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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第七部 ハーレム勇者認定試験-後期編-
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第七部 第5話 女勇者ライフ始まる


萌子もえこちゃん! そっちに魔物がっ」


 シュッ……と、熱い火の粉が閉鎖空間である地下迷宮内を舞う。

 オレの女版アバター萌子もえこの肩より少し伸びた栗色の髪を、炎系の魔法ファイヤーアローが掠めてジリリと焦がした。まだ、慣れない女版の肉体のせいか間合いが少し取りにくいが、ここで負けるわけにはいかない。


「キュエェエエエ! 侵入者ヲ排除セヨ!」

 ガキィイイン! 

 とっさに引き抜いたロングソードが三角帽を被った魔物の放つファイヤーアローをなぎ払い、ローブの魔法使い系の魔物に反撃。

 一見、順調に敵を倒すもいつもより扱いづらく感じる自分の武器に内心はヒヤリとしていた。


(ちょっと、普段より武器が重く感じるな……やっぱ女の身体だからか? これが体力差か……でも、戦いの勘は鈍っていないはず……!)


「ナイスですっ! 萌子先輩。さあ、魔物たち勇者ならこっちにもいるわよっ」

 ドゥン! 女勇者ミリーは、強気の表情で立ちはだかる魔物たちに魔法起動型ライフルを構え……的確に迎え撃つ。

「ボクも頑張らないと、行くぞっはぁあああっ!」

 ザシュッザシュッザシュッ!

「グエエェェエエエッ!」

 勇者コースの後輩であるキラとミリーも一緒に交戦中。

 今回、はじめて彼らと一緒のクエストだがキラは普段のおとなしい風貌からは想像付かないような激しい二刀流の使い手、ミリーは女勇者でありながら銃やライフルを自在に操るガンナー。


「随分な歓迎ぶりじゃねえか……一匹残さず片づけてやるぜっ」

 マルスが手持ちの武器を弓矢から手慣れた大剣に持ち替えて、魔物との攻防をさらに激しく展開する。


 まさか、迷宮の最奥でこんなに戦闘をすることになるとは……。

 クエスト開始時の迷宮入り口付近から迷宮の中層くらいまでは敵の数も少なく、体力維持に気を遣いながらもランタンを片手に延々と続く狭い通路を探索するだけだった。

 最奥にたどり着くと、目の前に現れたのは魔術儀式の祭壇と魔法陣が描かれたかなり広めのホール……一歩足を踏み入れると警報音とともに現れる魔物達。

 ギルドマスターが入手した迷宮の地図が正確なら、この最奥のスペースに魔力結界と呼ばれる装置が埋まっているはずだ。どうやら、侵入者対策に罠がかけられていたようで、数十の魔物の連続襲撃という修羅場とともに地下迷宮攻略は佳境を迎えていた。


 薄暗い迷宮はじっとりとした空気が充満していて呼吸器に悪い……が、剣を振り下ろすために息を吸い込んで襲いかかる魔物と対峙する。

「くっ……はぁぁぁあっ!」


 キィィイイィン!

 ザンッ!

「キシャアアァッ」

「ふう……魔物の討伐は、これで全部だよね」


 紫色の煙が石像型の魔物から立ち上る……。

 地下迷宮に蔓延る呪われし石像の魔物は、萌子もえこが放つ渾身の一撃に魂を抜かれ再び動かぬ石像へと戻った。異世界転生者のみが所属できる独立ギルドクオリアは、この迷宮を異世界転生者達の魂を管理する魔法結界の一角であると踏んで、調査クエストを実行。

 メンバーは勇者コースに所属するレイン、マルス、キラ、ミリー……そしてオレ……イクトこと期間限定女版アバターの萌子もえこである。

 

「あとは、結界の魔法陣を調べて……データを保存、よし! クエスト終了」

「ふう、ようやく終わったな。じゃあ脱出アイテム使うぞ」


 マルスが手にしたダンジョン脱出用アイテムを起動し、無事外へ。

 脱出アイテムは強力な移動呪文が込められており、ダンジョンの最奥からでも地上までワープ出来る便利アイテムだ。値段も張り、使い捨てだが時間も体力も消耗せずに地上まで帰還出来るのはありがたい。

 すぐに、ワープゲートに移動してギルドに報告。


 ギルドマスターの仕事部屋は、異世界から地球に還るためにみんなが必死に集めた資料で溢れかえっている。積み上げられた本や書類の隙間からひょっこり顔を出したマスターはまだ若いはずだが、連日連夜の徹夜で出来た目の下のクマの所為か、いささか老齢して見えた。


「お疲れさまだったね、みんな。取得した画像はクオリアが預かるよ。それから……萌子もえこさんも、慣れない身体でクエスト大変だったね。どうかな? 女の子のアバターは……」


「えっと……一応、普通にクエストは出来ましたけど……回復役がいなかったからそこだけ気を遣いました」

 オレがしどろもどろになって返答に困っていると、後輩の女勇者ミリーが間髪入れずに、

「もうっマスターったら、女勇者だって戦えるんですからね! それに萌子先輩ってすごく強いんですよ。びっくり!」

 女勇者が増えて嬉しいのか、ミリーはやや興奮気味だ。

「うん、萌子先輩も……マルスさんもレインさんも戦い慣れていて、ボクも見習わなきゃって思いました」

「ありがとう……二人とも。先輩として恥ずかしくないよう頑張るよ」

「そうか……。けどまあ、アバター切り替え前後は本調子をまだ出せないってお医者様からの忠告があるから、萌子さんは無理しないようにね」

「はい、気を付けます」



 クエストのおさらいとして、今回の攻略メンバーのステータスを確認してみる。



【メンバー:1】

 勇者萌子 職業:学園勇者(ランク星5) 

