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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-
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第六部 第19話 守護天使の決意


 ログアウト、現実世界への帰還、テストプレイヤーの存在……レインとの会話で、オレの心の中にこの世界への疑問点がふつふつと湧き出すようになった。


 異世界転生だと思いこんでいた今の現象。

 けれど、この世界はゲーム異世界だ。

 地球では【蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-】として……スマホゲームとして存在していた。


『このゲームは本当に存在する異世界です』


 何年か前に、アオイの別荘で発見したゲーム開発者の制作発表会動画で開発者本人が言っていたセリフ。


 蒼穹のエターナルブレイクシリーズの舞台となる異世界アースプラネットは、本当に存在している。

 それに、ミンティアをはじめとする異世界の人たちは感情もあり、温かい存在、とてもじゃないがゲームのデータには見えない。


「なぁレイン。ミンティアもマリアたちも……みんな魂を持つ異世界人に見えるよな」

「うん。私たちだって、自分で考えて行動が出来る……魂があるわけだし。他の人たちもそうだと思うよ。イクト君のギルドの仲間たちもデータじゃなく、生きた異世界人なんじゃないかな」


 この世界は本当に存在しているように感じるし、ミンティア達は魂のある人間だ。

 もし、この異世界が宇宙のどこかに実在しているとしたら、ミンティア達は異世界人とか宇宙人とか呼ばれる部類の地球人とは別の人類なのだろう。


「つまり、ここの世界の人たちはきちんと肉体と魂を持った存在だとして……。地球のオレたちは……」


 けれどもし、本当の自分自身の身体は、まだ現実世界の地球にあるとしたら? 

 じゃあ、以前カノンと訪れた現実世界地球は?

 あれは本当の現実世界地球だったのか?

 何故、あの場所が地球だと疑わなかったのか。

 それに、あの時オレはどうやって再びこの世界へと還ってきたっけ。

 

【あなた自身をこのゲームにダウンロードします】


 オレ自身をダウンロード……その意味は……?


『イクト君自身をゲームにダウンロードしちゃったの?』


 レインがさっき確認してきたじゃないか、オレ自身をダウンロードしたのかどうか。

 オレ自身を……?

 まるで、ゲームのデータになってしまったのは……。



 * * *



「お待たせしました。ミートドリアセット、なすとトマトのパスタセットになります」

 

 ウェイトレスが料理を運んできて思わず現実に引き戻される。


 この世界は現実……なのか? 


 いや、少なくともオレの意識は確かにここで生きているから、認識のうえではここが現実だ。

 テーブルに出来立てのミートドリア、グリーンサラダ、バニラアイス、アイスコーヒー……がコトン、コトンと置かれる。レインはパスタのセットだ。


「ドリアは熱くなっておりますので、気をつけてお召しあがり下さい」

 グツグツとオレの注文したドリアから鳴る音。小さな気泡がミートドリアのクリームの表面で生まれては弾ける。


「突然いろいろ話したから考えさせちゃったね、ゴメン。せっかくだし……食べようか?」


 じっと考え込むオレにレインが一言謝る。

 オレもはっとして、「いや、いいよ。お腹すいてるし、食べよう」と、スプーンでドリアを掬い、勢いよく口の中へ。


「あつッ」


 予想以上に熱々のドリアの熱で思わずヤケドしそうになり、慌てて氷水を飲んでクールダウンする。


「ふう……本当に熱くてびっくりした。でも味は旨いや」

「イクト君、大丈夫……? まだ時間あるし、ゆっくり食べよう」


 レインの言う『まだ、時間あるし』の『時間』の意味が、今日の時間を指すのか、ゲームのプレイ時間の時間を指しているのか一瞬わからなくなったが、オレの中では両方の意味として捉えることにした。


 熱くとろけるチーズたっぷりのミートドリアは、地球にいた頃に食べた味を彷彿させる美味しさで……やはり、この肉体は極めて生身のオレ自身なのではないかと感じるのであった。



 * * *



 夜八時、放課後からのデートの帰り道はすっかり暗くなっていた。

 ゲートからギルドへと移動し、勇者専門寄宿舎の前でレインと別れる。


「今日は、いろいろ話せて良かった。じゃあ、レインまた明日」

「うん。お節介だったかもしれないけど、みんなと本当に結婚する前に知っておいた方がいいと思ったから……。また明日、お休みなさい」


 コツコツと寄宿舎の階段を昇り、二階の自室へ。

 部屋では守護天使エステルが帰りを待っているはずだ。

 もしかしたら、エステルならこの世界の秘密を知っているんじゃないかと考えたが、どうやって話を切りだせば良いのか分からない。


 とりあえず、平常心を努めて普通に接するか……。


「ただいま。エステル、今日はレインと緊急でデート試験を受けてきた」


 すると、オレの気配を察知していたのかエステルがロフトルームからふわりと羽根をぱたつかせて降りてきた。


 白い羽根が床に落ちる。珍しい。


「お帰りなさい、イクト君。今日はご飯もうデート先で食べちゃったんですか? 明日もデート試験があるから早めに支度をしないと……それから……えっと……」


 珍しく、エステルがしどろもどろになる。言葉をどう紡いでいいか、考えているようだ。


「エステル……? どうした、大丈夫か」

「イクト君、もう知っちゃったんですよね。この世界の……ううん、イクト君自身の秘密……。ハーレム勇者認定協会のククリちゃんから報告が来て、きちんと、もう一度イクト君の気持ちを訊くようにと……」


 なるべく平常心を保った態度で部屋に戻ったのに、まさか守護天使の方が動揺するとは……。


「どうしたんだよ、エステル……」

「うう……イクト君、ゴメンナサイ。キミが転生したときにもっと詳しくお話ししておけば……」


 オレに謝りながら、縋るようにオレの手を握るエステル。彼女の瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれていた。


 オレ自身の秘密?

 ちょっとまってよ。

 まだこの世界の仕組みについて、よく理解できていないんだが。


「私、イクト君に今度こそ幸せになって欲しくて……イクト君はこの世界に完全転生してみんなと結婚したいんだとばかり……。まさか、ログアウトを視野に入れるなんて……」


 ログアウト。

 超難易度のラスボスを倒してこの世界をゲームクリアに導き、一度現実に戻るという現象……の事だと思われる。


「ちょっと……エステル落ち着いて! 悪いけど、オレ、まだ自分が置かれている立場って言うか状況がイマイチ飲み込めてないし、ログアウトの話って言うのもまだよく知らないんだけど……」


 オレの言葉にはっとするエステル。


「えっ……でもククリちゃんはレインちゃんからこの世界の話を全部教えてもらっていたって……。だから、イクト君がきちんと自分でこれからのことを考えられるように話し合って……と」


 ククリ? 

 そういえば、ククリは光の状態でオレとレインのデートの様子を見ていたんだっけ。じゃあ、どんな会話していたのか知ってるはずだよな。


「レインも異世界転生者だってことを教えてもらっただけだよ。この世界の秘密なんてオレもレインも知らないから……!」

「……! そうだったんですか……私はてっきり……」

「てっきり?」


 ひょんな思い違いから、クチを滑らすエステル。

 イクト君に幸せになって欲しくて……と言っているからには悪気はなさそうだが……。


「エステル……」


 肩をふるわすエステルを見つめると、エステルは決意を固めたようで、神に祈りの言葉を捧げてから、深呼吸をしてオレの目を見つめ直した。


「イクト君……これも神の思し召しかもしれません。私が知りうる、この世界の秘密をイクト君に全てお教えします」


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