第2話 ようこそ猫耳メイド喫茶へ
第2話です。
この話から短編と異なり長編のオリジナルストーリーが始まります。
山奥の村を出て次の街を目指し、歩き始めて1時間ほど。山道は思っていたよりも整備されていて、ハイキングコースのようだ。
魔王の脅威に晒されている割には、平和な気がする。穏やかな風が頬を撫でた。
そんなことをのんびり考えていると、地図片手に道案内役をしてくれていた白魔法使いのマリアが足を止め……。
「そろそろですね」
マリアが足を止めた場所には、水晶で作られた天使像が飾られている。何か意味のある像なのだろうか?
「勇者様……この天使像より先は、聖なる結界の外になります。村周辺の道は村人を守る為に大僧侶様が施された法術により、魔物の魔の手から守られておりました。モンスターとのバトル……準備はよろしいでしょうか?」
各々、装備している武器を確認する。
マリアはアクアブルーの丸い魔石が先端に飾られた聖職者用の杖、アイラはダークブラウンの指ぬき手袋型格闘家用グローブ、オレが装備している武器は、冒険者の棍という初心者向きの銀色に輝く長い棒だ。
現実世界から異世界に飛ばされてきた俺には、剣士のようにいきなり刃の鋭い武器を使いこなすことは難しいとの族長からのアドバイスでこの武器を選んだが、大丈夫だろうか?
「3人でチカラを合わせれば、何とかなるよ!」
そう陽気に笑って、格闘家の美少女アイラがピンクのツインテールを揺らしながら、結界の外へと踏み込んだ。
ガサガサガサッ!
草むらから、何かの物音が聞こえて来る。
ついにモンスターか?
ぽよん! ぽよん! ぽよん!
ぽいん!
「ぷるぷる! ニンゲンだ!」
「ぷるる! ボクタチ、強いモンスターだぞ」
現れたのは、超弱そうなパステルグリーンやパステルブルーのゼリーや、水まんじゅうを生き物にしたようなモンスターだった。モンスターのサイズは、サッカーボールやバスケットボールくらいだろうか?
丸くて弾力があり、ぴょんぴょん弾んでいる。目がつぶらで、とても強いモンスターには見えないが……。
「まさか、あれがこの世界のモンスター?」
オレがたずねると、マリアが聖職者の杖を握りしめながら答える。
「気をつけて下さい。あのモンスターはプルプルという名前のモンスターで、可愛らしい外見ですが人間の顔に張り付いて窒息させることもあります……」
窒息⁈
ずいぶん物騒だな、大丈夫か?
しかも、ちょうどプルプル達の数は3匹。
オレ達は3人……全員顔に張り付かれたら……。
「ぷるるるるるる!」
ヤル気なのか、プルプル達はぽいんぽいん飛び跳ねながら、勢いよくオレ達の顔面目掛けて襲いかかってきた!
マズイ! やられる。
迫り来るプルプル達より、速く動いたのはアイラだった。
「ハアアアァアァ! 爆裂旋風拳!」
ドスン!
会心のヒット!
アイラの俊速のパンチが、プルプル達を蹴散らした。
「ナイス! アイラ」
戦闘の主導権をこちらが握ったおかげで勢いがつき、オレ達は初戦闘の相手であるプルプルの群れを倒すことができた。
次の街の入り口に辿り着くまでの間に、何度かプルプル達と遭遇し、何回かの戦闘が終了すると『テケテケテケテケテーン』っと族長に渡されたスマホから、陽気な音楽が鳴った。
レベルアップのお知らせです。
イクトのレベルが上がった!
攻撃力が5上がった!
防御力が2上がった!
素早さが1上がった!
モテ度が2上がった!
攻撃力、防御力、素早さ辺りはまあ分かる……。
何でモンスターとバトルして『モテ度』が上がるんだよ? なんかこのスマホRPGポイントがズレてないか?
「勇者様、レベルアップおめでとうございます! 私もレベルアップしたんですよ」
マリアが、スマホ画面のステータスを見せてくれた。マリアのステータス画面にも攻撃力、防御力、魔法力などの他に、『女子力』というまったく冒険に関係なさそうなステータスの文字がある。
これは一体……?
オレがステータス画面の謎について質問する間もなく、
「お兄ちゃん……あたし、もうお腹すいたよぉ」
と、アイラが空腹を訴え始めた。
アイラは今回の戦闘では先陣を切って活躍してくれたし、早く休ませてあげたい。幸いモンスター除けの天使像が設置されている、次の街の入り口に辿り着いたところだ。
田舎なのか、街は意外と質素で民家が多いがチラホラと商店もある。
そんな中に喫茶店『キャットシスターズ』という看板発見。
「喫茶店がありますよ! 入りましょう」
そんなわけで、マリアの提案で喫茶店に入ったのだが……。
* * *
「お帰りなさいませ! ご主人様、お嬢様、ご注文はお決まりですか?」
メイドが現れた。
ミニスカニーソ猫耳メイドが、注文を取りに来た。
メイド服の色は黒色でゴスロリ調、フリルとリボンをふんだんにあしらっており、ニーソは白だ。
黒髪ストレートセミロングの美少女メイドの猫耳は、まるで本物の猫の耳のようにリアルである。心なしか、萌オプションの尻尾も本物の猫の尻尾のように、ゆらりと揺れている。黒猫風だが、尻尾の先だけ少し白い。
クオリティが高すぎる……ファンタジーRPG異世界ではこれが常識なのか? それとも……。
「これが噂のメイド喫茶かぁ……アイラ、猫耳メイドさん初めて見た!」
「都会に近づくと、もっと珍しいお店がありますよ! 楽しみですね」
珍しい?
ファンタジーRPG異世界でも、メイド喫茶って珍しいの? じゃあ、何でいきなりこんな萌え萌えした空間に冒険の初期から訪れてんの?
いや……質問するまでもないか。オレはこのゲームが『美少女ハーレムRPG』であることを少し忘れかけていた。このゲームは、プレイヤーの隙をついて萌えイベントやハーレムイベントを挿入してくる……おそろしい。
「他に……食事できる店は……」
「田舎町なんで、ここしか飲食店はないですね」
そうなんだ……。
オレは女アレルギーだ。
なのに、美少女ハーレム風スマホRPG異世界の勇者になってしまった。
特に、露出度の高い女がニガテだ。
仲間には聖なるチカラが落ちると言って、露出度の低いファッションをしてもらっている。幸い、マリアは元々修道院出身なだけあって露出度低めのローブだが、アイラにはジャンパースカートの下に黒のレギンスを合わせてもらった。
ミニスカニーソ猫耳メイドがフラフラ歩いているこの喫茶店は、オレの女アレルギーを引き起こしていた。既に鳥肌が立っている。
仕方なく、メニュー表にオススメと書いてあるミルクティーとオムライスを注文。
早く食べて、早く店を出たい……。
「お待たせしました。ミルクティーとラブリーオムライスのセットでぇす」
「歌のサービスが入りまぁす」
「萌え萌えにゃんにゃんメイドだにゃーん。あなたのメイドはにゃんこだにゃーん!」
もうダメだ……オレのアレルギーが、臨界点を突破している。
「うわぁぁぁぁぁあ」
バタン!
オレはその場でアレルギー発症により、気絶していた。
「勇者様?」
「おにーちゃん!」
マリアとアイラが心配して、オレに声をかける。
オレが倒れているすぐそばで、ミニスカニーソ猫耳メイドが妖しげな表情を浮かべているのに気づかずに……。