方なく、スマホから写真を呼び出してオフ会の時の画像を見せる。
「証拠もあるぞ! これ、このあいだ行ったオフ会の様子。こっちの栗色の髪の女の子が萌子ちゃん。隣が双子の弟のイクト……先にイクトの方と友達になったから、自然と萌子ちゃんとも仲良くなれたんだ」
「嘘! 無茶苦茶可愛いじゃん! 信じられない、呪われているかのごとく男にしかモテない兄貴が、ゲーム上とはいえこんな可愛い女の子とフラグを立ててたなんて」
すごい言われようだな、オイ。確かに中学から高校までを男子校で過ごした影響で、男からモテモテに見えていたかもしれないが。
別に、性別不明キャラのツカサと仲良くしていることだけが、原因ではない。
不思議と恐ろしいくらい、女の子とのフラグが立ちそうになると、アクシデントの数々に見舞われるのだ。
「今日も、ツカサに再アタックするように勧められたんだよ。ほら、もうすぐホワイトデーじゃん?」
「ふぅん……ゲーム内で贈り物したり、何か考えてたの? 早いとこ再アタックするならして欲しいんだけど……」
煮え切らない様子に、再びイライラし始める灯吏。オレが早く女の子の恋人を作っていれば、妹の人生も違っていただろう。イラつくのも、無理ないか。
「向こうはログイン勢だからスマホRPGの中でなら、時間帯さえ合えばアタック可能なわけで……。けど、以前はイクトとのダブルデートがキッカケで付き合い始めたからなぁ。今回はそういうのもないし……」
振り返ると、オレと萌子ちゃんの交際のきっかけはイクトのデートに付き合ったことから始まっていた。魔族の姫君アオイさんとイクトのデートを盛り上げるための、ダブルデート要員だったオレ。
まさか、ここまで本気で萌子ちゃんに惚れてしまうなんて、あの頃は想像もしていなかった。
だからこそ、悩んでいるのだけれど。それに、行柄社長と萌子ちゃんが用事で会っているという噂も気がかりだ。
「ダブルデート……か。いいよ、協力してあげる! 私が弟君のダブルデートの相手になるから、デートを申し込んでみよう! よしっ善は急げっ。レッツ異世界ッ」
「お、おい! 何すんだよ、灯吏……やめろって……う、うわぁぁああっ」
ノリノリでアプリを起動し、異世界への移動ボタンをタッチする妹。気がつけば、オレと妹は異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】の所属ギルドの自室へとワープしていたのであった。