第七部 第25話 萌子のお嬢様寄宿舎ライフ
図書館の番人による、人生のトラウマを巡る魔法の影響で萌子たちバトルメンバーは、自らの地球時代の記憶を旅することになった。
実は、勇者イクトの双子の妹ではなく、双子の姉だった萌子は中学受験で地方の超お嬢様学校に見事合格する。
「イクト、アイラ……私、結崎家の跡継ぎにふさわしい立派なレディになってみせるね」
意気揚々と新幹線に乗り、両親とともに地方のお嬢様寄宿舎学校の入学式へと向かう萌子。
駅のホームで、遠ざかる新幹線を見送りなんだかしんみりとしてしまう。こんなことも地球時代は、あったんだっけ……。
「萌子お姉ちゃん、行っちゃったね……うぅっひっく寂しいよぉ」
「アイラ……でも萌子の、あの嬉しそうな顔見たら、引き留めることなんてできないよな……」
「イクト君、アイラちゃん、寂しいだろうけど……萌子ちゃんも頑張ってるのよ。アイラちゃん泣かないで……そうだ、今日は私が美味しいチーズフォンデュを作るわ」
「えっチーズフォンデュ……嬉しい、私大好きなの。エステルお姉ちゃんありがとう。じゃあ、早く帰ろう!」
萌子の入学式に出席するため地方へと行ってしまった両親に代わり、下宿人の女子大生エステルお姉さんが、保護者役だ。
エステルお姉さんは、海外から日本に留学中の金髪碧眼の美人女子大生で、英語の家庭教師もしてくれている。萌子が超お嬢様女子校に合格できたのも、オレが地元の公立中高一貫学校に合格できたのも、エステルお姉さんの英語教育の賜物だろう。
優しいエステルお姉さんになついているオレたちは、すっかり元気になって楽しい夕飯を過ごした。
(んっエステルお姉さん? あれっオレの守護天使もエステルじゃなかったっけ? でもエステルは、あんなに大人のお姉さんじゃないし……他人のそら似か?)
すっかり忘れていた地球時代のメモリーに登場する人物たちに不思議な既視感を覚えながらも、萌子のメモリーの続きを見守ることにした。
そんなわけで、ここからは萌子の超お嬢様寄宿舎ライフの記録である。
私、結崎萌子! 双子の弟が女アレルギーと言うこと以外は、どこにでもいる普通の美少女……だったんだけど、超お嬢様寄宿舎学校に進学することになったんだ。やったね!
地方の広大な敷地、洋風のすてきな校舎、おとぎ話のような可愛らしい寄宿舎、テニスコートに大型プール、校内には美しい花々、教会系の学校らしく聖堂も立派だ。まさに……お嬢様のすべての憧れがそこにある……。
厳かなムードで、入学式が無事終了し気づけば夕方。両親が東京へと戻る時間になった。
「こんな素敵な学校に進学できるなんて夢みたい……小さい頃から毎週日曜日、教会に通って神様に合格をお願いして良かった! ありがとう、お父さん、お母さん! これから、六年間ここで頑張るね」
「そうね、萌子。まさか、普通の家庭からも、こんな伝統校に合格できるなんて……神父様も喜んでいたし……きっと神様に願いが通じたのね。これからは、ひとりで頑張らなきゃいけなくなるけど、大変なときはいつでも電話をしてきなさいね」
「お父さんもお母さんも、いつも萌子のことを思っているからな」
運の良いことに、萌子はクラスメイトにも恵まれ、先生はちょっぴり厳しいけれど思いやりがあって、寄宿舎のご飯は美味しくて、規則正しい生活にも慣れ、教会で日課のお祈りをして過ごして……すべてが順風満帆に思えた。
(なんだ、萌子ってすごく人生順調じゃん……どこにトラウマあるんだろう? 人間関係もすこぶるいいし……なにが不満なんだ?)
