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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第八部 学園卒業試験-迷宮攻略編-
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第八部 第20話 未知のバーサーカー


「イクト……戦いはもう、始まっているのにゃ!」


 まさかの先制攻撃からオレを救ってくれたのは、ケモ耳化が進んでいる双子の姉萌子だった。

 地面には、たたき落とされた魔法弾が虚しく白い煙をあげて焦げた匂いがあたりに舞う。続いて萌子は、魔法弾を放った悪霊めがけて、すばやくダッシュ。


「にゃぁあああああぁああっ! うぉにゃぁぁあああっ!」

 目にも留まらぬスピードという表現がぴったりであろう、素早い動きで間合いを詰める。悪霊が、反撃しようと呪文詠唱を始めるが、間に合うはずもなく……。


 バン! ザシュッ! 萌子の爪攻撃が改心のヒット!


「きゅえぇええええっ!」

 

 悪霊に7500のダメージ! 断末魔をあげて悪霊が倒れた。

 どうやら悪霊には物理攻撃が有効なようだ。生まれ変わったかのごとく、続けて次の敵をもなぎ倒す萌子のあまりの戦闘力の高さに、オレも他のメンバーも言葉が出ない。  


「……! 萌子さん、すごい。これまでも、女だてらに勇者を努めて立派だとは思っていたが、ここまでの戦闘能力ではなかった……。これがケモ耳化のチカラなのか……? いや、だが身体への負担は大丈夫だろうか……」


 賢者の杖を片手に補助呪文で結界を作りながら、ルーン会長が思わず呟く。ダーツ魔法学園内でも屈指の賢者であるルーン会長が、うなるほどの攻撃力を手に入れたという事だろう。しかし、不安な点もあるようだ。


「……まるで、バーサーカーみたいだね。もしかしたら、萌子ちゃんはすごい能力を呪いによって得たのかも……。ますます、呪いを解くのが惜しくなっちゃうなぁ。ボクに出来るのは、みんなが傷を気にせず戦えるようにこうして回復することかなぁ? 白の全体魔法……ヒール・オール・ブレスッ!」


 キラッ!

 

 強力な回復魔法が戦闘を継続するオレたちの身体を包み、絶え間なく傷をいやし続ける。さすが、最前線ギルドの白魔法使いといったところか。

 ツカサは性別不明な上に、何を考えているのか分からない謎の白魔法使いというイメージだったが、戦闘能力はすこぶる高い様子。器用に、全体回復呪文を毎ターンかけてくれる。


「萌子ちゃん、このまま本当にバーサーカーのスキルを取得しちゃったりしてね。私たちも頑張ろう! 召喚の声よ響け……我の名に従い悪霊の群をなぎ払え……!」

「ああ、そうだな……。お前らの相手はここにもいるぜっ! うなれ、精霊の棍!」


 ミンティアの召喚精霊が全体攻撃を放つと同時に、必殺スキルを叩き込む。


 ドドドドドッ! 

 魔法力を秘めた棍が、悪霊のコアを砕き……討伐完了!

 いきなりの先制攻撃で焦ったが、素早く反撃を開始したことにより形勢逆転し見事勝利を収めた。



『中級霊討伐クエストその1、達成確認しました。討伐数に応じてエレメントの取得が出来ます』



 スマホから、クエスト達成の確認通知が届く。初級クエストをこなそうとしていたのに、いきなり中級のモンスターに襲われたようだ。初級を飛ばして中級達成の称号がスマホに届く。


「はぁなんだか、びっくりしたな。拠点に戻って一旦作戦を練り直そう

 武器をしまい、一度拠点となっているテントに戻ろうとするが、萌子がなかなか動かない。まだ、敵が潜んでいないか気になるようだ。

 それに、息切れも激しい様子。大丈夫だろうか?


「萌子さん、大活躍だったね……一度戻るそうだよ」

 ルーン会長が萌子に話しかけるが、声が届かないのか、はたまた疲れているのかその場から動かない。

「萌子ちゃん……もしかして、自分でも能力がコントロールできていないのか? ほら、水だよ……?」


 同じくケモ耳化しているマルスが、萌子にペットボトルの水を差しだす。狼系のマルスよりも、激しい種族のケモ耳化なのだろうか?


