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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第八部 学園卒業試験-迷宮攻略編-
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第八部 第3話 犬耳族の探索案内人


 ダーツ学園長が大昔にクリアした以降は、ここ数十年誰も突破したことがないという超難関迷宮のチケットをガチャで引いてしまったオレ。卒業試験である迷宮攻略は絶望的かと思いきや神官エリスの占いにより、攻略の鍵は犬耳族が握っていることが判明した。


「犬耳族のような腕の良い探索役がいれば、虹レア級であっても攻略可能です。ふぅ……久しぶりにかなり集中して占ったので少し疲れました……」

「ありがとなエリス。おかげで、迷宮攻略のヒントが分かったよ」


 正当な神官一族と伝説の勇者の血を引くエリスは、オレたちギルドメンバーの中ではかなりMPが高いはずだが、どうやら魔力が尽きてしまった様子。迷宮攻略のヒントを探るために、高レベルな占いの呪文を唱えたのだろう。

 お礼に魔法力回復のドリンクを差し出すと、にこっと笑って清楚な小さな唇で上品にドリンクを飲み始めた。まるで、女性向け栄養ドリンクの宣伝シーンのようである。


「はぁ……おかげでMPが回復しました。このドリンク、フルーツ味でおいしいですね!」

「ああ、気に入ってくれて良かった。犬耳族の助けさえ借りられれば、迷宮攻略が出来そうだな」


 水晶に映る若き日のダーツ学園長と犬耳族の若者、迷宮攻略記念の写真のようだ。超難関迷宮を攻略したダーツ学園長が犬耳族とタッグを組んで迷宮を攻略したということは……つまり犬耳族のチカラを借りるのが、迷宮攻略の肝なのだろう。

 幸い、すでに犬耳族の錬金職人の少女ココアという顔見知りが居るし、うちのメイドのミーコとココアは親友である。腕の良い探索案内役を、知っているかもしれない。


「困ったときは、エリスの占いか風水ですね、やっぱり! 犬耳族の知り合いも既に居ますし、偶然ですが今年は戌年ですし、なんだか縁起が良いですよ!」

 相変わらず占いや風水に凝っている賢者マリアも、良い結果が出せて満足そうだ。


「犬耳族に探索案内役を頼めば、超難関迷宮でも危険なトラップに引っかからないで済むって事? 良かったね、お兄ちゃん。私、小学生だから今回のクエスト、年齢制限で参加できないし心配だったの……クリアできそうで良かった!」

 オレの卒業試験に協力できないことを気にしていた様子の妹アイラがほっと胸をなで下ろす。

「にゃあ、犬耳族のココアに早速メールで連絡しておきましたにゃん!」

 ミーコがココアへのアポをすぐにしてくれて、さすがプロフェッショナル猫耳メイドという手際の良さだ。


「よし、準備も出来たし……今から出発だ!」



 クエスト用の移動ドアをくぐり、犬耳族ココアの住む町にわずかな時間で到着したオレ達。


 今回の訪問メンバーは、オレ、ココアの友人であるミーコ、水晶占いを行った本人であるエリス、多種族の事情に詳しいエルフ族のアズサ、そして迷宮攻略に参加が義務づけられているパートナー聖女のミンティアだ。

 卒業試験には年齢制限で参加できない妹のアイラと、転職してそれほど時間が経っていないマリアは今回待機となった。マリアは、待機時間を利用して迷宮攻略まで間に合うように、ひとつでも多くの賢者呪文を修得するそうだ……心強い。


 それに……ちょうどココアに依頼していた武器錬金装備の様子も見たかったし、タイミングが良かったと言えるだろう。



「うっ寒いにゃん! あったかいコートを着てきて良かったにゃん」

「本当……今年は、どの町も寒さが厳しいようですわね……」

「びっくり! 見て、息がこんなに白く……」

 ふるっと身を震わせるミーコ、白い息を見て驚くミンティア、寒さを実感する面々。


 久しぶりに訪れる多種族が集まる異世界の町は曇り空で、ぴゅうっと冷たい風が頬を撫でる。オレ達の住んでいる地域同様、冬の寒気が到来していた模様。しかも、歩道には雪かきの跡があり、結構最近まで積雪があった名残が見受けられる。

