番外編 第7話 帰省と再会とハーレムと
ゴールデンウィーク最終日である今日、駅のターミナルは帰省の人々で大賑わいだ。勇者という職業であるオレは勇者用の特別校則で帰省は許されず、学園の寄宿舎でまったりとしたゴールデンウィークを過ごしたが、今日はミンティアと共に妹アイラの出迎えである。
「ミンティア悪いな、オレの用事につきあって貰って……」
「イクト君、結婚したらアイラちゃんは私にとっても妹になるんだから当たり前だよ」
頬を赤らめて語るミンティアは何だか嬉しそうだ。
「ミンティアにとってもアイラは妹……そっか、何だかまだ実感わかないけどそういうことになるのか……」
「お兄ちゃん! ただいま」
パタパタとツインテールをなびかせてアイラが駆け寄ってきた。ショートパンツにスニーカーというスポーティーなファッションがよく似合っている。後ろからは一緒にネオ関東に帰省していたギルドメンバーのマリア達が手を振っている。マリアは清楚ながらも深い前開きスリットのワンピースを着こなしており、何だか色っぽい。露出度の高い胸のあいたシャツとミニスカ姿のアズサ、深窓の令嬢を思わせるロングスカートのワンピース姿のエリス、みんなそれぞれ個性の違いはあるが……美しい。
「おかえり、アイラ。マリア達もアイラの事ありがとう」
「ふふふ、イクトさん水臭いですよ! 私達、全員イクトさんのお嫁さんになるんですから、イクトさんの妹さんは私の妹です」
マリアが先ほどのミンティアと似たような事を話し始めた。しかも、珍しく照れているようだ。するとアズサとエリスもマリアに続いて結婚について熱く語る。
「そうだぞ、イクト! アタシ達全員イクトのお嫁さんなんだから、みんなでちゃんと幸せになるって誓っただろ? 気を遣うことないからな」
「幸い……みんな気心知れた仲ですし……安心ですわ、良い家庭を築きましょうねイクト様」
そう……オレはパートナー聖女のミンティアと幼なじみの魔族の姫君アオイの二人を同時に正妻として迎える契約を交わしているが、気がついたらギルドメンバーであるマリア、アズサ、エリスの三人とも婚約をする流れになっていた。アースプラネットは一夫多妻制である為、子孫を残す義務のある勇者は特に妻をたくさん娶るらしいが……実際に次々と婚約を交わしていく現状に少し戸惑いを覚える。大丈夫だろうか?
オレが苦笑いと照れ笑いを足して二で割ったような曖昧な笑顔を浮かべていると、
「イクトさん、会いたかった……」
と、マリアが甘えるように腕を組んできた。柔らかな胸の感触が腕に伝わり思わずドキドキする。前世の大半を女アレルギーで過ごしていた所為か、あまり深く考えたことがなかったが、いずれマリア達とも側室という形だが夫婦になるのか……不思議な気持ちだ。
「最初の三ヶ月は正妻の私と新婚生活だよ……その間くらいは浮気しないでね……イクト君?」
ミンティアがオレの空いているもう片方の腕を取り、可愛らしくすねるようにくっついてきた。実は、ミンティアとは婚約の儀式を交わしているものの、誓いのキスや約束のキス数回以外はまだ清らかな関係である。再び曖昧な笑顔でごまかすオレ。
さらに、オレの専属の猫耳メイドミーコがメイドキャラの王道展開なのか「将来はご主人様であるイクトの子供を産みたいのにゃ」など語るようになってきてハーレムの構築はみるみる進んでいる。
伝説のハーレム、世界平和の為のハーレム……この世界にやってきた頃は自分には無理だと考えていた謎のハーレム勇者設定だが、まさか実現に向かうとは……人生、なにが起こるか分からないな。
修羅場の空気を察したのかアイラが明るく、
「アイラ、久しぶりにネオ大阪のたこ焼きが食べたいな!」
と、話題を変更した為、たこ焼き店に移動。テイクアウトで購入し、学園に戻ったらゆっくり食べることに……。
「お兄ちゃんありがとう、楽しみだなぁ……一緒に食べようね」
「おう!」
たこ焼きの容器からほかほかと温かさが伝わり、アイラも嬉しそうだ。すると、
「アイラちゃんたこ焼き好きなんだね、義理のお姉さんになる私がたこ焼き器でたくさん作ってあげる、ねっイクト君」
「イクトさん、最近は変わり種のたこ焼きが流行っているとか……今度作ってあげますね」
修羅場を一時中断していたミンティアとマリアが再び自己アピールを開始し始めた。さらに、アズサやエリスも続いて、
「たこ焼きなら美味しい店いろいろ知ってるぜ、次の休みたまにはデートしよう……イクトっ」
「イクト様、私もたまには二人っきりでデートしたいですわ……次の休みは海岸でゆっくりしましょうよ。私、手作りのお弁当を用意しますわ」
「分かったよみんな……じゃあ次の休みから、一人ずつデートしよう」
別にみんながオレの嫁になるんだから、こんなにアピールしなくてもいいのに……と思ったが、もしかしたらこれが俗に言うハーレムというものなのかも知れない。嫁がたくさんいるのも大変だな。
学園に戻るバスの停留所でハーレムモードを展開するイクト達のことを見つめる美少女精霊が一人……先週、図書館に現れた例の精霊である。
「あれはハーレム勇者……間違いない……イクト君は、やっぱり伝説のハーレム勇者や……あの本の宣伝CMに出演できる勇者ご一行は、あの人達しかいないんや!」
と、なにやら謎の決意を固めているのであった。