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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-

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第六部 第16話 女勇者と次へのフラグ


 ダーツ魔法学園勇者コース。いわゆる勇者の卵を養成するこの教室には将来有望と選ばれた若者達が、日夜世界を守る勇者としての教育を受けている。

 正義感の強い生徒が多いのが特徴。勇者を育てる学校は数が非常に少ないため、全国から志望者が集まる。


「おはようございます、イクトさん! どうですか、勇者コースの授業の手応えは……」

「おはよう、ククリ。そうだな……まぁこの何年かのうちに生徒数も増えて、結構賑やかだよ。ほら、全学年がひとつの教室でホームルームを受けるしさ」


 振り返ると、この数年で本当にダーツ魔法学園は生徒の人口が増えた。特に学園ギルドを運営するようになってから、外部からの進学希望者が数多く受験するようになったのだ。


「ほう……ところで以前から気になっていたのですが。同じ学年の女勇者レインさん……彼女のことはどう思われていますか?」

「ふぇっ? 何を突然……」


 密かに気になっているレインに対する気持ちを問われて思わず動揺する。


「ククリちゃん……その、イクト君はそろそろ出かけないと授業に間に合わなくなっちゃうから……」

 オレの心の内側のただならぬ動揺を察してか、普段はククリの調査に干渉しない守護天使エステルがやんわりと調査を中断させる。


「そうですか……すみません。ちょっと聞いて見ただけなんで。では、今日も授業頑張って下さい!」



 * * *



「イクト君、おはよう。今日の朝食セットは、わかめご飯の和食セットだって!」

「レイン! おはよう……。そっか……わかめごはんか……。えっと、さっそく食べようか」

「大丈夫、イクト君。なんだか顔が赤いよ。風邪かな……ハーレム勇者認定試験って、女の子とデートするだけじゃなくて、バトルも多いでしょう? もしかすると疲れが溜まっているのかもよ」


 ただ単に、顔が赤いのはレインのことを今日のククリのひと言のせいで妙に意識しているからなのだが。


「そうかも……気をつけるよ。特に今日は、上級生との合同訓練だし」

「イクト君が認定試験を受け始めてから合同訓練は初だよね。注目されているみたいだから、気を引き締めたほうがいいかもね」


 授業は単位制を導入しているため、上級生と下級生が同じ授業を受けることも多い。勇者コースの生徒は一学年につき5人から10人ほどの数だ。他のコースに比べると少人数だが、勇者イクトが転入してきた頃と比べると生徒数も増えた。


 まじめで正義感あふれる若者達が集う勇者コースだが、やはり彼らも普通の学生……年頃らしく、お洒落や恋愛にも興味の出てくる時期である。


 今、勇者コースで一番の話題は上級生である勇者イクトが受験中のハーレム勇者認定試験だ。


(はぁ……認定試験を受けるようになってから、確かに視線が痛いよな。もしかしたら、本当に疲れているのかも)



 * * *



 午前の授業が終わり、現在ランチタイム。

 よその教室で授業を受けていた勇者イクトが、ランチのために勇者コースの教室に入る。

 一瞬、生徒達の視線がイクトに集まり……再び何事もなかったかのように平常を装う。



「あっイクト先輩だ……イクト先輩ってさ……本当にハーレム勇者認定試験を受けてるのかなぁ? 訊いたら悪いかなぁ……」


 教室の片隅で、下級生がひっそりと会話中。赤茶色の髪が特徴的な、ちょっぴり気の弱そうな少年キラがイクトを目で追う。イクトに気を取られて、キラは思わずスプーンに乗せたオムライスをこぼしかける。


「なあに? キラ……。アンタもハーレム勇者になりたいの……ふん、私がいないと何もできないへっぽこ勇者のくせに……ほらっケチャップ、口元についてるわよ!」


 勇者コースには珍しい女勇者の少女ミリーが、キラの面倒をみている。ミリーはライトブラウンの髪をポニーテールにして高く結び、いかにも活発そうだ。今年転入してきた彼女は、女勇者レイン以来の二人目の女勇者だ。


「わっ違うよミリー。別にそんなんじゃないけどさ……たくさんの女の人と婚約して大変そうだなって……噂だと、美しい魔族の姫君とも婚約してるんだって。なんか、伝説の勇者ユッキー様みたいな人生だなぁって」

「ふーん……イクト先輩みたいになりたいのかと思ったわ。アンタじゃ無理よ……アンタみたいなの面倒見るのアタシくらいしか……」


 ミリーが頬を赤らめながら何かを伝えようとしているが、気恥ずかしいのか、その後の台詞はオムライスと共に飲み込んでしまった。


「えっなに?」

「いや……何でもない!」


 ミリーは、何故同い年の気弱少年キラの反応が気になるのか、そして、その感情が何なのか、まだ自分でも気づいていないようである。



 『ハーレム勇者』はアースプラネットにおける伝説の勇者の名称である。何故、そんな肩書きの勇者が伝説なのかというと、各種族の娘達と勇者が婚姻したことにより、世界を平和に導いたという英雄神話のせいだろう。


