第五部 第15話 クリスマスプレゼントをみんなに
ついにクリスマス当日、学校でのクリスマス会も無事に終わり、チキンもケーキも堪能した。
「特別クエスト頑張れよ、ほらエルフ特製スペシャルドリンク! アタシからのプレゼントだ」
アズサからエルフドリンクのプレゼントを貰い……。
「私、みなさんにマフラー編んだんです……良かったら」
マリアからは、毛糸で編んだシンプルな手作りマフラー。
「イクト様、みなさん、これは私から……使って下さいね」
エリスからはマリアのマフラーとお揃いの手編みの手袋。
「お兄ちゃん、これあげるね! ミンティアさん、レインさんにも……空から落ちないようにね! クエスト……頑張って」
アイラからは交通安全のお守りだ……アイラのセリフから察するにシークレットクエストが、サンタさんの手伝いであることはとっくにバレているようだ。が、暗黙の了解で言わないことになっているようである。
オレ、ミンティア、レインからはギルドメンバーに全員お揃いの魔石のストラップをプレゼントした。3人でクエスト中にゲットした、レア魔石を組み合わせて作ったアミュレット……。いつもお世話になっているみんなへのささやかなお礼である。
「サンキューみんな、頑張るよ。良いクリスマスを」
「ありがとう! 行ってくるね。きちんとお仕事してくるから」
「いってきます! くつ下を枕元に下げておいてね」
クリスマス限定サンタクエスト、いよいよ最終日だ。
* * *
時刻は17時30分、12月の寒空はすでに陽が沈み、星が見え始めていた。
「だんだんと夜が近づいているな。けど、クリスマスだけあって、街は明かりがいっぱいだろうし。夜だからって身構えることもないか」
「きっとこれからパーティーする家も多いだろうし……。あっサンタさんが来たよ」
クエスト開始時に会った、白ヒゲのサンタさんと例の鹿がソリを準備して、プレゼントを配りに向かう。
つぶらな目と美しい毛並みの可愛い顔した普通の鹿に見えるが、やはりあの鹿は空を飛べるのか……。
「この鹿はトナカイのように空を飛べる特別な子でね……最近試験に受かって今年初めて仕事をするんだよ、ほら、鹿君おいで」
鹿がお辞儀をすると、サンタさんはにこにこ笑いながら鹿にせんべいをあげる。
「この魔法の鹿せんべいを食べると、上手く空を飛べるんだよ」
お行儀よくせんべいを食べる鹿を見て、レインが一言「いいな……私も鹿さんにおせんべいあげたい……」と、目を輝かせて呟いた。
勇者と聖女が見守る中、ダーツ魔法学校の裏庭で魔石の入ったたくさんのプレゼント袋がソリに積まれる。
「じゃあ行ってくるよ! それっ」
爽やかに挨拶し、颯爽とソリに乗り込むサンタさん。
「ぶるる……」
どうやら鹿もやる気の様子で、鳴き声をあげて上空へと顔を向けている。
「サンタさん、鹿さん、気をつけて」
夜空に向かうサンタさんの姿は次第に見えなくなり……星空に溶け込んでしまった。
ギルド案内役のクランさんが、「じゃあ、見習いサンタのみんなも大型ソリに乗って、プレゼントを配ってね!」とオレたちのこともソリに乗るように指示。
見習いサンタ用の大型ソリは、数人が乗れるようになっている特殊なソリで、運転手の若手女性サンタさんが操縦してくれる。
「よろしくね、見習いサンタさんたち。頼りにしているわよ。さぁ乗って!」
ソリを引くのは、ごく普通のトナカイ数匹だ。まぁ鹿がソリを引く方がレアだろうし、このソリの方が一般的なんだろう。
「頑張ろうね、イクト君!」
「私、ソリに乗るの初めて……ドキドキしちゃう」
ミンティアやレインも一緒に、大型ソリで上空に飛ぶ。高く舞い上がるソリは、魔法にチカラで安全が確保されており、間違えて落ちる心配はない。
クリスマスイルミネーションが輝く街並みは、地上から見る景色とは違った美しさ。上空からの景色を堪能出来るのも、今回のクエストの特権だろう。
