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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
イベントクエスト-spring-
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ホワイトデー編1:飴玉と恋心


 ホワイトデーは、バレンタインデーのお返しがしやすいように、近代になって出来た行事だという。その割には、バレンタインデーとワンセットでメジャーな存在だ。


 スマホRPG内でも、バレンタインやホワイトデーのイベントは恒例行事と言えるもので、報酬品やプレイヤー間のお礼の品としてチョコや飴玉が飛び交うようにやり取りされていた。


 そんな、男にとってそれなりに重要視されつつあるホワイトデーが、間近に迫ったある日の出来事。

 そこそこ手頃なファミレスで、高校時代の友人と昼食をともにすることになったオレ、丸須有吏まるすゆうり。つい最近まで、異世界に転生していた何処にでもいるイケメン大学生だ。


「ねぇマルス……もうすぐホワイトデーだけどさ。結局、萌子ちゃんとはどうなっちゃったの? 確かスマホゲーム内では婚約していたような気がするんだけど……。リアルでは、交際まで発展した?」


 ベージュ色のウェーブヘアがよく似合う色白美人ツカサに、好きな女の子との恋愛関係について問われる。一見すると、友達以上恋人未満の微妙な関係の大学生が、恋愛調査をしているように見えなくもないだろう。

 だが、オレとツカサはれっきとした男同士である。ただ、ツカサが俗に言う男の娘と呼ばれる中性的な容姿であることから、あらぬ噂を立てられることもあったが。


「いや、それが残念なことに全然……。異世界から無事に戻って来れた代償が、ゲーム異世界と現実を完全に分けて捉えることなんだろうな。萌子ちゃんにとって、オレは元彼枠に入れられているかどうかすら、あやしいよ……」


 失恋にも似た哀しい気持ちで、運ばれてきたビーフステーキをグイグイと切り分けて口に放り込む。和風のソースが程よくマッチしていて、泣けるほど美味い。


「ふぅん……異世界から戻って来れたのに、まぁ多少のリスクはつきものだよね。じゃあ、マルスがホワイトデーに萌子ちゃんにお返しする機会すらなさそうか……どうしよっかな、これ」


 どうしようと言いつつ、ツカサはおもむろにカバンの中から紫色の小瓶を取り出してテーブルに置く。


「……魔法のアイテムっぽい感じだけど。まさか、異世界から変なもの持ってきたんじゃないだろうな?」

「あははっ! 違うよ、あやしい品物じゃないから。ただの異世界特製惚れ薬! マルスが恋に悩んでいたらあげようと思っただけだよぉ〜」


 小悪魔のような笑顔で、ツカサはクルクルっと、きのこスープパスタをひとくちだけ口に滑らせる。仕草といい、ほんのりと赤い唇といい、本当にこいつ男か? と思うくらい可愛いが、オレの好きな子は残念ながらツカサではない。


「ほ、惚れ薬? いかにも妖しげなアイテム代表じゃないか。なんでわざわざそんなもの……」

「うーん、ぼくって悪気なくマルスと萌子ちゃんの仲を何度かギクシャクさせちゃったみたいじゃない? 今更だけど、お詫びの品として2人が復縁出来るように応援しようと思ったんだけど……」


 チラチラと、こちらの様子を伺いながら小瓶をクルクルと回して見せるツカサ。


「復縁……そりゃ、オレとしては現実でも萌子ちゃんとお付き合いしたいけどさ。向こうは、ほとんどの生活を地方の寄宿舎で暮らしているし。東京に帰ってきている時は、ミチアちゃんの看病を手伝っているとかで……」


 自分でも言いわけがましい物の言い方になっているのは、分かっているつもりだ。けれど、一度壊れたフラグを立て直すキッカケがうまく掴めないのだ。


「そんなに、疎遠になってるんじゃこの惚れ薬も意味ないかなぁ。これはうちのペットの狼犬に好きな女の子が出来た時に使うか」

「何だよ、ペットの狼犬って! お前、狼犬なんか飼ってないだろう? まさか、その狼犬って……」


 オレが異世界で特殊熱にかかり、何度か狼犬に変身してしまったことを覚えているのだろう。一応、獣医学を学ぶツカサなのでそれほど妙な扱いはされなかったが。


「え〜飼ってるよっ。異世界でマルス君っていう狼犬のペットを……。あーあ、僕のペットの狼犬マルス君はもっと積極的だったんだけどなぁ」

 悔しいが、痛いところを突いてくる。萌子ちゃんへの積極性は、異世界時代に比べると半減していると言ってもいい。


「うっ! 確かに異世界にいた時は、勇者って職業補正とチートスキルパワーで強気だったけど。今じゃ、普通の大学生だよ……しかも、恋敵はミチアちゃんの兄でうちのバイト先の若手イケメン社長ときてる。行柄社長と萌子ちゃんが並んで歩いている姿だって見かけたことあるし、自信だってなくすよ」


 もういいや……本音を晒してしまおう。オレはきっと、リアル世界で萌子ちゃんに振られる可能性にビクついているのだ。


「落ち込んでいる丸須君に、有力な情報でーす。実は、萌子ちゃんは最近ログイン勢として異世界に復帰したんだとか。ハロー神殿ギルドに登録し直したらしいよぉ……普段お世話になっているお礼に、飴玉のひとつや2つプレゼントしてもいいんじゃないかなぁ?」


「普段のお礼か……そういえば、いろんなプレイヤー同士の報酬で義理チョコだけは貰っているからな。そのお礼くらいしても、大丈夫か……」

「そういうこと! まぁ、これを使うかどうかはマルス次第だけど……。惚れ薬で失われた2人のラブな思い出を取り戻すもよし、自力で萌子ちゃんに再アタックするもよしって感じ?」


 極めて軽いノリで手渡された紫色の小瓶は、見た目よりもズッシリとしていて。まるで、オレの沈み込む恋心のように重たいのであった。


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