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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
番外編 第五部→第六部開始までのサイドストーリー

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番外編 第4話 人気のメイド講座へ


 新学期が始まり早二週間、ダーツ魔法学園の広大な敷地内では桜の花がピンクの絨毯を作り、春の訪れを彩っている。校舎内を行き交う人々はブレザー姿の学生以外にも魔導師や戦士などがみられ、まるでひとつの街のようだ。


 それもそのはず、世界を救う勇者や各職業のエキスパートを育成するダーツ魔法学園は敷地内にクエストを引き受けるギルドを有し、さらに今年度からプロフェッショナルな技術力を、在校生だけではなく近隣住民達にも解放する、いわゆる『社会人向け講座』を開設することになった。もちろん在校生や卒業生も受講可能だ。


 社会人向け講座開設時には、魔法力を持たない一般人にも受講可能な講座の開設が検討され、近隣住民のニーズに合わせて定番の護身術や歴史研究などの開講が決定、そして今年度より学園内のカフェテラスの衣装がメイド服に変更された経緯からメイド講座も開設する流れとなった。

 この時点では、あくまでもメイド講座はお試し講座の扱いだったのである。

 だが、蓋を開けてみると意外なことに『メイド講座』は一番人気となっていた。あっという間に定員オーバーし、来期の予約待ちという盛況ぶり。


 ダーツ魔法学園B棟の女子更衣室では、メイド講座受講生達がメイド服に着替えて準備中。

「見て見て! ふりふりのレース付き、このメイド服可愛い」

「ねぇポニーテールとハーフアップ、どっちがいいかなぁ」

 などなど、更衣室からは楽しそうな声が響く。うら若き乙女達のトークが飛び交う中、三月に無事学園を卒業し現在ではギルドクエストで活動しているお馴染みメンバーの姿があった。


「メイド講座……かなりの高倍率でしたが、受付開始とともにネットで申し込んだ甲斐がありました……マリアさん、アズサさん、一緒に頑張りましょうね」

 普段は降ろしているロングヘアをツインテールに結び、ミニスカニーソ姿で萌え系にチェンジしているエリス。

「楽しみだぜ! メイドのスキルがあれば、ギルドクエスト以外にもメイドのバイトで小遣いゲット!」

 メイドの講義を受けようという割には相変わらずヤンキー口調が抜けないアズサ。

「ふう……おっぱいがちょっときついけど、なんとかメイド服が装備できて安心。何でもスリムボディかつFカップ巨乳に合うメイド服が準備できなかったらしくて……」

 自慢のFカップ巨乳をたゆんたゆん揺らしながら黒髪をバレッタでまとめるマリア、ロングスカートのメイド服がよく似合っている。

「マリアさん、おっぱいトークになるとなんだか自慢げですにゃ……人間の闇を感じますにゃ……気を持ち直して案内しますにゃ」


 既にプロのメイドとして活動しているミーコに案内され、実習が行われるカフェテラスに移動。

 メイド達の長を務めるベテランメイドのビッケンメイヤーさんからメイドの心得が説かれた後、本格実習が開始となった。


「では、新人メイドのテーマソングを伝授します。みなさんテキストを開いて! ミーコさんのお手本を参考に歌ってください」

「萌え萌えにゃんにゃんメイドだにゃーん、あなたのメイドはにゃんこだにゃーん」


(このテーマソングは! 前世でミーコが初登場したときに歌っていた例の歌……確かこの歌の萌えパワーでイクトさんは女アレルギーを発症したんだっけ……なんだか懐かしいですね)


