第八部 第12話 古代の稀少鉱石
かつん、かつん、ごつん、こちん!
今日も発掘現場には、炭鉱夫達の作業する音や声が鳴り響く。炭鉱夫達は、オレと同じ人間族もいるが種族の多様さが特徴だ。
現場をまとめる埴輪族や手練れのドワーフ族、探索役として炭鉱に関わることの多い犬耳族など種族や年齢の隔てなく、みんなで協力して作業に励む。
「新しい鉱石、入りまーす。トロッコに乗せました!」
「トロッコ、出発は五分後ですハニ!」
がらがらがら……ごろごろ……。
大まかな種類別にボックスに分けてトロッコへ。現場の雇用人数は多いが、オレと同じく冒険の途中に立ち寄り素材集めをかねてバイトをする者もいるらしい。
「ふぅ……ちょっと休んで水分補給するか」
ごく、ごく、ごく……ペットボトルのスポーツドリンクを体内に流し込み疲れを癒す。不思議なくらいよく吸収される……よっぽど水分が不足していたのだろう。自己管理に気をつけなくては。
「おお、イクト君だっけ。だいぶ慣れてきたね……キミが冒険者でなければ、ずっとここで発掘作業をしてほしいけど……まぁ仕方がないね。MP回復の鉱石は採掘できたかい?」
「はい、さっきようやく……。トロッコで、仕分けコーナーに送ってもらいました」
「じゃあ、ひとまず目的は完了だね。他にもいろんな鉱石があるから、ちょっと場所を変えて発掘すると良いものが取れるよ。ほら、あのコーナー……レア鉱石が多くてね。おすすめだよ。それじゃあ」
「レア鉱石かぁ……行ってみます。アドバイスありがとうございます」
休憩スペースで水分補給をしていると、ドワーフ族の熟練炭鉱夫さんからアドバイスとねぎらいの言葉をもらい、再び現場へ。ココアを呼び、一緒にレア鉱石が取れるというエリアへと移動する。
「今日で最後なのが、ちょっぴりもったいないですワン! でも錬金素材がゲットできて、ひと安心ですワン」
「ははっ食事も美味しいし、名残惜しいけどな。まだ、時間があるしレア鉱石に挑戦してから作業を終わらそう」
入れ替わりの激しい職場だが、炭鉱夫向けの美味しい食事や便利なシャワールーム、就寝スペースが提供されることもあり人員が途切れることは無いそうだ。
日常的に扱われる魔法石からレアものとして市場で取り引きされるものまで、幅広く採掘できるため精算が取れるとのこと。
熟練ドワーフさんおすすめのレア鉱石現場に移動して、ピッケルをふるう。何かいいものが取れるといいんだけど……。
レアがよく取れるという場所で、テンポよくピッケルをふるうといくつかきらりとした輝き。
「おっ赤い鉱石に、紫色の鉱石……今まで見なかったやつだよな」
「それは、たぶんレア度の高いものですワン!」
なかなか、良さそうな場所だ。作業を続けよう。
かつん、かつん、こつん、かつん……ガチン!