次第に少女たちは、大人の女性へと成長していく……すなわち恋へと興味がわいてくる年頃だ。
だが、ここは女子校……素敵な王子様との出会いは卒業後にお預けである。それまで、立派なレディになれば良いだけ……。
そんな思いから、萌子は恋へのあこがれを消化すべく、次第に携帯猫にゃんゲームに没頭していくのであった。
「らんらんらーん! 授業も終わったし、今日はどんな猫にゃんクエストをしようかなぁ。あっ新しい、猫にゃん武器のクエストがダウンロード出来る! Wi-Fiコーナーに行って、はやくダウンロードしちゃおうっと」
楽しさ全開で、Wi-Fiコーナーに向かう萌子……だが、そこである衝撃的な出来事が……。
「あれっおかしいな……ひとだかりがこんなに……なんだろう?」
【校内での携帯ゲーム機使用禁止のお知らせ】
最近、携帯ゲームに没頭する生徒が増えています。勉強に支障がでるとの意見を尊重し、本日よりすべての携帯ゲーム機を没収することになりました。
膝をつき、泣き始める生徒、愕然として声すら出ない様子の生徒も……。
「えっ禁止? 没収? 嘘でしょう! 私、今日からなにを楽しみに生きていったらいいの? 猫にゃんゲームだけが私の生き甲斐なのにっ」
「結崎さん、あなた……猫にゃんゲームにはまっていたわね。可哀想だけど、猫にゃんクエストをやるのは今日で最後よ」
「えっやめてください! みけ猫にゃんも、ぶち猫にゃんもまだレベルが……」
「猫にゃんゲームなら先生がちゃんとクリアしてあげるわ……あなたの猫にゃんたちのことは先生に任せて、安心して勉強なさい!」
「ほら、画面の中の猫にゃんたちも、こんなになついて……」
『にゃーん! 先生の作る猫にゃんごはんウルトラレア猫ごはんなのにゃー』
「うそでしょ……みけ……ぶち……そんなバカなっ」
まさかの猫にゃんたちとの別れ……。萌子の手元にあるデジタル機は携帯電話だけ……。絶望の淵に落ちた萌子は、心を慰めるためにガラケーからスマホに機種変更をする。
「らんらんらーん! スマホっスマホっいろんなアプリがいっぱい!」
スマホはどんどん進化し、いつしか、スマホゲームなるものがブームとなった。携帯ゲーム機は没収されたが、スマホは禁止されていない。
萌子は校則に違反しないようにしながらも、再びゲームに没頭していく。
「スマホRPG……おもしろいけど、あんまり遊んでいるのがオープンになると、また禁止されちゃうかも……こっそり遊ぼう……あっ新しいアップデートだ……どうしよう……Wi-Fiコーナーに行かなきゃ……」
萌子は、他の生徒たちが自習で忙しい時間を見計らって、こっそりWi-Fiコーナーへ。すると、学園で一位の成績を誇る美少女生徒会長と出くわしてしまう。
「おや? キミは確か……東京出身の……結崎さんだったね……一学年下の……Wi-Fiを使いたいのか? ここの席が空いているぞ! おや、そのアプリは?」
「はっルーン生徒会長! 違うんです……私、その別に……あのっ」
(どうしよう、ルーン生徒会長みたいな超エリートに、私がスマホRPG依存症だということがばれてしまったら……)
すると、タイミング悪くWi-Fiコーナーに先生が現れる。
「こらっあなたたち! まさか、ゲームを……」
「いえ、この学習アプリをダウンロードしようと……結崎さんにも教えてあげていたので」
「あら、ルーンさん……生徒会長のあなたが一緒なら安心ね。ごめんなさい……もう休む時間よ。また明日になさいね」
生徒会長特有のオーラで、その場を切り抜けるルーン。
「このRPG、私もハマっているんだ……先生には内緒だけどねっ」
「会長……!」
すっかり親しくなる二人……ルーン会長とスマホRPG仲間になった萌子に、危機が訪れることになろうとは、このときは知る由もなかった。