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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-

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第六部 第3話 ハーレム勇者認定協会からの手紙

 

 日差しの心地よい天気の中、川原側のキャンプ場でバーベキュー。メンバーは栗色のサラサラとした前髪を揺らす少年と7人の美少女達。


 バーベキューの中心にいる少年の年頃は15歳ほどで、澄んだグリーンの目元が印象的、輪郭は程良い卵形で整ったパーツの持ち主。手足の長いすらりとしたスタイルでなかなかのイケメンだ。


 彼の名はイクト、地球より異世界転生した勇者である。彼を囲む少女達はその仲間達。


「イクト君、向こうのお野菜とってあげるね」

「イクト様……あーんして下さいな。うふふ」


 アツアツのバーベキューの肉や野菜を次々とイクトに食べさせる少女達……まるでハーレムか何かのようだが、実はこの仲間達のうち数人はイクトの婚約者。異世界では一夫多妻が当たり前なのである。



 * * *



 ハーレム勇者という肩書きにだいぶ馴染んだ頃、オレはギルドの仲間達と観光クエストを受注して渓流でバーベキューを楽しんでいた。

 ちなみに、観光クエストというのは人気の出そうな観光地まで足を運び、実際に遊んできてモンスターの出現率などを調査するクエストだ。比較的安全な場所が多いため、ギルドでは旅行しながらこなせるクエストとして人気となっている。


「それにしても、自然の中で食べるご飯って普段より美味しく感じるね。何でだろう? バトルクエストの時も、屋外で食べることもあるけど……場所によってはモンスターのことが気になって落ち着いて食べれないし」


 妹アイラの指摘の通り、バトルのないクエスト特有の贅沢な食事方法と言えるだろう。


「アイラちゃんは、いつも前衛で戦っているし、モンスターが襲撃に来た時は一番最初に攻めて行くから。余計にこういう安全な場所での食事が貴重に感じるのかもしれません」

「そうそう、それにこれからバリバリ成長しなきゃいけない年頃なんだから、どんどん食べろよ!」


 マリアとアズサが、アイラをねぎらう意味も兼ねて、次々とバーベキューの食事をアイラの皿に乗せていく。

「うわぁ……いちばん美味しそうなお肉の部分まで……いいの? もらっちゃって!」

「まだまだたくさんあるからさ、あとそれからピザも……ほら」


 特に今回訪れた渓流は当たりのスポットだったようで、美しい川原で癒されながら美味しい食材でバーベキューを満喫している。

 串に刺さった肉やゴロゴロしたピーマンやたまねぎなどの野菜を濃厚ソースで頂く。なにより、野外でする食事は空気が爽やかで美味しい。澄んだ空気や美しい景観などの自然の恵みが何よりも贅沢だ。


「イクト君、このお肉柔らかくて美味しいね。しっかり焼けているのに中はとろけるみたい……こんなの初めて。このキャンプ場にして良かった」

「ミンティア、石窯で焼いたピザもチーズがとろとろで美味しいよ、ほら」


 仲間達といちゃつきすぎた罪悪感から、オレは何となく現在正妻として婚約しているミンティアの機嫌を損ねないように接してみる。


「イクト君……ありがとう! うふふ、こんなにチーズが蕩けちゃってまるで私の気持ちみたい……」


 とろとろアツアツのチーズピザを取り分けてあげると、ミンティアは頬を染めつつオレの手を握ってきた。

 愛情確認のために彼女の手を優しく握り返して、思わずほっとする。ミンティアの機嫌はどうやら損ねていないようだ。

 

「お肉、美味しいー! それにしても、アズサってバーベキュー仕切るの得意なんですね。長いつきあいなのに知りませんでした」

「あはは、それだけバーベキューに行く機会が無かったって事だよな。これからは討伐クエスト以外に観光クエストもやろうぜっ。なっ勇者様」


 期待に満ちた目でアズサやマリア、そして妹アイラに見つめられ思わず、「そうだな、これからは少し息抜きも入れるようにしよう!」と、話を合わせる。


「お兄ちゃん、本当? アイラ戦ってばかりでちょっと疲れてたんだよね。嬉しい」


 妹に笑顔で喜ばれ、悪い気はしない。だけど、観光クエストを時折混ぜるとなると、レベルが上がりにくくなるな……。効率の良いレベル上げスポットを調べとくか。



 * * *



 だいぶお腹がいっぱいになってきて、そろそろデザートを……と考えていた時だった。

 紺色のベスト姿で斜めがけの鞄を大事そうに抱える小動物……可愛らしいリスがこちらにちょこちょこと近づいてきた。


「何だろう? あのリス……カバンなんか持って可愛いけど。ミンティアの召喚精霊か?

