第八部 第10話 激戦、そして炭鉱ライフ!
召還精霊獣と巨大兵士。
ぶつかり合うふたつの魔力が、衝撃波となって室内を覆う。魔力で作った防御壁の内部で身を守っていても、振動が身体を揺さぶった。
グォオオオン! 砂埃が天井まで上がり、巨大兵士がガクンッと膝をつく。
「攻撃モード、解除! 充電のためしばらく沈黙します」
古代文明の遺産と噂の巨大兵士……どうやら充電が必要な仕掛けだったようで、兵士は一旦戦うチカラを失ったようだ。
「きゅぅうううんっ」
役目を終えた召還精霊獣は、再び時空の裂け目に戻っていった。
「やったのか……? 動かなくなったけど……。ミンティア、大変だったな。しばらく休んでいた方がいいぞ」
「うん、イクト君ありがとう。でも、あの巨大兵士……充電って……きちんと倒せていないって事?」
巨大兵士は動かなくなったものの、充電というキーワードが気になってしまい、むやみやたらに動くことが出来ない。召還精霊獣を呼び出したミンティアも疲れているのか、ひと呼吸して魔力回復モードだ。
「まってね、今サーチするから……観察魔法!」
シフォンが再び観察魔法で、巨大兵士の様子をサーチ。オレ達の冒険者スマホにも、シフォンが取得した巨大兵士のデータが表示される。ずいぶん便利な魔法だ。
【巨大兵士ステータス】
HP:5000/7500
MP:100/150
弱点:鎧攻撃モード時のみ光属性
物理耐性:鎧攻撃モード時耐性あり、通常攻撃モード時打撃が弱点
「あんなに強力な召還精霊獣の攻撃を受けても、まだ5000もHPが残っている。あれっ通常攻撃モード時は、打撃攻撃が効きやすいのか……ってことは、棍で叩けば……」
オレが、スマホのデータから策を練っていると、再びギギギ……という機械音。
「どうやら、おしゃべりしている余裕はなさそうだな。イクト、第二ターン来るぜ!」
アズサが、星5激レア装備であるファンタジックソードを構えて、応戦体勢に。マリアも再び、防御呪文の詠唱を始める。
ぴかっ! 巨大兵士の目が再び赤く光り、バトルモードに移行。だが、初期の鎧攻撃モードと異なり、いくつかの装甲が剥がれているせいで防御力は極端に下がったようだ。
オレは装備武器を、さっきまでのロングソード・改から本来の得意装備武器である棍に切り替えて、ぎゅっと握りしめた。装備錬金で完成した精霊の棍は、魔法力をまとった攻撃を放つことが出来る新装備だ。
打撃武器のみ弱点ということは、打撃武器でとどめを与えるのが一番有効である。だが、現在のメンバーで打撃武器を装備しているのはオレのみ。
「剣にはこういう以外にも使い道があるんだぜっ! くらえっなぎ払い!」
ザシュッ! アズサが剣を凪払うことで衝撃派を生み、剣で直接巨大兵士に触れずに体力を削いでいく。剣技を応用したアズサの上級スキルだ。
「今、援護魔法を……風の精霊よ……エルフ剣士に速度の加護を!」
「サンキュ! シフォンッ」
アズサを援護するためにシフォンが素早さをあげる補助呪文を詠唱。いくつかの戦闘をこなした影響か、連係が整ってきたようだ。
「グォオオオオンッ!」
もう一度、鎧攻撃モードに変換される前に決定的な攻撃を与えなくては……。
仲間たちが敵の体力を削っている間にオレは、精霊の棍を手に炎系の攻撃魔法を詠唱。棍に魔法力のエネルギーが溜まり、攻撃準備完了。
……今なら、いける!
ダン! 巨大兵士との間合いを一気に詰める。一直線に、相手に向かい必殺棍スキルを連打。
「喰らえ! 炎の乱れ突きっ」
ドドドドドドドッ! ダン!
巨大兵士の動力源となっている腹部を集中的に突いて……。
改心のヒットッ!
