第六部 第10話 銭洗いと恋のおみくじ
「本日のデート試験のお相手は、清楚系白魔法使いのマリアさん。いかにもハーレムゲームのヒロインとして登場していそうな黒髪ロングヘアの優しそうな美人さんですね」
「ああ、マリアに初めて会った時は確かにいかにもハーレムゲームのヒロインっぽい美人だって思ったよ」
「ほう……第一印象から好印象とは。ふむふむ……データによると、スタイル抜群でスリムな体に似合わずFカップ巨乳の持ち主! イクトさん、女アレルギーを起こさないようにお気をつけ下さい……では」
本日のククリとのミーティングも無事に終わり、マリアと待ち合わせの場所へ向かう。クエスト時とは異なり、デート現場で待ち合わせするためお互い使用するゲートをずらした。
「ふう……いつもみたいに、一緒にゲートで移動しないとなんだか変な感じだな。オレの方が後になっちゃったか?」
「イクトさーん。こっちですよ」
「マリア、待たせて悪かったな! 行こう」
* * *
デートスポットで有名な『湖の見える公園』は、一年中、人で賑わう人気スポットだ。
巨大な湖を中心に、遊歩道やサイクリングコース、記念館、動物園、お社、カフェテリアなどを有しており、錬金素材の採取も可能。そんな人気スポットで採取に励む冒険者の姿。
少年は栗色のサラサラとした髪が印象的、服は半袖シャツに学生服のズボンとごく普通の学生ファッションだが、背中にはロングソードを背負っており彼が冒険者であることを世間に示している。
少女は美しい黒い髪をバレッタでひとまとめしており、清楚なロングスカートのワンピース姿、腰のベルトにはミニサイズの白魔法用ロッド。
親しげな二人は、ただの冒険者仲間なのか、それとも恋人同士なのか……。
今日のお話は、そんな曖昧な関係の勇者イクトとマリアのヒトコマである。
「さすがに夕方近くなると、涼しくなりますね。風が気持ちいいです! 湖もきれいだし、採取も順調だし……」
「今日の採取の制限本数に到達したし、あとはのんびり散歩でもして過ごそうか」
時刻は16時過ぎ。
爽やかな風が頬をなでる。放課後、マリアと湖の見える公園で装備錬金用の採取をしながら公園デート。今日は平日のハズだが、この公園は相変わらず人が多い。
人間族の他に獣人族の姿も多く、ジョギング中の犬耳族とすれ違う。遊歩道をのんびり歩くと、森林浴効果でリフレッシュできそうだ。
現在、オレ達はハーレム勇者認定試験テスト第二段階真っ最中。いわゆるデートがメインだが、テスト最終日には第一テストの時のようにバトルテストが控えているそうなので、疲労は溜めずになるべく体力を温存したい。
オレがのんびり散歩を提案すると、マリアがぴたっと足を止めた。ロングスカートがふわりと風になびく。
「あの、イクトさん……私、実はこの公園の中にどうしても行きたいパワースポットがあるんです。インターネットの情報で知ったんですけど、金運関係の素敵な泉があるそうで……」
パワースポット? レインもこの公園のパワースポットについて語っていたよな。もしかして、この広い公園内には、たくさんのパワースポットがあるのだろうか。
「金運? 楽しいパワースポットならいいけど……」
「本当ですか! イクトさん、じゃあさっそく行きましょう!」
こっちです! と、やたら嬉しそうにオレの手を取り足早になるマリア。そういえば、マリアは前世から金運だの風水だのに凝っていたっけ。
カーブ状の遊歩道をぐるり歩き、例の湖の上に架けられた長い橋を渡り、道沿いに少し歩くと『銭洗いの泉はこちら』との看板。
「銭洗いの泉? なんか地球にも似たようなスポットがあったような……なんだっけ……」
現実世界から異世界転生して、しばらく経つので記憶が曖昧だが銭洗いのパワースポットが地球にもあった気がする。
「えっ? 本当ですか。じゃあ、話は早いですね。さっそく女神様に挨拶をして、銭洗いしましょう」
木々に守られた神聖な空間に足を踏み入れると、金運と美容を司る美しい女神像の姿。
参拝スペースの隣には金運の泉とお金を洗うためのスペース。お守りやおみくじも購入できるようになっていて、販売所のすぐそばには絵馬をかけるスペースもある。
「随分、本格的な神社仏閣ってかんじだな。こんなところが、公園内にあるなんて……」
「すごいですよね、お社もきれい。じゃあ、お金を奉納して女神様に祈りましょう」
お賽銭を入れ、お社の上にある銅鑼をゴーンと鳴らし、二人で女神様に挨拶。
祈りが終わりマリアの方を見ると、マリアはまだ熱心に何かを祈っているようだ。願い事でもあるのだろうか?
