第五部 第19話 婚約後の決意
「あ、イクト君おはよう! 今日は、大切なギルドクエストだよね。まだ、召喚魔法がそんなに多く使えるわけじゃないけど、足手まといにならないように気をつけるから」
「おはよう、ミンティア。召喚魔法は、バトルの後半に使ってくれればいいから。頑張ろうな」
聖女ミンティアと婚約を交わして1週間ほど……最初はミンティアと目が合うたびに、緊張で頬を赤らめたりギクシャクしていた。ものの、今では人生の伴侶が決まった事に安心感を感じるようになり、婚約している状態が『日常』に馴染んできた。
「おはようございます! あら、まだイクトさんとミンティアさんの2人だけですか? 今朝のミーティングをしなくてはいけないのに」
「マリア、おはよう。エリスは先に教会本部の方で手続きをしに行ってくれてるよ。アイラは、朝練だ。今日のギルドクエストメンバーは……あとは、ミーコとアズサ……か。ミーコはメイドスクールの研修が朝からあるから少し遅くなるのかも」
すると、噂をすると本人が現れる法則なのかミーコとアズサがミーティングルームのドアを開けて入室してきた。
「みゃあ! おはようございます。お待たせしましたにゃ。メイド研修、全部終わりましたにゃ。これで、今日のクエストバリバリ行けますにゃ」
「みんな、おはよう! MP回復薬を作ってたら時間がかかっちゃってさ。ギルドランク卒業クエスト、頑張ろうぜ」
「ミーコ、アズサ、おはよう。そっか……今日のクエストに向けて準備してくれていたんだ。ありがとう」
そして、ギルドメンバーにとってもう1つの節目を迎えようとしている。それはギルドランク初級卒業だ。
「手続き終わりましたわ。私は今回控えですが、裏方として頑張りますわ」
「みゃあ、私も控えのメンバーですが同行出来るので嬉しいですにゃ」
「控えメンバーとはいえ、今日は全員でクエストに行くわけだし。装備は万端にしないとね」
気がつくと、アイラもミーティングルームに到着していてメンバー全員が揃った。基本的に、オレ、アズサ、アイラが攻撃役。回復役がマリア、召喚役がミンティアだ。
まだ、レベルアップ中のミーコとエリスは控えとしてクエストに同行してバトル外での回復や補助呪文をサポートしてもらう。
では、ミーティング開始……初級ランク卒業クエストのメンバー構成だ。
【メンバー:1】
勇者イクト 職業:学園勇者(ランク星3)
レベル:28
HP:1200
MP:85
攻撃武器種:棍・剣・槍
装備武器:早ワザの棍(二回攻撃可能)
装備防具:守護のマント・守護の胸当て・勇者の防具セット上下・バトル用ブーツ
装飾品:携帯用バッグ・呪いよけのペンダント
呪文:回復魔法小、攻撃魔法初級
【メンバー:2】
白魔法使いマリア 職業:学園白魔法使い
レベル:30
HP:1190
MP:165
攻撃武器種:杖・鞭
装備武器:癒しの杖
装備防具:白魔法使いローブ・魔力のブーツ
装飾品:琥珀の髪飾り
呪文:回復魔法(中)、補助系魔法
【メンバー:3】
エルフ剣士アズサ 職業:学園剣士(サブ職業:調合士)
レベル:27
HP:1190
MP:83
攻撃武器種:剣・弓・短剣
装備武器:エルフ用ショートソード
装備防具:銀の胸当て・アクティブ系女性用上下(ショートパンツ版)・しなやかブーツ
装飾品:天然石のペンダント
特技:エルフ剣技、調合で回復可能
【メンバー:4】
格闘家アイラ 職業:学園格闘家
レベル:18
HP:990
MP:50
攻撃武器種:ナックル・飛び道具
装備武器:疾風のナックル
