第六部 第30話 ビーチで女アレルギー克服訓練
女アレルギー再発によって倒れたオレ。
海水浴場に設置された簡易医務室でお医者様に看てもらい、休憩を言い渡された。簡易ベッドでしばし休んだ後、体の調子も大分よくなりベッドから出る。
「イクト君、もう大丈夫なの? ごめんね、普段なら魔法で女アレルギーを治癒できたんだけど、魔力回復日と重なったちゃったから……」
医務室に付き添ってくれていたミンティアが、起きあがったオレの顔を心配そうな表情でのぞき込む。
ちなみに、さっきまで露出気味のビキニ姿だったミンティアだが、今は薄手の白いパーカーを羽織っている。前あき状態なので胸の谷間や水色のビキニがパーカーからチラ見えしているものの、露出度自体は下がっている……はずなのだが、それでもふだんよりずっと露出しているのは確かで、恥ずかしくて直視できずに思わず目をそらす。
「うん、大分調子もいいし戻るよ」
どきどきする気持ちを抑えて立ち上がるも、まだ本調子ではないのか少しふらつく。
「イクト君、もういいの? あんまり、無理しないでね。じゃあ、行こう」
「滋養強壮ドリンク買ってきたから、あとで飲んで。おでこに貼るひんやりシートもあるよ」
回復用のドリンクやひんやりシートを購入してきてくれたのは、もう一人の付き添いである女勇者レイン。
やはり彼女も女アレルギー防止のためか、例の大胆な赤いビキニの上にほんのりと透ける夏仕様の黒パーカーを前あき状態で羽織っている。
彼女も露出度はだいぶ下がっているはずなのだが、やはりオレの女アレルギーを刺激してしまい、直視できずにいた。
挙動不審になりそうなところをグッとこらえて、何とか平常を装う。
「ああ、大丈夫だよ。ミンティアもレインも付き添ってくれてありがとう。行こう」
海水浴場にキープしていたスペースに戻ると、ギルドメンバー達の姿。オレが倒れている間、クエストを懸命にこなしてくれていたようだ。レイン曰く、報告書にモンスターの目撃情報を記入したり、交代で監視に向かったり……忙しく働いていたという。
頼れる仲間達でありがたい……のだが、海水浴場になじむためか相変わらず、露出度高めの水着姿に再びクラリとする……。
「イクトさん、お帰りなさい! クエストの報告書、午前の分はもうすぐ完成しますよ」
「今、アズサさんとアイラちゃんが見張りに行ってくれていますわ。二人が戻られたら昼食にしましょう」
笑顔で手を振るマリアとエリス。
細身のスタイルにFカップ巨乳というナイスバディのマリアと、スレンダーで少女らしさが漂う清楚なエリス……タイプは異なるものの二人とも可愛らしく美しく……やはりオレの女アレルギーが刺激され……。
「ウッッ!」
発作か?
女アレルギーがオレの体の自由を奪う。揺れる胸……揺れる景色……さらに炎天下……やはりダメなのか?
ポスン!
倒れそうなオレを受け止めてくれたのは、猫耳メイドのミーコだった。
優しくオレのお世話をし始めたミーコに申し訳ない気持ちが沸いてきて、さっきほどの女アレルギーは発生しなかった。
もしかして、ミンティアが言っていたように少し耐性がついている?
