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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第九部 魔獣と夜空の召喚士編
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第九部 第5話 幻惑の洞窟と精霊の試練


 卒業以来初めてとなる学園ギルド経由のクエスト。

 クエスト内容は、オレの妹である格闘家アイラの転職ポイントを貯めるための試練クエストだ。


 チーム内のメンバーが転職するのは、マリアに続いて2人目である。白魔法使いから賢者に転職したマリアの場合は、魔法職の初級職から上級職への変更であった。そのため、転職ポイントは通常のクエスト時にたまる白魔法使いのポイントを活用できスムーズだった。


 だが今回は、格闘家から魔法少女への転職という別系統の職業への転向だ。格闘職ポイントから流用できる部分もあるが、魔法ポイントを別に貯め直さなくてはならない。

 アイラは転職のため魔法少女育成機関で研修を受けており、今回はその最終テストと言っても良いだろう。


 一見すると手間がかかるように見えるが、物理攻撃と魔法攻撃の両方に長けたアタッカーになれるため、人気の転職ルートだ。



 ここで、今回のダンジョン攻略の順番を確認する。



【第一番目の試練】

 転職試練クエストその1……魔法職転向の洞窟。

 レベル30から50までの魔法系モンスターとのバトルがメイン。単純な作りではあるが、トラップにひっかかると中ボスとのバトルになる仕組み。

 討伐モンスターは全体的に物理攻撃が効きにくいため、魔法攻撃で倒すのがベスト。

 洞窟突破までに制限時間があり、夕刻までには突破をしてギルドカードにチェックを行わなくてはならない。



【第二番目の試練】

 転職試練クエストその2……休憩ポイントの活用。

 ダンジョン突破後のチェックポイントを兼ねている休憩施設。

 広めの屋外型キャンプスペースとなっていて、冒険者としてのアウトドアの実力を試すもの。

 実技内容は、テントの設置や冒険者向けの料理など比較的簡単だが、魔物除けの結界を張るなど魔法力が問われるものもある。

 この休憩スペースで一泊してから、最終試練へと向かう。スキルの確認や装備の再調整なども行いたい。



【第三番目の試練(転職最終試練)】

 転職試練クエストその3……大ボスの洞窟。

 レベル50前後のモンスターと戦いながら、最奥地の大ボスとのバトル。ボスと言っても、試練クエストのために雇われている試験官の魔族。

 公開情報が少ないため、万全を期して挑みたい。



 第一の洞窟の入り口で、クエストの概要を再確認。

 ギルドが用意した試練だから安全と言われている割には、不思議な光が満ちていてトワイライトゾーンか何かのようだ。透き通る淡い水色の天然石で囲まれた洞窟の入り口からは、吸い込まれそうな目映いオーラが漂っている。


 清涼感のある空気が洞窟内から吹き抜けてきた。心地よさそうに感じるがどうやらトラップの一種のようで、思わずMPが奪われそうだ。


「神々しすぎて聖職者の試練みたいだよな。あれっここって魔法少女の研修ギルドからの紹介のはず。洞窟を間違えたか?」

「……いえ、合っていると思いますよ。昔ながらの魔法少女と言うより、数年前から流行っている選ばれし女神系魔法少女のカテゴリーみたいですね」


 オレとマリアが洞窟手前で率直な感想会を開いていると、状況を察したエリスがサッと水晶玉を取り出してお払いをし始めた。


「光の中から、かすかに魔のオーラが辺りから漂っていますわね。念のため、全員聖水をかけてから突入した方が良さそうですわ。おそらく、MPを奪う効果が洞窟内にはあると推測できます。ミンティアさんは、どう思います?」

