第六部 第4話 デートの準備
観光クエストでバーベキューを楽しんでいたオレ達。すると、どこからともなく手紙を片手にキャンプ場にリスの召喚精霊が現れた。
一見、どこにでもいそうなリスは最近発足したばかりという、ハーレム勇者認定協会からの使いだった。
「頑張りましょう、結崎イクトさん。私、リス型召喚精霊のククリと申します。配達員兼ハーレム勇者協会の監査員を勤めております。しばらく監査役としてオトモしますので」
* * *
楽しいキャンプが終わり、夕暮れ時にはワープゲートを抜け無事寄宿舎に帰宅。今日からテストの監査役としてサポートを務めるリスのククリも一緒だ。
さっそく、オレの守護天使であるエステルにもククリを紹介する。
「えっと……こちらが、ハーレム勇者認定協会の監査役……リス型精霊のククリさんだ。エステルのロフトルームか、部屋のどこかにリス用のケージを設置することになるけど。仲良くしてくれよ」
「えっハーレム勇者認定協会? そういう協会があるんだね。もしかして新しく出来た協会かな。私、守護天使のエステルです。ククリちゃんよろしくね!」
「おぉ! 守護天使さんですか……もしかするとエステルさんもイクトさんのお嫁さん候補とか……。いや、失礼しました! 今日からこの寄宿舎でご一緒させていただく、リス型精霊のククリと申します。エステルさん、よろしくお願いします!」
リスと守護天使の会話という異世界ならではのファンタジーな光景が広がる中。今日のキャンプで疲れたオレは、和んでいる2人を何となく見守りながらミニキッチンで、軽く夕食を作った。
「はっ! イクトさんは、ご自分でお料理を作れるんですね。これは、自炊系男子としてポイントになりますよ。今日の夕飯はマーボー丼ですか、食べやすくて良いですね」
「イクト君は、マーボー豆腐以外にも鳥の唐揚げも上手なんだよ。んー、ピリッと辛くて美味しい!」
ククリがオレの手料理を眺めながら、素早くポイントを記録し始めた。どうやらもう協会によるオレのハーレム勇者としてのチェックが始まっているようだ。
エステルが、オレの料理力についてククリに説明している間に食事が片付く。
「じゃあ、ちょっと大浴場まで行ってくるから。エステルもそろそろお風呂の時間だよな。ククリは……その間お留守番?」
「いえ、私実はお風呂が大好きなリスでして、精霊限定スパの会員なんです。ちょっとワープして行ってきます!」
「そ、そうなんだ。まぁリスも水浴びは大事だよな……。じゃあ、またお風呂あがりに……」
夕飯と風呂を終え、ギルドに提出する観光クエストレポートを自室のデスクで書いているとロフトから楽しそうな話し声が聞こえる。ククリとエステルによるガールズトークを展開しているようだ。
あのリス……メスだったのか。そういえば、ギャルゲーのヒロインみたいな萌えっぽい声色してるもんな。まさか、ククリの真の姿は……ハーレムゲーム特有の美少女? いや、そんなわけないか。
「へぇククリちゃんは長女なんですか……妹達の学費のためにこの仕事を……。偉いですね」
「私、今の仕事にやりがいを感じております。それに、アースプラネットには美味しい栗がたくさんあるとか……それを楽しみに励んでおります」
話し合いの結果、今日からしばらくククリのリスケージはエステルが使用しているロフトルームに設置することになった。
ロフトルームはそれなりに広く、エステルの眠るスペースと彼女の服や私物が置かれている。幸いククリはサイズの小さいリスなので、ロフトルームでエステルと共に居住してもさほど気にならないだろう。
「けど、守護天使って結構待機時間も長いし1人の時間が多かったんだけど。ククリちゃんがいれば、孤独感を感じずに済むかも」
「お互いイクトさんを見守るもの同士……共に励ましながらやっていきましょう!」
「うん! ところで、このあたりに美味しいクレープ屋さんがあって栗の種類もたまに販売するんだけど……」
「栗! 秋限定でしょうか、今から楽しみですっ」
