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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第九部 魔獣と夜空の召喚士編
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第九部 第25話 アバターで結ばれる絆


 オレとミチアが異世界から帰還して、しばらく経つ。ごく普通の高校生に戻ったオレ、再び病院での入院生活に戻ったミチア。


 お互い異世界の冒険者としての活動は、スマホRPGの中だけになった。だけど、異世界での冒険を介して育まれた絆が消えたわけではない。

 週末のある日、ミチアのお見舞いのために街へと出かけることになった。無事に地球へと帰還していた妹のアイラも一緒だ。


 お見舞いのために用意した花束を手に、駅前のロータリーで待ち合わせのメンバーを待つ。


 ふと街中の大型テレビを見ると、猫耳少女と犬耳少女の2人がメイド服で現れた。既視感のある美少女たちの姿に思わず足を止める。愉快なサウンドとともに、スマホRPGのCMが展開。


『萌え萌えにゃんにゃんメイドだにゃーん! 猫耳メイドのミーコですっ。異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-】は、レア装備が当たる無料10連ガチャ実施中っ。必ず星5レア装備が一点もらえて、すっごくお得ですにゃ』

『犬耳メイドのココアもいますワン。本当は私、錬金術師なんだけど……今日はガチャで当てたメイド装備で宣伝係ですっ。もちろん、全員がガチャでメイド装備をゲットできるチャンスがありますワン!』


『ストーリー本編の一章もいよいよ大詰め、超レア級マルチプレイクエスト【いにしえの魔獣討伐戦】実装中っ!』


 大型テレビに映し出された可愛らしい2人組は、紛れもなくオレが異世界で一緒に冒険をした猫耳メイドのミーコと犬耳錬金術師のココアだ。


『うわぁ、ケモ耳のメイド2人組可愛いなぁ。ミーコちゃんとココアちゃんかぁ……蒼穹のエターナルブレイクシリーズだっけ? このゲームってやりこみ要素ある?』

『ギルドクエストが結構やりこみ系っぽいよ。通常の冒険モード以外に魔法学校に通ったり、マルチプレイもあるんだってさ。オレ達も無料10連の機会に、ダウンロードしてみるかっ』


 道行くスマホゲームユーザーらしき若者達の何気ない会話が、雑踏に紛れて聞こえてくる。

 まるで、これまでの冒険が夢の出来事にされてしまったのかと錯覚しそうだが、天はオレ達を見捨てていなかった。


「イクト君、アイラちゃん! ごめんね、待った?」

「お見舞いの花を選んでたら、遅くなっちゃって……まだ時間は間に合うよね?」


 待ち合わせ場所に駆けてきたのは、異世界で知り合った女勇者のレインこと【高凪たかなぎレイラ】と、その相棒の魔法剣士シフォンこと【氷山絹絵ひやまきぬえ】だ。

 ボーイッシュなレインと大人っぽいシフォンは一見すると対極のようだが、気が合うらしく実生活でもしょっちゅう会っているそう。


「イクトせんぱーい、お待たせしましたっ」

「もうっ。吉良があのとき電車に遅れなきゃ、もっと早くついていたのにっ」


「はは、なんだか相変わらず尻に敷かれているな」


 続いて待ち合わせ場所に到着したのは、ダーツ魔法学園での後輩コンビのキラこと【吉良要きらかなめ】とミリーこと【日向美里ひゅうがみさと】だ。


 こうして、異世界にいた頃と変わらず仲間達と交流できるとは……それだけでも救われた気がする。

 地球にも支店を持っていたギルドクオリアが、連絡可能な帰還者たちを呼び集めて交流を図る場を提供してくれた。実際に会えるのは、同じ関東地域に住んでいるメンバーだけだが。

