第六部 第14話 ガチャの戦利品を眺めながら
「はぁあああっイクト、行くぞ連携技だ!」
「おうっ! 喰らえ必殺ダブル斬り!」
ズシャァアアアッ!
ゲーセンのバトルガチャスペースでは、勇者とエルフ剣士が今日もアツい連携プレイを繰り出している。
『おめでとうございます! 連携スキルダブル斬りを見事に取得しました。ギルドアプリに使用可能スキルとして登録します。現在、データ転送中……しばらくお待ちください」
「おっ新スキルの登録が終わったか。さて、次はお待ちかねのガチャタイム……どれどれ……」
「あはは……もう星5激レア武器を手に入れたんだから、そこまでガチャにこだわらなくても……」
「いつでも、ガチャはロマンなんだよ。ロマン!」
エルフ剣士アズサとのデート試験は、ほぼ全ての時間がヴァーチャルリアリティガチャゲーム攻略に費やされた。
絆を深めるためのデートプランのハズが、ガチャのためにひたすら体感型バトルゲームをプレイするというものになってしまったが、案外こういうデートもオレ達らしくて良いのかもしれない。
ある意味、気心が知れていると言えるだろう。
「そうだ、イクト……! 一旦、ランクアップの影響でレベルが1に戻っていただろう? そろそろそれなりのレベルに上がっているはずだから。確認して見るといいよ」
「えっ……ああ、そういえばこのゲーセンのバーチャルバトルでも経験値が加算されるんだっけ」
そして、冒険者としても良かった事がひとつ。ランク切り替えのため、一旦レベル1に戻ってしまっていたオレのレベルを一気に上げることが出来たことだ。
マリアとバトル試験を受けた時はランク3だったが、ランク4に上がった。なおかつ次のバトル試験に対応できるレベルにアップしている。
確認のために、スマホのステータス画面で確認する。
【ステータス】
勇者イクト 職業:学園勇者(ランク星4)
レベル:22(レベル25でランク星5に移行)
HP:1450
MP:110
攻撃武器種:棍・剣・槍
装備武器:ロングソード・改
装備防具:ダーツ魔法学園勇者装備中級・アクティブベルト・なめらかブーツ
装飾品:携帯用バッグ・呪いよけのペンダント
呪文:回復魔法小、攻撃魔法
【備考】
ランクアップ後は、新たな魔法が使用可能。今後もスキルアップに励んでください。
「おー、なんだかレベルが結構上がってる!」
「だろ? やっぱりこのゲーセンをデートの場所に選んで良かったな」
デートを兼ねてバトルの腕までパワーアップまで出来てしまうあたり、さすがエルフ剣士が相手のデートだったと言えるだろう。
ちなみに、学園勇者としての称号ではランクは5が最大で、卒業後はギルド勇者としてランクを上げていく予定だ。
剣の扱いにもだいぶ慣れたし、ゲーセンでのバトルゲーム通いは、もしかしたらアズサなりのオレへの気遣いだったのかも知れない。
「あのさ、アズサ。もしかして、最初から……オレのために?」
「さぁね……まぁ全て、偶然って事で! ギルドに戻ってみんなに戦利品を分けようっ」
* * *
「それでは、ガチャの振り分け作業を行いまーす!」
ギルドのミーティングルームでは、メンバー勢ぞろいで戦利品の武器防具や素材をミーティング用のテーブルに広げて、装備品の振り分けを相談中。
「うわぁ……普段使わない武器種まで星4装備が手に入ったね! いろんな攻撃方法を研究出来そう」
「本当……転職前にいろんな武器を見ることができて嬉しいです!」
アイラとマリアが、今まで装備したことがない武器種の検討を始める。
星4レア装備だけでも杖、槍、鞭、ハンマー、弓矢など種類豊富となった。ギルド加入時から、ほとんど装備品のランクを変えずにいたメンバーもいたので嬉しい限りだ。
アズサはお目当ての星5激レア武器『ファンタジックソード』を手にご満悦。キラリと金色に輝く激レア武器は室内でも眩しい。
「随分、たくさんの装備品をゲットしましたわね! 私もクリスタルの杖、ありがたくつかわせて頂きます。さぁ……撮影です! アズサさん笑って下さい。星5激レア装備もよく似合ってますわ。」
パシャッ!