「うん、私もそういう気配を感じるよ。対策として順番に聖水を……」


 歩いているだけでMPが奪われるなんて、魔法攻撃しか効かないモンスターを相手にしなきゃいけないのにずいぶん大変そうだ。


「なんて言うか……想像しているよりもずっと苛酷そうな洞窟だね。ごめんね、お兄ちゃん……私が魔法少女になりたいなんてワガママ言ったから……」

 予想外の洞窟のオーラに後悔し始めているのか、俯きがちに謝るアイラ。


「ワガママなんかじゃないよ。うちのメンバーって回復役はいるけどバトル向きの魔法攻撃が足りないって初期から話し合っていたじゃないか? それでマリアも賢者に転職したくらいだし」

「そうですよ! それに、アイラちゃんが魔法攻撃を覚えてくれれば私も助かります」

 明るく振る舞い、アイラの気持ちを前向きにしようと励むマリア。戦意喪失してクエスト辞退じゃ洒落にならないし、ここは気持ちから強くならないと。


「ともあれ、安全を最優先で考えた方が良さそうですわね。危なくなったらリタイアも出来ますし、気にすることないですわ」

「うん、そうだよ。それに何かあったら、私が召喚魔法でみんなのことを守るから」

 優しくアイラを励ましながら聖水をアイラに振りかけてあげるエリス。そして、召喚魔法でみんなを守り抜くことを宣言するミンティア。


「なんて言うか、ミンティアは本当に変わったな……。パーティーメンバーの中での役割が、守られる側から守る立場へ変化していっているみたいだ」

「私だって、もうプロの聖女。イクト君のパートナーとしてふさわしい聖女になれるように、ずっと頑張ってきたんだよ。だから、アイラちゃんもみんなも安心してね」

「だってさ、良かったなアイラ。オレだって勇者としてだけじゃなく、兄として全力でアイラの助けになれるように戦うからさ」

「うん……本当にありがとう」

 クエスト開始直前だというのに、なんだかしんみりしてしまった。ここは、リーダーとして気合いを入れ直さなくては。


「何はともあれ、まずは第一番目の試練を夕刻までに突破することだ。じゃあ、ダンジョンにはいるぞ」

「ええ、行きましょう!」



 * * * 



 鏡のように透明に輝く壁面、カツンコツンと足音だけが鳴り響く。現在洞窟の内部を探索中。今のところは、モンスターとの遭遇はないが……?


「あらっ? この床……何かの魔法がかけられているみたいですわね。浄化魔法の一種かしら?」

「本当だ。小さなきらきらが靴の周りに……さっきの山道で付いた泥が無くなった?」


 見るからに潔癖な洞窟の内部は、想像以上の清廉さで靴に付着していた泥まで浄化されている。この洞窟にたどり着くまでの道中に、多少なりとも汚れていたはずの靴は今では新品同様だ。


「装備の汚れまで浄化されるのか。けど、なんて言うか……これって、早く突破しないと良くないんじゃないか? 装備品だけじゃなくて、オレたち自身も何か変化しているぞ。これ以上クリーニングされると……」

「このままだと、魔力や体力もすべて浄化されて、初期レベルまで戻っちゃいそうだね」

 ショートダガーを握りしめて、警戒態勢のミンティア。


「やな予感がしますね。もしかして、この浄化ってどんどんエネルギーまで奪い取るんじゃないですか? それで、程良く弱ったところで……」


 歩くだけでエネルギーを初期状態まで戻そうとする床。おそらく、マリアの推測通りチカラが低下してきたあたりに、モンスターが出てきそうだ。


「うぅっ。やだな……私、他のみんなよりHPが低いから、急がないと出口に着く前に倒れちゃいそう」

「幸い、もうすぐ第一層の出口ですわ。このままモンスターとエンカウントせずに済めば……」

 アイラとエリスの会話を遮るように、誰か話に割って入る。


【うふふ! エンカウントしないで済めばいいのにねっ!】

 

「? 誰か、何か言ったか? もしかしてシュシュ……?」

 虹鉱石のアクセサリーに収まっている小妖精のシュシュに尋ねるが『アタシじゃないよ?』との声。


 そういえば、出口は見えているのに一向に前に進んでいないような気がする。


 不審に思い、足を止める。

 今、目の前にあるこの景色は果たして本物なのだろうか? 見えている場所に、いつまで経っても辿り着けないなんて。


【あーあ……残念だわ。もう少し弱らせてから……と考えていたのにね】


「もしかして……この洞窟に足を踏み入れたときから、モンスターの幻惑の中に……? おいっ気をつけろっ! 来るぞっ」


 ドォオオオオッン!