 正確には、ゲームカフェクオリアの異世界出張版が異世界ギルドだったらしい。だが、今となっては些細なことだ。


「お兄ちゃん。マルスさん達は先に病院にいっているんでしょう? みんな揃ったし、病院へ行こう」

「ああ、そうだな。今日は……ミチアにとって大切な日だから」

「手術前の面会……だものね」

 

 手術……というレインの一言が重く胸に突き刺さる。


 駅から徒歩5分ほどで、ミチアが入院する病院に到着。先に着いていたミチアの実兄である行柄リゲル氏、そして彼の会社でバイトするマルスこと【丸須有吏まるすゆうり】とロビーで落ち合う。


 闘病中のミチアの部屋は病院の中でも一番大きな個室で、とても広く、面会のメンバーが全員訪問してもかなりスペースに余裕がある。それぞれお見舞い用に花束を用意したが、飾る場所には困らないだろう。


 そして、みんなで少しずつ折った千羽鶴もベッド近くに掛けられた。


「綺麗なお花! ふふっしかもこんなにたくさん。わぁ可愛いっ千羽鶴まで、大変だったでしょう。ありがとう……」

「ミチア、顔色もいいし調子良さそうだな。安心したよ」

「うん、手術さえ成功すれば普通に暮らせるようになるって! 嘘みたいだよね……まさか、こんなに順調に回復するなんて……あと少しかな?」


 あと少し……つまり手術さえ成功すればミチアは普通に暮らせるようになる。だが、手術の成功率はどれくらいなのか、オレには分からない。

 

 ほんの少しの間、沈黙。なるべく明るく振舞おうとしているのか、レインとシフォンが明るい話題を切り出す。


「外出できるようになったらさ、女子だけで洋服買いに行こうよ」

「美味しいクレープ屋さんを見つけたから、一緒に行こうね」


 何気ない会話をそれぞれ交わして、そろそろ退出……となったところで、ミチアが小さな紺色のトートバッグをオレに手渡す。


「ミチア、これは……えっ?」

「この中には、魔獣討伐戦に向けた攻略のノートが入っている。これをイクト君に預かってほしいの。そして、魔獣討伐のマルチプレイに私の分身、聖女ミンティアも連れて行ってほしい!」


 ミチアがアプリを起動して、お互いのデータ交換モードに入る。


 魔獣討伐のマルチプレイ、現在実施中の大型イベントだ。異世界での話が真実なら召還能力を持つミチアは、魔獣に魔力を吸い取られているせいで病気がちのはず。

 地球へと帰還してからも、この魔獣を倒せばミチアの病気が治るのではないか……と思ったことが何度かある。それが、願掛けのようなものだとしても。


「そっか……このデータ転送機能を使えば、ミチアがスマホを使えなくてもオレがアバターを借りて操作することは出来る」

「うん。今回のイベントは、フレンド機能で自分のアバターをフレンドさんに同行させることが出来る。イクト君のデータにミンティアを転送すれば……」


 オレのスマホ画面の中に、ミントカラーの髪色の可愛らしい聖女のアバターが転送されてきた。魔獣討伐イベントチケット使用時に、連れて行けることが出来る設定だ。


 奇しくも、魔獣討伐イベントの日にちとミチアの手術日が同じ日になってしまった。イベント予定日は、あらかじめ告知されていたのだけれど。

 だが、ミチアの手術日は急遽決まったものらしく、リゲルさんも予想していなかったらしい。


「魔獣は私にとって、病魔の象徴。もし、聖女ミンティアがみんなと一緒に戦いに参加して……魔獣を倒せたら、私の病気も治りそうって。ずっと思ってたんだ。それに……聖女ミンティアが、勇者イクトやギルドメンバーたちと一緒にいてくれたら、手術中も孤独じゃない……」


「分かったよ、ミチア。ちゃんと、この預かった聖女ミンティアのアバターを連れてマルチプレイに参加させるから。きっと大丈夫だよ……全国のユーザーが魔獣討伐に参加するんだ。地方で寄宿舎生活している萌子やルーン会長、キオもこのイベントには参加するって言ってたし。地方在住のギルドメンバーだって……皆一緒だ。きっと、魔獣を……病魔を倒せる」


