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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
イベントクエスト-spring-
277/355

ひな祭り編1:異世界のお雛様


 大型イベントである魔獣討伐戦は無事に終了したものの、異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】は今日も平常通りだ。

 異世界人と地球人が何の疑問も持たずに、ゲーム内でやり取りするのも日常となった。


 だが、異文化交流とは難しいもので、ちょっとしたことからお互いの違いを体感することになる。


 これは、春の訪れを感じさせる陽気なある日の出来事。



 * * *



「異世界の部屋、せっかく借りているのに最近頻繁には通えなくなっちゃった。あーあ、せっかく小さなお雛様セットを買っておいたのに……」


 ギルド集会所の憩いの部屋……フリーのクエストモードで、アバターを介してポツリと呟く美少女が1人。アロー魔法剣士学校出身の美少女シフォンこと、氷山絹絵ひやまきぬえである。

 大人びた見かけによらず、少女趣味を大切にしている彼女の今の悩み事は、異世界での自室の部屋の様子だ。


 可愛い小物を集めては、季節ごとに部屋に飾るのを趣味にしていた彼女にとって、ひな祭りも重要な行事の一つである。だが、困ったことに以前のように異世界で暮らしているわけではないため、それほど頻繁に模様替えが出来ない。


「おや、お困り顔ですわねシフォンさん。何か困ったことでも?」


 ギルド集会所に偶然用事で立ち寄ったのは、ハロー神殿の美しい神官エリス。シフォンが現在の拠点として生活しているハロー神殿の責任者である。一応、立場の違いはあるものの、ともにギルドクエストをこなす仲間でもある2人。


 ちょっと、考えたもののシフォンは世間話のノリで悩みを打ち明ける。


「エリス……。私の通ってる地球での学校の部活って、結構厳しくてさ。もうすぐ、短期合宿なんだ……ちょうどひな祭り期間が合宿期間になっちゃって。その間は、スマホも預けなきゃいけないの。ギルドクエストもパスしなきゃいけなくて」

「まぁ……せっかくのひな祭りなのに、のんびりとひな祭りクエストも出来ませんわね。では、その数日間は異世界には来られない……と」


 さすが、エリス……神官としてだけでなく占いや風水の分野でもチカラをつけているだけのことはある。スムーズに、シフォンの言いたいことを理解していく。


「うん。そういう理由なんだけど……心残りがあって。私ね、今年のひな祭りのためにお雛様セットを買っておいたんだ。この異世界の自分の部屋に飾るために……だけど雛人形って飾れる期間が決まっているでしょ。もし、しまいそびれたらって思うと……我が家の家訓じゃ、一刻も早くしまうべしって代々伝えられているのに」


 シフォンの悩みをざっくりと説明すると、雛人形におけるジンクスを気にして飾るか否か迷っているのである。

 一夜飾りは不吉とされているし、桃の節句を過ぎたら早めに片付けないといけないと、シフォンの知識では考えていた。


 実は、異世界においては3月中はずっと雛人形を飾っておいても問題ないとしている地域も多く、地球でもそういう家もあるのだが。雛人形は一刻も早くしまうべし……という家訓を持つシフォンにとって、1日でもしまい遅れるのは恐怖なのだ。


「シフォンさんがお住いの地域では、雛人形を早めに片付けるのが流儀なのですね。では、こうしましょう……。今回はギルドルームに雛人形コーナーを設置してもらって……私が責任を持って、3月4日の00時01分にシフォンさんの雛人形を片付けますわ!」

「えぇっ? そりゃ。雛人形が無駄にならないのは嬉しいけど。3月4日の00時01分って……そこまでギリギリ感溢れる時間帯に動いてもらうなんて……悪いかなって……」


 まさか、わずか1分でもひな祭りタイムを過ぎたら片付けるとは……。さすがのシフォンでも、そこまで考えつかない。


「いいえ、これでもプロの神官、プロの占星術師……そしてゆくゆくは風水マスターを目指す身です! シフォンさんの夢と希望を背負った雛人形セット……。きっちりと飾り、きっちりとしまい……必ずや、桃の節句を成功させて見せましょう……! 伝説のハーレム勇者である、おじいさまの名に誓って!」


(エリスのご先祖さまって、ハーレム勇者だったんだ。まさか、私の雛人形もハーレム仕様に変更されないよね。うちの雛人形を、この人に預けても平気だろうか……。でも私って、イクト君のハーレムメンバーに加入しているわけじゃないし、問題ないはず)


 いろいろと不安になったが、エリスの清らかでまっすぐな眼差しに心打たれてしまい、思わず承諾してしまう。


「う、うん。じゃあそういうことならお言葉に甘えてお願いしちゃおっかな。今、部屋から雛人形セット持ってくるから」


 パタパタとかけて、自室へと戻りエリスに乙女の魂である雛人形セットを預けるシフォン。そして、大々的に設置される桃の節句コーナー。


「うわぁ……いろんなお雛様がいっぱい! 桃の花の飾りも可愛いし、甘酒やちらし寿司まで。ありがとう!」

「うふふ……実は、私も含めて他のギルドメンバーの雛人形も、一緒に飾ることになりましたの。ミンティアさんの聖女雛やアズサさんのエルフ雛など……レアなお雛様もたくさんですわ。許可も降りてますし、写真に収めては?」

「いいの、素敵! この神官雛はエリスのお雛様だね。雛人形達の記念写真を……よし。みんな、うちの雛人形をよろしく……じゃあ、合宿に行ってきます!」


(いってらっしゃい! 私、シフォンちゃんの雛人形として、頑張るよっ)


「ん、どこからか可愛らしい声が聞こえたような……気のせいか」


 まだ、この時シフォンは気づいていなかった……。異世界における雛人形設置は、自らの運命の赤い糸を左右する大切な魔法儀式であることに。


 桃の節句のクエストが、五人囃子の笛の音とともに幕を開ける。


3月からは【イベントクエスト-spring-】を更新していきます。第1弾(3月1日〜3月4日)はひな祭り編です。

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