表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/355

第六部 第28話 現実と異世界の交差


「乾杯!」


 いよいよ、始まった異世界転生勇者オフ会。

 新ギルド・クオリア設立記念会を兼ねた懇親会ということもあり、思っていたよりもずっと和やかなムードだ。


 そして、これまで学校で顔を合わせていてもなかなか話題に出せなかった【現実世界地球での暮らし】について、どんどん会話が進む。

 住んでいた地域、通っていた地球での学校、実年齢など……。


 スマホRPGによくある異世界ギルドの中で現実世界地球について語り合う。

 まるで、現実と異世界が交差するようだ。


 後輩のキラとミリーはオレも住んでいた立川市近郊の出身であることが判明。ちなみに二人は現実でも同じ中学校に通っていたそうで、スマホRPG攻略仲間なんだとか……どうりで仲が良いわけだ。


「へぇイクト先輩って僕と同郷だったんですか……僕も多摩地区出身なんです。学校は西地区高校かぁ……中高一貫の公立校ですよね、確か」

「私もそこの中等部受けようか考えたことがあったんです。自転車通学になっちゃうから受験しないで徒歩圏の学校にしちゃったけど……自由な校風だって聞きました。制服もお洒落だし……羨ましいです」


 目をきらきらと輝かせながら、現実世界での暮らしについて訊ねてくる後輩二人組に戸惑いつつも無難に答える。

「ああ……確かに女子の制服はお洒落なデザインだったな。高校二年生になる春には本格的な異世界転生しちゃったから、結局六年間通いきれなかったけど……いい学校だったよ」


 転生してからは、ほとんど思い出さなくなっていた地球での暮らしについて会話が続く。学校の先生やクラスメイト、スマホRPG攻略仲間などの顔が浮かんできてチクリと胸が痛んだ。

 もしかしたら、キラとミリー……後輩の二人はまだ【ログアウト】つまり、現実世界に帰還することを視野に入れているのかもしれない。


「イクト君達みんなご近所さんなんだ。私の家は少し離れているけど……でも、電車で会える距離だよね」

 レインがオレたちの住まいが何となく近いことを指摘。そういえば確かにそうだ。

 その時、マルスから重要な情報が……。

「ふぅん……結構、みんな地球時代も近くに住んでたんだな。オレもそのあたりの大学に通う予定だったし……もしかして、管轄のサーバーが近かったとか?」


「サーバー?」

 たまに、転生者らしき人たちの間で囁かれていたサーバーという用語に思わず反応してしまう。


「噂だと異世界転生の中継地点として各ポイントにサーバーが使われているらしくてさ……地球で活動地域が近かった者同士が同じ学校に集められているらしいよ」

 スマホRPGの延長線上で異世界転生してしまったことを改めて実感させられる情報だ。

「そうなんだ。でも、今はみんな地球で言うところの関西に集められているよな……何でだろう?」


 オレの素朴な疑問にミリーが噂について語り始めた。


「異世界転生を題材にした作品を作った企業が関西圏にあるからだって噂です。その企業が地球と異世界をつなぐゲートの本部を管理しているとか……。今でも私たちの生活はそこの企業にデータ管理されていて、所属ギルドやクラスでなんとなく出身地域別に分けられていると言われています」

「管理……そういえば転生者向けに番号が振られているもんな。これがないと困るのも知れないけど」

「ええ。その管理のおかげで僕たちの魂は迷子にならずに転生した身体に入っているそうです……でも……やっぱり元の身体に還りたいな」


 思わず本音を漏らすキラにみんなしんみりする。

「キラ……」


 これまで学園ギルド内で懇親会が行われたことは何度かあったが、誰が異世界転生者なのかお互い分からなかったので、こんな風に現実世界やログアウトについて語り合うことなんて無かった。

 オレなんか、ハーレム勇者認定試験のデートテストの際にようやくレインが異世界転生者だって知ったくらいだ。


 独立ギルドクオリアの他ギルドと異なる点は、所属者がほぼ全員異世界転生してきた勇者だということ。一応、条件付きで異世界人の助っ人を連れてきても良いそうだ。

 やはり、このギルドは最終的には地球へ帰還するログアウトを目指すクエストが実装されるのだろうか?



