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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
番外編 第五部→第六部開始までのサイドストーリー
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番外編 第1話 卒業式と桜の花びら

 今回から数話、新章が始まるまで番外編になります。よろしくお願いします。


 季節は春、桜の花が街路樹を薄紅色に彩る。ふわふわと舞い降りる桜の花びらは陽射しを集めた小さな光と共に積み重なり、気がつくと校庭内の至る所に薄紅色の絨毯を作り出していた。そんな暖かい陽射しが射す3月のある日、ダーツ魔法学園では上級生達の卒業式が行われた。


 人生の先輩方からのお言葉や旅立ちの歌の合唱、ダーツ魔法学校名物・学園製作の超美麗ムービー鑑賞など……卒業生の進路は、そのまま学園に籍を残し、上級者コースへと進級する者やギルド所属の冒険者としてギルド寮に移動して改めて活動をする者、冒険者として旅立つものもいれば、ごく普通の民間人としてよその学校に進学したり故郷で就職活動をする者もいた。


 これまで、みんな当たり前のように冒険者として活動すると考えていたイクトはせんぱいたちの多種多様な進路を目の当たりにして勇者という職業の特殊さを痛感した。なぜなら、勇者コースだけは全員が勇者として活動するという進路を選ぶのだから。



 式典が無事に終わり、卒業証書を片手に記念写真や思い出に浸りながら涙ぐんで歌うものなどの姿も見られた。寄宿舎制の学校だから、皆出身地も異なりもしかしたら、一生会わなくなるかもしれないのだ。感傷的になるのは、無理もないだろう。やがて、それぞれの所属するギルドで卒業生と在校生達のささやかな交流会。


 教会を拠点とする聖騎士ギルドでも、桜の花が美しく咲く庭で立食形式の交流会が行われ、ギルドに所属する猫耳メイドのミーコは大忙しだ。

 銀色のトレーには、ドリンクや軽食、時にはおしぼりなど要望に合わせてなんでも用意しなくてはならない。だからといって、バタバタと品のない行動はメイドの基準に反するためあくまでも上品に、可愛らしくそして出しゃばり過ぎないようにメイド業務に徹するのであった。


「にゃあ! パーティーはメイドの本領発揮なのにゃ」


 キュートな尻尾を揺らしながら、ミニスカメイド服で給仕に励んでいる。聖騎士団ギルドの所属者達の中でもミーコの存在は有名で、他所のギルドからは猫耳族のメイドさんがいてずるい、なんて言われることもしばしば。特に猫好きの人から羨ましがられることも多く、ミーコは多くの人たちの心を捉えていた。

 そんな人気者のミーコだが、勇者とイクトの専属メイドとして一生を過ごすと誓っているので、バイトとして喫茶店やギルドの業務をこなすことはあっても、決して他の誰かのメイドとしての働こうとはしない……ミーコはご主人様一筋なのだ。


 今回はピンチヒッターで、異界で知り合ったミーコのお友達の犬耳族ココアも犬耳メイドとして活躍中。

「ワン! メイドのお手伝い頑張るワン」

 ココアは清楚なロングスカートタイプのメイド服、可愛いらしい猫耳メイドと犬耳メイドのコンビ誕生である。ミーコ達の活躍もあって交流会は和やかな雰囲気で行われていった。


 今回のパーティーの中心はやはり、卒業生。卒業生の中にはイクトのギルドメンバーであるマリア達、以前クエストで一緒になったケインやヤヨイの姿もあった。

「マリア達も卒業か……なんだか、寂しくなっちゃうな」

「私とエリスはここの教会で働きながらギルドクエストに参加することになったので、いつでも会えますよ」

「そうなんだけど、前みたいに学生食堂は使いにくくなるだろう? それに制服も着なくなるし……なんだかみんなが、先に大人になっちゃう感じがして……」

「可愛いこと言うじゃないか、イクトっ! アタシ達お姉さんがこれからも可愛がってやるから安心しろよっ」

 アズサにグリグリと頭を撫でられて、なんだか恥ずかしい……もう小さな子供じゃないのに……と、イクトは顔を赤らめながら恥ずかしさでその場をちょっと離れる。


 他所のテーブルではこのギルド唯一の勇者卒業生ということで、注目の的となっていたケイン先輩とヤヨイ先輩の姿。どうやら、先生達にギルドに残留するようにと今後の進路の事で説得されていたらしい。

「ケイン先輩、ヤヨイ先輩、ご卒業おめでとうございます」

「先輩方は、これからもギルドにはいらっしゃるんですよね?」

 勇者イクトとそのパートナー聖女ミンティアが、ようやく解放されたらしいケインとヤヨイと会話の機会を得た。


「ありがとう、もちろん卒業してからもギルドにはずっと所属するから今度はそっちでよろしくな!」

 相変わらず元気なケイン、意外だが彼はクールな女勇者レインの従兄妹だという……転校して来たのはレインより1年遅かったが上級生として勇者コースを引っ張ってくれたイクトにとっても大事な先輩だ。


「ケインったら、《まだまだ挑戦したいクエストがたくさんあるんだ》って……これからもギルドで会いましょう」

 落ち着いた仕草と表情で美しく微笑むヤヨイは、聖女コースの優等生である。憧れている聖女も多いだろう。


「まあ、一応学園生活はひと区切りという事でこんな卒業グッズをもらったけど……イクト君達も来年の参考に見てみる? 卒業証書、魔力増幅効果付き勇者ピンバッジ、異界との時差も調整可能なデジタル時計、冒険者必須の魔法の収納袋……伝説のハーレム勇者の冒険記……」

「えっ⁈ 伝説のハーレム⁈」

 伝説のハーレムと聞いてイクトはギョッとした表情だ。イクトは伝説のハーレム勇者にあやかってイクトという名前になったそうだが、彼をハーレム勇者の生まれ変わりと呼ぶ者も多い。


「ははは! この本の主人公は先代ハーレム勇者イクトさんでもなければ、さらにその前のハーレム勇者ユッキーさんの事でもないよ……もっとずっと昔の元祖ハーレム勇者の話!」

 勇者ケインが本を取り出しパラパラとページを捲るも印刷されているのは最初の数ページのみで、あとは白紙だった。

「あれっ? こんなにページ数があるのに……」


 おかしいな……と首をかしげるケインにヤヨイが笑って、

「ふふっその本、何でも序章しか書かれていないそうよ……最初のページだけ文章が残っていて、あとは……伝説の勇者様の封印が解ければ、魔法が解放されて全話読めるようになるらしいわ。どんな話なのかしら?」


 ケインは一瞬ガッカリした様子だったが、

「まあ、いろんな冒険者がクエストをこなしていれば、そのうち封印が解けて続きが読めるのかもな! それまでのお楽しみって事で!」

 すぐ元通りの元気なケインにハーレム伝説に動揺していたイクトは、ほっとした様子だ。


 彼らを見守るように庭に穏やかな春の風が吹く。

 桜の花びらが風に揺られてはらりと卒業を祝う勇者達の元に降りてきた。



 この本に記された元祖ハーレム勇者の伝説……彼の記録が記されている遠い遠い場所にある封印の石碑が解ける日が来るのだが、それはもう少し先の物語である。


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