装備防具:魔法の女子チュニック・魔法のショートパンツ女子用・登山併用ブーツ
装飾品:スマッシュチャーム
特技:攻撃スキル初級
【メンバー:5】
聖女ミンティア 職業:学園聖女(サブ職業:召喚士)
レベル:24
HP:1070
MP:138
攻撃武器種:召喚用ショートダガー
装備武器:銀のショートダガー
装備防具:初級召喚士のローブ・聖女のセットアップ・ホワイトニーソ・魔力アップシューズ
装飾品:マジカルピアス
呪文:状態異常回復・通常回復魔法
召喚スキル:戦闘時一回のみ召喚魔法が可能
【控え後方メンバー:1】
神官エリス 職業:ギルド神官
レベル:10
HP:700
MP:100
攻撃武器種:杖・水晶玉・タロットカード
メイン装備武器:守りの杖
サブ装備武器:小型水晶玉
装備防具:初心者神官ローブセット女性用・神官の靴
装飾品:神官の証(MP増幅効果あり)・天然石のブレスレット
呪文:回復魔法(中)、補助呪文各種
特殊スキル:占い
【控え後方メンバー:2】
猫耳メイドミーコ 職業:猫耳族メイド
レベル:10
HP:690
MP:30
攻撃武器種:爪・ナックル・飛び道具
装備武器:バトルナックル
装備防具:メイド服セット一式
装飾品:鈴のチョーカー・黄色いリボン
スキル:テーブルセット魔法(休憩場所を設置)
【備考】
全メンバーが、参加可能となる初級ギルドランク最終クエスト。まだ加入したばかりでレベル上げ中のエリスとミーコも後方支援として参加。後方支援は万が一の時以外はバトルに加わらないが、バトル以外の回復やサポート役として活躍できるだろう。
エリスの占いで攻略ルートを決めたり、ミーコのテーブルセットスキルで休憩したり……と様々なクエスト攻略が可能。
そして、聖女ミンティアが召喚士デビューしたため攻撃の幅が広がった。現在のミンティアのランクでは召喚魔法は一回のバトルにつき一度しか使えないため、的確な魔法のチョイスが重要だ。
全体的にレベルアップしているものの、格闘家のアイラが学校の勉強ノルマのためにしばらく戦闘に参加していなかったため前回と同じステータスとなっている。無理のないようにクエストを進めていきたい。
仲間全員が一丸となってのギルドランク初級卒業クエストだ。装備を確認して、ゲートへ向かう。
* * *
「テリャァア!」
ザシュッ! キィン!
「ギャァン!」
「チッ少しだけ切ったか……」
ダークオークを斬ったエルフ剣士アズサのロングソードが、暗がりの森の中で煌めく。僅かな差での勝負だったのかアズサの、腕に切り傷が……。
「アズサ……大丈夫ですか? 回復の白い精霊よ……この者の傷を癒し光を与え給え」
白魔法使いマリアが杖を振り、アズサの腕の怪我に呪文をかけると、白い光が溢れみるみるうちに傷跡が塞がった。
「あとは任せて! はぁああああっ」
格闘家アイラがツインテールを揺らしながら、手に装備したナックルで獣人を殴る。
「喰らえ、トドメの一撃!」
ビュッ! ドン!
「ギャァァ」
風を切るような速さで攻撃を決めるアイラ。ナイスファイト! オレも頑張らなくては。
初級卒業のギルドクエストは佳境を迎え、森の奥深くに封印された指定のクリスタルを見事に発見した……。が、魔の森の盗賊と呼ばれる獣人ダークオーク達に囲まれてしまい、予想外のバトルとなった。
「お兄ちゃん! そっち!」
「分かった……喰らえ!」
オレは襲いかかるダークオーク達を相手に、愛用の魔石をはめた銀の棍で攻撃する。
「必殺……乱れ付き!」
ドドドドド……!
長い棍を連続で打ち込んでいく……現在のオレの必殺スキルだ。
会心のヒット!