「えっ……私、リス型精霊とは契約していないよ」


「あのぉ……お楽しみのところ失礼いたします。ハーレム勇者認定協会から重要書類をお届けに参りました。結崎イクトさんですね? ダーツ魔法学園聖騎士団ギルド所属の……」


 リスは、うやうやしく礼儀正しくオレに書状を渡してきた。サインを求められ、羽ペンで受け取り確認の欄に名前を記入する。


「ハーレム勇者認定協会……そんなのあったっけ。みんな知ってる?」


 聞いたことのない協会の名前にしばし考えるも、仲間たちの反応も鈍く……。


「さぁ? レインさん、ご存じですか」

「うーん、聞いたことないよ。ミーコちゃん、その協会知ってる?」

「にゃあ、猫耳族やメイドの中では聞かない協会ですにゃ。というより初めて聞いた名称のような気がしますのにゃ。」


 堂々と協会名を掲げるリスには申し訳ないが、その協会を知る者は誰もおらず……首を傾げる面々。


「みんなも知らないのか、結構マイナーな協会ってこと?」


 すると、リスがコホンと咳払いをして、「はい、なんせこのハーレム勇者認定協会はつい最近発足したばかりの新しい協会……ハーレム状態の勇者様のため、ハーレム勇者という肩書きで正式にギルド登録するために、協会を設立し認定テストを行うことにしたのでございます。その名も……ハーレム勇者認定試験」と、一瞬だがリスがドヤっとした表情になった気がする。

 

「ハーレム勇者認定試験? あのもしかして、この手紙って……」


 オレが語るより先にリスの目がキラリと輝き、「お察しの通りでございます。この世界は一夫多妻制ですが、近頃は妻をたくさん娶る適格者かどうか問われる時代……おそらく、認定試験が始まった為、今後の生活ぶりも変わってくるかと……。真のハーレム勇者として正式に認定されると活動しやすいですよ」と、昔ながらの伝統を守る団体のような言い方だ。


「生活ぶり……認定試験に合格している方が公式なハーレムとして認められやすくなると言うことですね……」


 珍しく、マリアが真剣な眼差しで語る。そんなに重要なことだろうか……もともとこの異世界は一夫多妻だから、その辺の社会的な地位は安定しているはずだが。


「ダーツ魔法学園のハーレム勇者である結崎イクト様にも是非、ハーレム勇者認定試験を受けていただきたいのです。合格のアカツキには協会ホームページの資格試験合格者のコメント欄に写真付きで紹介させて頂きますので……」


「その協会、既にホームページがあるのか……知らなかったな。あの……テストを受けると何かいいことがあるの?」


 新しい試験だし、何となく不安である。だがリスは、オレのダイレクトな質問に動揺する様子すら見せない。


「ええ、今の予定では認定証をゲットすれば、各ヒロインたちとの結婚式やハネムーンが格安になるそうです。また、ハーレム勇者用の物件にも入居しやすくなるとか……ひとりで多くの女性を奥さんにするわけですから、それくらいは……」

「格安? 結婚式! どんな感じの結婚式場ですか、もしかして指輪も結構お手頃に手に入るとか……」


 金銭の話題になるとアグレッシブな一面を発揮するマリアが、目の色を変える。


「イクトさん、受けましょう! この試験、トップレベルで合格しましょう」

「おー、イクト頑張ってアタシ達を幸せにしてくれよっ。サポートするからさ」

「にゃー、イクト頑張るのにゃん。綺麗な猫耳ウエディングメイドとして思い出の1ページを飾るのにゃ」


 ノリノリの仲間達……ちらりと正妻ミンティアの表情を伺うと……。


「イクト君が……私達が幸せになれるなら、この試験受けてみよう」


 ミンティアはハーレムという単語にしばし考えていたようだが優しく受験を促してくれた。


「分かったよ。ハーレム勇者認定試験か……果たしてどんな試験なのか、楽しみにするよ」

「それでこそ勇者様、結崎イクトさん受験受理完了しました。明日からテストになります。前期試験の課題は婚約者ひとりずつと絆を深めるデート試験です。それぞれの女性を本当に知っているか……そういうテストです」

「デート? 絆をひとりずつと深める……」


 まさかの試験内容が女の子たちとのデートとは、なんだか意外だ。しかし、その詳しい試験内容とは……それに絆って?


「まずはハーレム勇者の適正を見極めるべく、イクト様のデートの準備段階から私が監査させてもらいます。明日は準備テストです。しばらくよろしくお願いします」


 尻尾をふわりとさせてお辞儀をするリス。


 どうやらオレは、しばらくデート試験……もとい、ハーレム勇者認定試験に向けて女の子達を喜ばせるために男を磨く必要があるみたいだ。


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