 かつて、ハーレム勇者は一夫多妻制を正当化するための架空の伝説だとされていた。


 だが、異世界より現れしユッキーと名乗る若者が『魔王の娘』と婚約し、伝説のハーレムを作り上げ、本当に世界を平和に導いてしまったため、現実の存在として認定されるようになったのだ。


 

 注目の的である勇者イクトは、現在ランチタイム中。

 外は降りしきる雨……勇者向けの定番メニュー特製勇者ランチを食べながら、同い年の勇者同士でほっとひといき雑談中。

 今日はオムライスが中心か……ふわふわ卵とケチャップ味のチキンライスがなかなか絶妙である。


「それで、ハーレム勇者認定試験っていうのはどうなってるの。合格しそう?」


 同級生の男勇者マルスにからかうように突然試験について訊かれ、思わず動揺する。


「うっ食事時に……。頑張ってるけど……今年初めて始まった試験だし、よく分からないよ」


 思わずオムライスをノドに詰まらせそうになるも、アイスティーで飲み干し事なきを得る。


「はは、ごめん。なんか、イクトのこと下級生が気にしてそうな目で見てたから、つい……さ」

「イクト君、頑張って試験受けてるよね。意外とバトル試験が激しかったし、婚約中のパーティーメンバーとのバトルの相性もみてるのかも……」


 認定試験を見学していた女勇者レインがフォローを入れる。


「ああ、でもいきなりギルドメンバー達と婚約することになって実感がわかないし、こうやって試験を受けて準備するのがちょうどいいんだよ。きっと」

「結婚……かぁ。普通はまだ結婚なんて視野に入れる年齢じゃないものね」


 どこか、遠くを見つめるレイン。突然決まった婚約話というデリケートな話題のため、しばし沈黙。


「そっか……でも、なんか寂しいよな。オレはてっきりイクトとレインが……なんて言うか……くっつくと思ってたからさ。勇者同士は御法度なのか? いや、まだ間に合うかもしれないし……イクト、思い切ってレインとも婚約できるように協会に訊いて……」


「ちょっと……イクト君が困るよ……もう……いいから」


 何故か、顔を赤くしながら困った表情でマルスを止めるレイン。


「ああっもうイクト、モテるくせに鈍いんだよ! 見てると背中の当たりがムズムズするっていうか……。いいかぁ、レインはなぁ……ずっとお前のことを……!」

 

 えっ? オレのことを……? と、マルスの台詞の続きを訊きたい気持ちもあったが、突然、オレたちの目の前に光がふわりと舞い降りていて、話は一旦中断となった。



「ふう、ワープ完了! おや、食事中でしたか。これは失礼……」

「ククリ!」

 突然現れた光の正体は、ハーレム勇者認定試験の試験官であるリス型精霊のククリだった。


「えっこのリスちゃん何者?」

 ククリと初対面のマルスは動揺している。

「試験官だよ。ハーレム試験の……」


 オレがククリを紹介するとククリが軽くお辞儀をする。確かに彼女はリスだが……精霊というのは様々な姿を持っているらしいし、今はリスというだけかもしれない。


「試験官……この子、リスちゃんじゃん? あっでも精霊なのか……案外、真の姿は人間型なのかもしれないなぁ。そうだ! なあククリさん、実はオレ勇者マルスおすすめのイクトの嫁候補がココに一人いるんだけどさ……イクトとレインはいつも一緒に授業で組んでるし、レインも試験を受けた方が……」


 と、レインのことをククリにオレの嫁候補としてプッシュし始め……えっどうしてマルスが……?

 確かにオレは凛々しい女勇者レインのことを密かに気にしてはいたが、同じ勇者同士という遠慮もあっていつまでもお友達の域である。


「ああ、そのことですが……実は協会から、いつも行動を共にしているメンバー全員を視野に入れてテストを受けるようにとの指示が入りまして……。女勇者という特別な職業の方ではありますが、レインさんともデート試験を受けていただきます」

「ふぇっ」


 レインとのフラグに、動揺するオレ。そうか、それで今朝ククリはレインについてしきりに聞いてきたのか。


「だよな! なんかしっくりこなかったんだよ、この試験!」


 いつもオレと行動を共にしているレインが、デート試験からはずされていたことに違和感があったというマルス。ようやく満足した様子。


「イクト君……あの……」

 心なしか頬の赤いレインと目が合う。

「レイン……えっと……」


『……ヨロシク、お願いします……』


 と、声をハモらせながらオレとレインは改めてお互いを意識し合うのであった。


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