「次は、お待ちかねの銭洗いですね! このザルにお金をのせて、水神様の像から流れる水で洗って……」
マリアに銭洗いの仕方を教えてもらいながら、冷たい水を小銭にかけていく。手に水がかかるが、ひんやりとして気持ちいい。
「なんとなく、小銭がきれいになった気がするなぁ。これだけでも御利益があるのかも」
「ふふっ。イクトさんもこの場所気に入ったみたいで良かったです。あとは、お守りと……おみくじも引いていこうかしら?」
銭洗いコーナーの隣にある販売所で金運のお守りとおみくじを購入。
お守りは黄色い袋でかわいらしいデザイン、参拝の良い思い出になりそうだ。
「おみくじは……嬉しい、大吉ですよ! 学問に励むとなお良いでしょう……良かった。金運は、良いが無駄遣いに注意……うう、気をつけます……」
おみくじの内容に一喜一憂するマリア。さて、そういうオレはどうだろう? 筒状にくるまれた薄い紙を丁寧に開けると……。
「どれどれ……『末吉……今は大変ですが、後に良くなる。素敵な恋の予感あり、告白される可能性も』って、告白? オレ、もうギルドメンバーと婚約してるしなぁ」
さすがに、もう婚約者が増えるということはないだろう。多分。
「恋の予感ですか……いくら一夫多妻制だからといって、これ以上婚約者を増やすのは、さすがにきついと思いますよ。経済的にも……」
「だよなぁ」
「あっでも、これからもっと仲良くなるという意味かもしれません。私たち、形式の上では婚約しているけれど、まだ普通の友達同士みたいな付き合いじゃないですか……その、もっと恋人っぽく……」
珍しくマリアが頬を染めて照れているので、なんだかこちらまで恥ずかしくなってしまう。
「……マリア……」
今まで、ギルドの仲間として接してきたオレたちだったが、自然の流れでギルドメンバーのほとんどと婚約をする流れになってしまったので、心の準備が全くできていないのだ。
先に婚約式を挙げていた正妻のミンティアとだって、婚約話が持ち上がってから恋人っぽくなるのに時間を有したわけだし、やはり、時間をかけて関係をはぐくむのが自然なんだろう。
これまであまり意識したことがなかったので、思わずお互い意識しすぎて、沈黙してしまう。
「そろそろ……帰ろっか……」
「……はい!」
転移キューブを起動させ、学園内ギルドへのゲートの前までワープ。ゲートをくぐればもうギルド……という所でマリアが、「イクトさん……あの、今日は楽しかったです!」と、頬を赤らめながらオレのほっぺに触れるだけのキス。柔らかい唇の感触が頬に残る。
「えっあのっマリア……」
突然の出来事に動揺して、心臓がバクバク鳴っている。きっと、今のオレの顔は、驚きと緊張と恥ずかしさで真っ赤だろう。
「じゃあ、また明日!」
マリアも恥ずかしかったのか、先に駆け足でゲートをくぐり抜けてしまう。
突然の出来事に今日のおみくじは、ちょっぴり当たっている気がした。