「んっごくごくごく……にゃ、にゃ、はぁはぁ……にゃあにゃあにゃあ……」

 水を一気に飲み干したものの、まだ呼吸が整わないようだ。


「萌子、助けてくれてありがとう。一度拠点に帰ろう……」


 オレが動悸の激しい萌子の背中を優しくなでると、気持ちが落ち着いたようで、徐々に普段通りの萌子に戻る。


「……はっ! イクト、ルーン会長、マルスも……。私、なんだか戦闘になると興奮しちゃって。なんだろう? ケモ耳化ってもしかして、バーサーカーになることなのかなぁ?」


 しゅんと猫耳を垂れさせて、声色や表情も不安げだ。


「その話も、一度安全なところに戻ってからにしよう」



 いろいろあったものの、なんとか無事に合戦場での一戦目をクリアして拠点であるテントに帰還。状況を把握するために、戦闘データが記録されたスマホを受付に手渡してオレたちの戦闘能力を解析してもらう。


 俗に言うステータスというものを実際に数値化してもらえば、今のオレたちのスキルなどが判明するはずだ。


 いつもだったら、戦闘前にステータスを確認出来るのだがマルスと萌子がケモ耳化した影響で、きちんとしたステータスが取得できずにいた。戦闘を一度こなした状態なら、数値化出来るはずなのだが……。


「ステータス数値化を希望されている勇者萌子様……いらっしゃいますか?」

「えっはい、私ですにゃ……何かありましたかにゃ?」

「それが、特殊な呪いによるバーサーカーモードと判定されていまして……。数値化に多少時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

「やっぱり、バーサーカーモードでしたか……分かりましたにゃ。引き続き、解析をお願いしますにゃ」

「了解しました。バーサーカーは未知のスキルですので、万が一のことを考えて、本日は戦闘を終了して、また明日から参戦して下さい。それまでにデータ解析を終わらせておきますので」


 受付に呼ばれていた萌子が、とぼとぼとオレたちのテントまで戻ってきた。


「にゃあ、バーサーカーは未知のスキルだから解析に時間がかかるから、ステータは明日になるって……。万が一のこともあるし、今日はもう戦闘を終了して、お休みにするようにとの事にゃ」

「そっか、今日は一戦目からだいぶ無理したしその方がいいよな。お疲れさま、萌子」


 しょんぼりする萌子……やはり、バーサーカー状態であったことが気になるのだろう。ステータス判明は明日にお預けだし、今日は鋭気を養う事に……。



 手分けして本日の調理を行い、ビーフシチューと保存パン、そして焼きたてお肉でご飯タイムだ。このビーフシチューのレシピは、犬耳族のココアからもらったもの。探索のみならず、テント生活でも役に立つそうで合戦のために、メールでレシピを送ってくれた。


 ちなみに焼きたてジューシーお肉は、お隣のテントの冒険者からシチューと交換してほしいとの申し出でもらったもの。どうやら、このビーフシチューは冒険者の中でも人気のメニューらしい。



「ほらっ萌子ちゃん、ビーフシチューが出来てるよ! 隣のテントのチームからシチューとの交換で焼きたてお肉をもらったんだ。みんなで一緒に食べよう」

「にゃ、マルスありがとうにゃ」


 同じくケモ耳化しているマルスが、いつも以上に萌子に気を使っている気がする。


 何となく、バーサーカーについては話しづらくて、オレからも他のメンバーからも話題を出さないようにしていた。シチューのルーと共にトロリと煮込まれたお肉を味わい、ごろりとした野菜が身体に染み渡る。交換で分けてもらったジューシーお肉もなかなか美味で、体力を付けるのにちょうど良いだろう。


 夕食後、萌子はずっとスキルについて気にしていたようでぽつり、ぽつりと、バーサーカーについて語りはじめた。


「にゃ……もし、このバーサーカーのスキルを使いこなせれば……。今よりも戦闘に役に立つのかにゃ? でも、ずっとケモ耳化するのも……どうにゃんだろう?」

「聞くところによると、バーサーカーのスキルはうまくスキルを結晶化出来れば人間でも使いこなせるそうだ。だから、無理してケモ耳族になる必要はないと思うよ。それに、萌子さんの身体が大変なら、このスキル自体にこだわる必要もないんじゃないかな?」


 博識なルーン会長が、スキルの結晶化について萌子に語る。つまり遠回しに、ケモ耳化の呪いを解くルートを勧めているのだろう。


「そうだよ、萌子は今までだって強かったじゃないか? 戦闘だけじゃなくていろいろな面でさ。だから、変わる必要はないよ」

「イクトもルーン会長もありがとうにゃ……」


 バーサーカー……戦闘に長けた特殊な種族名である。また、それに準ずるスキルを操る者も総称としてこう呼ばれる。

 理性を失うほど戦い続けるのが欠点とされているが、もし、バーサーカースキルを萌子が使いこなせれば、これまでよりも戦闘で格段に有利だろう。


 でも、使いこなせなかったら……? 


 やはり、変な欲をかかないでこのまま魔法力のエレメントを集めて、猫神様に呪いを解いてもらうのがベストだろう。


 傷の手当てや武器のメンテナンスを行い、キャンプエリアのシャワールームで汗を流すと気がつけば夜。男女別に就寝場所を分けるため、萌子達は新しく設置したテントに移ってしまった。

 なお、性別不明と思われていた男の娘のツカサが、正真正銘男性だったことを確認。ツカサの就寝場所は、オレたちと同じ男性用テントだ。明日は再び、合戦場の討伐クエストである。



 ほんのりとした三日月が見守る中、ひとときの眠りについた。



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