高レア度の場所へ移動してから一時間ほど経った頃。
ころん……と、ひとつの鉱石の塊がうまい具合にオレの手元へと転がるように発掘できた。わずかではあるが、土や石におおわれたその鉱石からは虹色の美しい輝きが見え隠れしている。
まるで、よくオレ達が利用しているガチャの虹レアアイテムそのもののような輝きである。
「何だろう? よくガチャのイメージポスターで見かけるような虹色だなぁ。なぁココア、この鉱石なんて種類か分かるか?」
「んっ何か出てきましたかワン? っ! こ、この鉱石は……! その虹色のものだけこの袋に納めて、大事に持っていて下さいワン。そろそろ時間ですし、他のレア鉱石をボックスに納めて……とにかくトロッコで移動するワン」
新たに採取した鉱石を専用ボックスに納めて、トロッコへ。
がらがらと台車に乗せて鉱石がたんまり積まれた重いボックスを運び入れると、仕分けコーナーで働くアズサとシフォンが手を振っている。
「イクト! お疲れ。あたし達も今仕事終わったところだぜっ」
「ちゃんとMP回復鉱石も発掘できていたわよ。これで錬金出来るわ。良かったわね。あら……その鉱石は?」
ボックスに納めた他の鉱石とは異なり、虹色の石がちらりと見え隠れする鉱石は、ココアのアドバイスで皮の袋に大事に納めている。発掘した者の中でも、特に大事そうに見えるのだろう。
「へぇ……この鉱石って、よくガチャの宣伝ポスターとかで見かけるやつだよなぁ。もしかして、すごいの掘り当てたんじゃないか?」
「選別専門の埴輪さんがいるから、訊いてみたら?」
早く早く、と急かされて選別室へ。
選別室には、鉱石の学術書や鉱石のサンプルがところ狭しと飾られており、鉱石の研究室といった雰囲気だ。
「よくきたハニね。選別ハニか? 見せてみるハニ」
片側のみの眼鏡……『モノクル』を身につけた選別専門の埴輪さんに、虹色の鉱石を見せて選別を依頼……すると。
「むっ……この鉱石は……レア鉱石なのは確かかもしれないけど、中身まではまだ分からないハニね。専門装置を持っている施設に依頼しないと……」
選別埴輪さんが顕微鏡や魔法を駆使して調べるも、分からず……。専門の装置が必要なのか。でも、中身とはいったい?
「中身、施設……? 何か特別な鉱石なんですか?」
「レア鉱石は、種類によっては武器防具が封印されているものや精霊が封印されているものがあるハニ。虹色の鉱石は、中になにが入っているか分からないからガチャのポスターとしてよく使われているハニよ」
大事にするハニ……と、虹色鉱石が返却される。
「なるほど、これ自体がガチャアイテムのようなものか」
「古代人は、これらの鉱石に大切なアイテムをしまってかくしておいたのハニ。古代のガチャアイテムハニね。施設に依頼できるように書類を書くハニ。明日の早朝、発つといいハニ」
いそいそと書類の作成に取りかかる選別埴輪さん。盛り上がっている最中だが、ふとシフォンが思い出したように呟く。
「施設までは、どれくらいの距離になりそうかしら? 私たち迷宮クエストの最中だから、かかる日数によっては鑑定に立ち会えないかも……。でも、イクト君が発掘したものだし中身が気になるよね」
「ああ、それなら心配いらないハニ。鉱石施設は中間層にあるから、迷宮クエストをしているならそのままのルートで進めるハニ。トロッコに乗って行けるから徒歩よりも安全で楽ハニよ」
トロッコで、中間層まで進めるルートがある? 炭鉱に入ってから研修期間含めて既に4日目だし、そろそろルートを急ぎたいところだったから嬉しい情報だ。
「本当に、トロッコ使ってもいいんですか?」
「許可書を出しておくハニ。そうだ、他の稀少鉱石も中間層まで一緒に運んでくれればアルバイトとして、片道だけトロッコが使えるハニよ。激短1日バイトとして追加しておくから……」
まさか中間層までの直通ルートをアルバイトという形で確保できるとは……。この炭鉱に立ち寄って良かったというものだ。
「嬉しい! ありがとう埴輪さん!」
「中間層の町まで行ければ、本格的な錬金が出来ますワン!」
次の日の朝、稀少鉱石をボックスに積み込み、クエストメンバー全員で電気トロッコに乗り込む。ちなみに選別係の埴輪さんも一緒である。
「この鉱石の中にはなにが入っているんだろうね。中身が分かるのが今から楽しみ! 高い魔力を感じるし……きっと良いものだよね」
虹色の鉱石の魔力を感じ取っているミンティア……召還士のミンティアが敏感に魔力を感じ取れるということは、中身はもしかして……。
「稀少鉱石を乗せて、中間層まで出発だっ!」