第七部 第13話 下着は乙女の身だしなみ
着心地もよく、耐久性、通気性に優れた伝説の装備品……ブルマ。身軽な動きや激しいバトルにも対応できるブルマは、完璧な装備のように感じられた……しかし……。
「えっなにこれ……下着がハミチラしている……そんな……」
ブルマを着用したことのある者が、一度は経験した事があるであろう下着のハミチラ。
特にダーツ魔法学園内で購入可能な下着の色はブラもショーツも白に統一されているため、紺色のブルマから覗く白い下着のハミチラインパクトは絶大だ。
「ハミチラが気になるなら、紺色の下着を外のお店で買ってブルマと合わせると万が一の時も目立たないと思うよ。ほら、同じ色で合わせれば保護色みたいになるでしょう?」
自らのハミチラに気づいて愕然とする萌子に、アドバイスをする守護天使エステル。
「どうする? みんなに連絡して一緒に買い物に行ってもらう? 私も付き添うけど……」
「……実は、この体操着を体育祭で着ることは、まだシークレット扱いなんだ……ギルドメンバーではミンティアしか一緒に役員やっていないし……だから、ギルドのみんなを誘うと守秘義務が……」
「そっか……でも、そんなにハミチラが気になるなら恥ずかしがらずに、目立たない下着を購入した方が良いよ」
ごく普通の女子中学生なら、学園の外にある女性向けの下着屋で紺色の下着を購入することのハードルはさほど高くないだろう。だが、この萌子という身体は、女アレルギー勇者イクトの女版アバターだ。
諸事情で現在は萌子として生活しているが、意識は男勇者イクトとリンクしている。萌子という存在の魂もどうやら個別に存在しているようだが、意識が同調している以上、イクトの意識が萌子の活動を通じて女性向けの下着屋へ行かなくてはならない事に変わりないのだった。
どうする……?
鏡の前には、微妙にハミチラした女子中学生萌子の姿……心なしか、羞恥心で頬が赤く染まっている。
「恥ずかしがってもしょうがないか……そもそも下着屋に行くことを恥ずかしがっていたら、もっと恥ずかしい白い下着のハミチラを防げないもんな。エステルに付き添って貰って……ミンティアに相談して一緒に……」
オレは、下着屋に買い物にいく恥ずかしさと体育祭の本番で白い下着をハミチラする恥ずかしさを天秤に掛けて、ハミチラの方を防止する策を選んだ。
エステルは、オレの心の成長を心底喜んでいる様子で羽をパタパタとさせながらロフトルームからふわりと降り立った。
「うん! そうだね萌子ちゃん、決意してエライよ。じゃあその予定で……」
ピピピピピッ! ピピピピピピッ!
「萌子ちゃん、電話だよ」
「えっ誰からだろう? 生徒会長からだ……何だろう、もしもし萌子です」
『おおっ萌子さんか! 私だ、生徒会長のルーンだよ。さっきのクエストでは世話になったね。ははは! 実は折り入って大事な話があるのだが……今、話しても大丈夫かね?』
「あっはい、どうぞ」
『実はだな……クエストから帰宅して、鏡の前で体操着をチェックしていたら……その……ブルマの端から下着がハミチラしていたのだよ……生徒会長で女賢者ともあろう私が、何とも情けない話なのだがね……』
「えっ?」
驚いたことに、萌子だけではなく生徒会長もブルマから下着がハミチラしていたという。クールでインテリな美少女というイメージの生徒会長がハミチラ……これは風紀に影響がありそうだ。
『それでだな、私も知恵を絞って考えたのだが、下着の白というカラーがハミチラ時に目立つのではないかと……ブルマの保護色になるような下着を外の店で購入するのが良いと考えてね……明日の役員会議は下着屋に出向いて対策を練りたいと思う! 済まないがよろしく頼むよ』
「はっはい、分かりました」
『うむ、では失礼する』
ツーツーツー。
生徒会長までもハミチラで悩ませるとは、伝説の装備品ブルマ……侮りがたし!