「ありがとう……明日の手術、頑張るから! イクト君達も魔獣討伐オフ会頑張ってっ。手術が成功して、外出ができるようになったら……」

「ああ、約束の快気祝いをみんなでやろうなっ!」


 優しく微笑むミチアは、病気で頬が痩せているものの、異世界の聖女ミンティアを思い出させる。やはり、ミチアは……聖女ミンティアの魂の持ち主なのだ。


 病室を出て、それぞれ帰宅の準備。明日はいよいよ、オレ達ギルドメンバーが魔獣討伐に乗り込む日。場所は、ゲームカフェクオリア西東京で行われる。


「リゲルさん、ミチアさんのアバター……フレンド機能でオレが預かることになったんですけど……いいですか?」

「もちろん。それがミチアの手術への安心感に繋がるんだろうし。でもまさか、魔獣討伐戦にアバターだけでも参加させる気だったとは……。イクト君、ミチアのわがままにつき合ってくれてありがとう。それじゃあ、後日……」



 * * *



 ついに、オレ達ギルドチームの魔獣討伐マルチプレイ実施日となった。

 場所はゲームカフェクオリア西東京支店、本日のイベント用にテーブルスペースが区切られている。プライバシーはバッチリで、落ち着いた環境が提供された。


「お茶のサービスです。イベント頑張ってくださいねっ」

 イベント参加者達へ、メイド喫茶から今回のイベントのために応援に訪れていた人気メイドランコさんからのおもてなしサービス。

 冷たいタピオカミルクティーが、それぞれの席に配られた。


「あと10分か……マルチプレイの部屋に入室して、装備品とアイテムの確認をして。メンバー構成は、オレ、賢者マリア、エルフ剣士アズサ、神官エリス……そしてフレンド設定で聖女ミンティアだ。どちらかというと、サポートスキルが強いメンバー構成だな」

「イクトの仲間は、ほとんどのメンバーが回復スキルを使えるからなぁ。それにイクトのチートスキルモテチートは、女性メンバーの基本戦力を上昇させるチカラがあるし。いざって時は、頼りにしてるぜっ。きっと……勝てるよ」

「……ありがとう。頑張ろう」


 隣の席に座るマルスが、リラックスさせるようにオレの肩をぽんっと軽く叩いた。


 自分用のスマホと……ミチアから預かったノートをテーブルに並べる。ミチアお手製の戦略をメモしてあるというノートを見ながら、攻撃の手順を検討する。


「お兄ちゃん、異世界人のみんなとは今は離れているけど……。このスマホRPGの向こう側で気持ちは通じているよね」

「ああ、それにもう攻撃パターンがチームとして構築されているからさ。やっぱり、一緒じゃないとしっくりこないし」

「マリアさんたちとは、ずっと旅してきたものね。チームワークは完璧か……」


 異世界ではチームメンバーとして組んでいたマリア達だが、現実世界では今のところ会えていない。

 けれど、最後に飛空船で別れたあの日の約束通り、また一緒に冒険の仲間になった。スマホゲーム異世界での【アバター勇者イクト】を介して。


 やがて、スマホ画面の中からレア級ボス【いにしえの魔獣】が現れて……全身全霊のマルチプレイバトルが開始された。スマホの中では、勇者イクトとそのメンバーたち、ミチアの分身である聖女ミンティアが、懸命に応戦している。


 魔獣を討伐できれば病魔にも勝てると語っていたミチア、彼女から預かった分身ミンティアのデータ。

 おそらく、ミチアの手術も既に開始されているはずだ……彼女から病魔を払う気持ちで、魔獣へ攻撃を繰り出す。


 離れていても、オレ達の魂は固い絆で結ばれていると信じて。


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