 今後の不安感からか、それとも地球へのホームシックか……少し寂しい空気が漂い始めた頃にレインが話を逸らす。


「そういえば……この照り焼きチキンピザすごく美味しいよ。もう食べた?」

 レインの手元にはパーティーの軽食として用意されている薄い生地が特徴の和風照り焼きチキンピザ。勧められて、一口食べる。

「ソースがとろっとしてて鶏肉も臭みがなくて食べやすいな」

 思わず感心して食レポ状態になるオレ。

 こくのある照り焼きソースが絶品だ。ホームシックにかかりかけていた後輩達もピザに気持ちが動いたようだ。オレの手にしたピザを興味津々の様子でのぞき込んでくる。


「このいろんな種類のチーズを乗せたピザもいけるよ」

「本当……美味しい」

 美味しいピザの効果で楽しいムードを取り戻す。気が付くとオフ会も終わりが近いようで、主催者が何やら布をかけた荷台をがらがらと運び始めた。


「では、オフ会もいよいよ終盤! お楽しみのガチャを始めます。嬉しい日常のギフトセット、運が良ければレア装備がゲットできるかも……おまけもあります」


『おおー!』

 ざわざわと会場がどよめく。

 布が外され、いわゆるガチャガチャと呼ばれる装置が姿を見せ、まばゆい光と輝きを集める。

 会場にガチャを引くとき特有の楽しそうなテーマソングが流れ始めた。


「ガチャ……だと……まさか、課金じゃないよな。うっオレの遠い昔のトラウマがっ」

 マルスが遠いトラウマを発動させて頭を抱え始めた。

 ガチャ……課金……スマホRPGユーザー特有の悲しい思い出があるのだろう。

「マルス落ち着けよ……無料のガチャだから課金はないし、大丈夫だから」

 

 そんなトラウマ持ち勇者のことはお構いなしに、ガチャ装置がぐるぐると起動し始める。


「一人一回です! 無料ですので安心してください」

「ほら、行こうぜ」

 不安感全開のマルスの肩をポンっと軽くたたき、列へ促すオレ。

「ふふっ楽しみだね」

 レインは課金やガチャに対してトラウマがない様子。後輩二人も後に続く。

 

 まずはトラウマ持ちのマルスから。

「レア来い、レア来い、レア来い、レア来い……」

 恐ろしい形相でレア来いと唱えながらガチャを回すマルス。

 コロン! 

『おめでとう! 星3アイテムネオモンスターまん無料引き替えクーポン10枚セット』

「ネオモンスターまん……だと……」

 本来は嬉しいはずの食事系クーポンだが、苦手な食べ物だったこともあり肩を落とすマルス。


「次の勇者様、ガチャをどうぞ!」


 ひと通りガチャが終わり、戦利品を見比べる。

 レインは星4装備魔法の水着。スレンダーなレインに似合いそうだ。

「ちょっと恥ずかしいけど可愛いし……次の海水浴クエストで着ようかな……どう? イクト君」

「すごく似合うと思うよ……楽しみにしてる」

 水着を手にしたレインと目が合い、思わずどぎまぎするオレ。


「イクト君のガチャ景品は……星4魔力回復ドリンク詰め合わせ? ラッキーだね」

「ああ。これって結構な高級アイテムだから助かるよ」



 実はもう一つ……オレたち勇者一人ずつに副賞として【ログアウト挑戦クエストチケット】が手渡されたが、この危険な橋を渡るか否かを決めるには時期尚早だと判断したのか、みんな無言でバッグにしまい込んだ。


 

 結局、ログアウトクエストを受けるか決められないまま、オフ会は終了。

 

 いつの間にか七月の半ばを過ぎ、魔法学園最後の夏休みを迎えることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