第七部 第6話 女子会と長いダウンロード
「では、早速女勇者限定クエストを受ける準備を始めましょう! 萌子先輩、まず女性キャラ専用のスマホアプリをダウンロードが必要になるんですけど……このギルドってWi-Fi環境良いですよね?」
「うん、確かフリーWi-Fiだと思うよ。萌子ちゃん、じゃあこのアプリをダウンロードしてね」
ミリーとレインに促されて、女性専用スマホアプリをダウンロード。
その名も『蒼穹のエターナルブレイク-ガールズストーリー-』略して『蒼イクGS』だ。
やはり、この異世界は何かしらのスマホゲームとリンクしているらしい。てっきり女性アバターバージョンに変化するだけなんだと考えていたが、女性キャラ専用ゲームがプレイできるとは……。普通のRPGをプレイしている人だって、異性の主人公でゲームを楽しむ人も多いしあまり深く考えなくても良いだろう。
「アプリをダウンロードできたら、データのダウンロード画面が始まります。データダウンロード中に助っ人予定のメンバーにあらかじめ連絡をしたり、攻略サイトで情報を収集しておくと良いですよ」
手際よく、てきぱきとクエスト準備をし始めたミリー。
「へぇ、ミリーは随分このアプリに詳しいんだね」
「はい! サービス開始当初からプレイしていて……結構人間関係の狭いゲームアプリだったから萌子先輩が加入してくれると助かります。まず、女勇者三人以上集めて攻略ってクエストがあるんですけど……女勇者自体少ないじゃないですか。なかなか、編成が出来なくて困っていたんです、だから萌子先輩の加入は女神様からの助け船だと思っています!」
握り拳をつくり、熱っぽく語るミリーは女ゲーマーそのもので、おそらくこのゲームアプリの攻略にかけているのであろう事が窺える。プレイヤーの人数が少ないゲームなのも、攻略難の原因だろう。
「女神様からの助け船か……まぁ期間限定の女アバターだけど、こうやって喜んでもらえるなら萌子になった甲斐もあるよ」
オレこと萌子のスマホから美しいピアノと弦楽器のサウンドとともにデータダウンロード画面が始まる。
データ2パーセント、4パーセント……しばらく時間をおいて5パーセント……なかなか6パーセントにならないな? これは一体……?
「ねえ、ミリー……このゲームなかなかデータがダウンロードできないんだけど……」
「ええ、すごく長いんですよ。そのゲームのダウンロード……でも自室でダウンロードするよりもこのギルドカフェのWi-Fiを使った方が絶対早いんで!」
「う、うん……」
「あっ待ってるダウンロード中にケーキセットを食べようかなっ? 私無料クーポン持っているんで今回は私がそれで先輩たちの分も出しますねっ。この無料クーポンもゲームの特典なんです!」
「えっ? ありがとう。まさか後輩におごって貰うとは……その分しっかり働くよ」
「ミリーちゃん、ありがとう。頑張るね! あっ私のスマホから助っ人メンバーに声をかけておこうか? バトルのサポーターはメイドのミーコちゃんが適任かな。あとは……回復役が必要なんだよね、確か。最近賢者に転職したマリアさんがレベル上げしたいって言っていたけど……」
「けっ賢者っ! 賢者にクラスチェンジされた方がいらっしゃるんですかっ? 凄すぎ! 随分頭の良い仲間がいらっしゃるんですね!」
「マリアさんはイクト君……つまり萌子ちゃんのギルドメンバーなんだよ。清楚で美人でスタイルもよくて……凄く優しくて素敵な人なんだ」
レインってそんなにマリアのこと高評価に考えていたのか?
まあ、前世の見た目清楚系中身ギャンブラーの時代を知らなければ、そんな感じの評価か……。
「ふぇえー。さすがイクト先輩……っと、萌子先輩ですね! お仲間にも恵まれていて……私なんか、キラの面倒見てばかりで……キラって普段おとなしいけどバトルになると激しいじゃないですか? 二重人格的な……あれで、キラの戦闘についていけない人が多くて結局二人で組むことになったんですよぉ」
「……あのさ、ミリー。ボク、まだここにいるんだけど……」
「あっキラまだいたんだ。うーん、こうしているといかにも草食系男子なんだけどなぁ」
「いかにも草食って……ボク、いつもミリーの事を考えて、それで、それで……」
なんだかキラ君が顔を赤らめながらミリーに想いの丈を伝えようとしているが、女勇者限定クエストの事で頭一杯のミリーには伝わらないようだ。
「おお、なんか女子会が始まりそうだしオレとキラはここで撤退するよ。萌子ちゃんも今回は女子として頑張れよ! っほら、いこうぜキラ」
「うう、分かりました。萌子先輩、レイン先輩、ミリーをよろしくお願いします。じゃあこれで……」
「気をつけてねー」
男性陣のマルスとキラが早々に撤退。普段だったら、オレもマルスたちと一緒に撤退していたのかもしれないが、女アバターに変化した所為でこの女子会のメインとして参加している。
「では、萌子先輩の加入決定女子会を始めます!」
パチパチパチ……!
「お待たせしました。ふんわりシフォンケーキセット女子会バージョンです」
「わぁ可愛いー」
「萌子先輩、レイン先輩! このケーキ写真に撮って私達のゲーム内の活動記録に早速のせましょう」
「えっ活動記録? う、うん。いいけど……」
「やったぁ! じゃあ撮りますよぉ」
パシャッ!
「ふふふ、可愛くとれてるっ。アプリでデコって……女子会中です! ミリー……っと出来たぁ」
ミリーはシフォンケーキを味わう前に、パシャパシャとスマホのカメラ機能を駆使して、撮影、加工、デコ……とそつなくネットのマイページに活動記録を載せ始めた。
「こういう写真を活動記録映えする写真って言うんです。女性向けの装備品やアイテムも活動記録映えするものが人気なんですよ」
「活動記録映えか……なんか女の人って不思議なものに賭けてるんだなぁ。あっ写真、セピア色が混ざっていてお洒落……」
「ふう……活動記録の写真もネットに出したし……いただきまぁす!」
「じゃあ、私も……いただきます。ふわふわで本当に美味しいね」
「まさか、実際にケーキを食べるより先にネットに写真を出すとは……女子の世界は奥が深いな……いや、ミリーが活動的なのか……?」
「食べてる最中の萌子先輩の可愛い写真も掲載しておきますね!」
「えっ食べてる最中? なんか、ほとんどリアルタイム更新じゃない? その活動記録……」
パシャパシャ!
アグレッシブに、活動記録向けの写真を撮り続けるミリー。
カラン、カラン!
誰かが、ギルドにやってきた合図のチャイム。
「いらっしゃいませっ。はっ……あなた様は……伝説のメイドの生まれ変わりと謳われるミーコ様……っ。私、ミーコ様に憧れてメイドとして日々鍛錬をしております!」
「にゃあ、ありがとなのにゃん」
なんだか、騒がしいなと思ったら来訪者はオレのギルドメンバーだった。
「ミーコ、マリア!」
「にゃーん! マカロンの差し入れですにゃん」
「わあ! 私、マカロン好きです、ありがとうございます。はっもしかして、もう一人の方は賢者様ですか?」
「ふふ、初めましてミリーさん、賢者のマリアです」
「ふぁっ! 美しい……! これが噂の賢者様……新人女勇者のミリーです。よろしくお願いします」
マリア達も来たし、ゲームデータもダウンロードできているだろうと、ふとスマホを見るとまだ50パーセント?
どうやら、長い女子会になりそうだ。