翌日、授業もそつなくこなし放課後になった。幸い、秋晴れの過ごしやすい気候でショッピングにはちょうど良い。ブルマで一緒に戦った前回クエストのメンバーが揃う。
「ブルマ事情に詳しい守護天使エステルさんがアドバイザーとして付き添ってくれることになった。これで百人力だっ」
「良かったですね、会長。ハミチラの恐怖もこれで解消されます」
「では、近所のショッピングビルの下着屋さんにクエスト開始だっ」
「行こうっ萌子ちゃん」
盛り上がるメンバー、実は……みんなハミチラのことが気になっていたんだな。
学園から徒歩圏にあるショッピングビルは、学校が早く終わる水曜日なだけあって多くの学生で賑わっている。さっそく、女性専門下着店へ直行しクエストを遂行する事に……。
パステルカラーのブラやショーツが所狭しと並ぶ店内には、お得なブラセットや靴下、部屋着、タイツやストッキングなど……。ルームフレグランスやコロンなども販売しているようで、清楚な花の香りが漂う。
「ふむ、なかなか女子力の高いお店だな」
ルーンが店内をきょろきょろと見ながら、感心したように呟く。
淡い水色やアイボリーのふわふわ、ひらひらとしたレース付きのブラやショーツ……男勇者イクトの姿で来訪したら恥ずかしさで悶絶しそうな愛くるしさだが、幸い萌子の身体でいるおかげか、この空間でも平常を保つことができた。
「ええと……私達中学生の予算で購入できそうなアイテムは……この1,080円のブラとショーツのお買い得セットはどうでしょう? エステルさん、どう思われますか?」
副委員長のキオが予算を気にしながら、エステルにアドバイスを求める。
「うん、ブラとショーツがお揃いなのは乙女の身だしなみとして素敵だと思うよ」
「これまで、学園で白の下着ばかり買っていたからな……自然とブラとショーツのカラーがセットになっていたわけだ。紺色のショーツに合わせて紺色のブラを着用すれば、身だしなみも完璧だなっ」
「じゃあ、このお得セットがあって良かったね。紺色の下着もいっぱいあるよ」
ミンティアが1,080円セットコーナーからサイズの合う下着を探し始めた。D70……それが、ミンティアの下着のサイズのようだ……結構ミンティアって胸が大きいんだな。まさか、こんな形でミンティアのバストサイズを知ることになろうとは……。
萌子が慣れない店内で動揺していると、みんな次々と自分のサイズに合うセットを手に取り始めた。
「私はCカップだから……これだな。おっ萌子さんは何カップだ? んっふりふりは苦手かな? どれ、一緒にみよう」
「えっと、私もCです……シンプルなのを探しているんですけど……」
「はははっ私と同じカップ数だったかっ! 奇遇だなっ。じゃあこのCカップコーナーから……」
かいがいしく、萌子に合う下着セットを選ぶルーン。控えめデザインで抵抗なく着れるものをチョイスしてくれた。さすが生徒会長、面倒見が良い。
洗い替えも含めてそれぞれ3セットずつ購入し、無事にクエストは終了した……ように思われた。
学園の会議室に戻り、紺色の下着の効果を確認すべく体操着と合わせて装備、計算通りハミチラも目立たない。
「ふっ任務完了……」
ルーンがそう呟きながら、カーテンをシャッと開けると日が射し込んできて……。
「かっ会長、大変ですっブラが……」
差し込む日差しに、体操着からくっきりと浮かび上がる紺色のブラ……俗に言う透けブラだ。
「そ、そんなバカな……」
「どうしよう、萌子ちゃんっ」
「おっ落ち着いて、考えれば……何とかなるよっ」
ここまで来て、まさか新たな困難に遭遇するとは……透けブラという絶望の淵に立たされるも、一応女勇者らしく、みんなを励ますオレ。
次第に、みんなの目に光が戻り始める。
「……萌子ちゃん……。うん、まだ諦めちゃダメだよね、何かいい案があるかもしれない」
「そうだな……萌子さんのいう通りだ……この透けブラ問題、必ず解決してみせるっ」
かくして、オレたちは透けブラ問題を解決する方法を模索するのであった。




