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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第九部 魔獣と夜空の召喚士編
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第九部 第19話 再び繋ぐ赤い糸の行方


「では、これより縁結びの女神ククリ18世による結び直しの儀式を始めます」


 実は由緒正しい縁結び一族の末裔であったククリ。リス型精霊の擬態封印を解いて今では、真の姿である人間型の美少女モードだ。

 先ほどまでは、リス型の時と同様にフレンドリーな雰囲気で接してきた彼女だったが、儀式に入るとやはり神。

 光り輝くような美しいオーラを身に纏いながら、改めて縁を結び直す【結び直し】の儀に集中する。


 簡易ではあるが、山小屋内部に小さな鳥居型の儀式場を設置。これで、この場所が一時的に社殿の役割を果たせるようになるらしい。


「では、まず……結崎イクトさん……前へ……。二拝二拍手一拝で祈りを捧げて下さい」


 鳥居の向こう側にいるククリの指示に従い、一歩前に出て二回お辞儀をする。そして、二回小さな音を立てて手を打ち、祈りを捧げる。これで、二拝二拍手だ。


「はい……途切れた縁の糸がもう一度結ばれますように……。再び、みんなと一緒にクエストが出来るようになりますように……」


 お祈りが終わったら、一拝として頭を下げて鳥居の前から離れる。


「あなたの祈願……しかと受け止めました……。では、結び直しおよび、采配を行います。宿命の糸よ……我が声を聞き届け、結崎イクトと縁を持つ女性たちの行く先を示せっ」


 パァッ……と、一瞬だが金色の光がククリを包んだ。すると、赤い糸に繋がった小さな星のかけらがコロコロと転がり、いつの間にか用意された地図の上に散らばっていく。


「ふう……無事に結び直しが終わったようです。では、1人ずつ結果を見て見ましょう……」


 どうやら、結び直しの儀はおみくじのように1人ずつ結果が異なるようだ。


 マリアたちがこの場にいるわけではないが、縁の元となっているオレが儀式を行うことで、みんなの采配がそれぞれ待機している拠点へと通達される。


「賢者マリア……山奥の修道院で回復役として貢献するとよし。猫耳メイドミーコ……猫耳メイド喫茶でメイド業に専念せよ。エルフ剣士アズサ……自然環境を守るべく、大型公園で管理を手伝うように。神官エリス……神殿本部に戻り、転職希望者のチカラになるとよい」


 すらすらとご神託を告げていくククリ……だが、その内容は想像していたものよりもずっと、既視感溢れるものだった。

 マリアは山奥の修道院、アズサは大型公園管理って……まさか。


「あの……この采配ってまるっきりオレが異世界に転生したての頃の、みんなのいた場所のような気がするんだけど……」

「えっ……本当なの? イクト」


 最初の冒険の内容を知らされていない萌子が、意外そうな目でこちらを見る。困惑しているのか、オレと同じ予感がしているのか……多分その両方だろう。


「ああ、異世界に呼ばれて目が覚めたら山奥の修道院にいて、そしたらマリアとアイラに起こされて……。一緒に旅に出て、ミーコやアズサに出会って、それから神殿でエリスに……これじゃあ、まるで!」

「ゲームでいうと、プレイし直しのような……」


 流石は双子の姉、オレの言いたかったことを一言で終わらせてくれた。


「そう、それが言いたかったんだ!」


 やや、沈黙があったものの、ククリはご神託モードから解けたようで再びクリクリした愛くるしい表情でフレンドリーに解説し始めた。


「やだなぁ、イクトさん! だって、イクトさんは今世でもう一度人生をやり直しているじゃないですかぁ! けど確かに、16歳になった1月に異世界の勇者として旅立つのは今回で2回目ですね」


 ごく当たり前のように、今回の采配と旅立ちについて語る。16歳の誕生日が2回来ること自体が本当はおかしいのだが、アバターにとっての2巡目ということだろう。


 納得できるような出来ないような……不思議な感覚に陥っていると、ピピピッとメールの音。しかも、次々と届く……なんだろう?


「あれっマリアから……えっと、【再雇用先が決まりました。山奥の修道院です……】って、他のメールもそれぞれの再雇用先の報告ばかりだ!」

「つまり、もうククリの縁結び祈願が効いたってことよね。けど、以前と全く同じ采配じゃ、ずっと同じゲームを繰り返していることにならない?」


 不安そうな萌子の指摘に、ククリがにっこりと微笑みながら首を横に振る。


「大丈夫です、安心して下さい。前回と全く同じ展開になることは、まずありません。だって、最初からパートナー聖女のミンティアさんと一緒に旅立つ予定じゃないですか?」

「……そういえば、そうだ。オレは前回の旅ではミンティアに出会うことさえできなかった。けど、今回は一緒にパートナーとして旅立つんだ。全く同じじゃない」


 女アレルギーを回復させるチートスキルを持つミンティアがいる状態での冒険開始は、前回よりずっと有利な旅立ちとなるだろう。


「ええ、それにスタート地点もギルドの新拠点からスタートします。仲間に加わるメンバーの順番も変わりますよ! それから、次期魔王であるアオイさん及び、今現在同じギルドに所属しているメンバーとは結び直しは必要ありませんでした」

