第五部 第13話 猫耳メイドの秘密
『猫耳メイドになりたいのにゃ』
オレは自分の使い魔である、黒猫ミーコの意外なサンタさんへの願い事を知り、動揺しながらも初日のサンタクエストは終了。
クエスト終了後、女勇者レイン、聖女ミンティアとともに特別クエスト時の専用食堂で夕食を取りながら、今後のクエストについて語っているとレインの口からミーコの話題が出た。
「へぇ……ミーコちゃん、猫耳メイドに転職したかったんだね……。もしかしてミーコちゃんって猫耳族なのかなぁ?」
猫耳族……見た目はほとんど人間だが可愛い猫耳と尻尾が特徴の獣人族。人間語を操る種族だ。
オレの前世の記憶が確かなら、ミーコの前世は猫耳族で合っている。
「猫耳族って、もう20年近く姿を消しているんでしょう……? だとすると、ミーコちゃんはその生き残り……とか?」
「姿を消している……? たくさんいた種族が突然絶滅するなんてないだろうし。何かあったのかな」
「うーん……多分だけど、猫耳族って獲物の狩りはするらしいけど、多種族との本格的な争いは好まないんだって。魔獣が攻めてきてからは表舞台から消えていったって話らしいよ」
ミンティア曰く、猫耳族は一族ごと姿を消しているらしい。異世界から侵略してきた魔獣の影響だろうか。
「オレとしてはミーコの願いを叶えてあげたいけど、ミーコは人間の言葉を操れるだけで、今のところ普通の猫に見えるし……。どうやって、猫耳族の姿になるんだろう? 」
「図書館に資料があると思って調べたけど、一般コーナーには資料なしって検索で出てきたものね」
オレの素朴な疑問に皆しばし沈黙した後、レインがふと思い出したように、「……学校の図書館にある特別閲覧室……私達もギルドに加入したし、特別閲覧室にも入れるはず……そこに情報があるかも」と詳しい情報を提供してくれた。
「特別閲覧室? そうか、もうそういう特別なエリアにオレたちも入室出来るのか!」
ミーコの願いを叶える手がかりが見つかりそうで、ホッとする。
「うん、明日クエストが終わったら、3人で調べてみよう、ね! イクト君」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「……私、猫耳族って絵本の中にしか存在しないと思っていたんだ。会えたらいいな……お魚とか好きかな?」
未知の種族猫耳族への期待が大きいのか、嬉しそうに呟くレイン。
今日の夕食のメニューは『金目鯛の煮付け定食』である。新しいクエストに取り組んだ初日な事もあり、普段よりも豪華な夕食にしたのだが、なんとなく魚の煮付けが猫を思い出させる。
甘く煮た金目鯛は、とても柔らかくて食べやすく美味しい。
(もし、ミーコが人型の猫耳族になれたら、一緒に食堂で金目鯛の煮付け定食も食べられるな……ミーコ喜ぶかな?)
そんなことを思いながら夕食の時間を過ごし、ミーコへお土産用の焼き魚を購入し、ミーコの待つ部屋に帰宅した。
* * *
次の日、相変わらず寒い日が続くものの日中は晴れ間が出ていたおかげで、それほど震えることなく過ごすことが出来た。午前中の授業が終わり、昼食を食べた後はそれぞれのクリスマスクエスト準備へ。
今日は、ミーコの願い事をきちんと叶えるためにも特別閲覧室で猫耳族について調べる事に。
一般の図書エリアとは異なる扉を開けると、異空間ゲートを介して特別閲覧室へと入室出来るとか。
重厚な木製の扉には、魔法陣が刻まれており魔術装置としての役割を果たしていることがよく分かる。
「ここが特別閲覧室……初めて入るけど大丈夫かな?」
少し不安そうなミンティアを安心させるように、レインがカバンからカードを取り出して見せる。
「ギルドカードを提示すれば入れるらしいよ……重そうな扉だね……」
それぞれ、カバンからギルドカードを取り出して魔法陣にかざす。
「よし、それじゃあ開けてみよう……」
カードに内蔵されているギルドマークが扉の鍵代わりとなり、魔法陣が光り輝き共鳴した。
ギギギギギ……。
まるで魔法使いの秘密の扉か何かのような、分厚い扉が開く。そこは高等魔導師御用達の魔導図書室だった。
「うわぁ……魔法使いばかりいるなぁ……。もしかして、外部の人も結構利用している?」
「そうみたいだね。それだけ、資料が豊富ってことだよ」
ほうきに乗って空を飛びながら、書籍を調べる生徒の姿も見られる。大人の人数もそれなりに多く、卒業生や近隣に住む魔法使いの利用者数もそれなりに多そうだ。
さっそく、猫耳族の書籍コーナーを調べることに。
「猫耳族についての本は……この列か」
「結構いろんな本が出てるね……。猫耳族の歴史、消えた猫耳族の謎、伝説の猫耳ハンター……」
「もしかしてこれじゃない? 【猫耳メイドの秘密】獣人族のメイド契約の謎に迫る」
「ありがとう。多分この本の中に……あった……!」
猫耳メイド専門書を発見し、テーブル席に移動し、3人で必要そうな箇所はメモを取りながら調べていく。
「猫耳メイドの契約儀式。猫耳族は契約をするまでは一見、普通の猫のようですが、魔法契約をすることで真の姿【猫耳族】に進化します。特に猫耳族の中でも猫耳メイドは特定のご主人様を見つけると、一生をかけてご主人様に尽くします。必要な儀式道具は以下の通り」
【猫耳メイド儀式道具】
猫目の魔石(異界で採取)
猫じゃらし
マタタビ
メイド服
ニーハイソックス
メイド用革靴
ゴシック風リボン一式
メイド用インナー
メイドカチューシャ
コンパクト
懐中時計
ハンカチ
ティータイムセット
猫鈴
ご主人様
猫カフェとメイド喫茶を足して2で割ったような儀式道具だが、最後の『ご主人様』という箇所がすごく気になる……。オレより先に口を開いたのはミンティアだった。
「猫目の魔石以外は学校で全部揃えられるね、メイドさんセットなら聖女コースの実習で用意した予備の服があるよ。もう実習終わって未使用だからそれを使おう」
ミンティアの所属する聖女コースでは、メイドの実習も行われている。
実習の予備品が余ったそうで、未使用メイドセット……つまり、儀式道具のほとんどを譲ってもらえることになった。
「イクト君、女勇者の身だしなみ用に支給されるコンパクトやハンカチなら、新品のものがあるよ……。余っているからよければ使って」
清潔感が求められる女勇者には、支給品があるそうでコンパクト、ハンカチはレインが新品を譲ってくれるという。
「猫じゃらし、猫鈴、マタタビはうちに新しいのがあるな……。懐中時計もオレの新しい支給品があるし、あとは……」
運の良いことに、異界で採取する猫目の魔石以外のほとんどは、すでにオレ達3人が持っている……しかも未使用新品状態のものばかり。
まるで猫耳メイドの儀式を遂行できるように、神が援助しているかのようだ。
あとは【ご主人様】だけだがそれって……もしかして……。
「多分、この最後のご主人様っていうのは、イクト君がやればいいんだよね?」
レインがオレの気になっていたご主人様の箇所に触れた……やはりオレがご主人様なのか。
「じゃあ、クリスマスクエストを兼ねて、猫耳族復活の儀式敢行……頑張ろう!」
おー! と、図書館のテーブル席で小声でひっそりと、掛け声を出す3人であった。