 それぞれ武器を構えた瞬間に、突風が吹き付ける。砂埃が辺りに舞い、ようやく目を開けるとオーソドックスなゴツゴツした壁面に変化している。

 さらに廊下だと思いこんでいたところは、大きなコロシアムのような空間だった。

 浄化されていたと思いこんでいた装備品も元の状態に戻っている……が、HPやMPはすでに3割ほど消耗させられたらしい。


「なんだよ、これ。最初からこのコロシアムをぐるぐる回っていただけなのか? どうりで出口にたどり着けないわけだ」

「でも、まだ戦える体力は残っているよ。長期戦にならないように攻めていけば……」

 

【うふふ……いらっしゃい。久しぶりのお客様だから、たっぷりおもてなししようと思ったんだけど……もう気づいちゃったのね。聖水でも身に纏っていたのかしら? 勘の良いこと。じゃあ……行くわよっ】


 目の前に現れたのは、薄い水色の羽を広げた人間サイズの精霊が数体。そして多数の眷属達。 


 ドドドドドドッ!

 精霊の羽が鋭く尖り、飛道具のように魔法攻撃を仕掛けてくる。頬を突き刺す攻撃は想像以上に厳しい。


「くっ! 思ったより攻撃力が高いな。同時に手持ちのスキルの全体攻撃魔法を放って、眷属を速攻で片づけるぞっ。エリスは魔法防御壁でサポートしてくれ。ミンティアは召喚準備!」

 短時間で的確に指示を出し、すぐに呪文詠唱を開始。


「うぉりゃあああっ、必殺魔法連弾棍!」

 ダダダダッダンッ! 魔法力を秘めた棍を連続打ちする必殺スキルで、先ずは身近な敵をなぎ払っていく。


「いくよっ! シャボンマジック!」

「風のチカラよ……吹き荒れる魔風となれっ! ストームクラッシュ!」


 キュエェエエエエッ! 続いて、アイラとマリアが全体攻撃スキルで眷属を一掃。けれど、まだ本体ともいえる精霊が残っている。


「はぁはぁ……あと少し……」

 輪廻の棍を構えなおして、もう一度ボスのみに魔法連弾棍をぶつける準備だ。

「イクト君、準備できたよっ! いでよっ魔法召獣……!」

「私の格闘のスキルと魔法使いスキルの合わせた新技……はぁああああっ鮮烈魔法爆裂拳!」

「唸れ、輪廻の棍! 魔法連弾棍!」


 ゴォオオオオオオオンっ! ドッドドドドドドッン!

 オレ、ミンティア、アイラの攻撃が合わさり精霊の魔法急所を直撃……改心のヒット!


【……なかなかやるじゃない。いいわ。認めてあげる。けれどその……召喚士、まさか。いえ、気のせいよね……。どちらにしても、私たちのボスはこんなものじゃないから……】


 ミンティアの方をちらりと見て気になる台詞を残し、役割を終えた精霊は次元の隙間を抜けてあるべき場所へと還っていった。

 澄ました表情でショートダガーを鞘に収めるミンティアは、精霊のことなど気にも留めていない様子。


 すると、コロシアムの出口が自動で開き地上の光が差し込んでくる。そして、会場内のどこからか聞こえてくる監視役のアナウンス。


「おめでとうございます。第一試練、突破です!」


 リィイイイン……ゴォオオオン。

 勝利を告げる、ベルの音。



 満身創痍ながらも笑顔のメンバー……そして妹アイラの『ありがとう』のひとことに安堵する。だが、精霊が言い残したミンティアへの疑問が心の奥底で、インクのように染み渡るのであった。


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