第六部 第1話 ハーレム勇者活動再開
第六部『ハーレム勇者認定試験-前期編-』開始しました。
オレの所属するダーツ魔法学園ギルドは年中無休、二十四時間稼働の眠らない冒険者ギルドだ。
所属者は、大まかにダーツ魔法学園の在学生、卒業生、近隣地域のギルドからの応援者に分けられる。お使いクエストから、難しいモンスターの討伐まで幅広いクエストを受け付けていて好評だ。
教会を拠点としたギルド内のロビーはステンドグラスの光が溢れ、荘厳なオーラを漂わせている。
「おはようございます。ダーツ魔法学園教会内ギルドへようこそ! 当ギルドは、ダーツ魔法学園内のギルドの中でも特に回復スキルに優れたメンバーが揃っております」
「ええと、うちの近所にモンスターが発生していて……追い払って欲しいんですけど」
「では、クエストの発注になりますね。詳しい内容を専門家がお伺いしますので、こちらの番号札でお掛けになってお待ち下さい」
「すみません、この異界のレアハチミツを採取するクエストってどこで依頼すれば良いですか?」
「採取系のクエスト依頼ですね。採取希望に方は、あちらのカウンターで手続きすることが出来ます」
まだ早朝にも関わらず、一般市民からの依頼が届き、カウンターではクエストの準備で大忙し。
ギルド所属者や来訪者向けに飲食スペースも複数あり、クエスト前の食事も可能だ。
「いらっしゃいませ! ダーツ魔法学園内教会カフェでは、お得な朝食セットを提供しております」
人気のパンケーキセットに心惹かれたのか、魔法使いの生徒2人組がカフェの前で足を止める。
「うわぁ今日の朝食セット、クリームたっぷりふわふわパンケーキだよ。クエストの前に食べていこうよ」
「うん、ちょうどコーヒーの回数券もあるしね。行こう!」
高級感溢れる教会内ではあるが魔法学校が母体となっている為、学園生活の延長線上のような会員の姿が多い。自然と笑い声が響き、和やかな様子。
ギルドカウンターではメイド服姿の受付嬢がにこやかに冒険者達を癒している。
すでに見慣れた風景、ここが……このギルドがオレの学生生活の拠点。そして、一人前の勇者になるための大切な場所だ。
* * *
五月半ばを過ぎたカラリと晴れた行楽びよりの日曜朝。
「あっイクト君、おはよう! 天気予報だと、これから行く異界のキャンプ場も1日中晴れが続くって話だよ。ほら、このお天気アプリ! 人気のやつなんだってふふxry。楽しみだね」
「おはよう、ミンティア。最近の天気予報は異界の情報まで調べられるのか。すごいな」
先に待ち合わせ場所のロビーについていたミンティアから、今日1日の異界の天気情報を教えてもらう。
「ほら、イクト君、みんなが来たみたいだよ!」
「おっ。みんなおはよう! 今日は、比較的動レジャーっぽい装備だな」
しばらくして、妹のアイラや女勇者のレイン、猫耳メイドのミーコが到着。さらに、今年の春に学園を卒業してギルドで正式に働くことになった白魔法使いマリア、エルフ剣士アズサ、神官エリスの姿も。
通常のクエストと異なり、今日は戦闘のない安全なクエストだ。そのせいなのか、みんな軽装で私服に近い雰囲気である。
「おはようございます、イクトさん。せっかくのキャンプクエストなんですから、TPOに合うファッションを……と思って……。変ですか?」
「ううん、すごく似合っているよ。ただ、なんていうか、その……露出が……うっ」
「ご、ごめんなさい。イクトさん……別に女アレルギーを誘発しようとしてこの格好をしているわけでは……」
白魔法使いのマリアはFカップ巨乳と噂の美人。見るからに胸の大きさなどは分かるのだが、普段は長めのスリット入りローブから生脚がチラ見えする程度である。
だから、谷間くっきりのプルルン巨乳だけならともかく、今日みたいな短めのショートパンツから伸びる見慣れない脚に思わず反応してしまう。
「おっなんだ、イクト。脚ならアタシがいつも出してるだろう? そろそろ慣れないと1人前の勇者になれないぞ!」
「みゃあ。やっぱり、マリアさんのフル生足は危険でしたのにゃ。アズサさんや私みたいにニーソを履くべきですのにゃ」
エルフ剣士アズサと猫耳メイドのミーコが、オレのアレルギー発症を抑えるにはニーソがいいとか言っているが。絶対領域を見せつけてくる彼女たちの美脚もオレからすると破壊力抜群なのだ。
より一層、女アレルギーの発症が近づきピンチを感じていると、女勇者のレインが倒れそうなオレをそっと支えてくれた。
