第七部 第12話 伝説の装備品ブルマ
秋のイベント委員会役員業務が始まって、一週間が経過した。
体育祭を盛り上げるための旗をはじめとする校内の飾り付け、垂れ幕の準備に本番で流す音楽の確認作業など……。
今年のテーマは伝統と云うことで、飾り付けやチョイスされた音楽もどこかレトロなテイストだ。
そして、ついに今回のメインともいえる伝説の装備品が学園に到着した……ブルマの到着である。
ネット通販により大量に運ばれてきた段ボール箱、役員人数分の荷物を他の生徒の目に極力触れないように運び出す。
なんせまだ、他の生徒は今年の体育祭の装備内容について知らないので厳重警戒態勢だ。この段ボールの中には、役員の人数分の体操着一式が納められているはずだ。
「会長……ついに、例のモノが届きました」
「ご苦労……では、さっそく開けるぞ」
B棟視聴覚室では、緊張感あふれる開封の儀が行われた。ぺりぺりとガムテープをはがし、透明の袋に丁寧に畳まれている体操着セットを傷つけないように取り出す。
「ふふふっみんな、喜べっ。今回のメイン装備がついに到着したぞ……この女賢者ルーンの目に狂いはなかったようだ。このレトロ感……素晴らしい……何故、このような躍動感あふれる素晴らしい装備が中止となっていたのか……みんなも、そう思うだろう?」
生徒会長の女賢者ルーンの手には、紺色のビキニの下をさらに厚い生地にしたようなひと昔前の体操服が握られていた。気のせいか、メガネの奥の青い目が爛々と輝いているような気がしなくもない。
三角形の形を確認するように、ルーンは広げたり、折り曲げたり、軽くのばしたりしてその装備品の耐久性を測っているようだ。
「すごい、この装備……伸び縮みするし生地も意外と厚い」
「通気性にも優れているようで……その気になれば、一年中穿くことが可能なようです」
他の役員たちも、ブルマの通気性や耐久性に感激し、生徒会副委員長に至っては『ネットでしか見られない、レトロドラマでみたあこがれの装備が……ついにこの手に……感動ですっ』と、涙まで流している。
アニメやドラマでしか見られなかった伝説の装備が、よっぽど嬉しいんだろう。
みんながブルマにばかり気を取られているので念のため説明すると、ブルマ以外の体操着やはちまきも含む昔ながらの体操着セットが送られている。
だが、体操服の上着は今でも使用されているし、はちまきも体育祭では定番アイテムとして使用されている。
つまり、オレたちにとってレアで珍しいアイテムは、あのビキニの下を運動用に加工したような印象のブルマだけなのだった。
「萌子ちゃん、今日の役員の仕事はね……このブルマを装備してクエストに挑戦するんだって! 女子メンバーだけでクエストする事になるけど、簡単なモンスターの討伐なら大丈夫だよね」
「う、うん。体操着で戦うのってなんだか斬新だね」
「ははっ! 体操着はたくさん注文してあるから洗い替えもばっちりだ! 安心して戦っていいぞ。特に女勇者の萌子さんには期待しているよ、なんたってブルマやレオタードは女勇者のための装備とも呼ばれているからねっ」
「女勇者の装備……やっぱり、穿かなきゃだめかぁ」
生徒会長やミンティアに期待のまなざしを向けられて、思わず受け取ってしまった紺色のブルマ。
現在のオレは諸事情で萌子という名の、女版アバターとして生活している。つまり、今年の体育祭では自らブルマを着用しなくてはいけない。
なんとなく……この萌子というアバターにはきちんと女の子の魂が宿っていて、オレはその萌子の魂と感覚を共有しているだけ……という感じもしているが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい……。
「さあっ早速ブルマ装備でクエストに挑戦だっ」
「おー!」
天然生徒会長のノリノリのかけ声により士気を上げる役員達。仕方がない、女勇者としての使命を全うするために頑張るか……。
クエストの攻略舞台は、とある塔。悪霊が蔓延ってしまい、塔にあるオーブを回収にいけないという、魔術研究者達からの依頼だ。
難易度は初級……という意外と低ランクのクエストなので、全員体操着でしかもブルマ着用という守備力の低そうな装備でも何とかなるだろう。
メンバーは、女勇者萌子、聖女ミンティア、生徒会副会長の女魔法剣士キオ、生徒会長の女賢者ルーンだ。
以下、攻略メンバーのステータスである。
【メンバー:1】
勇者萌子 職業:学園勇者(ランク星5)
レベル:35
HP:1890
MP:180
攻撃武器種:棍・剣・槍