オレに気遣って、水着から夏仕様のメイド服に着替えたミーコ。彼女の柔らかな膝の上で療養だ。パタパタとそよぐ団扇の風が心地よい。
「にゃあ、お世話しますにゃん」
ミーコの膝枕で再び休憩モードに入ったオレを見て、エリスは少し考えるような仕草をしたのち、昼食についてマリア達と話し合い始めた。
「どうしましょう? お昼は海の家で食べる予定でしたが……」
「イクトさんを置いていくのも気が引けるし……ここで食べたほうが……」
「この状態では昼食を海の家で食べることは無理そうですわね……屋台でテイクアウトのものを買ってきますわ」
「マリアさん、エリスさん、私も行きます」
結局、昼食はエリス達が買ってきてくれた屋台メニューをみんなでシェアすることになった。
定番の屋台メニューである焼きそばはもちろん、たこ焼き、ホットドッグ、シーフードカレー、醤油ラーメン、海鮮丼など麺類から丼ものまで揃えてくれたようだ。
「イクト、食べさせてあげますにゃん! あーんするにゃ」
食事のため何とか座る体制になると、ミーコが引き続きお世話をしてくれるようである。焼きそば片手に猫耳をピンッとたてて食べさせるスタンバイだ。
「えっ? じゃあ、あーん」
「にゃあ、食事は出来るみたいで良かったにゃん。飲み物も……」
「んっ」
なんとか、食事をすすめるオレの様子をじっと見つめるミンティア。
「イクト君……メイドさんにお世話されているのにあんまり女アレルギー出てないね」
ミンティアの観察にみんなもそういえば……と頷く。
「お兄ちゃん、前世では突発性メイド系女アレルギーとか起こして倒れちゃってたよね? これが、ミンティアさんの言ってた耐性ってヤツなのかな?」
ホットドッグ片手に笑顔で語る妹アイラ。オレの前世での女アレルギーぶりを覚えているようだ。
「あの……イクト様、もしイクト様が大丈夫でしたら、改めてデート試験にしませんか? 動き回らない形でのデートプランがいくつかありますの」
「エリスとのデート試験、本当は今日が初日だけど……こんな体調のオレでいいのか?」
「構いませんわ。イクト様と二人で、楽しそうな海水浴の様子を眺められるだけでも立派なデートですわ」
海水浴を眺めるだけって……控えめでけなげな様子に心を打たれる。
「エリスがいいならお言葉に甘えるよ。よろしく」
「ええ、よろしくお願いします!」
エリスが頬を少し赤らめてにっこりと微笑んだ。
普段は、銀髪神官衣装という神秘的な容姿も相まって近寄りがたい雰囲気だが、現在目の前で微笑む彼女は純粋無垢な少女そのものだ。
なんていうか、すごく可愛い……白い清楚なビキニもよく似合っている。
「じゃあ、今日はイクト君はデート試験に専念してね」
「見回りは任せて!」
「ありがとう、みんな」
気を利かせて、それぞれ仕事に向かうメンバー達。
青い空、青い海、白い砂浜、海の家や屋台、たくさんの海水浴客、日差しが強めだが、テントを張り防御態勢を完備している。
海水浴の様子を眺めるだけでいいなんて慎ましい……と思っていたら、何かを思い出したらしく、トートバッグから小瓶を取り出している。
なんだろう?
そして……小瓶のオイルを片手に定番のせりふ。
「背中に……このオイル、塗ってくれませんか?」
「エッエリス……」
「お願い……します……」
オイルを片手に頬を赤らめるエリスは、可愛らしく大胆で、オレは女アレルギーと戦いながらもけなげな彼女の想いに応えるべく、背中にオイルを塗り塗りしていき……。
「あれっ? 女アレルギーが出ない」
「こうして慣れていけば、耐性が出来て克服できますわ。その名もビーチで女アレルギー克服訓練! ですわ」
「克服訓練か……そうだよな……頑張ればアレルギーを克服……って、わっ」
「ふふっもう、イクト様ったら」
女アレルギー克服に向けて、努力を始めたイクト……その様子をじっと見つめる影……いや、亀……。
「あれは……あの若者は、先代オト姫様が大昔に帰した若者にそっくりだ……生まれ変わりか? 竜宮パレスに連絡しなくては……」
異世界海水浴場……かつての名を竜宮パレス前海水浴場。
女アレルギーに耐性を身につけ始めたイクトに、新たな美少女との出会いが訪れる。