ズガァアアアアン! がたん、がたんがたん……。かくかくと音を鳴らして、巨大兵士の内部から煙が立ち始める。
ぷしゅぅー! 目から光が消え壁に背をあずけるようにして、巨大兵士は動きを止めた。
「グォオオン! ピーピー、活動能力低下……戦闘モード完全解除。修復のため数日間活動を停止……」
今度こそ、やったか?
数日間活動を停止するということは……。様子を見ていると、スマホから軽快な電子音とともに中ボス討伐完了確認の文字。さらに、迷宮内のどこからか音声が聞こえはじめた。
『冒険者の勝利を確認、炭鉱の入り口を開きます!』
ゴゴゴゴゴゴッ……オレ達が戦っていた方向から見て左側に設置されていた石像が輝くと、センサーに反応するかのように左側の壁がスライド式に開く。
『ようこそ、地下迷宮炭鉱エリア10へ……勇者イクト一行に入場許可がおりました! 手続きを済ませて下さい』
「やったね、イクト君。これで炭鉱の中に入れるよ」
「あとは、鉱石を発掘して錬金ですワン! 頑張りましょうワン」
激戦でチカラが抜けてしまっていたが、仲間たちに促されて一緒に炭坑へ。入場ゲートの埴輪に、虹レア迷宮チケットを見せてゲート内に入場。
「いらっしゃいませハニ。見学ですか? それとも、アルバイトさんハニか?」
ふと、見ると受付では新人募集の求人広告がぺたぺたと貼られている。そうか、見学者とアルバイトさんはここでコースが分かれるのか。
【アルバイト募集! 未経験者大歓迎】
激短コース1日……体験炭鉱ライフ。
初心者コース3日……錬金希望者に最適、炭鉱初心向け。
中級コース1週間……炭鉱で、ある程度のお金を稼ぎたい方に!
上級コース……長期間の炭鉱コース。発掘のプロを目指す方におすすめ。
すべてのコースに、美味しい炭鉱弁当がつきます。安い費用で宿泊可能。
「へぇコースがいろいろあるな。オレ達の目的は錬金だから3日コースで……」
「3日コースですね。おや、あなたたちはあの中ボスを倒して入場したんですか? ほう……。これなら、発掘もはかどりそうハニ! 新人さんは奥で研修を受けてからお仕事ハニ。とりあえず研修室へ行くハニ」
「えっ研修室? 分かりました」
受付の埴輪から、安全用の装備を手渡されてすっかり炭鉱仕様に。
そんなわけで、荷物をロッカーに預けて装備変更!
安全用ヘルメット(ライトつき)、作業着、安全手袋、安全靴。
「研修の方達ですね! 炭鉱を円滑に進めるには健康維持が大事ですハニ。美味しい漬け物つきの炭鉱弁当で、鋭気を養ってほしいハニ」
頭のピンク色のリボンが印象的な、少女らしい埴輪から炭鉱弁当を受け取る。研修担当の埴輪がオレ達のデータから作業場を決めている間に、テーブル席で弁当を食べてほしいそうだ。
炭鉱弁当は、白いごはん・梅干し・鶏そぼろ・卵そぼろ・野菜たっぷりの漬け物。漬け物の量が多く、漬け物弁当と呼んでもいいだろう。飲み物は麦茶。
「漬け物がたくさん……美味しいそうだな」
「ワン! 炭鉱は漬け物などでナトリウムを摂取してから作業しないと、倒れる方が居るんですワン。しっかり食べるのワン」
「しょっぱいけど、美味しい! 疲れが取れるね」
遅めの昼食後は、ついに研修本番。
「イクトさんと犬耳族ココアさんは、炭鉱で発掘担当。マリアさんとミンティアさんは医療班で治療作業。アズサさんとシフォンさんは、仕分け作業となります。頑張るハニ!」
どうやら、スキルや得意魔法によってバイト先が異なる模様。だが、一応全員安全装備をしているあたり、本格的な炭鉱である事を実感する。
「イクト君とココアちゃん、発掘頑張ってね。私とマリアさんは医療のお手伝いをしてくるから!」
「よしっあたしとシフォンは仕分け作業だな。エルフ族特有の目利きをみせてやるよ! またな」
「おう、みんなも頑張れよ!」
いざ、炭鉱ライフ!