星5激レア武器片手にポーズを決めるアズサを、エリスがスマホのカメラ機能でパシャリと撮る。
プチ撮影会と化しているミーティングルームだが、滅多に装備品を手にした写真なんか撮らないので、それだけ貴重な武器だということだろう。
「こういう作業を魚拓を撮ると言うらしいですわ……釣り愛好家の方から来ている用語なのかしら? アズサさん、きれいに撮れてますわよ」
さっそく、撮影した画像をチェックするエリス。モデル役のアズサも写真に満足しているようだ。
「へへっ照れるぜっ。ここにある装備、必要な分はみんなで分けて、あとは冒険者の卵達に寄付することにしたから……」
満足そうにガチャ装備の使い道を語るアズサ。
さすが、ボランティアや社会貢献を日常的に行うエルフ族なだけあって、使わない装備品は冒険者の卵達を育成する施設に寄付をすることにしたそうだ。
リストには、前回のバトルテストでお世話になった道場も含まれていた。
「この間の道場にも装備を寄付するんだね。私もエルフ族のボランティア精神を見習わないと……」
寄付リストを確認していたミンティアが、感心したように呟く。
「アズサは何だかんだ言って、しっかり者のエルフなんですよ。素材もこんなに……回復や魔力効果のオーブや鉱石まで……。きっと、錬金も捗りますよ! イクトさん、アズサ、よく頑張りましたね」
珍しい星4レア素材のオーブや鉱石を手に取り、喜ぶマリア。
「にゃあ、ココアも喜ぶにゃん」
ミーコがさっそく装備錬金職人の犬耳族ココアにメールを送る。
「お兄ちゃん、何か私でも装備出来そうな防御系のものある? 私、これを機に守備力も上げたいな!」
武器の検討は終わったのか、アイラは防具に関しても興味津々だ。
「イクト君、アズサさん、私も装備分けてもらっていいの? ありがとう」
協力パートナーとして、よく一緒にクエストに参加してもらっている女勇者レインにも装備をお裾分け。
「当たり前だろ? いつも一緒にいろんなクエストこなしてるんだから。これからもよろしくな」
「遠慮することないよレイン、このアクセサリー装備なんか女勇者に似合うんじゃないか?」
こうして、ガチャでゲットした武器や防具はきちんと必要な人の手元に渡り、オレもアズサも実に有意義な時間を過ごせたと満足した。けど、ハーレム勇者認定試験としての評価はどうなんだろう?
いや、さりげなくみんなに気遣いをするアズサを、認定協会も評価してくれると信じよう。
「みなさんで装備を山分け……良いデート試験の内容だと思いますよ。イクトさんとアズサさんがガチャゲームを通じて絆を深められたのなら……」
その時、試験官のリス型精霊ククリがふわりと光の状態から姿を現す。
「おっククリ! ほら、ククリにもお土産があるんだ。このドングリ、レア度3の素材らしいんだけど、たくさんあるからいくつかククリに……」
アズサがにっこりと微笑みながら、ククリにたくさんのドングリの入った小袋を渡す。白い皮の袋からはずっしりとした重みすら感じる。
しっぽをクルンと回転させて驚くククリ。
「こっこれは……! ですが、これを頂いたからと言ってテストの評価が変わるわけではありませんよ……。おそらく、デート試験は合格点ですが、バトルテストはきっちり勝たないと正式に合格ではないので……」
ククリは試験官という立場からか、ドングリを受け取るか、受け取らないか悩んでいるようである。
「はは、これはククリがテストの試験官だから渡すんじゃないよ。エルフから精霊への感謝のしるしだよ。リス型精霊はいつもエルフの里にある森を守っていてくれている種族なんだ……だから、そのお礼!」
ドングリの詰まった袋をそっとククリに手渡す。
「えっ……私だけがこんな良いモノをもらっては……」
「あと、ククリの仲間達にもエルフの里を通じてドングリ贈っておくよ」
すると、ククリはドングリ小袋を小さな手で受け取り、「うう……アズサさん……では、エルフ族とリス型精霊の交流として個人的に受け取らせていただきます……ありがとう……」と、しっぽを再びクルンとさせてから、可愛らしく笑った。
* * *
もちろん、次の日行われたバトル試験の結果は好成績。バーチャルリアリティガチャゲームで鍛えたこともあり、オレは剣のスキルを上手く使いこなせるようになった。
ザシュッ! ガキィン!
バトル試験官の剣技を上手くやり過ごし、攻撃のチャンスを伺う。
「よぉし……そろそろトドメだ。行くぞ……連携スキル……はぁあああああっ」
「喰らえっダブル斬りっっ!」
ズシャァアアッ! つい最近取得したばかりの連携スキルでトドメの一撃を放ち、凄腕試験官を倒す。
『おぉー!』
思わず、バトル試験の見学者たちから感嘆の声が聞こえてくる。息のあった連携攻撃は、星5レア武器を装備しているだけでは繰り出せないものだからだ。
「やったな、イクト! これで試験は無事に合格だぜっ」
「おう、おかげで慣れない剣もだいぶ上達したよ。サンキューアズサ」
今回のデート試験、アズサとの絆はゲームやバトルを通じて育んだものだ。そういう絆の深め方があってもいいんだと思う。
そんなわけで、土曜日に行われた第三テストも無事に合格。第四テスト開始までしばらく準備がかかるらしい。空いたスケジュールは気ままにクエストをこなしたり、装備錬金に挑戦したり……計画は多い。
それに明日は妹アイラと湖でボートに乗る約束。兄妹水入らずで遊ぶのは久しぶりだ。楽しみにしよう。
オレはテスト終了後、自室でそんな風にプランを練りながらカモミールティー片手にゆったりとした夜を過ごした。
順調にハーレム勇者認定試験を突破していくイクト。それを見守るかつての勇者の魂がふわり……。
『頑張ってるね、イクト君。キミなら良い勇者になれるよ。きっと、キミが想像している以上の……ね』