「ギャァ!」
みんなでチカラを合わせ、連続攻撃で一気に5匹の敵を倒した……敵の数はあと1匹……。
「契約により、我が声に応えよ……精霊召喚!」
魔法力により現れた光の魔法陣にミンティアが、召喚用のショートダガーを掲げる。
「キュイィ!」
現れたのは、コウモリのような羽根を生やしたリスに似た小精霊だ。小さいながらも黒魔法を操り、獣人ダークオークと対峙しているミンティアを援護する。
「グウウゥ……ガハァ!」
召喚精霊の放つ魔法がダークオークに直撃し、見事戦闘に勝利した。
「精霊さん……ありがとう」
ミンティアがダガーを鞘に収めると、召喚精霊はひと声鳴いて魔法陣の中へと還って行った。
「ふう……」
慣れない魔法に胸に手を当て、深呼吸するミンティア。
「ミンティアさん! ナイス」
「討伐成功! みんな拠点に戻ろうぜ。途中ヒヤヒヤするシーンもあったけど、なんとかやれたな」
「……うん、ちょっと大変だったね。装備を見直すといいのかな……帰ろう!」
「これで、初級卒業ですね! 感慨深いです」
「やったな! 拠点でエリスたちが納品手続きをしてくれている予定だから、オレたちはバトル報告に行かないと……全部手続きが済んだらギルドに戻ろう」
初級卒業クエストの納入品であるクリスタルのカケラを採取し、エリスたち控え組が依頼主である拠点に納品。オレたちバトルメンバーは、バトル報告センターに立ち寄りランク上げの手続きを済ませて、意気揚々とギルドに帰還した。
ギルドのロビーに着くと、手続きの関係で別のゲートから帰還となった待機メンバーのミーコとエリスが駆け寄って来る。
「お帰りなさいにゃん! 待ってたのにゃ」
「ついにクエスト達成ですわね……ギルド本部に報告へ向かいましょう」
「ああ!」
* * *
「おめでとうございます、初級卒業ですね。これで中級クエストに参加する事が出来ますよ。隣接するギルドのクエストに挑戦する事も可能になったので、そちらも是非……詳しくはパンフレットを参考になさって下さい」
ギルドカウンターの受付嬢から、中級クエスト用に更新された新しいギルドカードと『ようこそ中級クエストへ』と書かれたパンフレットを手渡される。
「へえ……他所のギルドクエストを受けられるのかぁ……」
カフェテラスに移動し、抹茶ラテを飲みながらパラパラとパンフレットをめくると、召喚精霊と契約可能なギルドクエストという文字が目にとまった。
『魔法専門星のギルド限定特別クエスト召喚精霊契約、召喚士の方は是非挑戦して下さい!』
召喚士のスキルを持つ生徒は少人数の為、専用クエスト自体珍しい。
「へぇ、このクエストミンティアに良いんじゃないか? 星のギルドとか」
アズサが召喚士クエストの案内を読み、ミンティアに促す。
「うん、私……もっと強い精霊と契約してみんなの役に立ちたい……! イクト君、このクエスト受けてもいい……?」
「ああ、数日のうちに出立できるように準備しておこう」
控えめながらも強い意思で、ミンティアがオレに尋ねる。ミンティアは婚約前後からみんなの役に立ちたい、と仕切りに発言するようになった。責任感が強くなっているのだろうか?
「他のギルドにも知り合いに仲介して貰えば、クエスト受けられるみたいだけど……」
「中級ランクから所は、レインの所属する星のギルドとマルスの所属する最前線ギルド、それに生徒会主催のギルドか。最前線は女人禁制だって噂だし、生徒会系はゲスト参加とはいえハイランククエストばっかりだし。実質は星のギルドがメインになりそうだよな」
結局は、やりやすいクエストから挑戦するしかないが可能性が広がったのはいいことだ。
「うん……けど、そのうちハイランククエストも受けられるようになるといいな」
「ミンティアさん、上昇志向でいいですわね。私のカンでは、そのうち生徒会系のギルドクエストも受けられるようになりますわ」
「ふふっエリスさんにそう言ってもらえると、実現しそうで嬉しいな。このギルドの人気占い師だものね!」
この時オレはまだ知らなかったが『聖女ミンティア』は婚約を機に、本当の意味で『勇者イクト』に相応しいパートナーになる……新たな決意を固めていた。
星のギルドは女勇者レインが所属するギルドだ……親しい友人もいるし、他所のクエストを受けるならこのギルドが妥当である。あらかじめ、レインが書いておいてくれた星のギルドへの案内チケットをギルドカウンターに提出。
「お待たせしました、星のギルド招待券発行しました。お気をつけて!」
「よし、行こうぜ、星のギルドへ」