 マリアの動きが止まっていることに気づいたメイド長が、緊張していると思ったのか親切に声をかけてきた。

「マリアさん、どうされました? 分からないことがあったらどんどん質問して下さいね」

「は、はい、大丈夫です! 萌え萌えにゃんにゃんメイドだにゃーん、あなたのメイドはにゃんこだにゃーん」

「あら、あなた歌お上手なのね……みなさんもマリアさんのように恥ずかしがらずにどんどん歌って!」


「はい! 萌え萌えにゃんにゃんメイドだにゃーん」

 最初は恥ずかしがっていた他の生徒達も、だいぶ慣れてきたようで、きれいな声で萌え萌えメイドのテーマソングを習得し、最後にみんなでクッキーとミルクティーを実食して第一回目の講義は終了となった。


「今日の講義はここまでです。次回は伝説のメイドについて学ぶのでテキストで予習しておいて下さい」

「ありがとうございました!」


 時刻は既に17時。メイドのミーコは、いつもならご主人様であるイクトの側に帰る時間だが勇者イクトはアイラ、ミンティア、レインらとともに異界のクエストに出向いていて不在。ご主人様不在時のミーコはギルド所属者達の寮でマリア達と共同生活である。

 ギルドで親しくしているとはいえ、何と言っても衣食住を共にするのだ。最初はなれない共同生活にどうなる事かと思ったが、マリア達にあれこれ面倒をみてもらい、人間の女の子と変わらない生活を覚えた。猫耳族は生来メイドとしての気質があるためミーコはすぐにメイドのスキルをマスター出来たが、全ての知識を一瞬で覚えられるわけではなかったのでマリア達の助けには感謝している。

 

「はぁ、なんか思ったよりメイドさんって体力のいる職業ですね……ミーコって結構優秀だったんだなぁ」

「本当、ミーコいつもお疲れさまですわ」

「そうだミーコ、今夜何かおごってやるよ、焼き魚定食がいいか? 何の魚がいい?」

 いつも、可愛い猫耳族のミーコというポジションで甘やかされていたが、こんな風に感謝されたり尊敬の眼差しで見られるのは初めてだったので恥ずかしい。

「にゃにゃ、なんだか照れますのにゃ。お言葉に甘えて、ほっけの開きが嬉しいにゃ」


 嬉しくて、自分にとってはちょっぴり贅沢なお願い……ほっけはミーコの一番好きな魚なのだ。

 今日は食堂で、『メイド仲間』となったみんなとのんびり夕飯。柔らかなほっけに舌鼓を打ちながらミーコ達は楽しいひとときを過ごす。

「ところで、次回に習う伝説のメイドってどんな人なんだろうな? ミーコみたいな猫耳族なのかな?」

 アズサの素朴な疑問に、

「にゃあ、伝説のメイドさんについては謎だらけなのにゃ……元祖ハーレム勇者のお付きということしか分からないのにゃ。人間かもしれないし猫耳族かもしれないし……でも、今のメイドさんの基本を作ったと云われてるにゃん」

 他の獣人族とも交流を深めているミーコの情報網を持ってしても、伝説のメイドのことはよく分からなかった。

  

「そういえば、卒業式で貰った元祖ハーレム勇者様の伝記……真っ白ですものね。封印が解ければ読めるようになるそうですが……」

 エリスがふと思い出したように元祖ハーレム勇者の伝記について語る。

「そうそう、この本! 何時見ても真っ白で……んっ何か文字が浮かんできているような……ああ、消えちゃった、残念」


 マリアが持っていた伝記を取りだし、確認するもやはり真っ白……だが以前と異なり、魔法力で文字が時折浮かぶことがあるようだ。

 次第に元祖ハーレム勇者の話題は出なくなり、平和に一日が終わるのだった。


「伝説のメイドさん……あたしも立派なメイドさんになりたいのにゃ、頑張るにゃ」


 ふかふかのベッドで眠りについたミーコは、夢の中で遙か昔の時代の伝説のメイドを見たような気がしたが、目を覚ます頃には不思議な力で忘れてしまうのであった。


「ミーコさん、いつかまたお会いしましょう……」


 夢の中では確かに伝説のメイドがミーコに語りかけていた……封印が解けるのは、きっともうすぐ……。


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