「あはは……イクト君の女アレルギーもそのうち完治するといいね。大丈夫、少し休む?」
わざとではないのだろうが、支えた身体から成長中の柔らかな胸の感触が感じられて、さらなる危機を感じる。
「だ、大丈夫だから! ありがとう、本当に」
深呼吸して、女アレルギーを発症しないように意識を整える。これでも、パートナー聖女ミンティアのチートスキルで症状が緩和されているのに。
「お早う、お兄ちゃん! 今日はねぇ……アイラも結界はるのちょっとだけ手伝うことになったんだ」
「ふふっアイラちゃん、格闘スキルだけではなく、魔法系のスキルにも才能があるみたいなんです。将来はそちらの職業も視野に入れてスキルを組み合わせるといいかもしれませんわね」
比較的、露出度抑え気味のファッションなのは、妹のアイラと神官エリスだ。
だが、安全であるはずのエリスの薄手のワンピースは細身の彼女には余裕があるようで……。
ドン! はしゃぐアイラにぶつかり、オレとエリスが密着してしまう。
「あっご、ごめん。エリス……わざとじゃないんだ」
「んっ……分かっていますわ。けどなんだか、恥ずかしいです」
不可抗力だが、華奢なエリスの身体を抱きしめるような形になる。お互いの鼓動がドキドキと感じられて、ますますピンチを感じる。
「えっと、その……クエストの手続きしてくるから!」
愛用の棍を背負い、身動きのしやすい冒険者用の軽装備を身に纏ってクエストのカウンターへ。
(ふう、朝から大変だったけど。だいぶアレルギーは良くなったな。取り敢えずは、きちんと手続きしないと……)
* * *
ロビーに鎮座するふかふかした心地の良いソファに仲間である7人の美少女……すなわちオレのギルドメンバー達を待たせ、ギルド会員情報が詰め込まれたスマホ片手に手続きを進める。
「おはようございます。予約していたワープエリアチケット……どうですか?」
失礼の無いように極力爽やかに挨拶したつもりだが、受付嬢はオレの顔をちらりと見て恥ずかしそうに頬を赤らめた。
別に今はハーレム勇者スキル『モテチート』を発動させていないのに。
「おはようございます。イクト君……今データ確認するから、ちょっと待ってね」
通常は依頼主から引き受けたクエストをこなす為に使用する異世界ワープエリア。だが、実はギルドメンバーの小旅行としても利用されている。
俗に言う『観光クエスト』というもので、たまの休みをまったりと過ごしたい時に最適だ。人気スポットは自然のオーラを吸収できる渓流などのキャンプエリア。
「チーム勇者イクトご一行様の予約されていた異世界へのチケット無事確保確認! この渓流エリア今日、人気なのよ」
「良かったです。じゃあ、支払いはスマホで……」
無事チケットを確保できたので、カウンターにある認証装置にスマホをかざし、支払い手続きを完了する。
『ピピピッ!』と機械からは認証の電子音。
「キャンプ用品やレンタル調理器具、食材などは現地で受け取れるから向こうで手続きしてね。良い旅を……イクト君、今日もイケメンでギルドメンバーのみなさん羨ましいわ。お気をつけて」
「……ふぇっ? 褒めてもなにも出ませんよ。えぇと……行ってきます!」
異世界アースプラネットは、地球の映し鏡のような現代風ファンタジー異世界だ。
いわゆる現代社会の文明はそのまま地球にそっくりで、魔法やモンスター、魔族といったファンタジー的存在が二次元ではなく三次元で本当に実在している。
電気や水道・ガスなどの『文明の利器』が使用可能であることはもちろん、行事や食事・街の名前など地球によく似たテイストだ。その一方で、ギルドに所属する冒険者達がモンスターの討伐や他の異世界へのワープなどをごく日常的に行う。
そんな現代的ファンタジー異世界、誰が仕組んだのかは不明だがオレの住んでいた地球ではスマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』として人気を博していた。
ごく普通のちょっとナルシスト気味なゲーマー高校生だったオレは、このスマホアプリをダウンロード……。
気づけばこの異世界に転移し、転生……大切な仲間達と出会い、生涯をここで全うすることにしたのだ。
この物語は、そんな現代風ファンタジー異世界にハーレム勇者として転生したオレ『結崎イクト』のラブとコメディー、ちょっぴりシリアスな冒険の記録である。
第六部、本日開幕! その名も『ハーレム勇者認定試験ー前期編ー』って何それ、どんな試験なのっ?