 犬耳族の住人とすれ違う度に、あの人探索役が出来るのかなぁとか思ってしまうあたり、今のオレは卒業試験の迷宮クエスト攻略で頭がいっぱいなのだろう。人の多い大通りを抜けて、目的の武器防具錬金工房を目指す。


「えっと確か、ここの道をまっすぐに……あった!」


 カランコローン! 

 ドアを開けるとベルが鳴り、店番をしていたココアがオレ達を出迎えてくれる。ポニーテールの頭部から覗く焦げ茶色の犬耳、ココアが犬耳族であることを示している。店内は暖房が利いているようで、心地の良い温度だ。


「にゃあ! ココア久しぶりにゃん」

「いらっしゃいませワン、みなさん! ミーコちゃんも来てくれて嬉しい! 実は……虹レア迷宮のことを話したら、おばあさまがイクトさんたちからお話を訊きたいって……奥の工房で待ってます。案内しますワン」

「おばあさま? ってこのお店の店主さんだよね……なんだろう」


 店番を弟だという犬耳族の少年に任せて、上質の剣や革の鎧がならぶ通路を抜けて一緒に奥の工房へ……。


 ここの工房には、装備品の依頼で何度か訪れているが、店主さんであるココアのおばあさまに会うのは実は初めてである。

 店頭にはまだ出ていない新作の武器防具や鉱石のかけら、革のはぎれなどが保管されている奥の部屋では、ギシリと揺れるロッキングチェアに腰掛けた女性の後ろ姿。赤いケープを肩に掛けており、頭部にはココアとおなじ色の犬耳が……あの人がココアのおばあさまか……。

 オレ達の気配に気づき、立ち上がりくるりとこちらを向くと、ココアを大人の女性にしたような美女が優しく微笑んだ。


「おお、よくきてくれたのう。勇者イクトご一行……いつもココアがお世話になっておりますワン……はじめまして、祖母のメイプルですワン。ミーコさんからのメールに犬耳族の情報があったと訊いて、お話を聞きたくなりまして……。まぁ立ち話も何ですし……向こうに食事スペースがありますので……」

「はじめまして……えっえっ? ココアのおばあさま……ですよね。お母さんとかお姉さんの間違いじゃなくて……?」


 あまりのおばあさまの若々しい姿に混乱するオレ・ミンティア・エリスの3人。一方で、平然とおばあさまに挨拶をしている猫耳族のミーコ……すかさずエルフ族のアズサがオレ達に解説をし始める。


「ああ、イクト達は年齢の高い異種族に会うのは初めてなのか……普通の犬とか猫って見た目年齢不明だろう? それと同じで獣人族って年齢不詳の外見っていうかさ……あんまり見た目年齢が変わらない種族なんだよ。エルフもそうだけど、獣人族は特に若く見えるからな! まぁ驚くのも無理がないか」


 そういうことか……何となく納得するオレ達。


 種族間の差を実感しつつ、食事スペースへ。普段は職人さんが休憩するための場所らしいが、今日はたまたま炉のメンテナンス日だったそうで、空いていたそうだ。


「よかったら、夕食を食べながらお話を……ビーフシチューを作っておいたのですワン。つい癖で職人さん達の分も作ってしまったのだけど、イクトさん達が来てくれたから良かったワン。これもおじいさんのお導きかしらね……虹レア迷宮を攻略してから……もっとすごい迷宮を探しに行くってそれっきり……行方不明の……」

「虹レア迷宮攻略のあと行方不明……えっおじいさんって……まさか……」

 

 あのダーツ学園長と一緒に映っていた犬耳族の若者は、ココアのおじいさま……? 因縁を感じつつ、虹レア迷宮攻略についての会議兼食事会がスタートするのであった。

 


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