 レベル:29

 HP:1590

 MP:132

 攻撃武器種:棍・剣・槍

 装備武器:ロングソード・改

 装備防具:ダーツ魔法学園女子学生服・銀の胸当て女性用・魔法のニーソ

 装飾品:ラブリーチャーム・呪いよけのブレスレット

 呪文:回復魔法小、攻撃魔法


【メンバー:2】

 女勇者ミリー 職業:学園勇者

 レベル:19

 HP:1000

 MP:105

 攻撃武器種:銃・両手持ち銃・短剣

 装備武器:実戦用ライフル・ダブルショットガン

 装備防具:ダーツ魔法学園女子学生服・防御用ベスト・紺色ハイソックス

 装飾品:魔法のコンパス・ガンナー用よく当たるお守り

 呪文:1人用回復魔法小、初級補助呪文


【メンバー:3】

 勇者キラ 職業:学園勇者

 レベル:20

 HP:1100

 MP:110

 攻撃武器種:両手剣・剣・斧

 装備武器:炸裂両手剣

 装備防具:ダーツ魔法学園男子学生服・防御用シューズ

 装飾品:集中力のお守り・攻撃力のアミュレット

 呪文:回復魔法小


【メンバー:4】

 勇者レイン 職業:学園勇者

 レベル:29

 HP:1580

 MP:135

 攻撃武器種:剣・短剣・飛び道具

 装備武器:女性用レイピア

 装備防具:ダーツ魔法学園女子学生服・身軽な黒タイツ

 装飾品:魔法のサークレット・素早さのピアス

 特技:回復魔法小、攻撃呪文各種


【メンバー:5】

 勇者マルス 職業:学園勇者

 レベル:29

 HP:1600

 MP:120

 攻撃武器種:大剣・弓・剣

 装備武器:マルチタイプの大剣(サブウェポン:弓各種)

 装備防具:ダーツ魔法学園男子学生服・重量型防御用胸当て

 装飾品:課金のお守り・ガチャ女神のレアトレーディングカード

 呪文:補助呪文、攻撃呪文


【備考】

 5人とも全員勇者というかなり強力なメンバー構成。メンバー全員が、前線で戦うバトルスタイルのため回復役に回るメンバーがいなかった事が反省点か?

 イクトから期間限定で萌子にバトンタッチしたため、若干イクトよりもHPが低くなったこともネックである。女勇者にふさわしいバトルスタイルが、見つかるといいのだけれど……。




「本調子じゃないかぁ……」

 報告が終わり早めの夕食もかねて、ギルドのカフェスペースで食事。

 ちらりと立てかけたロングソードに目を向ける……錬金を駆使して作った武器だけあってシンプルながらも鞘から刀身、柄の飾りまで美しい。

 男の時の自分が使っている装備のまま引き受けた今回のクエスト。

 オレの本来の愛用武器は棍だが、このロングソードもセカンドウェポンにしては存外に使いやすくて気に入っているのだ。


「確かに、いつもより武器が重く感じることはあったなぁ」


 濃厚ミルクたっぷりのミートドリアを味わいながら戦闘を振り返り、武器が多少使いづらかったことを思い出す。

「へえ、オレからみると結構いい感じに戦ってたけど、やっぱ性別でアバターの体力が違うのか? うーん、萌子ちゃんって細いもんなぁ。イクトも細いけど男だし……やっぱ男の時より重いもん持てないかぁ」

 マルスの意外そうな……でも、どこか納得したような視線。

「うん……男の時の方が楽に剣が扱えるような気が……でも、女剣士でも優秀な人はいっぱいいるし……慣れるまでは仕方がないのかな」

「今回は全員メンバーが勇者だったから、回復役がいなかったのも影響してると思うぜ」


 慣れないアバターで戦った影響なのか、だるい身体を癒したくて温かいカフェラテを一口飲む。苦みと甘さが程良く混ざっていて、ほっとする。


「武器の重さかぁ……実は私の武器、男性用の武器から女性専用武器に切り替えたものなの。反応速度が速くなるよ」

「えっ? レインもそんな風に工夫していたんだ……」


 女性専用装備と聞いて、ミリーがハッと何かを思い出したらしい。


「萌子先輩! クオリアに女性専用クエストがあるんです。クエスト報酬は女性専用装備の素材なんです。装備錬金を使えば萌子先輩に合わせた武器も錬金出来ますよ。せっかく女性のアバターになった事ですし……私達で一緒に受けませんか? もちろんレイン先輩も一緒にっ」

 レインも、『萌子ちゃん……せっかくだし……』とクエスト参加を促す。


「そうだね、うちのギルドメンバーから回復役も助っ人で呼んで……女性限定クエストに挑戦してみよう!」

「おー!」

 可愛らしくも頼もしい女勇者たちのかけ声が、ギルドのカフェコーナーに響く。


 戸惑ってばかりの女版アバターだったけど、たまにはこんな女勇者ライフも、いいかっ。 



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