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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-

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第六部 第24話 異世界転生者専門サイト


「シャワー浴びて、学校に行かないと……」


 エステルから初代勇者の転生に関する秘密を聞かされたオレは、初代勇者の魂の記憶を継承してしまったらしく、夢を通じて彼の生涯を体感した。

 といっても、しょせんは夢の記憶……ぼんやりしていてはっきりとした内容は分からないものも多かった。


 印象に残ったのは血のつながらない妹と婚約した次の日に彼が転生したこと。そしてその妹がオレの妹アイラにそっくりなこと。


 もしかしたら、因縁とか生まれ変わりの一種なのかも知れないが、オレは妹のことを身内……兄妹愛としての愛情なので、義理の兄妹で婚約することになった彼らの気持ちは一生分からないだろう。


 それに今のオレにはミンティアがいるし……。


 初代勇者お付きの召喚士はオレの婚約者であるミンティアにとてもよく似ていた。

 彼女もまた生まれ変わりの一人なのだろうか?


 熱いシャワーを浴びながら、様々なことが頭の中を駆けめぐる。シトラス系のシャンプーですっきりと頭を洗い、コンディショナーをなじませて優しく洗い流す。

 ボディーソープを泡立たせてシャボンの香りで身体が包まれる。なんだか心まで洗われるようだ。水滴がぽたぽたと髪や身体を伝う。


 シャワールームを出て、タオルで身体をふきながら鏡をふと見ると見慣れた自分の姿。地球にいた頃とそっくりな容姿のせいで擬似的な転生体だというこの身体にも違和感がない。

 この身体はゲームでいう『アバター』にあたるらしいが、リアルな肉体でなおかつ地球での自分の容姿を完全再現しているので、ほとんど自分自身のようだ。


「この身体がまさか擬似体だったなんて……いや、このままこの世界に居続けるとこの身体が完全に自分の身体になるのか……。それに、異世界人の両親からもらった身体だしな……」


 深く考え込んでも仕方がないか。

 さっと髪をドライヤーで乾かし、制服に着替える。早く目が覚めたせいで、身支度を済ませても時間が余った。


 食堂で朝食。トレーに食事を乗せて、自由に空いている席に着く。

 時間が早いせいか人がまばらだが、この生徒たちの中にもオレやレインのように異世界転生者がいるのかもしれない。


 ふっくらご飯、豆腐とわかめ入りのお味噌汁、あじの開きは身が詰まっていてオレ好みの焼き加減。定番のだし巻き卵も飽きがこないものだし、本日のおかずである茄子のおひたしや肉じゃがも美味しい。

 食後は、きゅうりの漬け物と温かい緑茶。


「ふう……」

 ようやくほっと一息つく。まだ朝なのに、なんだか長い旅を終えたような感覚だ。


 ミンティアもレインも今日は食堂にまだ来ていなかった。

 初代勇者に仕えた召喚士ミンティアラは初代勇者に恋をしていたようだし、レインそっくりの女剣士レイネラは事情があって勇者と別れてしまった恋人だったという。


 オレ自身がミンティアやレインのことを女性として強く意識するのも初代勇者イクトスを継承する者のサガなのだろうか?


 時代が移り変わり、この異世界は一夫多妻制になった。

 現在ハーレム勇者認定試験なるものを受けているオレだが、このハーレム制度そのものが、もしかしたら初代勇者イクトスを自分たちの元にとどめておきたかったミンティアラたちの意思を引き継いだものなのか?


 オレにとって大切な婚約者である聖女ミンティアや……もしかしたら今後婚約を交わす可能性のある女勇者レインのことを思い出し、身体の芯が熱くなる。

 

 再び心がもやもや。どんな顔をして二人に会えばよいのか分からないし、今日は静かに朝食を食べる事が出来て運が良かったのだろう。



「そういえば、マリアやエリスが朝のお祈りに来て欲しいって言ってたよな。たまには、顔を出すか……」



 なんとなく、心のうずきを解消したくて教会へ。神父様のお話を聞きながら、ときおり聖歌を歌う。


 お祈りの時間が終わり、席を立つ人々。

 教会の出入り口付近で、よく聞き慣れた女性の声。


「お早うございますイクトさん。いらしてくれたんですね」


 修道女の服に身を包んだギルドメンバーのマリアだ。お祈りの時に姿が見えなかったが、どうやらずっと教会の手伝いをしていたようである。

 マリアは夢に出てきた初代勇者の仲間シスターマリアンヌにそっくりで未だ夢を見ているかのような錯覚に陥る。彼女も生まれ変わりの一人なのだろう。


「お早うマリア。なんか今日は早く起きちゃってさ。せっかくだしお祈りに参加させてもらったよ」


 本当は今現在のオレの身体が転生体であることや元の世界へと戻るログアウトの可能性について話したかったが、お祈りに来ていた他の生徒の声でかき消された。


 どうやら、白魔法コースの女子生徒が神父様に詰め寄っているようだ。


「神父様! 私、地球に還りたいんです……なのに、気づいたらこの身体から出られなくなっていて……お願いです。神様にお祈りしてログアウトさせてください」

「……落ち着きなさい。あなたは新しくこの世界で命をもらったんです。神様に今の暮らしを感謝しましょう……」

「そんな……でも、地球にいる家族に会いたいんです……父さんや母さん、弟にも……」


 一瞬、教会内がざわついたものの、意外なことに少女を気遣っているのか、見てみない振りなのか、何事もなかったように授業やギルドクエストの準備へ……平常通りの活動に戻るのであった。


「……ここ数日で急に、ログアウトという用語が異世界転生者たちの間で使われるようになっているそうなんです。なんでも異世界転生者専門のサイトが立ち上げられたとか……意外とイクトさん以外にも異世界転生者っているんですね。もちろん、人口比ではごく少数だと思いますが……」


 マリアが神に祈る仕草をしたのちに、ポツリポツリと話し始めた。

 

「異世界転生者専門サイト? そんなものが出来たんだ。オレもつい最近ログアウトって用語を知ったよ。もしかしたら、そのサイトの影響を受けて……」


 まさか、レインが突然自らの異世界転生について語り始めたのもそのサイトの情報が元になっているのだろうか。


「アースプラネットは異世界転生者たちにとっては幸せな世界であるべきだと聞いています。完全に転生体となる前に魂を行ったり来たりするのは、魂が迷子になるから駄目だって……そう伝えられていたんですけどね」

「魂が迷子? 地球に戻るのに失敗すると魂がふらふらさまようって事か。けど、オレが転生したばかりの時はゲートから気楽に行き来してる人もいたよな」

「ええ、そういえばそうですね。さっき神父様に質問されていた方は魔法使いですが、一般的には勇者という職業は転生者が多いそうです。ちょうどレインさんとの認定試験の最中ですし、レインさんにも聞いてみるとか……」


 どうやら、レインも転生者だと言うことは本人が言わなくても職業で暗黙的に分かっているようだ。


「でも以前はゲートがあったし地球へ戻るハードルは高くなかったよな……やっぱり魔獣復活の影響か?」

「……魔獣の復活で人間用のゲートが通行止めになって、地球へのログアウトは一気に難しくなったのは事実ですよね。でも、本来は気楽に異世界転生出来る方が問題だったと考える派閥がいて、このままで良いと考えるようになってきているそうです」


 このままで良い?


「それってどういう……?」


 カラーン、コローン。

 会話を遮るように鐘の音が鳴る。

 もしかしたら、オレは何か重要な部分に触れているのだろうか?


「……調べてみるか、その異世界転生者サイト」


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