地域番号が書かれた札を確認しながら、プレゼントの袋を魔法で空に浮かべると袋は小さな光に変化し、配達先まで降りて行った。
運転手の女性サンタさんが、プレゼントについて説明してくれる。
「プレゼントは光に変化して配達先に届くの。みんなが眠りについた頃に枕元で実体化するわ」
「へぇ……それでいつも目が覚めると、枕元にプレゼントがあったのか」
アースプラネットに転生してしばらく経つが、まだまだ知らない事がいっぱいあるな。
「あっ、もう学園の寄宿舎に着くよ……。まだ結構早い時間だけど……今から配達しておいて、眠った頃にプレゼントとして実体化するんだね」
「ふふっ今夜は私がサンタさん……なんだか嬉しいな」
ミンティアもレインも、サンタのお仕事を楽しんでいるようだ。
「さて、オレもアイラやミーコの分を用意するか」
妹アイラへのプレゼントは、魔力アップの魔石と飾りのついた小さな小物入れ。
使い魔ミーコへのプレゼントは、猫耳族に進化するためのアイテム一式。
儀式が成功すれば、ミーコは黒猫の姿から人型の猫耳メイドに進化できるはずだ。
ミーコへのプレゼントは、容量のあるセットなので目立つのか、見習いサンタ達も注目する。
「ずいぶん大きなプレゼントね! 何かの儀式かしら? 上手くいくといいわね」
「えっあっはい……」
どうやら若手サンタさんには、ミーコへのプレゼントが儀式セットであると分かるようだ。
プレゼントは、それぞれ光となって舞い降りていった。
「クエスト終了! お疲れ様でした」
無事に配達も終わり、ギルドポイントも通常の3倍貰えた。初級クエスト卒業とはならなかったが、思ったよりも早くギルドレベルが上がり大満足である。
その後、ギルドではささやかなクリスマスクエストクリアの食事会とプレゼント交換会が開かれ、今年のクエストは無事終了となった。
「イクト君、レインちゃんお疲れ様……また明日ね」
「お疲れ様! イクト君、ミンティアちゃん、おやすみなさい」
「ミンティア、レインお疲れ様、おやすみ」
疲れた身体で寄宿舎に戻り、共同の大型風呂で温まり、部屋に戻るとすでに使い魔ミーコも守護天使エステルも寝入っていた。
いつもならまだ起きている時間だが、今日はギルド最終日な事もあり使い魔も忙しそうだった。守護天使エステルは、クリスマスイベントの天使界の手伝いが終わったばかり……疲れが出ているのだろう。
オレも緊張から解放され、いつの間にか熟睡していた。振り返ると、今月はいろいろ大変だった。
世界線が異なるという理由で、ミンティアとアオイの両方を正妻にするという手紙が届いて1週間経つ。だが、本格的な話はまだ進まず結局年が明けてからまた話し合うことになった。
そして、夜が明けた。
* * *
朝7時。
部屋のミニキッチンから炊きたてのごはん、味噌汁と焼き魚の匂いがする……。カチャカチャと食器を並べる音……誰かが朝食を作ってくれたようだ。
「ご主人、起きてください……朝食の準備ができています……にゃん!」
ご主人様……?
……にゃん?
まさか……!
オレが目を覚ますと、目の前には萌え系ミニスカ猫耳メイドの姿があった。
ニーハイからは絶対領域が覗きスタイル抜群で、元女アレルギー持ちのオレにとっては刺激的なコスチュームだ。
メイドは黒髪セミロングのつり目がちな美少女で、オレの記憶が確かならミーコの猫耳メイドバージョンである。
「えっと……もしかして……」
「おはようございますご主人様! 猫耳族ミーコ今日からご主人様のメイドとして頑張りますにゃん! イクト、今日からよろしくなのにゃ」
「えっと……改めてよろしくなミーコ!」
今年最後のクエストで猫耳メイドミーコが仲間に加わり、前世のパーティーメンバーが全員揃った。
この事により、前世の記憶をメンバー全員が取り戻すことになった。
ついに前世の因縁を解消する運命の輪が動き始める……。