装備武器:軽量型女性向けソード(サブウェポンとしてロングソード・改)
装備防具:体操着上・伝説のブルマ
装飾品:ラブリーチャーム・呪いよけのブレスレット
呪文:中回復魔法、攻撃魔法
【メンバー:2】
聖女ミンティア 職業:学園聖女(サブ職業召還士)
レベル:35
HP:1580
MP:210
攻撃武器種:召還用にショートダガーのみ
装備武器:銀のショートダガー
装備防具:体操着上・伝説のブルマ
装飾品:星屑のピアス・回復のお守り(毎ターンHP・MP回復)
呪文:状態異常回復魔法、召還魔法各種
【メンバー:3】
賢者ルーン 職業:学園賢者(元黒魔法使い)
レベル:36
HP:1790
MP:330
攻撃武器種:杖・鞭
装備武器:生徒会長の杖
装備防具:体操着上・伝説のブルマ
装飾品:インテリなメガネ・生徒会長のバッジ
呪文:回復魔法大、攻撃魔法各種
【メンバー:4】
魔法剣士キオ 職業:学園魔法剣士(元黒魔法使い)
レベル:32
HP:1450
MP:130
攻撃武器種:剣・杖
装備武器:生徒会役員の剣
装備防具:体操着上・伝説のブルマ
装飾品:生徒会役員のバッジ
魔法:黒魔法各種
初めて組む組み合わせのパーティー構成だが結構バランスが良く、サクサクと最上階のボス部屋までたどり着いた。
だが、オレたちの装備は部活の練習か遠足かと勘違いされるような体操服……ボスもオレたちの姿を見て完全に舐めているようだった。
「くくくっ誰か来たのかと思えば……学生が体育か部活の練習か? この悪霊の親玉であるオレ様が、遠足気分で来たことを後悔させてやるわっ」
体育祭の予行練習でこの塔のクエストに来ていることは事実だったので、反論できないよな……。
「反論なしか……いくぞっ」
悪霊のむれが襲いかかってきた!
「仕方ないな……くらえっ勇者の必殺剣ブレイブ斬りっ」
キィイインッ!
萌子の放つ、必殺技が雑魚敵達を一気になぎ払う。女性限定クエストの報酬で女性向けソードを錬金したので使い勝手もよく、攻撃技は絶好調だ。
「はぁああああっ! 氷の刃よ、悪しき闇をつらぬけっクリスタルブレイクッ」
「ギュイイィイインッ」
パリィイイン!
氷に射抜かれて悪霊型モンスターが砕け散る。
さすがというか、なんというか……女賢者ルーンの氷呪文が炸裂ヒットし敵を撃退。
「はっ萌子ちゃん、そっちにボスが……」
「とどめだっ」
襲いかかるモンスターをすかさずとらえて、トドメを刺す萌子。
「ぐはぁっ」
『悪霊のむれを討伐した! クエスト達成、オーブを回収して学園に帰還します。お疲れさまでした』
スマホから、任務完了の音声が聞こえてくる。頼りないイメージの体操着装備だったが、動きやすく身軽で戦いやすかった。
「ふう……さすが、女勇者ですね。萌子先輩! あなたのその剣技……思わず見入ってしまいました。私も魔法剣士として鍛錬したいと思います」
「えっ……あっうん。ありがとう……」
「萌子ちゃん、帰ろう!」
「すごかったよ、萌子さん。帰りはこのゲートからだね。行こう」
何だかんだで、無事にクエスト終了し……体操着装備はどこも問題のない装備のように感じられた。
既に学園内は夜、寄宿舎はそれぞれ場所が異なるためひとりで校庭内を歩き寄宿舎へと帰る。
「ただいまー」
「お帰りなさい、萌子ちゃん……あれ? その体操着ブルマだね、懐かしい……よく似合っているよ」
「ああ、今年の体育祭はこの格好でやるんだって。最初は恥ずかしかったけど……結構動きやすくて……んっ」
守護天使エステルと話しながら、なんとなく今日の体操服姿をチェックしようと全身が映る鏡の前に立つと……ブルマの端からちらりと白い布がちら見えしている……これは……?
「えっどうしよう? 一体いつから……ブルマから下着が少しだけちら見えして……」
「萌子ちゃん、帰ってくるときにこの寄宿舎の階段を昇ったでしょう? あとたくさん動いたみたいだし。ブルマってそういう時に下着がちら見えする事もあるから……気になるなら、白じゃなくてブルマと同じ色の下着にして目立たないように工夫するといいね」
当然のように語るエステル。
残念ながら学園内で購入可能な下着は白色だけなので、ブルマと同じカラーの紺色の下着が欲しければ、外のお店に行かなくてはいけない。
「どうする? 明日、一緒に下着屋に行く? あっみんなも誘ってみようか……どうしたの、萌子ちゃん……?」
「はっ恥ずかしいっっ」
そんなわけでオレこと萌子は、女性向けの下着屋さんに行くことになったのである。
人生初の女性向け下着屋さん……このクエストの方が難易度高いよ!