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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第五部 学園ギルド編

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第五部 第8話 一緒に山頂目指して


「うわぁ……すごい雨の量だね。早めに山小屋へ避難して本当に良かった!」

 窓の向こうの様子を見てきたアイラが、ほっとしたように呟く。


「雨が上がったとしても明日も地面がぬかるむだろうから、気をつけてクエストしないとな」

「そうですね、装備を見直すと良いのかも知れません」


 談話ルームでお茶の時間を過ごしながら、明日の計画を立てるオレたち。今日のクエストもあまり順調とはいえない展開だっただけに、マリアの言うように装備の変更が可能ならしたいものだ。

 今はみんな山小屋提供の室内着を着用しているが、明日はまた冒険者装備で出発するわけだし、いろいろ装備を検討するのもいいだろう。


「どっちにしろ、今日はここで足止め決定みたいだね。こんな時は、神様が休めって言っているんだと考えて休息をとるのが一番だよ」

 にっこりと笑って、余裕の雰囲気で腕を伸ばすケイン先輩からは勇者特有の大物感を感じる。


 結局、雨は止むことなく今夜は山小屋に泊まることになった。ザアザアと強い雨音が、室内いても聞こえてくる。マリアお手製シェルパティーと、管理人さん手作りサンドイッチで空腹を満たした後も、しばし談話室で休憩。

 談話室のテーブル席でここまで案内してくれたケイン先輩から、クエストの内容について聞くことが出来た。


「ところでケイン先輩は、上級クエストの為にこの山へ? 初級クエスト以外にもクエストポイントがあるみたいですけど」

「ああ、山頂にほこらがあってね。そこの探索クエストを受けたんだ……モンスターがいるかもしれないって。イクト君は薬草の納品だよね……懐かしいなぁ、オレも1年前にやったクエストだよ」

 うんうんと一年前を振り返りながら、「あの頃はまだクエストのこなし方すら分からなくて、この山小屋の存在すら知らなくて野宿して……。しかも足をくじいて……大変だったなあ」と、ケイン先輩が過去のクエスト体験談を語り始めた。


「足をくじく……ケイン先輩も怪我するなんて、やっぱりここのクエストは大変なんだな。そういえばアイラ、足はもう大丈夫か?」

 足を痛めた妹アイラの方をちらりと見ると、自らの足首の様子をみて首をかしげていた。

「うん……もう大丈夫だけどまた明日も山を登るんだよね……ちょっと心配かな」


 すると足を痛めているアイラの様子を見てヤヨイさんが、ひとことアドバイス。

「もしかしたら、靴が山登りに適していないのかもしれませんわね。ケインも去年、このクエストで足を痛めて……装備していた靴が山登り向きじゃなかった事が原因でしたのよ。登山は専用の靴で、ずいぶん楽になりますわ」


「そっか……山登り向きの靴に装備を変えれば、アイラも足を痛めずに済むのか」

「けど、装備品を整えてから出直すのも大変だし……。一応、予備の装備をキューブボックスに入れてきているけど、性能はそんなに変わらないよ」

 先ほども話題に出たが、装備品の変更を検討する段階である。まだ、クエスト慣れしていないため予備装備をそれほど持っているわけでもない。


「それならこの山小屋のショップを見てみたらどうだ? 小さいけど、お土産と装備品を売ってるみたいだぜ。アタシも武器を変更しようと思っているんだ」

 アズサが、ムササビ精霊から貰った山小屋の案内図を見せてくれた。

「一階に登山者用のショップがあるのか……行ってみようか」



 * * *



 店内は小さいながらも木彫りのお土産、装備品、モンスター避けの鈴、携帯食など程よく品が揃っている。


 管理人さんの孫娘だという店員のホビットの少女が商品の説明をしてくれる。


「いらっしゃいませ! 私達一族の手作りの民芸品や装備品を、とてもお得な価格でご提供致しております……何をお探しですか?」


 ホビットの少女は、栗色のおかっぱヘアで大きな瞳が印象的な可愛いらしい容姿だ。ふわふわした若草色のワンピースにショートブーツを履いていて、おとぎ話に出てきそうな雰囲気である。


「妹が登山中に足を痛めてしまって、何か良い靴ありますか?」

「それでしたら、登山用の装備がいくつかあります……こちらはどうでしょう」

「お兄ちゃん、アイラこのシューズが欲しい! すごく歩き易い」


 無事にアイラの装備を整え、店員さんの勧めもありオレやアズサ、マリアも登山用の装備を揃えた。

 さらに、予備の携帯食やMP切れに備えて傷薬を購入。これで明日のクエスト続行もしやすくなるだろう。


「アズサは、ロングソードからショートソードに変更。マリアは、ショートナイフをサブ装備で追加……。雨風に強いアウターに、全員が靴を変更……っと。結構、今回のクエストで装備に幅が出来たな」

「そうですね、このクエストは勇者がチームを組む最初の冒険ですし……登竜門的な難易度なのかもしれませんね」

 これまで、白魔法使いやエルフ向けの簡単なクエストが多かったというマリアが感慨深そうに語る。


「そのうち、ミンティアさんも加わるんだろうから、装備はもっと変更するようになるよね」

 今回のクエストで欠席となってしまったミンティアだが、アイラの言う通り、次回からは一緒に組むことになるだろう。聖女は攻撃スキル禁止とはいえ、護身用の武器くらい用意したいものだ。


「ああ、おっこの1番軽そうな護身用の小さい杖、ミンティアにお土産として買っていくか。これなら、殺傷能力もないだろうし聖女のスキルを失わずに済むだろう? ヤヨイ先輩、どうですか? 同じ聖女の先輩として……この杖は」

「ふふっそうですわね。護身用としての最小限の装備……いいと思いますわ」


 ミンティアと同じ聖女コースに所属するヤヨイ先輩にも護身武器を一緒に見てもらい、ミンティアにお土産を購入。装備を携帯出来るキューブボックスにしまい、ひと安心だ。



 * * *



 夕食はキッチンを借りてみんなでカレーやサラダ、その他おかず、デザートなどを手作り。

 オレはマリアのリクエストに応えて、鳥の唐揚げを作った。鳥の唐揚げは食べやすいように下ごしらえをしてから、油でカラッと揚げて外はサクッと中はジューシー……! 我ながら良い出来だ。


「へぇ……イクトさん、鳥の唐揚げ作るの上手いですねぇ。なんだか惚れ直しちゃいました!」

「おっイクト君……やっぱりマリアさんと良い感じなのか?」

「ふぇっ? い、いやこれはその……」

「あははっご馳走様! 俺も料理スキルをあげてモテるように頑張らないと」


「ねぇ、このカレーもお野菜がゴロゴロしてて美味しいよ」

「ふふっみんなで食べる食事は、格段に美味しいですものね」


 サラリと『惚れ直した』とマリアに言われたオレは、顔を赤くしながら動揺してしまい、先輩にいろいろ突っ込まれながら賑やかに食事終了。

 食後は共同の風呂に入り、部屋ではケイン先輩と男同士のトークを交えつつ安眠……合宿のような雰囲気で夜を明かす。



 そして、クエストの内容は異なるものの、山頂までケイン先輩達と一緒に行動することのなった。


「管理人さん、店員さん……お世話になりました」

「皆さんお気をつけて、行ってらっしゃい!」

「また、いらして下さいね」



 翌朝、昨日の雨が嘘のよう。

 スッキリと晴れた雨上がりの空の下、オレ達とケイン先輩達の共同パーティーは目的を果たすべく山頂へと再び登り始めた。


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