守護天使とリス……何の共通点もなさそうな一人と一匹だが、実はオレを見守る役割という共通任務の持ち主だ。
しばらく共同生活だし気が合いそうで良かった。デスクに置かれたデジタル時計を確認するとちょうど22時、そろそろ明日の準備をするか。
「ククリ、ちょっといいか? 明日はデートの準備をチェックするんだっけ……デート準備試験……具体的にどんな試験なの?」
ククリはリスらしく軽快な動きでロフトから降り、ローテーブルの上に移動した。ちなみにこのローテーブル冬場はコタツとして活躍する優れものである。
現在はコタツ布団をとってさっぱりとした様子、まるで普通のローテーブルのようだ。
「はい、女の子を楽しませるデートの準備として何をイクトさんがなさるのか……自由に行動して下さい。そうですね……一般的にはデートコースの情報を調べたり、デートに必要なアイテムを揃えたりするみたいですよ」
「必要な道具……そういえば、財布がそろそろ古いな……ぼろい財布をデートの時に使うのも気が引けるし、買い物とデートの下見をかねてファッションビルにでも行くか」
一応、オレなりにプランをたててみる。ちなみに最初のデートの相手は正妻であるミンティアだ。デートは一人につき数日行われる。
「本番のデート試験では身だしなみやファッションセンスが問われますが……イクトさんは学生ですので学生服を着用できますよ。他のハーレム勇者より有利ですね」
「ファッションか、でも日曜日のデートは私服だよなぁ。洋服も新調するか」
いつも顔を合わせているミンティア相手のデートだが、ギルド加入後は集団行動がメインとなってしまっているため二人っきりで過ごした記憶があまりない。
正式に結婚する前に、一度ゆっくり二人の時間を過ごす機会を作れて良かったのかも知れない。
* * *
次の日の放課後、オレはデート準備のために学園から徒歩で数分のファッションビル街で革小物をチェックしていた。財布を新調するなら、さほど高くなくてもいいので革にしよう……と、かねてより考えていたからだ。人で賑わうファッションビルは学校帰りの学生の姿もチラホラ。
「ほう……革小物ですか……イクトさんは革にこだわりがおありで?」
監査役のククリを肩に乗せ、ショッピング。
リスを肩に乗せた学生というのも珍しい気がする。時折、ククリがオレにこだわりや趣味をリサーチしてくる。革へこだわりがあるか問われるが……。
「こだわりっていうか、長く良いものを使いたいだけだよ。ほら、この革の二つ折り財布……セール価格でお値打ちだ。けど本革で見た目もシックだろ? これにしようかな」
オレが手に取った革の財布はシックなブラウンの折り財布で小銭入れはボックス型。カード入れのスペースもいくつかあり、札入れスペースは二つある。何よりコンパクトなサイズなので使いやすそうである。
「良いものを長く……なかなか素敵な考えですね。そういう思いやりを女性に向けられれば……おや……?」
オレが革の財布を購入し、店員さんに包んでもらっていると、向かいの女性向けアクセサリー店で何かを探すミンティアの姿、彼女の守護天使も一緒だ。
「ミンティア、このピアスはどう? 繊細で似合いますわよ。デートにぴったり」
「うん、このムーンストーンのピアスがいいよね。飾りが可愛い! 次は日焼け止めも揃えないと」
ミンティア達は店のレジへと向かっていった。どうやらオレと同じく明日のデートの準備のようだ。
「どうされます、イクトさん。ミンティアさんに声をかけますか?」
オレはしばし考え……。
「いや、いいよ。女の子の大事な時間を邪魔しちゃ悪いし……もう帰ろう」
「そうですか……そういうのも気配りの一つかも知れませんね。では早めに帰りましょう」
いつもお洒落で可愛らしいミンティアの大事な時間、見ない振りでそっとしておくことにした。でも、自惚れかも知れないがオレのためにお洒落してくれているのかと思うと……何だか嬉しい気持ちになるものだ。
きっと、明日は二人で良いデートを……。