「まぁ確かに、勇者と魔王は切っても切れない仲だから、アオイとはずっと関わりがあるだろうな。今でも一緒に行動しているメンバーはもちろん、レインともクオリアつながりで縁は切れていないし……。うん、安心したよ……ククリ、ありがとう!」


 意外な結果ではあったが、腑に落ちる点もある采配だ。そもそも、規定上パートナーと2人で旅立たなくてはいけないのだから、マリアたちはその間どこか別の場所で働く可能性は高かった。

 ただ、この異世界に転生した当初と全く同じ配置になるとは思わなかっただけで。



 * * *



「では、次は萌子さんの縁結びの糸を繋ぎ直しましょう」

「萌子、頑張れよっ」

「えっああ、うん。大丈夫かな?」


 再び、鳥居の向こう側でスタンバイをし始めるククリ。さっきオレが儀式をした時と同じように、二拝二拍手一拝で祈りを捧げる萌子。後ろから、萌子の儀式が無事に終わるのを見守っていたが……どうやら異変が。


「あらっ……これは、どう解釈したら良いのやら……。采配結果、この世界で結ばれるべき縁は少なく、自らの居場所へと赴き縁を結ぶように……。ふむ」

「えっどうしたんだよ、ククリ。あれっこれは……」


 オレの時と同じように、糸のついた星を地図の上に散らばせたものの、糸が不思議なチカラで途中で消えていてその先が見えない。

 だが、萌子はなんとなく予想がついていたようで、『やっぱり……』と呟いた。


「萌子さん、あの……」


 まさかの展開にククリもやや動揺しているようだが、冷静な萌子に気を遣い余計なことを言わないようにしているようだ。


「うん……この異世界で繋げられる縁が少なくなっていることは分かっていたの。だって、縁結びで結ばれたはずのマルスが、アカウントBANされて消えちゃったし。ランターンさんに至っては、不定期にカボチャランタンになるから縁結びの対象として結ばれるかよく分からないし……」


「確かに、乙女ゲームで言うところの攻略対象だったマルスが、アカウントBAN騒動で消えているんだ。萌子の縁はアースプラネットでは結ばれにくくなっているのかもな。でも、マルスも無事みたいだしランターンさんも萌子のこと気にかけているみたいだし……。きっと、そのうち良い縁あるよ!」

「……ありがとう、イクト。それに、私自身もまだ気持ちに整理がついていないから。いきなり知らない人と縁が結ばれても、すぐに気持ちが追いつかないもの……。これでいいのよ」


 つい最近まで、消えたマルスを思ってあんなに弱り切っていたのだ。もしかすると、まだマルスのことが吹っ切れていないのかもしれない。いや、それだけじゃなく、いろいろと考え直したいのだろう。


「気持ちが追いつかないって、萌子……分かったよ。今は、ゆっくり休めよ! 旅立ちは来年の1月なんだからさ」

「……! そうする」


 縁結びの結果を、それぞれオレたち双子なりに解釈してみたが……ククリは萌子の結果に納得いかない様子。

 ずっと黙り込んで、別の空間へと繋がっている縁結びの糸をジッと見つめている。


 萌子のために用意された縁結びの糸は、マルスとランターンさんの分を計算に入れても数が数本多く、本来ならば出会うべき異性が複数人いたことを示していた。


 典型的な美少女だらけの【ハーレムRPGの勇者】であるオレ。そして、対になるイケメンだらけの【乙女ゲームヒロイン】になるはずだった萌子。

 だが、とてもじゃないが今の傷心気味な萌子が、イケメンに囲まれた逆ハーレムをエンジョイできるようには思えない。


 幸せの価値観は人それぞれ異なるし、萌子が1番幸せを感じる人生を選んでくれればそれでいい。


 結局、その後は新たな雇用先が決まったマリアたちとオレより早く旅立ちの儀式を行うレインの見送りスケジュールを決めるので精一杯となった。


「……ああ、分かった。じゃあ、来週……うん」


 全員と連絡を取り、来週の同じ日にそれぞれが飛空船乗り場から旅立つことになった。


「イクト、みんなの見送りスケジュール決まった?」

「一応は……。一旦、ゲートでギルドクオリアに戻って、飛空船乗り場でみんなを見送るよ。萌子も一緒に行くだろう?」

「うん、そうだね……。一緒にいろんなクエストを攻略した仲だもの! 私も行く」


 一旦、別の場所へ旅立っても、新たに出会い直せば良い。もう一度、仲間としてパーティーを組み直せると信じて旅立ちの日を待つ……それが、今出来る最善策だ。


 この時はまだオレたち双子が、コインの裏と表のような存在である本当の意味を理解していなかった。


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